【コラム】世界のスキー場を牛耳るEPICやIKONパスの狙いとは?

文:飯田房貴 fusaki@dmksnowboard.com

今、世界のスキー場はいくつかのグループに仕切りられて来ている。
そのスキー場を牛耳るグループとは、EPICIKONMOUNTAIN COLLECTIVEINDYだ。

これらは、スキー場を経営する会社のパス名でもある。
最大手EPICパスの場合、コロラドのベイル、ブリッケンリッジ、カナダのウィスラー、日本の白馬、オーストラリアのペリッシャーを滑ることができる。
他の3つのパスも多くのスキー場を運営、あるいは提携しており、そのパスを持つことで、何か所ものスキー場を滑ることが可能だ。

スキー場というビジネスにどんな魅力があるのか?
まずは、高騰するリフト券の背景にある人々のニーズから考えてみよう。

高騰リフト券は世界のトレンド

現在、北米の主要な人気スキー場の一日リフト券は、ピーク時で200ドルもする。
スノーボードをするのにリフト券が2万円もするなんて、日本人では考えられないが、今や高騰リフト券は世界のトレンドだ。

お金にある程度余裕がある層が、スキーを楽しむ傾向になっている。

自分の推測だが、おそらくかつてゴルフをやっていたオジサン層が、スキー場に足を運んでいる。
なぜ、そう考えるか?というと、
今の40代~60代で比較的に裕福な方は、かつてのオジサンに比べて元気な傾向が強いと思うのだ。つまりかつてのゴルフ世代が、スキー&スノボをしているということ。
人生100年時代なんて言われているが、50代なんてまた人生の半ば。
そんな元気なオッサンでちょいお金持ちが、スキー場に行っているのだ。

実際、自分は冬場カナダのウィスラーでスノーボードのインストラクターをしているので、そんな層の人たちをたくさん見て来ている。

以前、コラム『なぜ一日券が2万円以上もするスキー場にこんなに人が集まるのだろうか?』でも書いたが、ある生徒さんは、「スノーボードほど長い時間楽しめるアクティビティはない」と言う。

確かに、どんな遊びやアクションスポーツ、あるいは観戦を楽しむプロ・スポーツでも、大抵は2時間ほどで終わってしまうものだ。
ところが、スノーボードなら朝早くから夕方3時ぐらいまで楽しめる。
しかも、身体を動かすので、健康にも良い。

スノボと同時にゴルフを楽しんでいる方もいるが、どちらかと言うと、「自分はまだまだアクションスポーツを楽しみたい!」そんなオジサンたちに、スキー、スノーボードが支持されているようだ。

しかも、スキー、スノーボードの良いところは、自分や会社の同僚だけでなく、家族全員で楽しめることだ。
小さなお子さんから、おじいさん、おばあさんまで同じ空間、しかも素晴らしい自然の中で楽しめるスポーツ。
そんなものは、なかなかないだろう。

フェイスブックの中で家族写真をアップすれば、多くの人が「いいね!」を付けてくれる。
あの雪山で、ウィスラーという特別な空間で、楽しい時間を過ごしたい、「来年も行こう!」という強い思いと共に、またお父さんたちは、サラリーマン戦場に戻っていくのだ。

150ドルの一日券か?1000ドルのシーズンパスか?

次に、彼らの狙いを考えるために、これらのパスが具体的にどんな役割があるのか、紹介しよう。

先に、一日券が200ドルもする時代がやって来ていると紹介したが、実際に北米での人気スキー場のリフト券、平均値は150ドルと言われている。
また、いつでもどこでも滑れるシーズンパスは、買う時期にもよるが1000ドル程度。

具体的には、早い時期の方が安くシーズン直前になると高騰していく。
例えば、EPICパスの場合には、以下のようになっている。

4月中購入 $949
6月中購入 $979
9月中購入 $1,010
11月中購入 $1,045

時期が遅くなれば高くなっていく傾向は、どこのパスも同じ。
ようは、彼らは早い時期の囲い込みを狙っているのだ。ライバルにスキー客を奪われないためにあの手この手を考え、実行している。

シーズンパスは、何日滑れば元が取れるのか?
単純に一日券150ドルで計算すれば、7日間滑れば、1,050ドルとなるので元を取れる。
ただ、実際には高い一日券も、早い時期に予約すれば、安く買えたりするので、実際のリフト券は120ドル程度で考えるべきだろう。となると、元を取れるのは9日間の滑走となる。

シーズン中に、2度ほどトータルで4日間程度しか滑れない人なら、一日券という選択になるが、10日以上滑るなら、シーズンパスという選択になる。

EPIC、IKONパスでどこを滑れる?

自分が滑っていたスキー場が、いつの間にか4つのどこかの会社に所属していた。
そんなことは、今から10年以上も前から始まっている。
彼らは、スキー場を買い、あるはグループに招き、どんどんと世界のスキー場を傘下に収めている。

そんな知らずの内に彼らのグループ系列スキー場になっていた例を示すために、EPIC、IKON、MOUNTAIN COLLECTIVE、INDYパスを持つことで、どこを滑れるのか、紹介していこう。

EPICパス
滑れるスキー場の数:80箇所
主なスキー場:ベイル、ブリッケンリッジ、ウィスラー、白馬、ルスツ、ペリッシャー(オーストラリア)、欧州は4つのスキー場
※白馬など、グループ系列のスキー場は7日間までしか滑れない。

IKONパス
滑れるスキー場の数:43箇所
主なスキー場:アスペン、ジャクソンホール、ニセコ、コロネットピーク、リマーカブルス、マウントハット、その他チリやスイスにあるスキー場

以上が、アメリカ発の2大パス・ブランドだが、他にも注目したいパスがある。
それは、MOUNTAIN COLLECTIVEとINDYパスだ。

この2つのパスは、EPIC、IKONよりもずっと安く、価格も500ドル以下。
MOUNTAIN COLLECTIVEは、アメリカを中心に人気の23のスキー場をチョイス。主なスキー場は、アスペン、マンモスマウンテン、ジャクソンホール、コロネットピーク、リマーカブルス。日本ではニセコが入っていて、20-21シーズンからフランスのシャモニーも滑れる。

INDYは、アメリカのローカルスキー場が中心で、50ものスキー場で滑走が可能だ。
こうしたローカルのスキー場を結集させて、スキー客を誘致する作戦は、日本でも学びたいところだ。
大手スキー場以外滑れるローカルの共通シーズンパスは、新たなスノーカルチャーを生みそう。

巨大スキー場経営会社の陣取り合戦

EPICパスが始まったのは、2008年だ。IKONは、元々MAXパスという名だったのだが、2015年に新たに名称を変更してIKONにしている。
どちらにしても、これら巨大スキー場経営会社の狙いは、いかに多くのスキー客を囲い込むか
そして、傘下のスキー場を増やしていくか、だ。

このパスを持つことで、いつでも滑ることはもちろん、さらにホテル、レストラン、レンタル、レッスンまでも20パーセント割引というサービスも付けている。(※EPICは、20%OFFだが、IKONは15%OFF)
こうした付随したサービスが、さらに多くの客を取り込むことに成功している。

まだ日本では、ニセコや白馬など国際的に有名なスキー場だけが傘下となっているが、すでにインバウンドが見込めるスキー場は、アプローチを受けているのかもしれない。
気づけば、あなたのお気に入りのスキー場も入っていたりして?!

スノーボードが好きな人なら、いつかEPICやIKONパスを購入して、世界のスキー場に行きたい、と思うのではないか?
カナダのウィスラー、ニュージーランドのマウントハットなど、ある一定の料金を払えば、滑り放題となる。世界中の憧れのスキー場が滑り放題になるなんて、夢のような話だ。

しかし、こうした僕たちの思いは、実を言うと彼らの戦略にハマっている。

僕は、以前、信長の野望というロールプレイングゲームにハマったことがあるが、彼らの動きを見ていると、どうも同じような陣取り合戦に見えるのだ。
思わず、世界のスキー場の地図上に、どこのグループなのかカラーリングして示したくなる。
実際、この会社の上層部たちのミーティングルームには、そんな地図があるのかもしれない。

彼らは、今度は世界のどこのスキー場を狙っているのだろうか?

やっていることはGAFAと変わりはない!?

陣取り合戦ゲーム、このようビジネスは、近年僕たちの回りで広がりを見せている。
自分が言うまでもないが、スマートフォン、SNSなどを経営している会社、GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)は、今や世界で最も資本力がある会社に成長している。

彼らは僕たちに優れた安価なサービスを提供し、僕たちはいつの間にか、彼らの手のひらで踊らされている。

高いとは言わないが、毎月の支払いで彼らの会社を潤し、さらに僕たちは個人情報も提供している。
きっと、彼らに控える巨大コンピューターが、僕たちの特徴をつかみ、何が好みでどんなアクションをすれば、お金を落としてくれるのか、計算しているのだろう。

「一日券は高いなあ。
あっ、シーズンパスは安い!じゃあ、買おうかな。
スノーボードはメチャクチャに楽しい!
フェイスブックにアップしよう。
やったー、たくさんいいね!もらっちゃった。
今度は、友人や家族を呼びたいな。
あっ、このパスは、友人を無料で呼べるクーポンもあるんだった。
ラッキー!」

僕たちは、いつの間にか巨大スキー場グループの餌食になっていく!?

コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作してきた。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボーダー歴は35年。