【コラム】日本のスノーボード・デモンストレーターが尊敬される一方でイントラ資格が世界に通用しない理由

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文:飯田房貴 @fusakidmk

雪上をカッコよくカービングする姿!日本のデモンストレーターによるライディング・パフォーマンスは国内を超え、世界中に配信されています。特にアジア圏での人気が高く、韓国や中国でも国内デモのフォローワーがいるほど人気の高さ!
僕はウィスラーでインストラクターを行っていますが、その仲間たちの間でもしばしば話題になることがあります。「日本人のデモはカービングがうまい!カッコいい!」というような内容です。
だけど、その一方で日本のインストラクターの資格というのは、世界で通用しません。これはひじょうにショッキングなことです。その理由を紹介していきましょう。

目次

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ウィスラーの報酬ポイントに日本のイントラ資格がゼロ

シーズン中のウィスラーのスキースクール(※正式にはスノースクールという名称)には、およそ1500人もの人が働きます。その内、おそらくスノーボードだけのイントラを行っているのは、300人から400人ぐらいかと思います。

給料の方は、主に
①資格
②キャリア
で、決まってきます。

大雑把に言うと、だいたい働き始めた新人イントラは時給20ドル程度。ベテランで高い資格を持っている人となると、40ドルをもらっている人もいます。実際にリクルート内容を拝見すると、レベル3という資格を持ったイントラで、時給$22.85~$45.85。レベル4という最高峰の資格で$29.65~$45.85となっています。
僕の周りは、だいたい10年以上働いているベテランが多く、比較的に高いイントラ資格を持っている人が多いです。周りの仲間たちは、およそ30ドル前後もらっているのではないでしょうか?

一般的なウィスラーの仕事の中でも、ひじょうに高く優遇されています。
実際、ウィスラーという会社の部門の中でも、スキースクールはお金を生むドル箱事業で、その結果、給料がイントラに反映されているわけです。

給料体系を決める資格の中にも、もの凄い細かい設定があります。
カナダのスノーボードのイントラ資格は、大きく分けてレベル1からレベル4までに分けられます。レベル4が最高位です。
また、スノーボードのイントラでありながら、スキーのイントラ資格を持っている人もいて、そういう人はさらに資格のポイントが加算され、時給が高くなる傾向になります。
ウィスラーのスクールは、スノーボードよりもスキーの方が圧倒的に忙しいので、クリスマスの時期になると普段、スノーボードを教えている人が、スキーを教えることもあります。
僕は、スキーのイントラ資格がないので、スキーを教えることがありません。スキーというスポーツに対してリスペクトはしていますが、実際に自分がやるとなると超面倒な感じがするのです。あんなガンダムみたいなブーツを履いて、重いスキーを持って、さらにはポールを持って雪上なんか行くことは、「よっこいしょ」という大仕事に感じてしますのです。スノーボードのブーツなら、車を運転することもできるし、ロッカーからボードを取り出せばすぐに現場に駆け付けられます。そんなスノーボードのカジュアルなスタイルが好きなのです。

ウィスラーのスキースクールが求める資格は、スキー、スノーボードだけでなく、雪崩講習の資格や、他のスポーツで子供を教えた実績、あるいはカナダが認めるスポーツ資格なども含まれます。
ガイド資格は、山を案内する技術につながるし、他のスポーツでも教えていた経験は、スキースクール現場でも活かされてると考えるわけです。

また、実際に雪上で教えて来た年数、日数もカウントされ、そういうところでもポイントアップにつながります。
雪上で教えた実績は、カナダだけでなく、国外で行ったこともカウントされます。
例えば、僕の場合、これまで日本国内におけるDMKスノーボード・クラブで行って来たコーチングの日数も提出しました。その結果、イントラを始めた当初から、なかなか良い待遇で始めることができました。

ヨーロッパで活躍されて来たイントラが、ウィスラーに来て優遇されるケースもよくあります。

さらにウィスラーのスクールでは、国外でのイントラ資格が給料も影響されます。
しかし、ひじょうに残念なことに、日本での資格は一切関係なしなのです…。

(左、同じ職場で働くこともあるけど、普段はCASIのエグザミナーで活躍するレベル4保持者のユキコさん。右、同僚のタカチャンマンはレベル3という高い資格を持っていて、なかなかの時給だと思います)


日本のイントラ資格が認められない理由

ウィスラーブラッコムの会社の給料査定のことなので、あまりくわしくは説明できませんが、ある程度のところまでご説明しましょう。

ウィスラースキースクールが認める他の国の資格は、多岐に渡ります。
アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパの各スキー、スノーボードのイントラ資格を持っていると優遇されます。
ひじょうに細かいランキング形式のようなものがあり、各国の何々というイントラ資格のレベルいくつは、何ポイントを加算するというふうになっています。
その資格の中には、お隣の韓国のイントラ資格も入っています。
しかしながら、日本のJSBA、SAJのイントラ資格は、まったくなし!ゼロなんです。
日本のイントラの最高峰のライダーとも言える、デモンストレーターのライディング・パフォーマンスは認められているのに…。

その決定的な理由は、インストラクター資格にティーチングが入っていないからです。
以下、JSBA日本スノーボード協会、資格マニュアルというページを見てください。
https://www.jsba.or.jp/education/lisence_manual/

そこには、A・B・C級公認インストラクターと、A・B・C・D級公認検定員になるために必要な「学科試験の内容」「実技試験の内容」というのがありますが、そこにティーチングの内容の記載が一切ありません。
つまり、日本でイントラになりたければ、ティーチングはさておいといて、「ベーシックカーブ ロング」「フォールスライド ミドル」「ベーシックカーブ ショート」「フリーライディング」「ダイナミックカーブ ショート」「エア」が、優秀であればなれるわけです。

一方、カナダではそのような捉え方をしていません。いや、カナダだけでなく世界でもです。
大きく分けると2つのカテゴリーのテストがあります。
1つは、日本のJSBAのように滑る技量をチェックするテスト。僕たちは「ライディング・テスト」と呼びます。
もう1つは、教える技術をジャッジングする「ティーチング・テスト」です。

だから、カナダでイントラ資格に挑戦した人たちは、こんな会話をします。

「私、ライディングは受かったのに、ティーチングが落ちちゃった」
「じゃあ、今度の試験では、ティーチングだけを受ければいいね」
「うん、でも英語が苦手で、どうもうまく話せないんだよね」
「大丈夫だよ。そんな流暢な英語でなくても、しっかりと教えるためのキーワードをうまく伝えればきっと受かるよ。試験官だって、そのへん大目に見てくれるから」
「うん、今度こそティーチング受かるように、頑張る!」

みたいな感じです。

●関連記事
【特集】カナダ・イントラ資格CASIとは?
https://dmksnowboard.com/whatis-casi/

ライディングよりティーチングが大事!?

あくまでも自分の想像も入りますが、これまでカナダのインストラクター資格を取った来た人たちは、テストの時、ライディングよりもティーチングの方がナーバスに感じているように思います。
もちろん、それぞれの立場や狙う資格にもよるので、一概には言えませんが…。
だけど、これまで僕が話した多くのイントラ資格に挑戦した人は、「ティーチングの方が厄介だ」と伝える人が多かったです。

それほど、カナダではティーチングが重要視され、その部分での教育が弱い日本のイントラ資格は世界からおいてけぼりになる傾向です。

こちらでは、日々ティーチングの勉強会のような行われ、トレーニング機会が設けられています。
低いイントラ資格の人はもちろん、マネージャークラスのような人まで受けれる様々なトレーニングがあります。
だから、ずっと前に資格を取った人でも、日々、勉強しないと古いメソッドの中で停滞してしまうことになります。

僕自身は、こうしたトレーニングにはあまり参加して来なかったけど、自分なりに情報収集は行っています。
尊敬するイントラの人に、「コブの教え方。どんなプログレッション(上達レッスン内容)でやっていますか?」と質問したり、あとはシャドーリングと言って、ターゲットとなるイントラのレッスンを影のように覗きながら、レッスン技術を習得したりしています。

シャドーリングは、大っぴらに行う時もあれば、静かにコソコソやる時もあります。

大っぴらとは、こんな感じです。
「ポール、今日、オレ、レッスンに入れなかったから、2、3本だけキミのレッスンに付いて行っていいかな?」
と、聞いて「いいよ」と承諾されて、そのままポールくんのレッスンに入っていきます。いきなり知らないイントラがいると、お客さん(=生徒さん)に不審に思われるので、最初に自己紹介してもらってレッスンに付いていきます。

コソコソというのは、例えば初心者エリアでレッスンしている場合に、自分の同僚で尊敬しているイントラがいたら、「どんな教え方をしているんだろう?」と、盗み聞きしているような状況です。
特にボードを外した状態で行っているレッスンは、各イントラさんたち、工夫されている内容の時が多いので参考にしたりします。

こうして、常に自分をアップデートしているわけです。

あと最近では、ユーチューブの方にも様々な良いハウツー動画があるので、そういったところから参考にしたりします。
僕自身は、英語が苦手なので、会話の言い回し方なども含めて勉強しています。
朝、ウ〇コしながら、ユーチューブ動画をチェックして、「おっ、これグッドアイデア!早速、使っちゃおう」という感じです。

そもそもあなたが生徒さんとして、スクールに入ったところを想像してみてください。
そのインストラクターが、ダブルコークするのがうまくても、自分が上達しない滑り方のコツを教えてくれなかったら、嫌ですよね?
逆に、カッコいいバックフリップができなくても、肝心の急斜面の滑り方とか、苦手だったパウダーでのトゥサイドターンの滑り方を教えてもらって上達したら、嬉しくないですか?

だから、世界のイントラ資格が、ティーチングに重きを置くのは当然のことです。
世界のインストラクター・メソッドは、毎年ティーチング内容がアップデートされます。さらには世界のトップのエグザミナーたちがが集うミーティング・イベントで、最新の教え方やライディング技術を交換し合っています。
以前、僕はカナダでレベル4の資格を持っている人に聞いたことがあるのですが、「世界でもカナダ、ニュージーランド、スイスのメソッドは尊敬されている」ということでした。
残念ながら、日本はその仲間に入ったいないようです。

(ちなみに、僕はレベル2しか持っていません。だけど、これまでのレッスンでの実績が認められて!?アルパインで上級者を教えることもあります。ラッキー!!)

スノボ・インストラクターに求められるものとは?

誤解を恐れずに言えば、日本でもカナダでもスノーボードのインストラクターに言える共通点は、それほどうまいスノーボーダーではないということです。「えっ、イントラなのにうまくない!?」と思うかもしれませんが、その説明をしていきます。

どんな人が、優秀なインストラクターとして活躍しているか、というと、

1)生徒さんに対して明るく辛抱強く楽しくレッスンできる人
2)中上級のレベルの生徒さんだけでなく初心者にも積極的にイントラができる人
3)XLサイズの巨大キッカーを飛ばない人

というタイプの人です。

そもそもスノーボードが大好きで、パークでも凄いパフォーマンスをしちゃうほどうまい人というのは、インストラクターではなくライダーという方向に行きやすいと思います。もしくは競技の選手とか。
あるいはライダーになれないとしても、雪山でバイトしながら好きなスノーボードを一生懸命にするか、と思います。
例えば、自分の友人の中には、ペンキ屋でお金をしっかりと稼いで、好きなスノーボードをやっているという人もいます。

ですが、イントラというのは、僕のようにビビリ屋でなかなかフリースタイルが上達しないタイプが多かったりします。もちろん全員ではないですよ。そういう傾向があるという話です。
一方で、生徒さんの気持ちをしっかりと受け止めて、辛抱強くレッスンすることに喜びを感じるタイプの人に向いています。

僕自身がまさにそうで、自分がジャンプを決めたり、パウダー滑って「イエーイ!」よりも、生徒さんの知らない世界を案内し、感激してもらった時に喜びを感じます。
超感激した生徒さんは、レッスンの後に「ぜひ、ビールを一杯おごらして!」なんて言ってくる人もいるし、スーパーラッキーな日には100ドルものチップをくれる日もあります。そんな時には受け取るこっちもビックリしてしまうけど、「本当にこの生徒さん感激したんだなあ」と、嬉しい気持ちになりますね。

イントラをする人に最も求められることは、相手に対する思いやりです。
「この人、今、どんな気持ちだろう?ナーバスになっていないかな?疲れていないかな?」と常に相手の気持ちを想像できる能力だと思います。
特に朝イチで初心者のレッスンに来た人は、ナーバスになっている傾向があるので、温かく迎え入れるようにします。まるで友人か家族かというくらいフレンドリーに対応するようにしています。

英語で言うと、sympathy(シンパシー)という言葉があるのですが、それが必要だと感じます。
意味は、同情、思いやり、あわれみ、同情心、弔慰(ちようい)、弔問、悔やみ、悔やみ状、同感、共鳴。
つまり、相手の気持ちを察し、思いやる。今、どんな気持ちなのか、想像してあげるということ。
僕自身は、常に相手の脳みそに入りたい!って、考えています(笑)。

「自分がここに立って説明を始めたら、生徒さんは太陽が入って眩しく感じるな。じゃあ、僕がこっちに立とう」とか。
「みんなの前では、少し大きめの声でわかりやすく話そう。だけど一対一の時にはもっとソフトに話そう」とか。
「このタイプはフレンドリーに接して、この人はシャイだから距離感を大切しないと」などなど。
そうした細かい気配りができる人がイントラに向いています。

だから変な話、チームワークをして来た飲食業とか、他の仕事でもチームワークが上手な人なら、イントラする潜在能力がある人だと思います。
もう相手が、何も言わないのに何を求めているか察してサポートしてあげる能力ですね。

一方、選手とかライダーさんは、あまりそんなこと考えずに、どんどん自分勝手に突っ走ってもいいと思います。
で、どんどん自分だけがうまくなって、ヒーローになりましょう!という感じです。

僕が「イントラはそれほどうまくない」というのは、そういうことです。
つまりイントラは、スノーボードが大好きだけど、ちょっとビビリ屋さんのところもあり、生徒さんの気持ちを受け止めるようなタイプ。
一方で、向いていないという人は、ともかくスノーボードが大好きで、自分のスノーボードを突き詰めていくタイプ。

もちろんイントラの人だって、日々ターン技術を磨き、ジャンプ技術も磨きます。
だけど、選手レベルまではいかない。せいぜいミドルキッカーあたりを飛んでいる。そんなタイプなのかなあ、と思うのです。

イントラをしていればパウダーの日に初心者を教えることだってあるのだから、そういう日でも喜んでレッスンに入るようなタイプでないと務まる仕事ではありません。

話は、やや脱線しましたが、僕が伝えたことは日本のインストラクターもただ自分が上達したりパフォーマンスする方向だけでなく、それと同じくらい、いやそれ以上にティーチングを重きを置き、切磋琢磨する必要があるのではないか、ということです。
あとは世界のイントラ団体とも積極的にアプローチし、情報を共有し合うことが大切です。
そのためには英語がある程度、話せてコミュニケーションができないといけません。

2年ほど前に日本のテクニカルシーンで大活躍して来たラマくん(平間和徳)とも、そんな会話とちょこっとしたのですが、かつてラマくんもそうした世界のイントラの集まりにも行ったことがあるということでした。しかし、残念ながら近年はあまりそういうことがないようです。
そのへんの理由は、よくわからないのですが、日本のスキー、スノーボード団体の複雑さも背景にはあるのかもしれません。

ともかく、まずはどの団体でもティーチング・メソッドをしっかりと確立させることが大切でしょう。

コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。最新執筆書『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は36年。




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