長野オリンピックのドーピング違反第一号スノーボーダーの真相

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昨年の5月、カナダ・ウィスラー在住の記者は日本へ帰国し、SBJ日本スノーボード産業振興会で専務理事の大石裕久氏(サンライズプロダクション)の斡旋により、MOSS SNOWBOARDSの田沼進三さんのインタビューを行った。
記事:スノーサーフィン生みの親!日本が誇るレジェンド業界人MOSS SNOWBOARDS田沼進三インタビュー

そのインタビューの後、大石さんとお茶を飲む機会を設けていただき、いろいろとスノーボードのヒストリー、当時の専門誌の実情などを聞かせてもらった。中でも印象的だったのは、当時、てんやわんやの中、行われた長野オリンピックの話で、記事で紹介し難いような裏ストーリーだ。その別れ際に、大石さんから「当時のオリンピック関連の資料、時間がある時に送ります」と言われて別れた。

最近になってその資料が送られ、ひじょうに興味深く拝見したが、中でも当時の専門誌スノースタイルの記事、長野オリンピックのドーピング違反第一号と言われたスノーボーダーのロス・レバグリアティに対する選手たちのコメントがおもしろい。

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事の発端は、長野オリンピックでスノーボーダー金メダル第一号となったロスが、マリファナを常用していた疑いが強いことをIOCが発表したことによる。
長野オリンピックの前年(同シーズン)の12月にカナダで行われた同選手の事前検査の数値を入手したところ、長野五輪で検出された17.8ナノグラムを大幅に上回る90ナノグラムのマリファナ反応があったというのだ。
ロスは当時、「パーティで間接的に吸った」というようなことを言っていたが、私たちの間では、「まあ、吸ったな!(笑)」と話していたものである。
一時は、金メダルははく奪されたが、ロスはこれに対して「マリファナはカナダでは非犯罪であり、競技のパフォーマンスを強化する効能は発表されていない」と主張し、最終的にはメダルが戻った。

ちなみに記者は、ロスとは1990-91シーズンから親交があり、同じ大会にレースに出たり、あるいはいっしょにゲートを立てて練習したこともある。同じブラッコムのコーチに師事したこともあるので、彼が最初の金メダリストになり、またメダルが戻った帰ったことは嬉しかった。

このロス疑惑の真相を、当時のスノースタイル誌は記事を組んでおり、関係者やライダーたちのコメントを取材している。
あの時のライダーたちの空気間、また大きな騒動となったことで当時の雰囲気も伝わって来る記事なので、一部抜粋してご紹介しよう。

ドーピングに対するライダーたちの意見

Nicolas Conte
すごく残念。一番怖いのは、親が子供にスノーボードはドラッグがらみのスポーツだからやるなと言い出すことだ。
フランスの姉に電話したら、みんな言いたい放題スノーボードをけなしているらしい。
せっかく俺たちは信用を築こうと努力していたのに、今回の事件で水の泡だ。

Nicole Angelarth
彼が一番いいタイムを出したんだから、金メダルをとり返して当然ね。
マリファナなんて吸ったら逆にまともに滑れないような状態になるのだから、ドーピングにひっかかるなんておかしいわ。
これは、IOCの連中がロスをマリファナ撲滅の見せしめにしようとやったと思うのだけど、結果としてはIOCの権威が落ちて、ロスが有名になっただけ。バカバカしいわ。

Max Ploetzeneder
俺がハッパを吸ったことあるかって?もちろん!
オリンピックまでは控えていたけどね。
マリファナよりもアルコールの方が体に悪いよ。
ドーピング検査は記録を伸ばすために筋肉増強剤を使ったりするのを防ぐためのもので、マリファナまで調べるのはおかしいよ。
ロスが一番速かったんだから、金メダルにふさわしいね。

Shinichi Watanabe
かわいそうというか、もったいない。
日本はドラッグに対して厳しいけど、アメリカやカナダでは、まあいいじゃんという感覚があるのでは。
スポーツ選手であるということをもう少し考えて欲しかった。

Masa Takeuchi
彼にメダルが戻って良かったと思う。
スノーボードは初めての五輪種目になったから、余計にたたかれる部分があるんじゃない?
僕は吸わないからよく分からないけど、マリファナというのは国によって法律も違うし、IOCの位置付けも曖昧だったんでしょ。
副作用があって危険だからドーピング近似なのか、何のために検査をやるのか、その辺の原点が問われるような気がした。

長野五輪騒動の後のロス

ちなみに、当時のロスは確かに世界を代表するトップ選手の一人だったけど、必ずしも優勝候補的な絶対的王者ではなかった。しかし、彼のモットーが「No time is better than slow time記録タイムを残せないことは、遅いタイム(記録)よりもいい」という過激なものであり、まさにラストの一発で悪天候の中、大逆転を狙ってこの日、誰よりも速いタイムをマークしたのだ。自分は過去にブラッコムのスダンエクストリームという世界一過激な超急斜面レースでロスと戦ったこともあり、彼の勇猛な闘志は知ってういたから、長野でも「やりたがった!」と彼の健闘を讃えたものだった。
ちなみに、ロスはこのオリンピックの後、当然、有名になりテレビにも引っ張りだこだが、競技からは引退しプロ・スノーボーダーとしては大成しなかった。
あっ、そう言えば、ロスこそが私にクレイグ・ケリー(スノーボード界の神)を紹介してくれていた恩人でもあることを思い出した。
ある日、私が当時、働いていたジャパニーズレストランの寿司カウンターにクレイグを連れて来てくれたのだ。あまりにも嬉しさで、その日から大サービスしまくりで、親方に内緒で勝手に無料でいろいろな刺身をプレゼントしていた。そのお陰もあり、クレイグは毎日、通ってくれて、その夏のサマーキャンプのTシャツにサインを書いてくれて、別れ際にプレゼントしてくれたのだった。

話は少々ズレたが、そのスノーボード界のプロとして大成できなかったロスは、その後なんと自身でマリファナな吸引器のメーカーを始めたのだった。一発逆転を狙ったあのビジネスは成功したのだろうか。
気になったので、今、ウキペディアでチェックしたところ、ロスの最終経歴は以下のように紹介されている。彼をテレビ番組で見かけた時、ガラスでできた吸引器を販売しているようだったか、ちょっと勘違いしたが、どうやら彼ら医療用のマリファナ事業を立ち上げていたようだ。(以下、ウィキペディアRoss Rebagliatiから)

大麻産業
2013年1月、RebagliatiはビジネスパートナーのPatrick Smythとともに、医療用マリファナ事業「Ross’ Gold」を立ち上げました。Ross’ Goldは、カナダでブランドを確立し、連邦政府の新しい規制の下で業界への足がかりを得ることに主眼を置いています。新しい医療目的のためのマリファナ規制の下では、大麻は医療目的で使用される他の麻薬と同様に扱われ、患者は医療従事者の処方に基づいて必要に応じて製品を入手することができるようになっています。

ロスのゴールド医療用大麻の発売を発表して以来、レバリアティはUSAトゥデイ、ハフィントンポスト、ジアン・ゴメシとCBC、トロントサン、 そして2013年10月のハイタイムズの表紙など多数の出版物で取り上げられました。

2015年4月、ロスは自身のガラス製品のラインを立ち上げ、カナダ全土で100以上の店舗にブランドを拡大し、ヘンプCBDエディブルに手を伸ばしました。 2017年12月、R Gold Enterprises Inc.がロスのゴールド商標を買い取り、カナダの大麻法の新しい合法化の下でフランチャイズ店の構築に力を注いだのです。

2018年1月、ロスと彼のビジネスパートナーであるパトリック・スマイスは、家族向けの日常製品を通じて健康的な生活と私たち全員の中にいるアスリートを見つけることを推進するLegacy Brands by Ross Rebagliatiを設立しました。CBD製品に焦点を当て、ロスは次のように述べています。
「カナダ人は、大麻にますます開放されており、多くの高齢者は、てんかんなどの病状を治療するために使用されるCBDの利点として本当に理解しています。CBDは、てんかんなどの病気の治療薬として使われており、スポーツ選手や一般市民の間でも人気を集めています。他のエキスとは異なり、CBDは精神作用がなく、睡眠調節、炎症、不安などに使用されます。私たちは興奮しています。今後数年で他の国も大麻の健全な利用を取り入れると感じます」

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コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをしており、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は37年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/
ツイッター:https://twitter.com/dmksnowboard


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