【コラム】東京オリンピックのスケートボード種目で学んだ未来のスノーボード種目への提言

文:飯田房貴 fusaki@dmksnowboard.com

東京オリンピックのスケートボード種目の開催は、多くの人に影響を与えました。
予選ではトップ通過で決勝に行き、最後もマキシマムに攻め転倒し、4位となってしまった岡本碧優選手。涙の15歳をみんなで抱きしめ担ぎ上げる姿は世界が称賛!TBSサンデーモーニングでは、元陸上選手の朝原宣治さんが「失敗してもライバルが称え合い技を競い合うなど、新しいスポーツの形と思った」とスタジオでコメントを残していましたが、僕も同感!スケートボードは新しいスポーツの形を示してくれた、と思います。

前回のコラム『コンペじゃなくてコンテストであってほしい!』でもお伝えしたように、元々スノーボードのコンペティションというのはこういうスケートの要素があったし、今でもNatural Selectionのような大会には、オリンピック選手やビデオスターが一同に集合し、滑って後にはノーサイドで相手を称え合う姿が見られます。

だけど、実際の五輪のスノーボード種目というのは、迫力あるフリースタイル技を拝見できますが、かつてあったスタイルへのこだわりや、またビデオスターが表現してくれるようなカッコ良さも失われているようにも思います。というのも、トリプルコーク1440など高回転トリックをどれだけできたか競うことが主眼となりがち。縦・横・斜めに何回転したトリックがメイクできたかなど、技の回転数が増したフリースタイル種目になってしまったため、シンプルなストレートジャンプ技が大会で披露されなくなって来てしまいました。

例えば、東京五輪のスケートでも披露されたハンド・プラントという技は、スノーボードのワールドカップやオリンピックでは決して見れない技ですが、スイスを代表するスコッティ・ジェームスもこんなにもスタイリッシュに決めることができます。


他にもトップの選手というのは、大会ではなかなか見せない超クールなトリックをすることができます。
今ではかなり大会では減ってしまったけど、ストレートなトリックとして有名なメソッドエア。身体をおもいっきり捻ったトゥイークのスタイルは、永遠のスノーボーダーの憧れのトリックでしょう。金メダリストのクロエ・キムは、スイッチで決めることもできます。
かつてスロープスタイルで活躍していた角野友基もメッチャ渋いトゥイークを見せてくれますね。最近では、ジャパングラブのようにトゥ側エッジをグラブしたトリック(※もしかしたらタイペーンと呼ばれる技かも!?)を自身のインスタで披露しれくれています。

こうした技というのは、玄人に限らず、一般の人でスノーボードに興味があるような方が見ても、ひじょうに引きつけられるものがあるのではないでしょうか? 
しかし、残念ながらオリンピックの舞台では披露することは、まずありません。現在の五輪の採点は、エアの高さ、技の難易度などで評価され、特にトリプルコークなどの高回転技がポイントを獲得しやすいからです。女子のハーフパイプでは、1080がかなり高得点で、1260をやろうものならハンパない評価に繋がるでしょう。
それはそれで凄いし、こうした難易度高い選手たちをリスペクトしますが、一方でこのような傾向は体操種目になっている面は拭えません。
結果、スノーボードの本来持つ魅力が、オリンピックで発揮し切れないというジレンマに陥っています。

540までしか回れなければスタイル重視となる!

そこで、僕の提案としては、回転数は540までしかできないという縛りルールです。
東京オリンピックのスケートボードでも最高のスピン数はおそらく540(1回転半)までだったと思います。スノーボードのようにビンディングで足と板が固定されないスケートボードでは、これが限界。一方でスノーボードの場合、バインという金具によってメチャクチャに回転ができるという恩恵を受けています。しかしながらバインに頼ったスノーボーディングは、時に強引でスタイリッシュに見えないことがあります。

昨年僕がアマゾンのkindleからリリースした本、『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』の『ビンディングがなくても成立する滑りはスタイリッシュさを磨く』の中でも紹介していますが、横乗りのライディングの美しさというのは用具に頼らないスタイルで滑りができることにあると思います。普段でも僕はなるべくバインに頼らないような滑りを心掛けているし、レッスンのアドバイスでも、「まるでサーファーのようにバインに頼らず板に乗り続けましょう」と伝えることがあります。

540までしかできなければ、かつて村上大輔(※現在ナショナルチームのコーチとして活躍中)が見せたような超ぶっ飛んだエア・トゥ・フェイキーも大会中に披露されることでしょう。
リップから飛び出した後、板を返さずにテール側に戻るだけのシンプルな技は、空中でいかにオリジナルなスタイルを出せるかというところが勝負。またエアが高いだけに、スイッチでの着地も難しそうです。こんな激シブなエアも観客を沸かすことでしょう。

また、今日たまたまNitoroのインスタで拝見したのだけど、こうしてフリップしながらパイプに入るという姿も見られるかもしれません。

まさかのドロップインの姿に、見ている人は驚くに違いありません。「スノーボードって自由でヤバいな」、と思うのではないでしょうか。

540までしか回れなければテリエも大会に復活!?

もし、こうした540までしか回れない種目ができたら、これまで高回転ができなかったベテランの選手でも復活できる可能性があります。
ビデオスター・ライダーたちの映像を見ればわかりますが、彼らは高回転に頼らずスタイリッシュなトリックで今でも僕たちを魅了し続けてくれます。採点競技において「スタイル」というのはしばし難しい評価にもなって来ますが、一方でやはりヨコノリ経験者しかわからないような評価があります。事実、インスタでの評価数は、ある意味それを示しているのではないでしょうか。

もちろん有名な五輪選手への評価、またはルックスが良いライダーたちの評価はより高い傾向になるけれど、それでも純粋に世界には彼らのスタイルで評価する人も少なくないか、と思います。
幸いにして、若いスポーツと言われているスノーボードでも、ジェイミー・リンやブライアン・イグチなど、レジェンドたちがそのスタイルを礎を築いて来てくれました。こうした先駆者たちにジャッジを委ねるという手もあるでしょう。

このようなスタイルがより重視されるような大会になれば、もしかしたらテリエ・ハーコンセンのようなライダーも復活してくれるかもしれません。テリエと平野歩夢が同じような舞台に立つ大会なんて、想像するだけでもワクワクします。

以下の写真2枚は、最初が1989年のテリエ。そして、2枚目が今年になって撮影されたテリエ。
今見ても、そのトゥイークのスタイルに衰えはありません!

ハーフパイプ、スロープスタイルという種目の中に540縛りを設ける新種目

オリンピックの陸上競技には、100メートルだけでなく、200メートルもリレーなど様々あります。
だから、スノーボードも同じように、単にハーフパイプという種目だけではなく、ハーフパイプ自由形(※往来のハーフパイプ競技)とか、それ以外にもハーフパイプ540級(※540縛り)というような新種目があってもいいのでは?と思います。それは、ハーフパイプに限らずスロープスタイルにも応用できるでしょう。

このような低回転でのハーフパイプ種目ができれば、現在のような巨大に成長してしまったオリンピック・サイズのパイプだけではなく、もっと手軽な小さなパイプが誕生するきっかけにもなると思います。

僕が住むウィスラーのパイプ(※ブラッコムにある)もなかなか大きなサイズです。おそらく、オリンピックのサイズに比べて7割~8割サイズだと思うのですが、壁の高さに圧倒されます。このサイズでは、なかなか一般スノーボーダーの方では、「入ろう」という気持ちにはならないでしょう。
しかし、オリンピックのパイプよりも半分くらいのハーフパイプなら、もっとたくさんの人が気軽に楽しめると思います。

もし、オリンピックにハーフパイプ540という新種目が生まれ、世界中の多くの人にその姿が紹介されたら、パイプ・ブームというのがやって来るかもしれませんね。テレビを見た人が、「僕もパイプに入ってみたい!」というふうになると思います。それは、東京オリンピックの新種目、スケートボードを見た感覚と似ています。

しかし、現在の五輪スノーボードのような巨大サイズでは、「ヤバっ!よくあんな危険なことやっているな」と驚かされるだけで終わってしまう可能性があります。「凄い」と思われるけど、「やってみたい」には繋がり難いのではないでしょうか。

スノーボードは決して、オリンピック選手たちのように高回転しなくもいいし、ぶっ飛ばなくてもいい。もっと気軽に楽しめるもの。
オリンピックでそんなメッセ―ジを伝えられる新種目ができたらいいなあ、と思います。

コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。最新執筆書『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は36年。

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