藤本光海『アルペン18年+フリースタイル18年=スノーボード人生36年』を振り返る

広告 five  

アルペンを18年間。フリースタイルを18年間。なんとスノーボード歴が36シーズンにもなる藤本光海(40歳)。グラトリ時代は、その板さばきの異質さから「ノーズ・テール乗りの神」とも言われた。そのバックボーンにはアルペンを本気で取り組み、当時、日本で最も速い選手であったことにある。滑ることを本気で取り組んだ経験により、たちまちフリースタイルシーンでも脚光を浴びたのだ。憧れだったTOYOTA BIGAIRでは、いつしか誰よりも長い参戦となった。若い世代とも対戦するベテランライダーになり、ジュニアの育成もして多くのライダーたちの手本にもなった。
藤本光海のこれまでのスノーボード人生36年間を改めて振り返り、今後の展望を伺ったインタビュー。

(36年というキャリアを持ち若い世代たちにも大きな影響を及ぼして来たTERUの待望のインタビューが実現!)


--キャリアは相当長いと聞いていますが、スノーボード歴は?

広告

光海:今シーズンで36年目です。
アルペンを18年。やっとフリースタイルも18年目になり追いつきましたね(笑)。

--えー、そうなんだ!アルペンやっていたことは聞いていたけど、まさか18年も!!
そもそもスノーボードを始めたきっかけは?

光海:父親の影響です。父親がウインドサーフィンとスノーボード、スケートボードを扱うショップをやってて、その後に横乗り商品を扱う代理店をやってたので横乗り一家でした。
昔は子供がスノーボードとかやれる環境がない中、父親のおかげで家には揃ってました。
かと言って英才教育ではまったくなくて、「揃えておくからやりたきゃやれば」的な感じ。
なので最初は父親が山に行く時についていって見てるだけだったり、ソリで立ち乗りして遊んでるときに大人用のボードに足乗せて滑ってみたことがきっかけで始めました。
ただ、その時代はまだ子供用の物が日本にはなく海外から取り寄せてました。

--ああ、そうか。かなり前だと確かにジュニア用のボード用具とかなかったような。
で、最初の板は?

光海:SIMSでしたね。バートンは敵だって教えられてましたね(笑)。なので、バートン使ってる人、みんな悪い人だと思ってました。
今はそうはおもってないですよ(笑)。
ブーツだけはなくてスキーブーツでソフト用のバインディングに無理矢理いれて使ってました。
子供なんで足が小さいから使えましたね。

(スキーブーツで強引にフリースタイル・バインで滑っていた頃の写真。かなり強引!?)

--凄いなそれ!(笑)
アンチバートンで、シムス派というと、なんかフリースタイル全開という印象があるのですが、なぜアルペンをやるようになったのですか?

光海:今より昔のほうがあったと思うんですけど、ちゃんと滑れてないのにトリックしかけて怪我する人が多かったから、ちゃんとし滑れるようになったらソフトブーツにするって父親に言われたんです。
簡単に言うと基礎ですよね。
基礎を磨いて行くうちに小学校の時に地元でスノーボードチームを作ったんです。
それもなぜかわからないけどアルペンチームでした。
いつかソフトブーツを履いてジャンプしたりする夢を追いかけて早くうまくなるために頑張ったんですけど気がついたらナショナルチームに選ばれてワールドカップに出てオリンピックって話しになっちゃって…。辞めれなくなっちゃったんです(笑)

--えっ、凄い!たしかに、そうなっちゃったら、辞められないよね。

光海:弟は高校卒業したらさっさとアルペンやめてハーフパイプやったりジャンプしたりしてたんで、うらやましかったですね。
ソルトレイクのオリンピックの出場をあと1人を追い越せなくて逃したのを期に今だと思い、アルペンを辞めました。
その時、まだ日本人トップだったし、凄い止められたけど、辞められなかったですね。
辞めるのは簡単だって言う人いるけど、全然、簡単じゃなかったですね(笑)

--そりゃあ、当時、日本で一番の男子アルペン選手なら、周囲は慰留させるでしょ(笑)。
ソルトレイクでは、ハーフパイプとアルペンの2種目時代で、残念ながら男子アルペンだけが日本人選手は未出場。
その一番を走っていたところにテルがいたとは!
で、この後、待望のフリースタイルに走ったと思うのですが、当時何歳でしたか?
また、グラトリやビッグエアで活躍していたかと思うのですが、どんなフリースタイル(種目)をやり始めたのですか?

光海:21歳の時でした。 その時はいろいろ、燃え尽きててまたプロを目指すとかあまり考えてなくて、まったりスノーボードできればと思ってたんですけど…。ジャンプしだしてからうまく出来過ぎて、もしかしたらまた何かを目指せるんじゃないかと思いました。 2年目ぐらいで10メートルキッカーとかで1080とか1260とかなんかできてしまってたんですよね。

--凄いポテンシャルだ。アルペンからフリースタイルってあまり聞かないけど、テルはその道を究めたことがフリースタイルでも生かされたのかもしれないですね。

光海:成長スピードが異常って言われましたけど、そもそもアルペンで滑りをガッツリやってたんでスタートが普通の人と違うのでそうなるかなと思いました。 その時思ったのはアルペンをやり込んで、オリンピックレベルまでは必要ないとは思うけど、ちゃんと滑れるってスノーボードの幅を考えられないほど広げるんだと思いましたね。 昔、父親に言われたことが当たってましたね(笑)

--グラトリの方でも、他のライダーと違って異常な板さばき術があると言われていましたけど。

光海:グラトリはなんとなくの感覚で撮影の時だけやってた程度でした。なんか、グラトリの人みたいになっちゃっていたような時があるんですけど、普段、あまりグラトリはしないです(笑)。人とは違う乗り方してると言われてました。ここでも父親が言ってた滑れるってこと、滑りを理解したことでたまたま違ったグラトリになってしまっただけなんです。
本当のこと言うとグラトリはあまりと理解してないんです。技名とかまったくわからないし(笑)。

(トラスト6メディア最後の作品となったBLUE MONDAY / MASTER OF GROUND #9の予告編)

--そうなんだ(笑)。
そもそも何でアルペン技術が、ノーズとかテールとかに長く乗るグラトリに繋がるのだろう。 一見すると、アルペンには関係ないようにも思うのだけど。

光海:アルペンボードのように曲がらない硬いボードの特徴をつかんでたかもしれないですね。
僕、グラトリやる時は柔らかいボードじゃなく、硬いボードを使ってました。 しなるボードを曲げる、これが普通の考えだと思うんです。しならないボードを曲げるのは大変だと思います。 しならないボードは曲げるのでなく、「乗る」って考えになったんです。 元々、しならないアルペンボードを乗ってるので一番弱いとこがわかるんです。 アルペンボードでもよくグラトリみたいなことやってたんです。 なのでアルペンから生まれた硬いボードで長く乗ることができるグラトリが生まれたってことだと思ってます。

--おーお、なるほど!なんとなくわかって来ました。今のグラトリやっている人は、「曲げる」の感覚が強いと思うので、「乗る」という感覚を活かせるようになると、また一段と違ったレベルに達しそうですね。
テルのような長いプレスを決めたいけど、自分のような特別に筋力がない人でもできますか?

光海:たぶんできると思います。ちょっと辛いとこもあるかもしれないけど勢いとバランスです。 普通の竹馬とフレックスする竹馬なら普通の竹馬の方が僕は楽だと思っちゃいますね。 例えが古いけど(笑)。

--うわあ、例えがわかりやすい!やる気になって来ました。早く冬にならないかな(笑)。
ところで、ビデオとかガンガンに出ていた印象もあります。その後、ライダーとしての活動はどんなことがメインになっていくのですか?TOYOTA BIG AIR(トヨタビッグエア)とかは、まだなかったのかな?

光海:23歳の時にトラスト6メディアって言うビデオクルーに誘われてビデオに出ることができて、トヨタビッグエアのアマ予選が同じタイミングで始まったんです。 ビデオに出る前にトヨタは見ていて、オリンピックはダメだったけど、次はトヨタ目指そうって思ったんです。 本戦までがまた大変でした。 屋外の会場だったんで天候だったり、道具選びがうまくいかずに最終予選止まりで。 札幌ドームに変わって天候に左右されなくなり、011ARTISTICがスポンサーしてくれて本選まで行けました。 スタートに立った時のことは今でも目に焼き付いてますね。 忘れられないです。

(元祖国内最高峰のビッグエア大会のTOYOTA BIGAIRでは、世界からトップ選手がやって来て、国内からの挑戦者バトルで白熱した)

--1997年に始まったトヨタビッグエアは、当時、世界も注目したビッグエア大会で、約5年後に始まる東京ドームでのX-TRAIL JAM(エクス-トレイル・ジャム)よりも歴史がありました。もちろんあの時はオリンピックでもまだビッグエア種目は入っていなかったし、プロ・ライダーにとって憧れのスポット。観客の大声援も凄かった。そこの舞台に立った時の気持ちは?

光海:なかなか見れない光景で感動でしたよ。 なんとも言えない気持ちでした。 こんな舞台があるのかと。 精神的にも上げられると言うか。 天国にでも行ってしまったかのような(笑)
あとは恐怖ですね。あの舞台でなきゃあの恐怖には勝てない気もしますね。 人生の一度きりの経験ですね。

--大観衆、テレビカメラなど、ライダーが飛ぶ瞬間にフォーカスが当たるわけですからね。狙ったトリックは?

光海:バックサイド1080から1260狙いでしたね。 山のキッカーとは形状もやり方も違うので難しかったです。 バックカントリーとかのナチュラルキッカーに近いかもしれないですね。
トヨタ後は、37歳までは次世代の子供らとパークエアーとかで戦ってましたね(笑)。
その後は、キッズの育成もしました。 一番弟子は大久保勇利なんです。 オリンピックに出てくれてマジで嬉しかったですね。 今は、キッズ育成もやめて大会という場所から離れて今までできなかったパウダーとか、一度、捨てたカービングをフリースタイルボードで追求したりして楽しんでます。

(1997年にファビアン・ローラー優勝で幕を開けたトヨタビッグエアは、実に2014年まで続いた。最後の優勝は北京オリンピック金メダリストのカナダのマックス・パロットだ)

--勇利はオリンピアンにもなりましたが、スノーボードもうまくてスタイリッシュ!総合滑走能力の高さは、SNOWBOARD MASTERSで優勝したことでも証明されています。教わったコーチの影響が高かったのだと思います。
テルは、これまで多くのスノーボーダーを見て来たと思います。トヨタでは海外選手とも戦ったし、若いライダーたちも育成しました。現役時代を含めて、憧れたライダー、刺激を受けたライダーはいますか?

光海:その当時はJPソルバーグとかその世代を研究しましたね。 この世代からスピンの形や、やり方が変わってきたと思ってて、今のスピンの原点だと思います。 最近はスコット・スティーブンスとか器用な人達に影響を受けます。 発想から生まれるスノーボードが見てても面白いし、関心するし、人それぞれでなんでも生まれるスノーボードが凄いな、って思って見てます。

--今年の2月、3月くらいかな。心機一転でアメリカの老舗ブランドのSanta Cruz(サンタクルーズ)からカナダのEndeavor(エンデバー)に板を乗り換えたのですが、どんな印象を持ちましたか?

光海:Endeavorに乗り換えて思ったのが、車で例えるとアメ車って感じでしたね。 サンタクルーズは柔めのボードが多く最近、日本でもボードが柔くなってきてるので、最初endeavor乗った時はどっしり感がすごくてパワー負けしてました(笑)。久々にこういうボード乗ったので力まかせで乗ろうとしちゃいましたね。
でもこういうボードの乗り方ってあるんですよね。 重力とか遠心力とか見えない力使うと言うか。 頼りつつ頼られるみたいな。 何言ってるのかわからないかもしれないですけどそう言う感じがあります(笑)。 慣れたら最高のボードでしたね!あと、めちゃくちゃカッコいいですね。 ありそうでないダーク感があって。

--Endeavorの中にも比較的に柔らかめで扱いやすい部類のものと歯ごたえがある固めのものがあるかな、と思いますが、テルが試乗した板は?
また、来季はどのモデルに乗りますか?

光海:僕が試乗したのはPioneerです。ゴリゴリ突っ切ってくれるボードでした。低速域はちょっと弱かったかな。 高速域はかなり良かったです。
あとはScoutのレガシーシリーズでした。 まだちゃんとしたパウダーを滑ってないので来季が楽しみです。
来季、チョイスしてるのはRangerです。フレックスなどが少し優しくなってるみたいなので柔すぎず調子良さそうです。これも楽しみの一つですね。

(サンタからエンデバーに乗り換えたテルの注目の感想コメント動画)

--Pioneerには、たしかに手強いイメージ。カナディアンライダーには人気があるのですが。
自分もScoutに2シーズン乗りましたが、気に入っています。パウダー向きみたいな感じで打ち出しているけど、実際には毎日ボードでパウダーも行けるよ、という感じでしょうか。
フリースタイル向きで扱いやすいと言われているRangerは、日本人ライダーのフィードバックとか少ないので、ぜひテルの試乗コメントを楽しみにしています!
ところで、テルが始めたTPGパットですが、懐かしい気持ちにもなりました。
というのも、以前、自分はクレイグ・ケリーの影響で、前足のカウントを1つ、後足には2つカウントを入れて、ヒザを内側に絞りやすく、後ろ足首をより曲がれるようにしていたからです。
改めて、このTPGパットの紹介してもらえませんか?

光海:TPGパットはありそうでなかったんですよね。
僕は、アルペンとフリースタイルの融合体みたいなもんじゃないですか。 だから両方の性格がわかると言うか。 本来、アルペンとフリースタイルの間に本質があると思ってて、アルペンになるとトリック性に欠けて、自由度が低くなるし、フリースタイルになるとターン性が欠けて雑さが目立つ。 なので、両方のデメリットを少しでも減らしてボードの性能を引き出すために作ったものなんです。
まずターンが軽くなるのと、自然と体が前に向きやすくなります。 トーションが使いやすくなります。
でも、カービング専用ではないのでカービングしかしない人はユニカン(UNIVERSAL CANT)を使った方ががいいかなと思います。パークを頑張ってるキッズにも使ってもらってるんですけど、すごく調子良く使ってもらってます。 トーションとか細かい気が付かない感覚の部分を助けてくれるので評判もいいです。 グラトリのライダーにも使ってもらってていつもより踏めるとのことです。フリースタイルに少しアルペン色を入れたって感じです。

--テルには、ライダーのスタイルの話、あるいは滑り方のコツなど、まだ聞きたいことがいろいろあるので、またぜひチャンスをもらって、再度インタビューしたいです。長くなって来ましたので、最後の質問。
来るべきシーズン、23-24シーズンは、どんなスノーボーディングをしたいですか?豊富を聞かせてください。

光海:23-24シーズンは今までやれなかったことをやろうかと思ってます。 今の年齢に合ったスノーボードをしようかと思ってます(笑)。 よく言われるんです。 パウダー、バックカントリーとかマジでやってみたらと。 確かにまわりを見たらみんなそれなんですよね。 ガチでって言うより楽しめる範囲でやりたいと思ってます。 人生で初めてフリーライドボードが手に入ったので(笑)。EndeavorのScout調子良いし、楽しいです。 今シーズンが楽しみでしょうがないです。

藤本 光海
インスタグラム https://www.instagram.com/teruumifujimoto
ユーチューブ https://www.youtube.com/@teruteruclub
ホームぺージ https://tpg-teru.com/
ホームタウン:北海道札幌市
生年月日:1982年7月30日
スポンサー:ENDEAVOR SNOWBOARDS、sandbox、bONE、ARK

広告