
文:飯田房貴 @fusakidmk
いよいよオリンピック開幕が目前に迫り、テレビのニュースでも連日のようにスノーボードが取り上げられるようになってきました。スノーボードの世界に関わる身としては、やはりうれしいものがあります。
中でも、ひときわ多く取り上げられているのが村瀬心椛選手です。
ニュースでは「金メダル候補」と紹介されることも多いですが、実際のところ世界には層の厚い強豪選手が揃い、日本国内にも実力者がひしめいています。金メダル獲得は決して簡単な道ではありません。
それでも、今季に入ってからの調子の良さを見ると、期待が高まるのも納得です。ビッグエアだけでなく、スロープスタイルでも安定して結果を残しており、確実にピークを五輪に合わせてきている印象を受けます。
私が初めて村瀬心椛選手を見たのは、2017年4月のことでした。
場所はカナダ・ブラッコム。当時、彼女はお母さんと一緒に現地を訪れ、トレーニングを行っていました。
その年の春のブラッコムは、世界的に見ても雪上トレーニングに最適な環境が整っており、カナダ国内はもちろん、日本からも多くのライダーが練習に訪れていました。春パスがあり、比較的安価に滑れる環境だったことも、日本から多くのライダーが集まった理由のひとつだったと思います。
その日は天候にも恵まれ、私はパークでさまざまなライダーを撮影していました。その中に、当時まだ12歳だった心椛ちゃんの姿がありました。
当時のキッカーサイズは、おそらく15メートル以上あったと思います。その巨大なキッカーを、彼女はすでに12歳で普通に飛んでいました。調子が良かったのか、回転トリックにも積極的に挑戦しており、私は偶然にも、彼女が初めてフロントサイド1080をメイクした瞬間を写真に収めることができました。

当時の彼女は、まだジュニア世代らしい軽やかさがあり、とにかく回転数を上げるのに必死という印象でした。それでも、初めて1080を決めた喜びは格別だったのでしょう。自分の滑りを撮影したお母さんのビデオ映像を、すぐに確認していた姿が今でも印象に残っています。

それから年月が経ち、今の村瀬選手は、もはや「女子」という枠に収まらないライディングを見せています。私の同僚たちも口を揃えて、「COCOMOはヤバい」と言います。
女子スノーボードは、多くの場合、どうしても女性らしさが滑りに表れます。それは決して否定的な意味ではなく、軽快さや美しさといった、女子ならではのスタイルです。どんなスポーツでも、男女それぞれに特有の表現が生まれるものです。
しかし、村瀬選手の場合は違います。
その滑りは、良い意味で“ガッツリ男子系”。見ているこちらが思わず「参りました」と言いたくなるような迫力と完成度があります。率直に言って、とにかくカッコいいのです。
海外のライダーからもCOCOMOのスタイルは尊敬されていますし、日本でいわゆるコアなスノーボード層と話をしていても、「ココモはヤバい」という評価は誰からも聞こえてきます。
コンペティションで強いだけでなく、映像の世界――スノーボードの本質を知る人たちが重視するフィールドにおいても、しっかりとスタイルを表現できる稀有なライダーです。
ただ、世界にはもう一人、同じようにスノーボード界から深く尊敬されている女性ライダーがいます。
ニュージーランド代表のゾーイ・サドウスキー・シノットです。
彼女は16歳で出場したビッグエアで銅メダルを獲得し、ニュージーランドの冬季五輪史上初のメダリストとなりました。さらに2022年北京オリンピックでは、スロープスタイルで金メダル、ビッグエアで銀メダルという快挙を達成しています。加えて、世界最高峰のバックカントリー大会「ナチュラルセレクション(スーパーナチュラル)」でも優勝するなど、競技とスタイルの両面で頂点を極めています。
おそらく、世界の下馬評では、スロープスタイルに関してはゾーイのほうが上と見る声が多いのではないでしょうか。
もちろん、日本人選手たちに活躍してもらい、輝かしいメダルを獲得してほしいという気持ちは強くあります。
果たして――。
2017年の春、ブラッコムで見かけた12歳の少女が、ミラノの舞台で何色のメダルをかけるのか。
その瞬間を見届けられることを、心から楽しみにしています。
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は41年(2026年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/
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