スノーボード北京オリンピック総括

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スノーボードのオリンピックは、1998年の長野から始まり、今回の北京大会で実に7回目となった。
長野大会の時には、日本人選手がメダルを獲得することは考えられなかったけど、今回は遂に待望の金メダルを獲得ができた!その歴史的な立役者となったのは、平野歩夢だ。彼は疑惑のジャッジと言われた2本目のランを乗り越えて3本目に見事な逆転Vを決めてくれた。
それ以外にも、女子ハーフパイプで初となるメダル獲得した冨田せな、さらにスロープスタイルで初のメダリストとなった村瀬心椛といった女子選手も活躍!日本のスノーボード界に新しい歴史のページを作ってくれたと言っていいだろう。
閉幕した北京オリンピックだが、今回、何が起こったのか。結果だけでなく、様々な選手の思いや感動を与えてくれたランなど、振り返りたい。そして、4年後の2026年ミラノ・コルティナ大会に向けて総括しようではないか!

金メダル1個、銅メダル2個の影に隠れた挑戦のドラマ

今回、平野歩夢が初めて金メダルをもたらせてくれたことは本当に素晴らしいことだ。まだ女子ハーフパイプ初のメダル、スロープスタイル初のメダルも素晴らしい。このメダル数が合計3個というのは、8年前のソチ五輪での銀メダル2個、銅メダル1個と並ぶ。
だけど、北京オリンピック前には、もうちょっとメダルを期待した人も多かったのは?

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正直、もうちょっと良い結果を期待していたのは、男子のハーフパイプ陣ではないだろうか。
特に戸塚優斗は昨シーズンまで絶対的な世界王者と、世界選手権、W杯、Xゲームスで向かうところ敵なしだっただけに残念。また、平野琉佳も今季のW杯で優勝するなど、大活躍だったシーズンだけに、メダル期待は高まっていた。実際、北京オリンピック前のアメリカの報道では、日本男子ハーフパイプ陣がメダルを独占してもおかしくないと言われていたほどだ。それだけに、この北京で持ち前の実力を出し切れなかった戸塚、平野琉佳は、ひじょうに悔しい結果だったと思う。

メダル期待が高まっていた彼らが期待通りの活躍ができなかった理由は?

おそらく二人は、これまでW杯で優勝していたトリックを洗い直して金メダルという頂点を狙ったのだろう。
彼らは、世界2位とか3位とかに満足せず、自分自身に大きな目標を掲げて、それを達成しようとしたのではないか。戸塚優斗は、昨シーズンまで勝っていたルーティーンを捨てて、様々な回転軸など考慮したようだ。今回、金メダルを獲得した平野歩夢の高回転でのトリプルとダブルコークの連発は、それはそれで凄く大変なことだけど、一方で戸塚か狙っていたフラットスピンの高回転トリックも凄く難しい。一般的には縦と横回転が合わさったコークは難しいと見られがちだけど、高回転になるほどフラットスピンの方が難しい傾向が出るものなのだ。ビッグエアでもそういうところを狙って、フラットでの1800を行った選手もいた。おそらく戸塚も3発目でフラットスピンのキャブバックサイド1440を狙っていたのだろう。もし、これが成功していたら、多様性という部分でジャッジも評価せざる得ず、決まっていれば最終的に戸塚か平野歩夢のどちらが金メダルを得るか悩んだのではないだろうか。

しかし、結果的には、思ったような理想な演技ができずにメダルを失った。平野琉佳も同様に、頂点を目指すルーティーンを目指して挑んだが、決勝ではいずれのランもメイクできなかった。
言い換えれば、もし戸塚や平野琉佳がこれまでW杯で優勝していたルーティーンにさらに磨きをかけてメイクしていれば、メダルは獲得はできていたのかもしれない。その結果が何色かはわからないが、彼らはそういう戦略で挑まなかった。もっと険しい道で頂点を目指したのだ。

同じように、メダル確実とも言われていた日本女子のエース、鬼塚雅も頂点にこだわった選手だと思う。
通常なら1本目はバックダブル1080で点数を稼ぎ、2本目にフロント1080を決めて、表彰台圏内を確保。そして最後に一か八かのキャブダブル1260でより輝くメダルを狙っていくという作戦かと思いきや!実際にはいきなり一発目からキャブダブルを狙ったのだ。残念ながら、これが大転倒で大きな怪我にもつながりかねないものだった。テレビ画面越しに相当痛そうで2本目を心配したが…、鬼塚は果敢にも立ち上がり挑戦を続けた。結果、五輪のメダルは微笑まなかったが、ここにも単純な結果では伝わらない隠れたドラマがあった思う。

世界中のスノボ女子に感動と勇気を与えた岩渕麗楽のフロントサイドトリプルアンダーフリップ

今回、世界中の人たちに感動を与えたシーンの1つに、岩渕麗楽のフロントサイドトリプルアンダーフリップが挙げられるだろう。
彼女の勇気は、スノーボード女子たちに大きな勇気を与えた。岩渕が転倒した後に、同じく決勝に残っていたカナダのローラー・ブルーアンが思わず駆け寄って抱きしめたのも、そんな勇気を賞賛してのもの。このシーンを見て、スノーボーダーならず、普段スノーボードしないような人まで、涙を流したことだろう。

しかも驚かされるのは、なんと岩渕は大会前日に左手首が骨折していたことが判明し、その状況であの偉大な挑戦したというのだ。(上のインスタ投稿4枚目参照。)
前回の平昌オリンピックで4位に終わり、どうしても今回はメダルをほしかったという強い思い。それが、彼女にあのトリックを挑戦した要因だろう。それが大きなリスクを伴うどんなに恐ろしいものだったか。華奢なキュートな印象とは裏腹に、もの凄く負けず嫌いで強い意志が感じられる。

この挑戦の後、IOC(国際オリンピック委員会)のドンのバッハ会長も「一生忘れられない。五輪精神を象徴してくれた。」と絶賛のコメントを残している。

伝説のライダーとなった平野海祝のハイエストエア

今回、平野歩夢と共に話題となったのはその4歳年下の海祝である。最強日本人ライダーが集結した男子ハーフパイプ陣において、海祝は最後の最後、ギリで北京オリンピックの切符を手にした。
彼の自由奔放に暴れる姿は、北京五輪前のXゲームスでも披露され、そこで見事に銅メダルを獲得している。
彼のライディング表現は、兄の歩夢とは違って、ひじょうに爆発的だ。何しろ、一発目のメソッドが高い。迫力満点なのだ。
歩夢は高さに加えてトリプルコークなど技の難易度で勝負するが、海祝は兄以上の高さで勝負する。
もちろん歩夢にしても世界最高峰のエアの高さなのだが、海祝はそれ以上なので遂には7メートル40センチもぶっ飛び世界一を記録してしまった。
この高さは、パイプボトムからの6~7メートルの壁を加えると14メートルにも達し、まさにスカイハイ!

歩夢と海祝の関係は、なんとなく現在、日本ナショナルチームのコーチを務める村上大輔氏とその弟、史行のようでもある。
現役時代、兄の大輔は技巧派だった。一方で史行は一発目からぶっ飛んで行き周囲を唖然とさせるような爆発的なスタイルだった。
これが、現在の令和の時代に入り、歩夢と海祝がさらにグレードアップして見せてくれた。

それにしても残念なのが、現在のジャッジ評価だといくら唯一無二のぶっ飛びのメソッドを決めてくれたとしても、それがなかなか得点という形で評価されないところだろう。特に今回の五輪のジャッジでは、そんな印象を与えた。しかし、一方で海祝のエアは、世界中の人たちに驚かした。スノーボード関係者はもちろん、一般の人たちまで「ヤバい!」と思わせたのである。そういった意味では、自由奔放に演技に挑戦した海祝は大成功のオリンピックだったのではないだろうか。あと4年後にこの平野ブラザースがどんな結果を出してくれるのか、ひじょうに楽しみである。

5度目の五輪に挑戦!決して諦めることがなかったリンゼイ・ジャコベリスの悲願の金メダル

最後に紹介したいのは、アメリカ人のスノーボードクロス選手、リンゼイジャコベリスだ。
彼女は2006年トリノオリンピックの時、ハーフパイプとスノーボードクロスの両種目に出場している。この時、スノーボードクロスにおいて、絶対的な有利なポジションで金メダル確実だと思われたが、なんと最後のジャンプ台でメソッドエアをしてしまい、その結果転倒し金メダルを逃したのだ。彼女が単にクロスの選手だったら、あの時、わざわざメソッドなどしなかっただろう。メソッドエアの動きは、テール側を前方で出すような身体の捻りの動きが入る。その結果、高速でジャンプしているところにリスクが伴い転倒してしまったのだ。

あの時、彼女はどんな心境でメソッドエアを放ったのか、は様々なメディアで言われ尽くされているが、一説には「スノーボードの楽しさを世界中に伝えたかったから」とも言われている。
ただ、あそこで彼女が金メダルを失い、追った心の傷はかなり深かったに違いない。それからが、彼女の試練の戦いが始まった。

スノーボードクロス種目に専念で、世界選手権、スノーボードクロスで戦う日々。大きな怪我で二度の手術もした。そんな状況でも彼女は常にクロス界のトップ、女王だった。しかし、なぜか五輪では女神が微笑まない。4年後のバンクーバー、さらにソチ、平昌オリンピックと戦い続けたのである。
そして遂に5度目の挑戦となった今回の北京オリンピックで、彼女はトリノの忘れ物である悲願の金メダルを取り戻したのである。彼女は決して諦めることなく、16年もの歳月、頑張り続けた。

しかも、今大会で初めて行われた男女混合のクロス大会でも金メダル獲得!!まさか、4度も金メダル候補と言われながら1つも獲れなかったのに、北京で2つも輝かしいメダルを獲得するとは!

彼女は、今回、メダルを獲ってから、このようなコメントも残している。

「たとえ敗れても誰もあたながオリンピック選手であることを奪えません。あなたが苦闘する姿もどれだけ頑張って来たのかも、よくわかります。
そのすべてに価値があることなのです。」

今回、オリンピックに参加した全選手、練習中に怪我して本戦に出れなかった選手、予選で敗退してしまった選手まで含めて、すべての選手たちに大きな拍手を贈りたい。ここまで頑張って来て、本当に凄いことです!ありがとう!!

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