TEXT: FUSAKI IIDA
ゴールデンウィークだと言うのに、何やら私のSNSが俄かに騒がしいと思っていたら、原因はこれか!
Number Webで北京五輪での不可解採点を日本人ジャッジが初めて明かしたというのだ。
記事タイトル
『平野歩夢“あの2本目”不可解採点…北京五輪・日本人ジャッジが初めて明かす“審査員たちが話していたこと”「僕は平野選手を上にしましたが…」https://number.bunshun.jp/articles/-/853030
Number Webで登場した橋本涼氏(北京五輪でジャッジを務めたFIS国際スキー連盟公認審判)によると、スノーボードの採点は「トータルでの評価」と「相対評価」があるということ。あの平野歩夢の2本目では、「五輪史上初のフロントサイド・トリプルコーク1440をメイクしたことと、そこから次のキャブ・ダブルコーク1440へ初めてしっかりとつなげたこと」を評価し、橋本氏はスコッティ93点、平野95点という平野が2点上回るスコアを付けた。
しかし、「ジャッジの判断は分かれるだろうな」と思ったという。
その理由は、平野のランには評価を下げる要因となった箇所がいくつかあり、4つ目のバックサイド・ダブルコーク1260で高さが出ず、またニーグラブをした、ランディングがクリーンではなかったからだ。
Number Webで、橋本氏がこうしたジャッジの見解を伝えたことに違和感を覚える業界人も少なく感じた。というのも、炎上こそしていないがSNS上でも、このような意見が出ている。
この記事の内容がどうのこうの!というより、この記事がなんのためらいもなく、世の中に発信されてしまう危機感を感じています。
個人的にはジャッジはこのような事を話してはいけないと思う。ただの言い訳にしか聞こえない。
今回、いち早くこの記事のことを伝えてくれた私の友人(元スノーボード雑誌編集者)は、「人が、物事をどうとらえるかは勝手だと思われますが、あまり、後出しジャンケン的な言動は、当人を傷つけてしまうことになりかねないので、そういった意味を込めてアップしました。諸々、システムを含め考えていくべきいい時期にきているのかと思います。」と、今後のことに警報を鳴らした。
おそらくは、未来のスノーボード界のことを考えて、橋本氏は今回ジャッジの状況を披露してくれたのだろうが、私の周りには「こんなことを伝えてほしくなかった」という意見が多いのだ。
ところで、今回、そもそも橋本氏が感じたあの平野歩夢の4ヒット目でバックサイド・ダブルコーク1260で高さが出ず、ニーグラブでランディングがクリーンでなかったというのは、事実どうだったのだろうか?と改めて思った。というのも、私が五輪観戦中には、このような違和感はまったくなかったからだ。もしこれが本当なら、ジャッジという仕事は改めて凄いものだ。私たちが微塵もわからなかったことをしっかりと詳細にチェックしていたということだから。
この4ヒット目のジャンプを見てみたいと思い、北京オリンピックの映像をチェックし直した。
あの平野選手の2本目疑惑のジャッジランは、56.11~スタート。
注目の4ヒット目だが…、
高さは、普通にあるように思った。たしかにややボトムに流れて若干低いけど、それで減点になるものだろうか。
肝心の「ニーグラブ」はどうだろう?
なんと、映像は決定的な場面を残してくれていた!58.09のところで、バッチリとスローでわかりやすいように!!
あれ!?右手でヒール側をしっかりとつかんでいるぞ。たしかに、左手でヒザの裏を触っている。これがジャッジか感じた「ニーグラブ」なのだろうか!?!?
だけど、そもそもスノーボードの選手が片方の手でボードをグラブし、もう片方の手はバランスを保つために上げたりしているのだから、「ニーグラブ」という言葉は、ひじょうに違和感を感じた。片方の手でグラブしている以上、このジャッジの評価はあくまでもグラブのハズだ。もう片方がヒザにあるなら、プラス評価となるダブルグラブでなかったということしかない。我々の認識としては、ダブルグラブしていないことは減点であるハズはない。ハーフパイプ競技の採点は、ボードをグラブしなかったことで減点になるハズだ。
Number Webがこうした記事をアップしてくれたことはありがたいが、そもそも片方の手はしっかりとグラブしつつ「ニーグラブ」と伝えてしまっているのだから、記者さんにはそのへんをしっかりと突っ込んでほしかったと思う。
SNS上の意見の中に「言い訳にしか聞こえない」というのは、まさにこのへんのおかしさがあったからだと思う。
●読者の方のご意見
このコンテンツをアップデートしたところ長年、当サイトをご覧になっていただいてる読者様から貴重なご意見もメールでいただいたので、ご紹介します。
北京五輪の記事を拝見しました。(回転力を上げるためにしている)ニーグラブが減点に繋がるのは今のジャッジの潮流だと思いますので、「片方の手でグラブをしているから、もう片方の手が膝を抱えていようが(ニーグラブをしていようが)、違うところに手があろうが、関係ない」というご意見には違和感を感じました。「ハーフパイプのジャッジは、ボードをグラブしなかったことで減点となる」だけではなく、「ボードをグラブしていない方の手の位置によっても減点対象になる」のだと思います。
以上のご意見に対して、「回転数を上げるためにヒザをグラブすることが減点になるのでしょうか?」と私が疑問をさらに伝えたところ…。
回転数を上げるべく身体をコンパクトにするために膝を抱えることが、現代では減点要素のようです。スタイルを重視するんだったら、膝抱えるよりも然るべきところに手を置いておくべきだよね、っていう考え方なんでしょうね。極端な話、レギュラースタンスの人が360インディするときに、左手が膝抱えてたらスタイリッシュじゃないですよね。スピン先行するために肩を開いている先にまっすぐ左手が伸びてるとかの方がスタイリッシュ、そういうことじゃないかなと思います。
●そもそもスノーボードのグラブって何?
この話は終わらなかった。
というのも、この読者さんのご意見を受け、またもや元雑誌編集者さんから、以下のような質問が来たのだ。
そこから、グラブに関する深い会話につながり、「そもそもスノーボードのグラブとは?」という定義に発展したのでこのこともお伝えしておきたい。
元雑誌編集者さん:
読者さんの「スタイルを重視するんだったら、膝抱えるよりも然るべきところに手を置いておくべきだよね」という
「指摘する然るべきところ!」ってどこだろう?これを明確にしなければ、減点対象にならないですよね?
フサキ:
それは、おそらくダブルグラブ(トラックドライバー)か、手を上げるということをおっしゃっているのだと思います。
元雑誌編集者さん:
手を高く上げたら、体をロックできなくなり、高回転トリックなんてできなくなります。
フサキ:
あっ、そうか。
今、確かに他の選手を含めた映像をチェックしたのですが、高回転では手を上げていなかったです。
元雑誌編集者さん:
フィギュアスケートのように、ジャッジシステムを厳格化しないと、この問題は解決しないでしょう!
やはり、採点競技の難しさは、永遠のテーマですね!
フサキ:
ところで、スコッティの映像を見て、今、凄い発見をしたかも。
なんとスコッティ、バックサイドの壁でチ〇コをグラブしながら回り続けていますよ。
元雑誌編集者さん:
😃
ビッグエアやスロープでの高回転トリックでも、ダブルグラブか、グラブしてない手は、バタつかないよう意識してますよね!
ハーフパイプがダメで、ビッグエアやスロープはOK、だったら、それこそ大変なことになります。
フサキ:
そうっすね!しかし、エアを安定させるために股間をグラブし続けるって大スクープになりそうだな。
あっ、すみません!拡大してよく見たら下っ腹を触りながら回転いました。
元雑誌編集者さん:
グラブはスタイルを出す!というベースもありますが、そもそもグラブは体をロックさせて、エアを安定させるためにやる行為です。
しっかりグラブして体をロックさせることができなけれは?
たぶん、バランスを取るために、グラブしてない腕はバタついてしまい、グラブも短くなります。
これは、低回転のトリックなら通用しますが、現代の体操のような高回転トリックでは通用しません!
体操競技を見ればわかりますが、選手は意識的に両腕を体から離さないようにしています。
フサキ:
たしかに、そうっすね。
これは響きました。言い換えれば、だからこそ無理にグラブしているライダーの姿はカッコ悪くなってしまいます。
そもそもスノーボーダーがグラブする意味を改めて考えることができました。
元雑誌編集者さん:
ハーフパイプは、体操競技みたいになってしまい、もう、スタイルなんてどうでもいい競技になってしまったかと!
なら、ルール(ジャッジシステム)を明確化して、誰もが納得いく競技にしてほしいですね。
フサキ:
読者さんも似たようなことをおっしゃっていましたよ。
「ここまで回転数が上がってしまうと回転数が評価されるジャッジ基準よりもスタイリッシュなエア、ルーティンを見せてくれるスノーボードの方が魅力的」だから、北京ではテーラー・ゴールドがカッコよかった、と。
スノーボードのオリンピックが、スノーボード発展に献立していることはあきらかなので、これからは一般の人にもわかりやすいように、明確なルールを決めていくことは大事ですね。
そもそも多くの人は、スノーボードのジャッジ方法がわからないと思うので、以下のリンクも参考にしてみてください。
他のオリンピック採点競技とは違い、いくつかの改善点が見つかるか、と。
●関連リンク
【コラム】ハーフパイプ競技の100点満点は意味ナシ!メディアも知らない(!?)スノーボード競技の得点採取方法
https://dmksnowboard.com/a-perfect-score-of-100-points-in-the-half-pipe-competition-is-meaningless/