先日、『買ったばかりのスノーボードをチューンナップショップに出す理由』という特集記事をアップしました。多くの方にご覧いただきました。
そこで、私は考えました。 あの記事では、新品のスノーボードをチューンナップに出すプレチューンの必要性について紹介しましたが、もしも私の友人が「自分でチューンナップを始めてみたい」と言ったら、私はどうアドバイスするでしょうか?
一緒に買い物に行き、どんな商品を購入するか。また、どのようにチューンナップ作業を説明するか。
スノーボードのホットワクシングやチューンナップに関する記事や動画は少なくありません。しかし、その多くは専門家によるもので、一般ユーザーが行うチューンナップとはかけ離れていることもあります。専門家だからこそ、確かな用具を使い、精密なチューンナップ方法を紹介しています。
ですが、これらのしっかりしたチューンナップコンテンツを見て、あまりの細かさに尻込みしてしまう方も少なくないのではないでしょうか。もっと多くの一般スノーボーダーは、よりカジュアルで、誰でも気軽にできるチューンナップ方法を求めているのではないか、と私は考えました。
例えば、夕食の献立を考えるとき、ネットでざっと調べることがあるでしょう。そこには、詳しい調理方法や必要な材料の量が書かれています。
しかし、慣れた主婦であれば、ざっと見ただけで調理の流れを把握し、これまでの経験や勘を頼りに、自分なりにアレンジして仕上げることができるでしょう。でも、まったく料理をしたことがない方は、その感覚を持たないため、マニュアル通りにしかできません。チューンナップの場合も、専門家の指南は高いレベルで、初心者にとってはハードルが高く感じられるのです。
だからこそ、私は普段行っている、ややというか、かなりざっくりしたチューンナップ方法と、必要な用具を紹介したいと思いました。
そう、これを読んでいるあなたがすぐに始められるように!
ピカソの言葉に「何を描きたいかは、描き始めないとわからない」というものがありますが、チューンナップで大切なのは、今想像することよりも、実際に用具を揃えて、週末にでも早速、自分でチューンナップしてみることだと思います。重要なのはスタートすること、そしてもっと大切なのは修正する力です。少し失敗しても大丈夫、なんとかなります。習うより慣れろ!早速始めてみましょう。
今回のテーマは、そう思ってくれたあなたをサポートするためのものです。
目次
ワックスチューンを始める人が最初に買うもの
まず、実際に買うものをざっと挙げてみましょう。
- アイロン
- スクレーパー
- ブラシ
- ワックス
以上のものだけで十分です。今後、必要になるかもしれないものとしては、
- エッジシャープナー
- ダイヤモンドストーン
- ワックスペーパー
- 紙やすり
が挙げられます。
1. アイロン
アイロンは、中古雑貨屋で購入した服用のアイロンでも構いません。実際、私の周りにいるインストラクター仲間やライダーたちの多くが、そのようなアイロンを使っています。ただ、せっかくチューンナップを始めるのであれば、専用のものを購入するのも良いでしょう。チューンナップに取り組む際のテンションも上がると思います。
安いものであれば、5000円台で購入できますし、1万円まで出せば選択肢も広がります。個人的には、服用の中古アイロンでも問題ないと思っていますので、特におすすめはありません。
2. スクレーパー
スクレーパーはプラスチック製のものを選びましょう。よくある長方形のものでも、力を入れやすい台形のものでも構いません。後で詳しく説明しますが、スクレーパーで重要なのは角がしっかりしていることです。新品のスクレーパーは当然、角が立っていますが、使用を重ねると角が丸まり、削りにくくなってしまいます。そのため、スクレーパーの角を立てるためのやすりが必要になることも覚えておいてください。
3. ブラシ
ブラシは必須ではありませんが、あるとチューンナップ作業がより楽しくなります。ナイロン製でも良いですが、個人的には馬毛のブラシが好きです。ワックスの仕上げ作業で、細かいワックスのカスを取り除くのがとても気持ち良く感じられると思います。
4. ワックス
「何でも良い!」と言ったら乱暴に聞こえるかもしれませんが、それくらい気軽に考えても大丈夫です。とはいえ、私が友人に勧めるとすれば、マツモトワックスのベースワックス兼滑走ワックスのANT BBです。理由は、ベース作りに最適で、滑走性も兼ね備えているからです。これ1本あれば十分だと思います。
将来的には、さらにさまざまな温度に対応するマニアックなワックスも試してみてください。『買ったばかりのスノーボードをチューンナップショップに出す理由』の記事でも伝えましたが、とりあえず低温系のワックスを塗っておけば問題ないだろう、とも思います。低温系のワックスは、硬めでやや塗り難いという特徴がありますが、ワックスの持ちがよく、意外に様々な温度帯で滑走性能を高める傾向があります。春のシャバ雪では、硬め(低温系)のワックスが良いとも言われています。
※私は、ずっと昔からマツモトワックス愛好者ですが、他のワックスメーカーでももちろんOKです!大切なことは、そのメーカーの特徴をよく知り、うまく利用する術を知っていることだと思います。
5. エッジシャープナー
エッジシャープナーは、エッジが丸まってきた時などに使用します。
一方向に引くようにしてシャープ作業を行い、引く時だけ力を入れます。以下の写真にあるような簡易的なシャープナーを引く方向を矢印で表現していたりします。
使っていると、シャープナーの目がすぐに詰まってくるため、ブラシなどで清掃します。不要になった歯ブラシを使うのも良いでしょう。
また、シャープナーが同じ位置にあると目が詰まりやすいので、少し角度を変えて作業し直すと良いでしょう。
6. ダイヤモンドストーン
ダイヤモンドストーンは、先ほど紹介したシャープナーでエッジを削った後に使用する最終作業用のツールであり、バリを取るのにも便利です。
今、これを読んでいる方は、「なくてもいいかな?」と思ったのですが、価格を調べたところ、非常に手頃なので、ぜひ一つ持っておくと良いでしょう。
先ほど紹介したシャープナーはエッジのサイドを削るものですが、最終作業では、このダイヤモンドストーンを使ってベース側をなでるように仕上げます。シャープナーの作業後には、目に見えないバリがエッジに出ている可能性があるので、それをベース面側から取り除くことを目的としています。
また、スキー場では石を踏んでエッジにバリが出てしまうことがよくあります。その際も、いきなりエッジシャープナーを使うのではなく、まずはこのダイヤモンドストーンでバリを取ると良いでしょう。
このダイヤモンドストーン(またはダイヤモンドファイル)は、スキー専門店で購入すると6,000円以上する高価なものもあります。しかし、私は2,000円以内で購入できる安価なものをおすすめします。なぜなら、皆さんに気軽に使っていただきたいからです。
先ほど紹介したシャープナーは、エッジのサイドを削るのですが、最終作業でこのダイヤモンドストーンをベース側をなでるように仕上げます。おそらく、シャープナーの作業でエッジは、見えないようなバリが出ているはずなので、それをベース面側から取り除くような感じです。
またスキー場では、よく石を踏んでしまってエッジにバリが出てしまうことがありますよね。そんな時もいきなりエッジシャープナーを使わずに、このダイヤモンドストーンでまずはバリを取るといいでしょう。
このダイヤモンドストーン、あるいはダイヤモンドファイルと呼ばれるものは、スキー専門的で購入すると6,000円以上する高いものもあります。しかし、私は2000円以内で買える安価なものをおすすめします。というのも、みなさんにぜひ気軽に使っていただきたいので。
7. ワックスペーパー
ワックスペーパーは非常に人気のある商品です。
使用する理由は、ワックスの節約です。ペーパーを使うことで、ワックスの厚塗りを防ぐ効果があります。また、直接アイロンを滑走面に当てないため、滑走面の保護にもなります。さらに、汚れを取る役割も果たしています。
私もかつては常に使用していましたが、現在ではほとんど使用していません。春に滑走面が汚れたときにだけ使用しています。
使わなくなった理由は、ワックスを無駄なく上手に塗れるようになったからです。また、アイロンも常にゆっくりと動かしているので、滑走面を傷めずに作業できるためです。
とはいえ、ホットワックス作業にあまり慣れていない方は、一応持っておくと便利だと思います。
ちなみに、海外ではワックスペーパーを使っている方を見たことがないので、この商品は日本特有のものかもしれません。
8. 紙やすり
私にとって必需品の紙やすり。
100円ショップのものでも何でも構いません。用途は、角が丸くなったスクレーパーの角をシャープにすることです。
スクレーパーを使い続けると、「ワックスが剥がれにくいな」と感じることがあります。それは、何度も使用することで角が丸まってしまうためです。また、スクレーパーに古いワックスがこびりついていることも原因かもしれません。
そんな時は、紙やすりを平らなところに置き、その上にスクレーパーを押し当てるようにして角を立てます。この作業により、スクレーパー作業が非常にしやすくなります。
スクレーパーを何度か使用して、ワックスが剥がれにくく感じた方は、ぜひ試してみてください。
私は基本的に、毎回の作業でスクレーパーの角を立てるために、この紙やすりを使っています。これは、料理人が毎日包丁を研ぐ作業に似ています。毎日行うことで、研ぎの作業は短時間で済み、道具を常に最良の状態で使用できるようになります。
スノーボードチューンで買うべきものまとめ
以上が、私が考えるスノーボードチューンで必要なものです。
ホットワックス作業などまったく経験のない方は、「えー、こんなに揃えるの!」と思われたかもしれません。また、費用もかなり掛かるのではないかというイメージを持たれたかもしれません。しかし、実際にはそれほど高額ではありません。
アイロンは5,000円以上することもありますが、もしかしたら近所の中古屋さんで古い洋服用アイロンが手に入るかもしれません。スクレーパーやブラシ、ワックスも高価なものもありますが、2,000円以内で購入できるものがほとんどです。ワックスもまずは1種類だけ購入し、シーズン中に雪の温度に合わせて徐々に買い揃えていくことで、チューンナップ用品を選ぶ楽しさも味わえるでしょう。これは、ちょうどお父さんがホームセンターでDIY用品を買う時の楽しさに似ています。
また、様々な温度帯に対応するワックス、エッジシャープナー、ダイヤモンドストーンなどは徐々に揃えていくと良いでしょう。
チューンナップを自分で行うようになることで、スノーボードへの愛着が一層深まり、スノーボードの楽しさもさらに広がっていくことでしょう。
ちなみに作業台があったら楽だと思うけど、私は家で行う時には、いつもイスを並べたりして作業台を工夫して作っています。シーズン中は、ウィスラーブラッコムのスノースクールの専用のチューンナップルームで作業を行っています。
気になる方は、ぜひ作業台もチェックしてみてください。専用のものがあったら安心かもしれませんが、それこそホームセンターなどでちょうど良いものがあったりするかもしれませんね。
ホットワックスは超カンタン!私のやり方
ホットワックスの作業を「面倒くさそう」とか「難しそう」と考える人は多いですが、実際にはそれほど難しくありません。私のやり方では、とても簡単で短時間で行えます。
以下に紹介するのは、あくまで私のやり方です。ワックス作業が億劫とか面倒だと思わないように、非常に大雑把ですが効果的な方法をお教えします。専門家から見ればかなり邪道かもしれませんが、実際に板の滑走効果が出ていて、かつ面倒に感じない方法です。
まずは、ポイントを押さえていきましょう!
ワクシング作業は100パーセントを目指さず、80パーセントの感覚で!
ワクシング作業を完璧に100パーセントうまくやろうとすると、どうしても時間がかかります。完璧でなくてもいいんです!と考えてください。
特に最後に余計なワックスを剥がすスクレーパーの作業は、80パーセントくらいの感覚でOKです。これを100パーセント真面目にやろうとすると、すごく大変に感じてしまうと思います。
ワクシング作業はこまめに
私はシーズン中、ほぼ毎日山に行きます。結果、年間の滑走日数は130日を超えます。また、ワクシングもこまめに行うようにしていて、毎週1回は必ず行っています。その結果、滑走面にはさまざまな温度帯のワックスが入り込み、滑走効果も高くなります。
実際に何日滑ったらワクシングをするべきかは一概に言えませんが、頻繁に行うことで、1回の作業をそれほど気合を入れずに80パーセントの感覚でできるようになると思います。
毎週末に行く方であれば、2週間に1度でも十分かもしれません。よく滑る滑走面は、スノーボードの楽しさをさらに広げてくれるので、滑るたびにワクシングしても良いかもしれません。私自身はそこまでこまめにはできませんが(笑)。
ワックスの垂らし方はエッジに近いところにたっぷりと
ホットワックス作業を行う際は、アイロンにワックスを当てて、滑走面にワックスを垂らします。そのとき、まずエッジに近い部分にたっぷりと垂らします。トゥサイド側、ヒールサイド側の両サイドです。このエッジに近い部分が、最も使用する滑走面になります。滑り方にもよりますが、特にヒールサイドでスピードコントロールする方は、ヒールサイドに多めにワックスを塗ると良いでしょう。
エッジの近くにワックスを一直線に垂らしたら、今度はS字を描くように滑走面全体にワックスを垂らします。
アイロンのスピードは低速で、止めないことが大事
次はいよいよアイロンを滑走面にかけていく作業です。このとき、アイロンの動かすスピードは低速です。ただし、決して止めないように注意しましょう。滑走面を熱で傷めないようにするためです。
アイロンをシャカシャカと素早く動かすのではなく、じわーっとゆっくり動かす感覚で進めます。
先にアドバイスした通り、完璧に塗る必要はありません。しかし、特にエッジ近辺はよく使う箇所なので、そこだけはしっかりとワックスを塗るようにしましょう。
邪道スタイル!?スクレーパー作業
スクレーパーの作業については、「一晩待ってから」という専門家もいるかもしれません。しかし、私は塗ったほぼ直後に不必要なワックスを剥がすスクレーパー作業を行います。だって、待つのが面倒だから!(笑)
どうせ来週もまたやるんだから、超完璧にこなさなくてもいいじゃん!と思うわけです。大切なのは、こまめにワクシング作業をすることです。完璧にやろうと思うあまり、ワクシング作業がおろそかになるよりも、頻繁に行った方が、よく走る板になります。
また、スクレーパーでワックスを剥がす作業も、できるだけ完璧にしようとは考えていません。作業時間を短くすることが大切です。だって、ここで力を使い果たしてしまって睡眠不足になりたくないし、さっさとお風呂に入ってビールを飲みたいから。これは私なりの邪道スタイルですが、おすすめです。
特にスクレーパー作業は、完璧にやろうとすると非常に時間がかかり、疲れてしまいます。
かなり大雑把な感じでも、この後に行うブラッシング作業で不必要なワックスを落とすことができます。ブラッシングを終えた後の滑走面の仕上がり具合が大好きです。
「フゥー、やったな!さあ、明日は楽しいスノーボードをしよう!」という気持ちにさせてくれます。
チューンナップ作業の全体的な流れと「楽しさ」を思える重要性
全体的には、アイロンからワックスを垂らす作業が数十秒。アイロンでワックスを伸ばす作業が2〜3分。そして、このスクレーパー作業とブラシ作業が5分程度で、合計10分以内という感じです。あくまで私の感覚なので、実際にはもっと長い時間をかけているかもしれません。
大切なのは、このワクシングというチューンナップ作業を、あなた自身が楽しむことだと思います。おそらく初めて行う方は、私よりもずっと時間を掛けることになるでしょう。ともかく、それぞれに合った作業時間が行うこと「楽しい!」と思えることが大切です。楽しいから続けられるのですから。
また、チューンナップ用具のショッピングを楽しむことも大事だと思います。ショップに行き、店員さんに相談しながら、新しいチューンナップグッズを1つずつ買い揃えてみてはいかがでしょうか。
このようなチューンナップ作業をしたことがない方は、ぜひ明日からでも始めてみてください。きっと楽しいと思うし、何よりあなたの板がより一層滑るようになり、あなたの板も幸せになるでしょう!こうしてチューンナップした板には、より愛着が湧き、きっとスノーボードに関する新たな楽しさの扉を開くことになるでしょう。
以下の動画は、以前、私の生徒さん用に見せるために作った『HOW TO WAX A SNOWBOARD – SUPER EASY!!!』です。
今回の企画のように、ホットワクシング作業ってそんなに難しいものでないよ!ということを伝えたくて作りました。私の英語は上手ではないですが(笑)、だいたいの作業工程がわかっていただけると思います。
飯田房貴(いいだ・ふさき) プロフィール
@fusakidmk
東京都出身、現在カナダ・ウィスラー在住。
スノーボード歴39シーズン。そのほとんどの期間、雑誌、ビデオ、ウェブ等スノーボード・メディアでのハウツーのリリースに捧げている。
90年代を代表するスノーボード専門誌SNOWingでは、「ハウツー天使」というハウツー・コラム執筆。季刊誌という状況で100回以上連載という金字塔を立てる。またSnowBoarder誌初期の頃から様々なハウツー・コーナーを担当し、その中でも一般読者にアドバイスを贈る「ドクタービーバー」は大人気に!その他、自身でディレクションし出演もしたハウツービデオ&ハウツー本は大ヒット。90年代のスノーボード・ブームを支えた。
現在も日本最大規模のスノーボード・クラブ、DMK Snowboard Clubの責任者として活動し、レッスンも行っている。
普段は、カナダのウィスラーのインストラクターとして、世界中の多くの人にスノーボードの楽しさを伝え続けている。2016-17シーズン、ウィスラーのインストラクターMVPを獲得!!
著書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書』、『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。