春のスノーボードチューンナップでは、クリーニングが特に重要です。春は雪解けが進み、雪面に砂や泥が混じりやすくなります。さらに、近年は花粉や中国から飛来する黄砂の影響も無視できません。黄砂に含まれる微細な砂粒子が雪に混ざると、スキーやスノーボードの滑走性能が低下する原因になります。
これらの汚れを放置すると、スノーボードの表面に傷がついたり、ワックスの密着が悪くなったりします。多くのワクシングメーカーも「汚れをしっかり落とすことが春雪での滑走性能を高める近道！」と強調しています。
そのため、スノーボードのクリーニングをしっかり行うことが重要です。
目次
クリーナーを使って滑走面をきれいにする方法
最も手軽で効果的なクリーニング方法は、クリーナー（リムーバー）を使うことです。
一般的な使い方は、クリーナー液を滑走面に垂らし、キッチンペーパーなどで拭き取る方法ですが、よりおすすめなのはスクレーパーを使う方法です。
クリーナーをボードに垂らす（またはスプレーで吹き付ける）→ プラスチック製のスクレーパーで汚れを削り取る という流れで作業すると、驚くほど真っ黒な汚れが取れることがあります。
こうして滑走面をしっかりクリーニングすることで、ワックスの定着が良くなり、より快適な滑りを楽しめるでしょう。
「クリーニング」＞「ワクシング」
正直なところ、ボードのチューンナップにおいてワクシング以上にクリーニングが重要だと感じています。ワクシングにこだわるあまり、汚れが残ったままのワックスを塗るよりも、しっかりクリーニングした滑走面の方がはるかによく走ります。
自分の感覚では、ワクシングとはボードの滑走面をクリーニングしてあげることと同義です。ワックスを「加える」というより、汚れを「削除する」という意識。まず汚れを完璧に落とすことが大前提で、そのうえでワクシングをして仕上げます。
しつこいようですが、クリーニングなしのワクシングは意味がありません！
ハイシーズンなら、ワクシングを重ねることで多少の汚れはカバーできるかもしれません。しかし、春の強敵である汚れには太刀打ちできません。この時期は、クリーナーでもリムーバーでも駆使して、とにかく徹底的にクリーンにするしかないのです！
クリーナーは滑走面に悪影響を及ぼす？
昔から都市伝説のように、「クリーナーは滑走面に悪い」「リムーバーを使うと板を傷める」と言われてきました。これは本当でしょうか？
長年にわたり、ワクシングメーカーやチューンナップのプロの方々を取材してきましたが、実際の現場ではクリーナーを使うのが一般的だと言います。
ユーザーから持ち込まれた板がひどく汚れている場合、ワクシングを繰り返して汚れを浮かせ、スクレーピングしても完全には落ちません。そんなとき、最も手っ取り早く、確実に汚れを落とせるのがクリーナーなのです。
ただし、タイムを競うレーサーの中には、クリーナーを使わない人もいます。彼らは日々ワクシングをこまめに行い、常に板をクリーンな状態に保っています。また、レーサーやオリンピック選手などのフリースタイラーは練習用と本番用の板を使い分けていることが多く、練習用ではクリーナーを使用するケースもあります。一方、本番用の板はレースや大会の1本に全てをかけるため、雪質に合わせたワクシングを施し、極限までチューニングされています。
しかし、一般的なスノーボーダーにとって、そこまで気にする必要はありません。
むしろ、汚れを放置することで滑走面を傷めたり、滑走性能が落ちてしまう方が問題です。
春の汚れが蓄積した状態のままでは、いくらワクシングしても本来の性能は引き出せません。余計なこだわりを捨て、潔くクリーナーを活用するのが正解なのです。
春の汚れ雪には硬めのワックスが活躍する理由
ここまで、春はワクシングよりもクリーニングが重要であることをお伝えしてきました。
しかし、最後に春ならではのワクシングテクニックを一つご紹介しましょう。
それが、「硬めのワックスを使う」という方法です。
硬いワックスと柔らかいワックスの違いとは？
まず、「硬いワックス」「柔らかいワックス」という言葉を聞いても、違いがわかりにくいかもしれません。
簡単に説明すると、スキーやスノーボード用のワックスは、適正温度が高いほど柔らかく、低いほど硬くなるという特性があります。
だいたいどこのワックスメーカーでも、硬めで適正温度が低いワックスはブルーやグリーン、柔らかくて温度が高いワックスはピンクやイエローという色分けがされています。
そのため、春雪にはブルーなどの低温向けのワックスを使うと効果的です。
ちなみに、ワックスの色は、青色の硬い素材や赤色の柔らかい素材が含まれているからではなく、ワックスメーカーが購入者にとってわかりやすいように、滑走性能に影響しない色素を加えているだけです。
本来、春は温かいため、柔らかいピンク系のワックスを使用するのが適切だと考えられます。しかし、そこには弱点もあります。柔らかいワックスは汚れが付きやすいのです。以前、マツモトワックスの代表、松本年一さんに取材した際にも、以下のように語ってくださいました。
「気温の高い春には、一般的にフッ素入りの柔らかめのワックスが使用されます。この柔らかめのワックスは、汚れが少ない時には効果的ですが、汚れが多い時にはその汚れが滑走面に付着し、逆に滑走面を悪化させることがあります。そんな時には、通常、厳冬期に使用する硬めのワックスが役立ちます。硬めの低温用ワックスが、汚れから滑走面を守り、滑走性能を維持してくれるのです。」
固いワックスの特徴
- 寒くて乾燥している時（水分が少ない時）に最適。
- 持続性が高く、一度ワクシングすると効果が長持ちします。
- 摩擦係数が少ないため、汚れが付きづらくなる効果があります。
柔らかいワックスの特徴
一方で、汚れが付きやすいという欠点もあります。
温かい時に良い。
塗りやすく、撥水効果が高い。
ご紹介するマツモトワックス SPRING SNOWは、少し硬めのワックスで、撥水効果が高いフッ素入りです。さらに、汚れに強くなる二硫化タングステンが含まれており、春雪に最適なスペシャルワックスです。この時期、スノーボードに行く方にはぜひ試していただきたい一品です。汚れた春雪でも、超おすすめです！
飯田房貴（いいだ・ふさき） プロフィール
@fusakidmk
東京都出身、現在カナダ・ウィスラー在住。
スノーボード歴40シーズン。その大半を雑誌、ビデオ、ウェブなど、スノーボードメディアでのハウツー記事の発信に費やしている。
1990年代を代表するスノーボード専門誌『SNOWing』では、「ハウツー天使」というハウツーコラムを執筆。季刊誌という環境下で100回以上の連載を達成し、金字塔を打ち立てる。『SnowBoarder』誌でも初期からハウツーコーナーを担当し、その中でも読者へのアドバイスコーナー「ドクタービーバー」は大人気となった。
また、自身でディレクションし出演したハウツービデオやハウツー本も大ヒットし、1990年代のスノーボードブームを支えた。
現在も日本最大規模のスノーボードクラブ「DMK Snowboard Club」の責任者として活動し、レッスンを行っている。普段はカナダ・ウィスラーでインストラクターとして、多くの人にスノーボードの魅力を伝え続けている。2016-17シーズンには、ウィスラーのインストラクターMVPを受賞。
著書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書』、『スノーボードがうまくなる！20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
