平野歩夢が“スノーリーグ”に挑んだ理由──大谷翔平と重なる、競技界への静かな決意

@Grand Prix By Isami
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文:飯田房貴 @fusakidmk

ワールドシリーズの激闘が終わった直後、大谷翔平選手が来年3月のWBCに出場するかどうかが大きな話題となりました。
個人的には、投打の二刀流という過酷なシーズンを戦い抜いたばかりで、身体を休めたほうが良いのではないかと感じていました。しかし大谷選手は最終的にWBCへの参加を表明しました。

その背景には、「野球界を前に進めたい」という強い責任感があったのだと思います。

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一方、スノーボード界でも似たような決断をしたアスリートがいます。
先週、平野歩夢がプロ戦「スノーリーグ」に参戦しましたが、その根底にもスノーボードへの深い思いがあったのではないでしょうか。

■ FISポイントと無関係の大会。それでも歩夢は出場した

このスノーリーグは、オリンピックを管理するFISとは一切関係のない独立したスキー・スノーボードイベントです。
つまり、ここでどれだけ活躍してもオリンピック出場に必要なFISポイントは得られません。

“実利”がない大会。だからこそ、トップ選手たちの戦略がくっきりと分かれます。

男子では歩夢の最大のライバル、スコッティ・ジェームス(オーストラリア)が不参加。
女子でも、2大会連続の金メダリストで“絶対女王”クロエ・キム(アメリカ)が不参加でした。

彼らがこのスノーリーグをどう捉えているかは分かりませんが、少なくとも優先度は高くなかったのでしょう。

■ スコッティが選んだ「Xゲームズとオリンピックの道」

スコッティにとって最大の戦いはオリンピック、そして自身がオーナーも務めるXゲームズです。
近年、Xゲームズは新オーナー体制のもとで大会の改革が進み、チーム戦の新フォーマット「Xリーグ」も始動しつつあります。

次々とイベントが動き出すシーズンで、彼がW杯やXゲームズに照準を合わせるのは必然でしょう。
スノーリーグは“優先度の高くない選択肢”になったとしても不思議ではありません。

■ クロエ・キムは競技以外の活動が最高潮に!?

クロエは今回はスノーリーグを回避しました。
5万ドルという高額優勝賞金も、彼女の規模で考えれば“特別に魅力的”とは言えないのかもしれません。

最近では、ラグジュアリーブランド「モンクレール」のキャンペーンへの参加や、NFLスターのマイルズ・ギャレットとの交際がメディアでも大きく取り上げられています。
今は競技以外の仕事や注目も多く、彼女にとっての優先順位は別の場所にあったように感じます。

■ 歩夢がスノーリーグに出る理由は「賞金」ではない

では、平野歩夢はなぜスノーリーグに参戦したのか。

賞金5万ドルだけが理由ではないはずです。
彼ほどのキャリアを持つ選手なら、もっと実利のある選択肢もあったでしょう。

おそらく大きな理由のひとつは、ショーン・ホワイトの理念への共感です。

ショーンはスノーリーグを通して、
「プロスノーボーダーが、他のプロスポーツ同様に正当な報酬を得られる世界」
を目指しています。

歩夢の参戦には、ショーンとの信頼関係、そしてスノーボード界の未来への責任感が透けて見える気がします。
さらには、スケートボードも含めたアクションスポーツ全体の価値を引き上げようとする動きにもつながっているのかもしれません。

■ 最後に

大谷翔平が野球界の未来を背負ってWBC出場を決めたように、
平野歩夢もまた、スノーボード界がより良い方向に進むために、この新しい舞台への参戦を選びました。

“トップアスリートの決断”には、結果やポイントでは測れない、静かな使命感が宿っています。

スノーリーグの参戦は、歩夢のキャリアだけでなく、スノーボード界の未来を形作る大きな一歩だったのかもしれません。

(フォトグラファーIsami KiyookaのInstagramより。スノーリーグの写真の3枚目に平野歩夢登場!)

飯田房貴

1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。

インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

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