【コラム】X GAMES LEAGUEとSNOW LEAGUE 新リーグ構想の懸念

広告 five  

文:飯田房貴 @dmkfusaki

近年のスノーボード・コンペティションは4年に一度のオリンピックを頂点として、その道筋としてFISのワールドカップが行われて来た。また、他に大きなイベントとしては1年に一度、X GAMESがコロラド州のアスペンで開催、さらにDEW TOURも1戦行われて来た。

かつてあったUS OPENを始めとするオープンシリーズ、さらに様々なスノーボード大会を結んでいたTTRツアーは消滅。ビッグエア大会で大観衆を集めていたAIR & STYLEもなくなり、X GAMES、DEW TOURの大会数も減り、スノーボードのビッグ大会は減少傾向…。
そんな状況の中、ぶち上げられた新リーグ構想が、X GAMES LEAGUEだ。そして驚いたことにその4日後にはショーン・ホワイトがSNOW LEAGUEを発表した。1週間に、2つの大きなリーグ計画が発表されたのだ。

スノービジネス関係者が俄かに活気に満ち、世界の主要スノーサイトはもちろん、さらには一般的なメジャー新聞などに取り上げられて、2つのリーグ構想は多くの人に知られることになる。
これで来年以降は、スノーボード大会を増えることになるし、また大きな懸念だった賞金問題も解決しつつある。

賞金問題とは、W杯で優勝、あるいはXゲームズでメダリストに輝いてもその選手が、トラベルバジェットなどをペイできない問題である。
一見すると、数百万の大会賞金は選手を潤すように思われがちだが、実際に戦っている選手たちは「大会で勝っても旅費で赤字になる」という声も出ているのだ。

広告

●これまでの問題点
①スノーボードの大会数が減って来ている
②選手は大会で優勝、入賞しても旅費で赤字になる

2つの新リーグ誕生による日程かぶり問題

一見すると、2つの新リーグ構想は、スノーボード選手にとって素晴らしいニュースに聞こえるが、いくつかの疑問、懸念もある。

まず1つ目はワールドカップとの日程かぶり問題だ。
例えば昨シーズンのW杯は、ビッグエアが先に4戦あり、その後にスロープスタイルが5戦あった。選手たちは、オリンピック出場するためのFISポイントを比較的にコンスタントに開催されるワールドカップで獲得して来た。

ビッグエア日程
1戦目 10月21日 スイス(クール)
2戦目 11月30日~12月2日 中国(北京)
3戦目 12月8日~9日 カナダ(エドモントン)
4戦目 12月13日~16日 アメリカ(カッパーマウンテン)

スロープスタイル日程
1戦目 1月17~20日 スイス(ラークス)
2戦目 1月31日~2月4日 アメリカ(マンモスマウンテン)
3戦目 2月8日~22日 カナダ(カルガリー)
4戦目 3月15日~16日 チェコ(シュピンドレルーフ・ムリーン)
5戦目 3月22日~24日 スイス(シルヴァプラーナ)

そして、ハーフパイプは12月から2月の期間に5戦あった。
かつては、オリンピックのメダル候補のような選手たちは、オリンピックの2シーズン前は比較的に出場はしないで、その前シーズンあたりから出場する傾向が強かった。しかし、近年、コンペティションのレベルが急上昇するにつれ、平野歩夢、クロエ・キム(アメリカ)のような五輪金メダリストまで積極的に2シーズン前から大会に出場して来ている。

1戦目 12月7~9日 中国(シークレットガーデン)
2戦目 12月13日~16日 アメリカ(カッパーマウンテン)
3戦目 1月17~20日 スイス(ラークス)
4戦目 1月31日~2月4日 アメリカ(マンモスマウンテン)
5戦目 2月8日~22日 カナダ(カルガリー)

さらに世界レベルのハーフパイプ大会では、X GAMES(コロラド州アスペン)とDEW TOUR(コロラド州カッパー)が1戦ずつあり、ハーフパイプの世界トップ選手たちは、合計7戦メジャー大会を戦った。

この上、2つの新リーグが加われば、大会はシーズン中、毎週行われるような可能性があるし、さらにオリンピックへ出場するためのFISポイントを獲得できるW杯と重なることがないだろうか。世界の選手たちは、サッカーのW杯とは違って誰もがオリンピックの方を目指す。そんな状況の中、新リーグとW杯の大会をどちらを優先して行動するのか疑問が残る。
FIS、X GAMES LEAGUE、SNOW LEAGUEの3つの大会機構は、しっかりとその日程を相談し、選手たちが円滑にどの大会も出場させるような対応をしてくれるのだろうか。

さらに忘れてはならないのが、地球最強ライダー決定戦と言われるNATURAL SELECTION TOURだ。トラビス・ライス、トースタイン・ホグモなどのビデオスターだけではなく、マーク・マクモリス(カナダ)のような現役コンペティターも参加するバックカントリーを舞台にしたドリームマッチ。女子では、オリンピック金メダリストのゾーイ・サドウスキー・シノット(ニュージーランド)も参加して来た。
昨シーズンは、3月10日(日)〜17日(日)にカナダで決勝トーナメントが開催し、さらに世界各地でDUELSと呼ばれる新たな出場枠を賭けた戦いも行われた。来年以降に2つの新リーグの発足となれば、ゾーイのような現役コンペティターのNSTの参加は難しくなるのではないだろうか。

FISワールドカップ、X GAMES LEAGUE、SNOW LEAGUEの種目と特徴

2つの新リーグ誕生により、日程かぶり問題が起きそうと述べたが、さらにそのことを深堀するため、各大会機構の取り扱うスノーボード種目を整理しておきたい。
以下、各新リーグ、機構の取り扱う種目と特徴をまとめてみた。

FIS(フィス)ワールドカップ

種目:ハーフパイプスロープスタイルビッグエアスノーボードクロススノーボードクロス混合団体パラレル・ジャイアントスラローム、パラレル・スラローム、フリーライド(※今年6月5日に正式種目に承認)

特徴:オリンピックを頂点としたW杯をシーズン中に継続的に開催。W杯で獲得したFISポイントは、オリンピック出場権に影響する重要要素。選手たちは、オリンピックに出場するためにFISポイント獲得に躍起になる。同時に国の最高出場枠の限りもあるため(※例えば男女共に1種目最高4人まで)、同国の中でのFISポイント獲得争いもある。
元々スキー協会に無理くり(?)にスノーボードが加えられた歴史があり、スキーの方は言わずもがなアルパイン種目の他、モーグル、ジャンプ、クロスカントリーなどの競技がある。

※青色太字で示した競技はオリンピック種目

X GAMES LEAGUE(エックス・ゲームズ・リーグ)

種目:ハーフパイプスロープスタイルビッグエア、ナックルハック、ストリートスタイル

特徴:冬のスノーボード、フリースキーに加えて、夏のスケートボード、BMX、フリースタイル・モトクロスというXスポーツの祭典。これまで1イベントから世界4カ所で開催される夏と冬のXゲームリーグに!
F1レースのような国際的なチームフォーマットとコンテスト・カレンダーを計画している。単に個人だけの競技ではなく、チーム対抗戦を主体とした新たな取り組みだ。チームはドラフト制により決まるユニークな点も。開幕は、2026年としている。
投資家には、X GAMESで9度のメダルを獲得したスコッティ・ジェームス(オーストラリア、7度の金メダルを獲得したスノーボーダーのクロエ・キム(アメリカ)など。またかつてはアメリカのスポーツ専門チャンネルESPNが株式を保有していたが、現在はニューヨークのプライベート・エクイティ企業であるMSPスポーツ・キャピタルが主。元々MSPは、ESPNから株式を受ける際、新リーグを立ち上げてスポンサー収益を得ることで、お金を集める意図があったようだ。

SNOW LEAGUE(スノーリーグ)

種目:ハーフパイプスロープスタイルビッグエア、ストリートスタイル

特徴:ショーン・ホワイトが発起人で大きく加わっている新リーグ。まずはハーフパイプ、そしてスロープスタイル。さらに将来的にはビッグエア、ストリートも加えたいと明言。スノーボードとスキーのフリースタイル種目が行われる予定。開幕は、X GAMES LEAGUEよりも1年早く2025年3月予定。
サーフィンのWSLやスケートボードのストリート・リーグを模範としている。
予選ラウンドを勝ち進み、その後、直接対決のトーナメント方式で競う。(※ハーフパイプ種目で初のトーナメント方式を採用)
全5大会の賞金総額は150万ドル(約2億3700万円)と言われており、主催者によればスノースポーツ界で最も賞金額が高い大会になるという。


ショーン・ホワイト VS スコッティ・ジェームスという図式!?

これまで私は、2つの新リーグ誕生に伴い日程かぶり問題を指摘して来たが、ここでさらにもう1つの懸念を伝えたい。それは、スコッティ・ジェームスも推し進めているX GAMES LEAGUEと、ショーン・ホワイトのSNOW LEAGUEは将来的に参加する選手の奪い合いに繋がらないのか、ということだ。

実際、この「ショーン・ホワイト VS スコッティ・ジェームスという図式」をオーストラリアのスノーボードメディアTRANFERが、『XGL vs The Snow League』というタイトル記事で紹介している。

この記事では、選手の奪い合いとは伝えておらず、主に2つのリーグの違い、魅力的な点などを紹介する記事に留めているが、以下のような問題も指摘しているのだ。

結局のところ、両リーグともスノーボードを年間を通して盛り上げ、アスリートをサポートし、消費者(私たち)がスノーボードを観戦する方法を一元化することを目指している!しかし、2つのメジャーリーグを持つことは、ゴルフのようにどちらか一方に偏ることになるのだろうか?お金や既得権益が絡んで、特定の選手が一方のリーグと契約することになるのだろうか?理論的には、スコッティがスノーリーグで優勝する可能性はあるのだろうか?
ワールドカップのランキングはこの問題にどう関わってくるのだろうか?政府機関はFISのランキングをオリンピックへの資金調達の基準としているため、FISの大会に集中するためにXGLやスノーリーグの大会から選手を遠ざけるのだろうか?おそらくそうだろう。

私は、かつて昭和時代のプロレスが大好きで、よく試合会場にも足を運んだが、今回誕生した2つの新リーグはあの時のプロレスの問題のようにも映る。
あの時代、キミは馬場派か猪木派みたいな話がよく出ていたが、来年はホワイト派かジェームス派か、なんて話も出て来るかもしれない。

平野歩夢は、どちらのリーグを選ぶのだろう?両方なのか?あるいは、親交があるショーン・ホワイトの方か?
スター選手がいる方が、当然魅力的になるだろうから、どちらのリーグにも参加することが理想だ。しかし、選手たちにとってW杯に出場してFISポイントを獲得しないとオリンピックに行けないわけで、W杯と2つのリーグ参加はトゥマッチにも感じる。そもそも選手たちは、この2つの新リーグ発足について、どのような考えを持っているのだろう。おそらく、まだどうやって行動すべきか、戸惑っているのではないだろうか。

私は、様々な問題をどのようにクリアして、2つの新リーグが実現していくのか見守っていきたいと考えている。

●このコラムは、以下の記事リンクも参考にして執筆しました。

ANNOUNCING THE X GAMES LEAGUE
https://www.xgames.com/x-games-league

XGL vs The Snow League
https://transfermag.com/articles/xgl-vs-the-snow-league/

How Will X Games League and Snow League Change Freeskiing?
https://www.powder.com/news/x-games-league-snow-league-freeskiing

Two different plans for winter athletes will build leagues and teams competing throughout the season
https://coloradosun.com/2024/06/22/x-games-shaun-white-winter-sports/

飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをしており、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は39年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/
ツイッター:https://twitter.com/dmksnowboard

広告