文:飯田房貴 @fusakidmk
2007年頃、ウィスラー・ブラッコムのパークで「主」と称されたライダー、アンドレ・ベノワ。
あれから18年以上が経つというのに、彼はいまだにスノーボードに情熱を燃やし、日々ライディングを続けている。
彼は当時から、自分が本当に好きなスタイルのスノーボードを追い求めていた。
多くのライダーがスポンサーのために撮影や露出を意識する中で、アンドレはまったく逆の道を選んでいた。
彼はこう語っていた。
「ビデオの撮影って、バックカントリーに行くための時間を費やすからつまらないんだ。
朝早く起きて、モービルで上って、一日中ジャンプ台を作って、4、5本飛んで、撮影して、それで終わりだろ?
それよりも、もっともっとライディングをしていたい。」
そんなスタイルだったからか、スポンサーからの評価は決して高くなく、やがて見放された。
今ではギアもすべて自分で買っている。
一時期は「ライダー」というステータスに憧れていたようだが、それもすぐに興味を失ったらしい。
周囲の仲間たちは、そんな彼を“変わり者”と見ていたようだが、同時にどこか羨望のまなざしを向けていた。
それは、プロライダーとして生きる彼らが“絶対にできないこと”を、アンドレが堂々とやっていたからに違いない。
最近、彼のFacebook投稿を見て、あいかわらずかっこよくライディングしている姿に、思わず「超いいね」を押してしまった。
あの“パークの主”の近況を紹介しようと、彼のInstagramを探してみたが……アカウントが見つからない。
ああ、そうだった。彼はそういう男だったと、改めて思い出した。
多くのスノーボーダーたちがInstagramで自分の活動をアピールし、
ライダーでなくても承認欲求のように日々投稿しているこの時代に、
彼はただ、親しい知人に向けるようにFacebookでこっそり近況を伝える。
まるで、自分のライディングは“自分のためだけ”にあるとでもいうように。
私自身は、ユーザーやアクセス数を意識しながら記事を作る側の人間だ。
だからこそ、彼のようにまったく“見られること”を意識せず、自分のスタイルを貫く姿には憧れすら感じる。
アンドレは、真のスノーボード・アーティストと呼ぶにふさわしい存在だと思う。
滑りを拡散することはしないが、自分の表現としてスノーボードを続けている。
年齢なんて関係ない。ただ、純粋に「滑りたい」という衝動のままに。
アンドレは、自分が着たいと思うウエアすら、自作している。
以前、彼に「君のウエアをメーカーに紹介して商品化しようか?」と聞いたことがあるが、さりげなく却下された。
彼にとってウエア作りも表現の一部であり、それが売れるかどうかなんて関係ない。
むしろ、商業ベースに乗って“管理”されることを嫌っているのだろう。
なぜなら、彼は“着たいから着る”を貫くアーティスト。
スノーボードも“滑りたいから滑る”という、ただそれだけのシンプルな美学で動いている。
業界の中で情報を発信し続ける僕にとって、アンドレのような存在は、いつだって心のどこかで、灯火のように光っている。
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/