世界のスキー場リフト市場が「ほぼ2社」に集約された理由

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シーズン中、毎日のように乗っているスキー場のリフト。そのリフトがほぼ2社の独占状態であると聞いた時には正直とても驚いた。世界には、数えきれないほどのスキー場があり、日本でも400以上、500か所近くものスキー場があるというのに…、そのほとんどが同じリフト会社ということなのか。
私は、90万以上もの視聴している動画『Why Building Ski Lifts Is Incredibly Hard』を見て、その実情を知った。

現在、世界のスキー場リフト市場はDoppelmayr / Garaventa(ドッペルマイヤー系)HTIグループ(POMA/Leitner など)の2大勢力が実質的に主導しているという。なぜここまで寡占化が進んだのか――その背景には、次のような要因がある。

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なぜ2大企業が独占するのか?

1. 参入障壁が非常に高い:資本投下とリスク負担

  • 建設コストが高い:タワー基礎掘削、鋼管塔の製作、搬器(ゴンドラ・椅子)や巻上げ機、数キロにおよぶ主ケーブルなど、単一リフトでも巨額の設備費がかかる。施工には重機・ヘリ・大型トラックなどの動員も必要。
  • 保険・責任(リーガル)コスト:人命が直接関わる設備であるため、設計・検査・テスト・保守に対する法的・保険的要求が非常に厳しい。事故が起きれば企業に甚大な責任が及ぶため、保険や品質保証体制を持てない会社は競争できない。

これらが「資金力+信頼」を持つ大手に有利な市場構造を作っている。

2. 技術的専門性・希少技能の必要性

  • 特殊技能(例:長距離ケーブルのスプライシング) や、脱着式グリップ・高速搬器の設計・製造・テストは高度なノウハウを要する。熟練者は世界的に少数で、品質を担保できるかどうかが受注の可否に直結する。
  • また、各国の気候(豪雪・凍結・風)に耐える「冬季仕様」の部材や制御系が必要で、これらの調達・試験能力も重要。

技術の蓄積がないと「設計・保証・竣工引き渡し」ができないため、新規参入は難しい。

3. M&Aと業界再編で競合が吸収・淘汰された歴史

  • かつては Poma、Doppelmayr、Garaventa、Yan、Riblet、CTEC 等、多数のメーカーが存在したが、事故や技術変化(例:脱着式リフトの普及)、競争力不足により倒産・撤退・買収が相次いだ。ドッペルマイヤーとガラヴェンタの統合、POMAとLeitner 系の再編・傘下化などにより寡占化が進行した。

結果として「信頼性・部品供給・保守」をワンストップで提供できる大手が残った。

4. 経済性(スケールメリット)とアフターサービスの決定力

  • リフトは設置後の保守・点検・部品供給が長期にわたって必要(数十年単位)。発注側は「設置して終わり」ではなく、運行寿命を通じて手厚いサポートを求める。大手はグローバル拠点・ストック部品・年次点検メニューを持つため、競争優位になる。
  • 市場データでも、北米ではドッペルマイヤーが50%超のプロジェクト数を占める年があり、Poma/Leitner 系と合わせると事実上の二強態勢が示されている。

5. 規模の小さい需要先が多いが「1件ごとの商談額は大きい」

  • 世界にあるスキー場の多くは「単発で1台〜数台」しか発注しないため、供給側は大きな設備投資を回収するために 多数の大型案件を安定受注できる能力が必要。結果、量をこなせる大手に受注が偏る。

6. 新用途(都市輸送・観光輸送)への横展開

  • 大手はスキー場以外にも都市型ゴンドラや観光索道、都市交通案件へ事業を拡大している。これにより需要先が増え、さらに規模の経済と技術蓄積が拡大する好循環が生じる。

日本の状況

日本のリフト・ゴンドラの導入傾向は、世界的な流れとほぼ同じである。大規模なゴンドラや高速チェアリフトでは、ドッペルマイヤー系やHTI(POMA/Leitner)系が多く採用されており、ニセコの近年の大型架け替えでもこれらの設備が導入されている。

一方で、日本固有の存在として国内メーカー(例:Nippon Cable/日本ケーブル)がある。国内メーカーは、索道の設計・施工・保守を手掛けるほか、小規模な更新や特定仕様の搬器導入で存在感を保っている。しかし、脱着式高速搬器や一部の大型ゴンドラでは、海外大手メーカーが選ばれるケースが増えている。

この傾向の背景には、戦後からの国内メーカーの歴史的存在と、世界的な技術潮流(高速・脱着・安全基準の高度化)における海外大手の競争力・ブランド力がある。大型案件では海外製を選ぶケースが顕著である。

具体例として、ニセコ HANAZONOではPOMA(HTI系)製の高速チェアや大型ゴンドラが導入されている。白馬(岩岳など)では、ゴンドラの更新や新設に際して国内外の技術が混在し、プロジェクト規模や地域によって日本ケーブルと海外製が使い分けられている。

まとめると、日本市場は「日本ケーブル」+「海外2大巨頭(ドッペルマイヤー系・HTIグループ)」の三社構造に見えるが、技術力・資金力・国際規格対応の面では、実質的にドッペルマイヤー系とHTIグループが市場を牽引していると言える。

世界のスキーリフト市場 年表(メーカー統合・衰退・成長)

年代世界の動き日本の動き・補足
1937アメリカ・アイダホ州サンバレーに世界初のチェアリフト導入国内ではまだリフト施設なし
1940s–1950s戦後、ヨーロッパ・北米でスキー人気急増。小規模メーカー多数誕生(Poma、Leitner、Doppelmayr、Garaventaなど)日本でも軽井沢、白馬などで小規模スキー場の運営開始
1960sケーブル・モーター技術、リフト建設技術が成熟。中小メーカーの競争が活発化日本国内メーカー(日本ケーブルなど)が技術取得・開発開始
1970s高速リフトや大型ゴンドラの需要増。輸送能力の大きなリフトが主流に国内スキー場の拡張に伴い、日本ケーブルの受注拡大
1980s画期的技術:分離式チェアリフト(Detachable Chairlift)登場。高速輸送可能で利便性向上国内でも一部導入開始。海外技術に追随する形で採用
1990s競争激化 → 中小メーカー淘汰・倒産
例:Riblet(倒産)、Yan(事故による倒産)
ドッペルマイヤー、Poma/LeitnerがM&Aで統合開始
国内では日本ケーブルがリフトの設計・施工・保守で市場の一定シェアを維持
2000s世界市場でドッペルマイヤー系(Doppelmayr/Garaventa)とHTIグループ(Poma/Leitner等)が主導権を握る日本でも大規模リフト更新では海外製が採用されることが増加
2010s市場寡占化が完成。二大グループでほとんどの国際受注を確保国内スキー場のリフト更新期に海外大手の導入が定番化
2020s高度な安全規格・法規制対応、老朽リフト更新・都市交通への展開が進む日本でも老朽化リフトの更新は海外大手が中心。小規模スキー場は補修・部品供給で国内メーカー活用

この年表を見ると、世界市場は技術・資金・安全規格のハードルによって二大企業に集約され、日本市場もその流れに連動していることがわかる。

私が普段お世話になっているウィスラーのピークトゥピークは、ウィスラー山とブラッコム山を結ぶダイナミックなゴンドラである。リフトシステム全体の設計・施工はオーストリアのドッペルマイヤー・ガラヴェンタグループが担当し、ケーブルの製造はスイスのファッツァーが行った。

参考・出典(主要)

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