【コラム】ハーフパイプ競技の100点満点は意味ナシ!メディアも知らない(!?)スノーボード競技の得点採取方法

文:飯田房貴 fusaki@dmksnowboard.com

インスタをチェックしていたら、X Gamesでショーン・ホワイトが2012年に出した100点満点のランがアップされていました。

X Gamesは、おそらく知っていながら「100点満点・完璧!」というような煽るような映像を投稿していると思うのだけど、未だに結構、多くの人が勘違いしているハーフパイプ競技の採点方法です。

ショーン・ホワイトは、2018年にもスノーマスで行われたワールドカップ・アメリカ大会で人生2度目となる100点満点スコアを出しています。
その時のランというのが、以下の動画です。この大会では、スコッティ・ジェームス、戸塚優斗を目の前にして頂点に立ちました。

フロントサイド・ダブルコーク1440→キャブ・ダブルコーク1080→フロントサイド540→バックサイド・ダブルコーク1260(ダブルマックツイスト)→フロントサイド・ダブルコーク1260

一方、今季絶好調で世界の頂点に立った戸塚優斗は、20-21シーズンは負け知らずで破竹の勢いで勝ち続けました。
スイスで行われたヨーロッパ最高峰の大会、LAAX OPENでは以下のランを披露し優勝しています。

フロントサイド・ダブルコーク1440→キャブ・ダブルコーク1260→スイッチバックサイド1080→バックサイド・ダブルコーク1260→フロントサイド・ダブルコーク1260

また戸塚は、X Gamesでは以下のランで金メダルを獲得しました。

フロントサイド・ダブルコーク1440→キャブ・ダブルコーク1260→スイッチバックサイド・ダブルコーク1080→バックサイド・ダブルコーク1260→フロントサイド・ダブルコーク1260


実を言うと、LAAXとX Gamesでは、まったく同じルーティーンで勝ったのですが、LAAX OPENのポイントというのは、95.25点でした。
果たして、この得点の意味するところは、ショーンよりも劣っていたということなのでしょうか?

フィギュアスケートは加算方法で順位を出す
スノーボードのポイントは他の選手との比較ポイントに過ぎない

フィギュアスケートの得点を決める方法は、おそらくウィンタースポーツのジャッジング競技の中でも極めて詳細でしょう。ひじょうに細かい設定になっていて、素人にはひじょうにわかり難いです。だけど、もの凄く大雑把に言ってしまうと、どんな技を決めると何点もらえるか決まっています。どのようなミスしたら何ポイント減点されるかということなども、ほぼ決まっています。
その結果、歴代の得点ランキングという明確な採点表現方法が発生するのです。


名前国籍総合
得点
SPFS大会名
得点
得点
1ネイサン・チェンUSA335.30110.383224.921GPファイナル2019
2ネイサン・チェンUSA323.42107.406216.022世界選手権2019
3羽生 結弦JPN322.59109.604212.993GPカナダ大会2019
4羽生 結弦JPN305.05109.345195.719GP日本大会2019
5ネイサン・チェンUSA301.44101.9510199.495世界国別対抗戦2019
6羽生 結弦JPN300.9794.8724206.104世界選手権2019
7羽生 結弦JPN299.42111.821187.6017四大陸選手権2020
8ネイサン・チェンUSA299.09102.718196.388GPアメリカ大会2019
9ヴィンセント・ジョウUSA299.01100.5111198.506世界国別対抗戦2019
10ネイサン・チェンUSA297.16102.489194.6810GPフランス大会2019

●参考サイト【フィギュアスケート男女シングルの試合結果・ランキング・採点方法】
https://figureskating.tororinnao.info/highest-total-score-ranking-men-total/

以上の過去の得点を見ていただければわかるように、過去の最高得点はアメリカのネイサン・チェンで335.30点です。2位もネイサンで、3位、4位に羽生結弦選手が入っています。

このポイントの意味するところは?

①過去の演技で最も最高峰のパフォーマンスを行ったことがわかる
②100点満点ではななく、将来的にはさらに高い得点演技者が現れる可能性がある


ということです。

一方のスノーボードのポイントは、他の選手との比較ポイントに過ぎません。だから、ショーン・ホワイトが100点満点だからと言って、戸塚優斗のLAAX OPENで出した95.25点よりも勝るということはないのです。
僕もこのことを明確にわかって来たのは、2013年のことです。以前ハーフパイプ・ナショナルチームの綿谷直樹氏に行ったインタビューがきっかけでした。
(以下、インタビューのリンクページ)

知ればもっと楽しい!五輪ハーフパイプ・ジャジング/綿谷直樹
https://dmksnowboard.com/naoki-wataya-orympic-judge/

その時に綿谷さんが僕に伝えたのは、「点数は目に見える数値であって、大切なのはそれが与えた結果としての”順位”である」ということです。
意味は、各ジャッジは同点を出さないように、しっかりと順位付けのためにポイントを出していることになります。

わかりやすく具体的に説明していきましょう。以下のことは、僕の想像も入ったストーリーです。

まずジャッジたちは、事前のミーティングで現在のトップ選手たちのルーティーンを把握します。そこで、その選手が最高のルーティーンを決めれば、ある程度の高得点を出すように決めておきます。
さらに公開練習でも、最高得点の出し方を最終チェックしておきます。
そして、万が一にその選手が想像以上のレベル高いトリックを出すことも考え、得点に余裕をもたせます。
例えば、「フロントサイド・ダブルコーク1440→キャブ・ダブルコーク1260→スイッチバックサイド・ダブルコーク1080→バックサイド・ダブルコーク1260→フロントサイド・ダブルコーク1260」なら、95点をあげよう。だけど、さらに1080だった部分が、1260まで発展させてしまった時のために、ある程度の余裕をもたそう、ということです。なんと言っても100点以上を出せないので、余裕をもたす必要があるのです。

もし、ある選手が、先に紹介したようなルーティーン以下の回転数なら、簡単に得点を下げることができます。
ちょっと下なら、90点とか、さらにもっと下なら85点とか。

そして、点数はあくまでも目安と考えて、単に各出場選手のどっちが上でどっちが下だったかという意味で、得点を決めていくのです。同じ得点は許せません。あくまでも順位付けの得点方式なので、出場全選手の得点に差別がないといけないです。
だから、スノーボード競技の得点は、生き物のように動き、得点の高さがどれだけ凄かったというのは、あくまでも目安に過ぎないのです。

フィギュアスケートのネイサン・チェンは、過去最高の演技をして335点を出しました。
しかし、ショーン・ホワイトは、過去最高の演技をして100点を出してわけではありません。その証拠にショーンが決めたルーティーンは、戸塚が決めたルーティーンよりも合計で720度(2回転)も劣っています。

ショーン・ホワイト2018年に決めた100点満点のルーティーンの回転数と合計
1440+1080+540+1260+1260=5580

戸塚優斗2021に優勝した95得点のルーティーンの回転数と合計
1440+1260+1080+1260+1260=6300(+720)

そこで、頭の良い読者の方は、疑問をもたれるかもしれません。
「もしも100点を出したショーン・ホワイトよりも後に滑った選手が、ショーン以上のランを決めた試合は、どんな得点になっちゃうの?」

はい、ご安心ください!
なぜなら、ショーンが100点を出した時には、その後の走者がいなかったのです。だから、ジャッジも「これ以上なし」という気持ちで安心して、100点を出せたのです。何しろ、スノーボードの採点方法は、あくまでも他の選手との比較によるものなので。

しかし、一般メディアとマスコミ、さらにスノーボード・メディアまでも(?)、「100点満点スゲー!」とか「95点高得点だ!」とやっているのは、何なんでしょう???

これは、今年、世界選手権で戸塚選手が優勝した時の日本経済新聞の記事ですが、「96.25点で初優勝した」という伝え方は、あたかも戸塚が「優秀な成績得点」で優勝したというふうに見えてしまいます。なぜなら、そこには「どんなルーティーンを行ったのか?」「他の選手が何点だったのか?」ということが記載していないからです。間違っている内容の記事とは言いませんが…、おそらくこの記事を掲載した日経の記者さんは、スノーボードの得点の意味を理解していないと思います。
これは、日経に限らず、全国紙、全スポーツ新聞、さらにはテレビ・ニュース番組でも同じような状況だと思います。

一般メディア、新聞社がスノーボードを理解していない例は、他にもあります。
これは、みなさんもお気づきですが、X Gamesや他の国際的なプロ競技のために、実力選手が出場していないにも関わらず、日本人選手がワールドカップで優勝した時に、「〇〇選手が、何季ぶりの今季初優勝!」というような書き方をしてしまうパターン。これも間違った伝え方ではありませんが、長年スノーボード競技を応援して来た者にとっては、違和感を抱きます。
例えば、「〇〇と言った実力選手たちが〇〇ビッグエア大会参加でいなかった最中であるが、〇〇選手はしっかりと結果を残した」とか、どんな技を披露したとか、そういう書き方を加えれば、良いと思いますが。

新聞記者の伝え方の他の違和感の例では、以下のような写真を掲載しているところにもあります。

「アチャー、グラブしていないところの写真使ってるじゃん!」
「リップを入れていないから、どれだけ高く飛んでいるかわからない…」

きっと、スノーボーダーの方なら、そんな感想をもたれるでしょう。
選手にしても、「仕方ないな」という思いではないでしょうか。
なぜなら、一般新聞記者さんなら、普段は他のスポーツ記事を扱い、オリンピックのために派遣されているようなケースが多いので。突然の配置転換(?)で、わかっていない方が多いように思います。選手は全国紙に自分が掲載されたことを感謝し、細かいところは気にしていないように思います。

なぜ、こうした写真を使われるのか?

以前、ある朝日新聞の記者さんといっしょに飲んだ機会がありました。スノーボードの記事のことで話したことがあるのですが、「写真は選手の顔が見えていないといけない」というルールがあるということでした。
どんなにカッコいい写真でも、その選手が誰だかわからない顔が映っているいないような写真では、ダメということなのです。
でも、そもそも選手はゴーグルしている姿で、顔なんかわからないのにね。
未だにこういうことにこだわって、ちょっとスノーボードに精通している人から「なぜ、この写真なの?!」ってツッコミどころ満載の写真を使用している…。

一方、スノーボードのメディアは、できる限り選手も納得するカッコいい写真を選ぶようにします。
また、どんなルーティーンだったのかなど、詳細に書きます。
もしもスノーボード・メディアが、単にこうした得点だけの記事を記載したら、それはおそらく知っていて、煽り的な意味合いで掲載したのかもしれません。

世間の誤解を解くためにはスノーボードもフィギュア方式の採点方法が必要

こうして一般メディアというストロングな媒体が、スノーボードを伝えていくので、どうしてもスノーボード競技の間違った見方というのが生じてしまいます。
個人的には、誤解を解消するためにも、もうスノーボードもフィギュア方式のような採点方法が必要だと思います

フィギュアのように1440回ったら何点。そこからグラブもしっかりと決めたらプラス1点、逆に手を付いたらマイナス2点とか。
そうしたら、ジャッジも今のように100点までしか評価できない窮屈な得点方法をしなくて済みます。

あなたが、ジャッジになったと想像してみてください。
最初に凄い選手が現れて、95点を出しちゃったとしましょう。するとなんと後に出場した選手も、最初の選手に勝る勢いのランで、より高い演技をしてしまいました。今度は、97点を出すことになってしまいます。アチャー、大丈夫ですか? 残る選手もさらに凄いランするかもしれませんよ。ほらっ見なさい! 出たよ。どうするの、じゃあ、今度は99点出しますか? もう残り1点枠しかないですよ。小数点で刻んで対応しますか!?

笑い話のように聞こえますが、これはおそらく実際の現場、しかもレベル高いワールドカップのようなところで起きてしまっているようにも思います。
なぜなら、最初の選手は、どれだけ凄いランをしても低い得点の傾向があるからです。オリンピックを見ていても、「えっ、こんなもん?」と思ったことありませんか? それは、後から来る選手のことを考えて、用心して(?)得点の余裕をもたせたのです。
僕が言う、窮屈なジャジングというのは、こういうことを意味しています。なんか純粋なジャッジング方法でないというか、世間にも伝わり難いジャッジング方法だと思いませんか?

もし、スノーボードもフィギュアスケートのようなジャッジング方法になっていたら、このような問題から解消され、より明確に競技の発展が理解できてくるでしょう。
1998年に長野オリンピックで決めたジャン・シーメン(スイス)が金メダルを決めたルーティーンは100点としたら、現在のトップ選手たちはおそらく300点を出していることになっているかもしれません。そのような採点方法なら、スノーボードの発展の歴史もよくわかります。
最近、メジャーリーグで、大谷翔平選手が「ベーブルース以来の~」というような記録を出して話題になっていますが、スノーボードも同じようにわかりやすく伝わると思います。戸塚選手が「〇〇を超える330点をマークした」というふうに。
そして、さらに10年後にもっと凄いトリック&ルーティーンが編み出されていて、その歴史に刻まれた得点というのが、スノーボードの発展をわかりやすく伝えてくれることになるでしょう。

果たして、北京オリンピックに向かってスノーボード競技は、どのような報道をされるのか?
賢明な読者の方は、そのへんをチェックしてみてください。

コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。最新執筆書『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は36年。