世界主要プロ・スノーボード大会を管轄していたWSFポイントを今後はオリンピックのスノーボード競技を管轄するFISへ移管!その意味は?

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オリンピックのスノーボード競技を管轄するFIS国際スキー連盟(※現在の正式名称は国際スキー・スノーボード連盟)は、世界主要プロ・スノーボード大会を管轄していたWSF世界スノーボード連盟(World Snowboard Federation)と、競技スノーボードの世界統一WSPL(世界スノーボード・ポイントリスト)の今後の管理について歴史的合意に達した。実質上、WSFポイントは今後、FISへ移管されることになる。その意味は?

以下、関連リンク
FIS and WSF announce unification of Competitive Snowboarding(FISとWSFが競技スノーボードの統一を発表)
https://www.fis-ski.com/en/snowboard/park-and-pipe/pipe-and-slope/news-multimedia/news/fis-and-wsf-announce-unification-of-competitive-snowboarding

TRANSFER OF THE WSPL & NEW RANKING OPERATOR(WSPLの移管と新ランキングオペレーターの就任)
http://www.worldsnowboarding.org/news/transfer-wspl-ranking-operator/

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(アメリカのプロ戦を主戦場にして来た平野歩夢選手にとっても今回のニュースは朗報だろう。@Dew Tour)

FISが管理していたスノーボードのワールドカップ、世界選手権、そこで得た成績は直接オリンピック出場に関係していた。一方で、X Games、Dew Tourなどアメリカで行われていたスノーボードのプロ大会の成績は、FISポイントに反映されないためオリンピック出場につながらないジレンマを抱えていた。WSFは、FISの大会(※当然ワールドカップも入る)を含めて世界主要のプロ大会の成績もポイント換算していたため、今後はX GamesやDew Tourでの成績もオリンピック出場に反映される。

かつてX GamesやDew Tourをメインに活動し、FISのワールドカップに参加して来なかった選手が、ナショナルチームの活動から離れるようなことがあったが、今後、選手たちは安心してプロ大会に出れることになる。

北京オリンピックの金メダリストである平野歩夢は、昨シーズンに参加した大会はX GamesとDew Tourのみ。一方で、これまでオリンピックのポイントに繋がっていたFISのワールドカップにはまったく出場していなかった。しかし、今回のWSFポイントがFISへ移管されたことで、オリンピック出場権が一気に近づいたと言えるかもしれない。なぜなら、歩夢は北京オリンピック後の翌シーズンに開催された復帰戦、Dew Tourで見事に優勝しているからだ。

●関連リンク
平野歩夢がDEW TOURで復活V!北京五輪以来の優勝を飾る
https://dmksnowboard.com/ayumu-hirano-wins-back-at-dew-tour/

ただ、オリンピックの出場は、これまでの流れだとオリンピックイヤーの1月中旬から遡り、前年7月からのポイントを加算される傾向があるので、23年2月の成績は、反映されないかもしれない。(※2023年7月から2026年1月中旬までのポイント加算を採用されると予想)

どちらにしても、FISのW杯よりもX GamesやDew Tourを重要視していたライダーたちにとって、このようなポイント統合はウエルカムというところだろう。

なぜ世界トップクラスの選手はW杯に出場しないのか?

そもそもなぜ平野歩夢のようなトップ選手が、W杯を無視してアメリカの主要大会に出るのか?
優勝賞金を稼ぐため!?答えは「NO」だろう。その理由とは、クオリティが高い舞台を求めて参戦しているのだ。
例えば、いくら「ワールド」と謳ったW杯のステージでも、ハーフパイプの形、シェイプ、雪質コンディションなどが良くないと、選手は本来放つことができる最高レベルのトリックを出せない。一方、巨大なバックアップマネーが流れるアメリカでのプロ大会は、コンディションが良いことが多く、選手はこれまで出して来なかった大技を披露することもできる。平野歩夢が初めてフロントサイド・トリプルコーク1440を成功させたのもDew Tourだ。
また、X Gamesはアメリカのメディアのバックアップも高いので世間の注目度も高く、レベルが高い選手たちが集まる傾向があるのだ。だから、これまでオリンピックでメダルを獲るようなトップ選手が辿って来た道は、通常はX Gamesなどアメリカの主要プロ大会に出場し、オリンピックの出場につながるポイント時期が迫って来ると(※オリンピックシーズンとその前のシーズン)FIS主催のW杯に出場するというものだった。

W杯はアメリカのプロ戦よりも下レベル!?

賢明な読者の方は、新聞やテレビのニュースで『〇〇選手がW杯優勝!!』の文字に単純に歓喜しなかったであろう。なぜなら、そこにどんな選手が出場しているのか、その結果、どんなレベルになっているのか理解しているからだ。

例えば、今年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、過去一番ではないかというくらい盛り上がった。その理由は、サムライジャパンは大谷選手などメジャー組も参加してドリームチームを結成し、アメリカも投手陣ではやや劣るもののマイク・トラウトなどメジャー屈指の強打者が出場し、キャプテンとして本気の戦いを見せたからだ。

FISがいくらW杯と叫んだところでも、そこにW杯にふさわしい選手が揃わなければ、盛り上がりに欠けるというものだ。
それでは、W杯はアメリカのプロ戦よりも下レベルなのか!?

記者の主観が入るが、結果こういう傾向になる。

オリンピックシーズンのW杯 X Games、Dew Tour
オリンピック1シーズン前のW杯 X Games、Dew Tour
オリンピック2シーズン前のW杯(※平野歩夢選手などが出場していない) X Games、Dew Tour
オリンピック3シーズン前のW杯(※平野歩夢選手などが出場していない) X Games、Dew Tour

オリンピック出場権のポイント加算方法とWSFのポイントの決め方

そもそも各国の選手は、どのようにしてオリンピック出場が決められていたのだろうか?かつて、まともに泳げないような選手も国枠によりオリンピックに出場していたことがあった。必死で泳ぐ姿はある意味感動したけど、スノーボード種目ではそういうことはない。つまり、国枠によって弱小ウィンター競技国などの実力がない選手が出場することはないのだ。そこには、しっかりとした明確な出場ルールがある。いくつかの細かいルールもあるのだが、ここではわかりやすく説明していきたい。

オリンピック出場権のポイント加算方法

例えば、ハーフパイプの場合には、男子25名、女子25名だけが参加できる。その内、1人は自国開催枠で、選手に割り当てられる。
1つの国の最大参加者数は、男女それぞれで4名までだ。1つの国に5人のポイントが高い選手がいても、その国は4名までしか出場させることができない。
ポイントの加算される時期は、 オリンピックイヤーの3年前の7月からオリンピックイヤーの1月中旬まで(※北京オリンピックでは、そのような出場ルールだった)
またポイントが加算される大会は、FISのワールドカップの他、世界選手権も含まれる。各選手、その期間で行われたハーフパイプ大会のベスト5までのポイントを加算できる。
当然、FISが管轄しない大会、X GamesやDew Tourでいくら好成績を収めたとしても、そのポイントは決してオリンピック出場権に繋がることはなかった。

WSFのポイントの決め方

一方のWSFポイント(※正式にはWSPLと呼ぶ)のライダーのランキングは、52週間以内に行われた各フリースタイル種目のベスト3までポイントが採用。その結果の平均を算出している。
使用されるポイントシステムは、100ポイントから1000ポイントまでの10段階レベル。大会の大きさにより変わって来る。
WSFは「イベントのカテゴリー」、「フィールドの質」、「フィールドの大きさ」、以上の3つを定めている。
以下、WSFホームページのWORLD SNOWBOARDING POINTS LISTから抜粋。かなり複雑なので、興味がある方だけ読んでみよう。ただし、最後の『FISとスノーボード界の確執』だけは、私の締めポイントを伝えたいので、ぜひ読んでいただければ嬉しい。

イベントのカテゴリー
各イベントは、以下の3つのイベントカテゴリのいずれかに分類される。「地域・国内」「国際」「エリート」の3つのカテゴリーだ。
各カテゴリーには、最低ポイントレベルが設定され(地域/ナショナル:100pts、インターナショナル:300pts、エリート:600pts)、イベントの最大ポイントレベルには上限がない。競技カテゴリーに関係なく、どの競技もポイントレベル1000ptsに達することができる。競技のポイントレベルの決定は、フィールドの質に基づいて行われる。

フィールドの質
特定の競技のフィールドの質は、各競技の結果に対してフィールドの質の値を計算することで決定される。値の計算過程では、それぞれの種目で大会が開催された時点で最新の世界スノーボードポイントリストに基づき、大会に出場したトップランクのライダーを評価している。

1)男子の場合、上位8名のライダーが評価。
2)男子:ランキング上位8名、女子:ランキング上位5名。
3)リザルトに含まれるライダーの中に、現在のポイントランキングにランクインしているライダーがいない場合、最低ポイントレベルが適用。
※この2つの値は、ランキングエンジンが結果を読み込む際に自動的に計算するものとなっている。

4)R値:ランキング上位5/8名の現在のWSPLランクの平均値として算出される。
5)P値: WSPLポイントの平均値。

フィールドサイズ
ライダーが獲得するランキングポイントは、大会のポイントレベルと最終結果のランキングライダー総数によって決まる。一般的に、ある順位に対するランキングポイントは、小さなフィールドよりも大きなフィールドで高くなる。例として100人のライダーが参加するイベントで10位入賞したライダーは、25人のライダーが参加するイベントで10位入賞したライダーよりも、より多くのポイントを獲得することができる。

FISとスノーボード界の確執

そもそもオリンピックのスノーボードの始まりは、1998年に行われた長野オリンピックに遡る。
その時に、サマランチ会長というオリンピックの一番偉いオジサンが「スノーボードは何やら人気あるらしいぞ。お金になりそうだ。オリンピック種目に入れちゃおう!」と叫んだことから、混乱が生じた。

当時、スノーボード界にはISFという国際的なスノーボード競技団体があり、日本にもJSBA(※もちろん現在もある)がその傘下に加わっていた。単純にオリンピック委員会は、ISFにスノーボード種目を委託させてくれれば良かったのに…、そうならなかった。その時、スノーボード種目とかまったく関係なかったFISにスノーボードのオリンピック管轄を頼んでしまったので、さあ大変!

スノーボード界からしたら「何だよ、横取りしやがって!ふざけんな!!」となり、スノーボードを頼まれたFISの方でも「おいおい、オリンピックまでもう時間がないのに、いったいどうやって我々が行えばいいのだろう…」と困惑状態に陥った。

当時の絶対王者、ハーフパイプの大会ではほぼ優勝間違いなしのテリエ・ハーコンセンは、オリンピックをボイコット!まるで、新日本プロレスの真夏の大決戦G1クライマックスに、オカダ・カズチカが出ないような状況となってしまった。

そもそもIOC国際オリンピック委員会が、当時あったプロスノーボード組織ISFを吹っ飛ばして、FISに託してしまった理由は、オリンピックのスキー種目は元々FISが行っていたということにある。当然FISは、オリンピックの競技を運営して来た実績があった。あとISFは単にX Gamesのようなイベント団体のような組織であり、オリンピックが大事とする育成機関がなかったからという声もある。そのことは、昨年行ったインタビュー、MOSS創始者の田沼進三氏が発言している。

IOCは長野でスノーボード種目採用にあたりISFへ打診をしていた
https://dmksnowboard.com/moss-snowboards-shinzo-tanuma/#IOCISF

時間は経過し、スノーボード界には新ヒーローのショーン・ホワイトが登場し、世界一のスノーボーダーを決めるにふさわしい大会となった。一方のISFは、オリンピックパワーにより存在意味をなくしてしまい消滅…。しかし、テリエはあきらめなかった!

ワールドカップのサッカーが、オリンピックよりも上と世間が認めるように、スノーボード界も独自で素晴らしいコンペティションシーンを築き上げよう。ライダーのためのライダーのイベントだ。そんな気運が、TTRツアーにつながった。

※テリエは1999年に最高峰のスノーボード単発イベントとして、自国ノルウェーでThe Arctic Challeng(大会名称)をスタート。その後、TACをファイナルイベントに昇格させた競技が世界で行われ、後の2005年に発動するTTRワールドツアーにつながる。当時、最高峰の大会は6つ星ランクで、その大会こそスノーボード界で最も権威が高いという大会にしていた。例えば、US OPENは、当時6スター大会だった。

そして、TTRはその後に誕生したWSFに統合されるような形になり、遂に今回、FISとWSFが歴史的な合意を発表したのだ。

ワールドスノーボードポイントリスト(WSPL)は、テリエ発起人のチケット・トゥ・ライド・プロスノーボーディング(TTR)と世界スノーボード連盟(WSF)により開発された。2017年にTTRとWSFが合併した結果、WSPLの運営はWSFに引き継がれた。

2つの団体は、「歴史的な合意」と伝えているが、実質、スノーボードの団体は、スキーの団体に統合されたと言っていいのかもしれない…。

(実質、FISがWSFを吸収したような感も…)

元々、スノーボーダー側立場の記者からすれば、このストーリーにやや嫌悪感もあるが、悲観するようなことでもないのかもしれない。そもそもここまでの話の中で、様々な変化も起きているのだ。

まずFISは、もうスキー協会ではない!そう、国際スキー・スノーボード連盟に名称を変えている。ここまで「FIS=スキー協会」と伝えて来たが、昨年6月に名を変更してくれたのだ。

また、すでにWSFでもFISのW杯での結果を考慮したポイント加算していたこともある。これまでの水面下のやりとりで、FISとWSFが交流を持ち、スノーボード界の将来を考えてくれていたようなことがあったのだ。

歴史を辿ってみると、FISはスノーボード界に歩み寄り、スノーボード界もFISに靡くような面もあったと思う。まるで古い昔、親によって無理やりに決まってしまったお見合い結婚夫婦のようでもある。最初は、夫のことを毛嫌いしていた妻だが、夫は妻のことをだんだんと考えてくれるようになり、一方の妻もそんな夫の気持ちに寄り添っていったようなストーリー。

かつてスノーボードの選手は、憧れのオリンピック舞台を目指しながら、その参加の狭間で困惑して来た歴史があった。しかし、それはもう昔話になりそう。もうこれからは、そのようなことに終止符を打つのかもしれなない。

今では考えられないが、かつてはFISを罵倒するようなキャップやTシャツ、そしてステッカーがあった。スノーボーダーたちは「お前たちはオレたちを理解していない」と叫んでいた。写真:Pyramid Mag)

23-24シーズンの主な大会、W杯、X Games、Dew Tour日程

X Games(エックスゲームズ)日程

1月26日~1月28日(アスペン/コロラド)
※種目:スーパーパイプ、ビッグエア、スロープスタイル他
https://www.xgames.com/

Dew Tour(デューツアー)日程 ※未発表

2月23日~2月25日(カッパーマウンテン/コロラド)※DMK予想
※種目:スーパーパイプ他
https://dewtour.com/snow/

W杯ビッグエア日程

1戦目 10月21日 スイス(クール)
2戦目 11月30日~12月2日 中国(北京)
3戦目 12月8日~9日 カナダ(エドモントン)
4戦目 12月13日~16日 アメリカ(カッパーマウンテン)

W杯スロープスタイル日程

1戦目 1月17~20日 スイス(ラークス)
2戦目 1月31日~2月4日 アメリカ(マンモスマウンテン)
3戦目 2月8日~22日 カナダ(カルガリー)
4戦目 3月15日~16日 チェコ(シュピンドレルーフ・ムリーン)
5戦目 3月22日~24日 スイス(シルヴァプラーナ)

W杯ハーフパイプ日程

1戦目 12月7~9日 中国(シークレットガーデン)
2戦目 12月13日~16日 アメリカ(カッパーマウンテン)
3戦目 1月17~20日 スイス(ラークス)
4戦目 1月31日~2月4日 アメリカ(マンモスマウンテン)
5戦目 2月8日~22日 カナダ(カルガリー)

飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをしており、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は38年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/
ツイッター:https://twitter.com/dmksnowboard

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