スノーボードベース素材の真実|数字・ブランド・性能を完全整理

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スノーボードを選ぶとき、カタログに書かれた「Sintered 6000」や「Extruded 2500」といった数字、そして滑走面のブランド名を気にしていますか?
実は、同じ数値でもブランドや加工精度によって性能は大きく変わります。本記事では、ベース素材の種類・数字の意味・ブランドごとの特徴を整理し、滑走性能や耐久性の目安が一目でわかるようにまとめました。
初心者には見えない“滑走面の世界”を、マニアックな視点で徹底解説します。

(意外と知られていないスキー、スノーボードの滑走面ベースの真実!)

目次

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ENDEAVOR国内代理店の依頼

ENDEAVOR国内代理店、ムラッチョ社長から「ショップ向けPOPを作るので、そのためのインフォメーションを作ってほしい」というオファーをいただきました。

私個人としては、スノーボード歴40年以上。これまでショップのメーカー業務に携わり、現在はカナダ・ウィスラーでインストラクターもしています。また、このようなサイトで毎日情報発信も行っており、長年この業界にどっぷり浸かってきた一介の業界人です。
しかし正直に言うと、ボードの滑走面素材に関しては、まだまだ理解が及ばない部分も多々あります。

最近、本社ENDEAVORの代表やマックスと滑走面の話をする中で、改めて「そもそもこの性能って何なのか?」と自問するようになりました。

例えば、私がENDEAVORに関わった約5年前のボードは、アメリカのDurasurf社の滑走面を使用していました。ところが最近ではISO SPEEDを採用しています。

滑走面を供給する会社・ブランドが変わったことはわかりますが、ではその数値が変わった場合、ユーザーにとって性能面でどのような違いがあるのか?
あるいは、同じ数値であればブランドが変わっても性能は同じなのか?

こうした点を整理するため、簡易的な滑走面ランク表を作ろうと思いました。あくまで目安で、数字だけで全てを判断できるわけではありません。実際のフィーリングは温度や雪質、ワックスとの相性でも変わりますのでご注意ください。

(滑走面の性能で、どれほどライディングに影響を及ぼすのだろうか?)

滑走素材は大きく2種類

Extruded(エクストルーデッド)=押し出し製法
メンテ楽、安価、初心者・パーク板に多い

Sintered(シンタード)=焼結製法
高性能、ワックス浸透性◎、スピード重視、上級モデルに多い

スノーボードベース素材の2大巨頭(系譜)

Isosport / Isospeed(オーストリア)
Burton, Nitro, Capita, Bataleon など欧州系ブランドで採用

Crown Plastics / Durasurf(アメリカ)
Lib Tech, Never Summer, Jones, Yes など北米系ブランドで採用

(世界には数百、いや数千とも思われるスノーボード・スキーのブランドがあるが、意外と滑走面を自社で製造している会社は少ない。その理由は、滑走面の製造には高度な技術と設備が必要で、参入障壁が非常に高いため。写真はオーストリアのISOSPORT社。)


数字の正体と意味

  • 「Sintered 4000」「Extruded 2000」などの数字は 分子量(Molecular Weight of UHMW-PE)をざっくり表す指標
  • 数字が大きいほど分子鎖が長く、硬く、ワックス保持力と耐摩耗性が高い。
  • ただし同じ「6000」でもメーカーによって配合や加工精度が違い、乗り味に差が出る。
(顕微鏡で拡大すると、滑走面は独特な多孔質構造を持つ世界が広がっている。微細な隙間にワックスが浸透し、雪面との摩擦を減らして滑走性を高めているのだろう。出典:ResearchGate.

実際のランク

  • Extruded 1500 / 2000
    → Burton エントリーモデル、パーク用ツインなど。手入れが楽だがワックス保持は弱い。
  • Extruded 2500 / 3000
    → より丈夫な押し出し。ジブボードに多い。
  • Sintered 4000 / Durasurf 4001
    → Jonesのミドルレンジ、Capita DOAなど。ワックスを入れると化ける。
  • Sintered 5000 / 6000(Isosport系)
    → Burton Custom, Nitro Team など定番フリーライドボードに採用。バランス型。
  • Sintered 7000 / 8000 / Isospeed NHS
    → Nitro Team Pro, Jones Ultraシリーズなど。硬く速く、レース寄りの性能。
  • Sintered 9000 / Nano Base / Race Base
    → ワールドカップスキー、アルペンスノーボードに多い。グラファイト配合。競技者向け。

※数字が上がるほど高性能になりますが、必ずしもその滑走面が「あなたにとって最適」とは限りません。エクストルーデッドはワックスをしなくても性能が落ちにくい一方で、高級なシンタードはワックスなどのチューンナップを怠ると滑走性能が低下します。つまり、エクストルーデッドは安価でメンテナンスが楽、シンタードは手間をかければ高性能、逆に放置すれば不良となる――そんな特性を持っています。
誰もが高級モデルのボードやブーツが最適とは限らないのと同じで、滑走面もそれぞれのライダーに合ったものがあります。

(スノーボーダーならできる限り高性能なベースを求めたいもの。)


グラファイト添加の話

  • 「Graphite Base」はよく聞くが、これは黒鉛を混ぜて静電気を逃がし、雪との摩擦を減らすテクニック。
  • 北米パウダー系ブランドは好んで採用。
  • 同じ6000でも「Graphite 6000」とそうでないものでは走りに差が出る。
(静電気を逃がし、高速滑走に優れるグラファイトベース。お気に入りの滑走素材。)

注意まとめ

  • ベース素材は「数字が大きいほど速い」けど、実際は メーカーの設計思想+ブランドのチューニング が決め手。
  • つまり 同じSintered 6000でも、BurtonとJonesでは全然キャラが違う
  • ここを知っていると、カタログスペックの数字だけじゃなく「どこのベースか」を追う楽しみが出てくる。

スノーボード滑走面ランク表(目安)

ランク素材タイプ代表ブランド / 製造元特徴・備考
S1Sintered 8000+ISO SPEED / Swix Surf高密度シンタード。高滑走性・高耐久。温度幅広く対応。上級者・パーク〜フリーライド向け。
S2Sintered 7000ISO SPEED / Durasurf一般的なハイパフォーマンスシンタード。滑走性高、耐久性も十分。オールラウンド向け。
S3Sintered 6000Durasurf / SurfTech中級〜上級者向け。ワックス保持性あり、滑走性も良好。温度帯による違いが出やすい。
E1ExtrudedSwix / ISO SPEED安価・メンテナンス簡単。滑走性はシンタードより劣るが、初級〜中級者、スクールボード向き。
E2Extruded HardDurasurf / Surf耐久性特化型。滑走性能は控えめだが、荒れた雪でも安定。

※同じ数値(例:Sintered 6000)でもブランドが変わると、材料の混合比率や圧縮方法が異なるため、滑走感や耐久性に微妙な差が出ます。

Extruded(エクストルーデッド)に数値がない理由

Sintered(シンタード)は焼結製法で、材料の密度や分子量によって性能が大きく変わるため、「Sintered 4000」「6000」などの数値で性能の目安を表現しやすい。

一方、Extruded(エクストルーデッド)は押し出し成型で製法が比較的単純。分子量や圧縮度の差はあっても、性能差がシンタードほど顕著ではないため、メーカーも数字で表すことはほとんどない。

Extrudedは「初心者向け」「メンテナンスが楽」「安価」といった特徴で語られることが多く、細かくランク付けする必要があまりない。その代わり、耐久性や硬さで「Soft/Hard」といった分類がされることはある(例:Extruded Hard)。

一部の高性能押出しベースでは、内部の分子量や充填材によって「Extruded 2000」「2500」のように表記されることもあるが、あくまで参考程度で、Sinteredほど性能差がはっきりしないことが多い。

同じ数値でも優劣がつけにくい理由

  1. 材料の配合と加工精度が違う
    同じ「Sintered 6000」でも、メーカーによって樹脂の種類や添加材(ナノカーボン、グラファイトなど)の比率が異なります。さらに、焼結温度や圧縮工程などの違いで耐久性や滑走性も変化します。
  2. 設計思想やターゲットが違う
    例えば、BurtonのSintered 6000はフリーライドやオールラウンドを意識したチューニングが多いのに対し、JonesのSintered 6000はレース寄りやパウダーを強く意識した方向性です。つまり「どちらが速いか」より「どんな状況で強いか」が決定的に違います。
  3. ライダーの感覚や雪質との相性
    気温や湿度によって雪の滑り方は大きく変わります。同じ板でもワックス、ライダーの体重、滑り方によって評価が真逆になることも。ある人には「最速」でも、別の人には「走らない」と感じるのです。

※ブランドごとの違いは「優劣」ではなく、“用途・状況・ライダーに応じた最適さの差” と理解するのが正解です。

以下はブランドごとの特徴やクセを比較した表になります。
(※絶対的な優劣ではなく特徴や得意分野を比較する表になります。)

ブランド代表モデル例滑走感の特徴得意な状況メンテナンス感覚コメント
BurtonCustom, Processバランス型。滑らかで扱いやすいフリーライド、オールラウンドワックス必須だが比較的扱いやすいフリーライド寄りにチューニングされており、パウダーでも安定感あり
JonesMountain Twin, Flagshipしっかりした反発、グリップ感強めパウダー・高速滑走ワックス必須、定期的チューンナップ推奨レース寄りのチューニング傾向があるため、雪質変化に敏感
CapitaDOA, Defenders of Awesomeスピード重視、やや硬め圧雪・ゲレンデ高速滑走ワックスをしっかり入れる必要ありグラファイトや特殊添加材で速さを優先している
NitroTeam, Slash柔らかめで操作性良しパーク・ジブ中心比較的扱いやすいパーク向けにチューニングされることが多い
Lib Tech / Durasurf系T.Rice Proグリップ感強く速いレース寄り、オールマウンテンワックスは必須UHMW-PE素材を最大限に生かす設計。雪質による差が出やすい

⚠ 注意点:

  • 同じ「Sintered 6000」でも、用途や設計思想によって感触はかなり変わる
  • 数値だけで速さや耐久性を決めつけるのは難しい。
  • 実際に試乗して、自分の滑りや好みに合うかを確認するのが最も確実。

記事を書いたきっかけ

ひとつのきっかけは、私自身がパソコンを買い替える際に「プロセッサ」を目安にしたことです。パソコンでは、現在使っているプロセッサと新しいものの性能が明確に示されており、比較がとてもわかりやすい。
スノーボードの滑走面も、もし同じような指標があれば、ユーザーにとって理解しやすくなるはずだと思いました。

ちなみに、スノーボードに限らずスキーでも「その板がどこで作られ、どの滑走面を使っているか」は、本来メーカーがカタログなどで伝えるべきだと業界内で言われています。しかし実際には、すべてのメーカーが細かい情報を公開しているわけではなく、「エクストルーデッドかシンタードか」程度に留まるケースが多いのが現状です。

それでも、もしあなたがこの情報に関心を持ち、メーカーに問い合わせれば、購入を検討している板の滑走面素材を知ることができる場合があります。

結局のところ大切なのは「最強の滑走面」ではなく、「あなたに合った滑走面」です。この知識があれば、ボード選びはもっと深く、もっと楽しい体験になります。

参考リンク一覧

1. Isosport / Isospeed(オーストリア)

2. Crown Plastics / Durasurf(アメリカ)

3. 滑走面の基本・種類解説

4. グラファイト添加について

5. 滑走面性能指標・分子量に関する情報

6. ブランド採用事例・カタログ情報

飯田房貴

1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。

ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。

1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。

主な著書に、
スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。

現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。

インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

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