『続』スノーボード滑走面の深くてためになるお話/谷田部 馨信

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以前アップした『スノーボード滑走面の深くてためになるお話/谷田部 馨信』は、大好評でたくさんの方に見ていただけました。DMKの20年以上にも渡って毎日アップするコンテンツの中でも、最もたくさんの方に読まれた記事になっています。
そんな中、谷田部さんから、改めてその滑走面の話の続編をいただきましたので、ご紹介します。
今回の続編では、前回に伝えきれなかったことを説明していただいています。

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滑走面の話 続編

前回の滑走面についての記事は、もう4年近く前になるのですが、これまでに予想を遥かに超える多くの方々に読んでいただいていることを知りました。昔の記事にもかかわらず、DMK Snowboard CLUBがFacebookで何度も紹介してくれたり、それを影響力のあるプロのライダーの方がシェアしてくれたり、その広がりに驚いたのが率直な感想です。
そこで前回伝え切れなかった部分を「続編」として、書くことにした次第です。ここ数年の間に、実際に自分で試したものなども踏まえてお伝えします。(写真で掲載した用具は、全て私物です。)
多少なりとも、みなさんのライディングが快適になることに繋がれば幸いです。

ワクシングの前のスクレーピングの大切さ

前回の記事の最後に、「メンテナンスを心がけていれば、いいコンディションを長く保つことはできますが、残念ながら現在の滑走面の特性上、傷みを無くすことはできません。」と記しましたが、滑走面を少しでも長く、いいコンディションに保つために、私が実践している方法を紹介します。特別なことや新しいことはなく、僅かな手間をかけるだけです。
メンテナンスには、様々な方法や考え方があり、私のやり方が全てではありませんので、いろいろ試していただき、効果が体感できたものを取り入れながら、ご自身のメンテナンス方法を探してみてください。

滑走面の素材の特性上、毛羽立ちは避けられませんので、ワクシングする前に少しでも取り除くことをお勧めします。まずは、スクレイパーをかけることで、毛羽と共に汚れも削り取ります
私は、3mmのアクリル樹脂のスクレイパーを使っています。その後、ブロンズブラシをかけて、更に細かい毛羽と汚れを落とします。

この工程で大切なのは、必ずノーズ側からテールに向けて行います。テール側から、スクレイピングやブラッシングをしてしまうと、毛羽の倒れ方が逆になり、滑走の抵抗になってしまうからです。
スイッチスタンスで滑る時は?と感じた方もいるかと思いますが、毛羽が少なければ逆方向の滑走性にも抵抗が少なくなり、あまり影響はありませんので、そこでも日頃のメンテナンスが大切になります。


ワックスが十分にされていないまま滑り続けると、このように毛羽立ってしまいます。


前の写真と同じモデルの別のボードですが、ワクシングを頻繁にしていたことにより、いい状態が保たれています。


アクリル樹脂製スクレイパー


ブロンズブラシ

アイロンでのホットワクシング

次はアイロンでのワクシングですが、ポリエチレンの滑走面は、130度以上になると溶ける可能性がありますが、温度が高いほどワックスが染み込みやすくなりますので、アイロンの温度に気を付けなければなりません。
前回の記事の後、温度管理が緻密にできるデジタルアイロンを購入しました。実際に使用してみて、その性能の良さは、値段が高いだけのことはある!ものでした。


デジタルアイロン

アイロンは、設定した温度を保つため、サーモスタットが働いてヒーターのスイッチのオン・オフが切り替わります。そのサーモスタットがデジタル制御のものが、デジタルアイロンと呼ばれています。
アイロンは、設定温度を超えるとサーモスタットによりスイッチがオフになり、温度が下がるとまたスイッチがオンになることで温度を保っています。しかし、ハンチングといって、スイッチがオフになる時は設定温度を越えていて、オンになる時は設定温度を下回っています。サーモスタットの性能によって、このアイロン表面の温度変化の幅は、大きくも小さくもなります。デジタル制御のものは、温度変化の幅がより小さくなるように造られています。ワクシングをする場所の気温が低い時は、その特性のメリットが更に出ます

一般的なワクシングアイロンでも、手間を惜しまなければ、適切な温度管理をしながらワクシングができます。
デジタルアイロンと一緒にデジタル雪温計も購入したのですが、測定できる温度の範囲が、なんと、-50℃から+300℃でした。雪だけではなく、アイロン表面の温度も測ることができるのです。

デジタル雪温計ではなく、調理用や非接触タイプの温度計でもかまいませんので、使用しているアイロン表面の温度を測り、ワクシングに適した温度になるダイヤルの位置に印を付ければ、温度管理がより正確にできるようになります。

一般的なワクシングアイロンの多くは、サーモスタットによるオン・オフ時に、「カチッ」音がします。もしくは、ランプの点灯、点滅でオン・オフが分かるものもあります。アイロンの電源を入れた後、最初は温度がより高くなりやすいので、サーモスタットによるオン・オフが数回繰り返されるまで待ってから、ワクシングを始める方が良いでしょう。また、ハンチング時のアイロンの実際の温度と設定温度との差も、温度を測ることで把握することができます。
使用しているデジタルアイロンの表面の温度を計測してみましたが、アイロンの設定温度は、かなり正確であることがわかりました。
ワックスの選択は、様々な要素を考慮して行いますが、雪温が最も重要になりますので、もし余裕があれば、雪温計を持っているに越したことはありません。

デジタル雪温計


長年使用しているアナログの雪温計の測定範囲は-30℃から+30℃、計測にも時間がかかりますが、ウエアのポケットに入れて持ち運びやすいので、現在も愛用しています。

ワクシング後、ワックスをはがす際もノーズ側からテールに向けて行ってくださいスクレイパーで余分なワックスをできるかぎり剝がし、更にブロンズブラシをかけます。ワックスをはがす時にも、滑走面の毛羽は僅かずつですが落としていけます。より滑る状態に仕上げたい場合は、その後に馬毛のブラシをかけます。
滑走面からワックスが抜け切る前に、繰り返しワクシングをしていくと、より良く滑る状態になっていきます

メンテナンスを丁寧に行っていても、毛羽が目立つようになってきたら、ストーングライディングマシーンのある信頼できるショップにチューンナップに出して、滑走面の状態を整えます。よく滑りに行く地域の雪質や好み、滑りのスタイルに合うストラクチャーの目をショップの方と相談して決めて、試してみることもお勧めします。

ストラクチャーとは、チューンナップマシンのストーンに、ダイヤモンドのチップで溝を付け、滑走面の表面を削ることにより細かい溝を施し、滑走性を良くするための仕上げです。
ストラクチャーには様々な種類がありますが、パウダーなど雪の結晶が尖っているところには細かい目、湿雪では水はけが良い荒い目が向いています。
ワクシング後の仕上げでブラシをかけるのは、ストラクチャーの目に入っているワックスを取り除く作業になります。


写真はスキーですが、滑走面に付いている溝がストラクチャーです。

スノーボードは、用具が滑りに及ぼす影響が大きいスポーツです。良く滑るボードで気持ちいいライディングができ、実りあるシーズンになることを願っています。

Happy Snowboarding!

谷田部馨信(やたべ・きよのぶ)プロフィール
アメアスポーツジャパン株式会社にて、主にスキー、スノーボード用具の品質管理を担当。
ISIA(国際プロスキー教師協会)認定インターナショナルスノープロ。SIA(公益社団法人日本プロスキー教師協会)、CSIA(カナダスキーインストラクター協会)、CSCF(カナダスキーコーチ連盟)、CASI(カナダスノーボードインストラクター協会)会員。
1986年から23シーズン、日本、カナダ、スイスのスクールにて、スキー・スノーボード・テレマークのレッスンをフルタイムで行ってきた。
1994年Powder 8 World Championshipsに出場、1999年SIA指導法レポートコンテストで優勝。
開田高原マイアスキー場・マイアスキーアカデミースーパーバイザー、白山瀬女高原スキー場支配人代理、株式会社パンダルマン取締役兼パンダルマンキッズスクール校長などを歴任。2011年より現職。

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