イタリア五輪を目指す!中国ナショナルチーム最新情報

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今では経済発展も遂げ、世界から注目の中国。スポーツ大国としても有名で、先のアテネ五輪でもアメリカと最後まで金メダル数を争った。結果、金メダル数では2位となったが、この結果を受けさらに次回のトリノ冬季五輪ではメダル獲得気運が高まっている模様だ。そんな中、中国のナショナル・チームの選手が、カナダ・ウィスラーにやって来た。体操、武術、スキーなどのバックグランドを持った 15人ほどの若者たちが、パイプの練習を行っていたのだ。現段階のレベルは、まだ世界の舞台でメダルを取るのは難しいほどだったが、日増しに上達する彼らを見ていると将来有望であることは十分に理解できた。
スノーボード界で最も影響力が強いと言われる BURTONも中国チームに3年契約のスポンサードを行っていると言う。これからますます注目を浴びそうな中国チームのレポートをお届けしよう。

Photo & Story by Fusaki IIDA

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中国でスキーできるの? そもそも中国人ってスノーボードをやるのだろうか?
以前どこかで中国は、白馬や愛媛で合宿をしていた、と聞いたことはあるが、実際、中国のスノーボード事情とはどんなものだろうか?
これから選手の実力を個々に見て行くことでレポートはできるが、まずは中国のスノーボードに対する認識や事情など、大まかな概要をつかんでみたい、と思った。そこで、今回、この中国の選手団の責任者である田有年(Tian Younian)さん(注:中国滑雪協会の主任)に中国のスノーボード事情などを伺った。

中国滑雪協会の主任
田有年(Tian Younian)さんのインタビュー

中国のスノーボード・チームの向上に力を注ぐ田有年(Tian Younian)さん。

中国ではどれくらの方がスノーボードをやっているのですか?
5ヶ所ぐらいのスキー・リゾートで約1万人の方がやっています。その内、ハーフパイプを行うのは、まだ100人程度。

中国ではスキー場はどれくらいあるのですか?
5年ほど前にオープンするようになって、今では 13ヶ所ほど。

日本のようにインドアで滑れるところはあるのですか?
上海と北京に1箇所ずつ、計2箇所あります。

田さんがスノーボードを知るようになったのは、いつ頃ですか?
2002年にヨーロッパで見たのが初めてでした。とても、おもしろいスポーツだと思いました。

中国には、どんなスノーボードが入っていますか?
BURTONやSALOMONがあります。しかし、値段は高いですね。日本からはkissmarkが入っていて、こちらの方の値段は安く設定しているようです。

これから中国ではスノーボードが人気が出るでしょうか?
きっと若い人たちから人気が出るでしょう。

ところで、中国で有名な日本人スノーボーダーと言うと。
成田童夢です。お父さんにも会いましたよ。おもしろい方ですね。

左、今回の田さんのインタビューのため通訳をしていただいた王さん。

選手たちは、以前はどんなスポーツをされていたのですか?
体操、武術、スキーなどをやっていました。彼らがスノーボードを行っているのは2年間ですが、その間にスノーボードをやっている日数で計算すれば8ヶ月ほどです。日本にも合宿に行っています。全日本大会や学生選手権にも出場しています。

これからの目標を教えてください。
ワールドカップの出場、そしてイタリア五輪に出ること。 2007年には中国でアジア大会が開かれるので、そこで活躍する選手を出したいです。また2010年にはカナダのバンクーバーで五輪が行われますが、その時にメダルをぜひ取りたいです。

五輪で初めてスノーボード種目が採用された時、日本でスノーボード人口はどれくらいいたのだろうか? きっとあの時点で数百万人の方がスノーボードを体験していたと思う。しかし、現在の中国でのスノーボード人口は、まだ1万人ほどでさらにハーフパイプ人口というと 100人に過ぎない。そして、今回、カナダに来ている15人ほどの若者がその頂点にいるということだ。この選手層を形成するピラミッドは底辺があまりにも小さくて、スノーボードに関しては小さい国である、という実感がある。

しかし、中国のハーフパイプ・チームは(1)今では経済発展も成功した大国という国をバッググランドに選手を応援する体制が整っているし、また(2)企業もスポンサーしているということで、金銭面でのバックアップがある。そして、さらに(3)選手は以前、他スポーツで秀でた実力の持ち主で、ひじょうに若い。

以上のことから、中国は将来大きなメダル・チャンスがあると考えられる。

田有年さんのインタビューで中国のスノーボード事情は、だいたいわかって来た。
中国が国をあげて選手を応援する体制が整い、将来、五輪でメダルを取ることを目標にしていることもわかった。そこで、ここからはさらに中国選手の練習風景にスポットを当てて、その実力を紹介することにしよう。

純粋にスノーボードに打ち込む真摯な態度が
中国チームを応援したい気持ちにさせる

中国選手は、みんなまとまって行動をする。これは他の国の選手には見られない光景だ。リフトに集合する姿、みんな一同にストレッチングを行う姿、その後にハイクアップする姿は、まさにスポーツ大国の申し子、厳しい世界に生きて来たスポーツマンという匂いがプンプンする。
スノーボードというのは個人競技だが、このように一同に目標に向かっている姿は、全体的に良い雰囲気を作るのではないか、と思った。もちろん一流選手ともなれば、自己管理、自主トレによりさらに躍進して行くのだろうが、スノーボード界で頂点を目指す若者たちは、このような規律が取れた世界で学んで行くことも多々あるのではないか、と彼ら中国チームを見て思った。


左)みんなで揃ってストレッチング。規律が取れた集団に新鮮な匂い!
右)一人の女性選手をグレーシア・キャンプのコーチ、そして通訳などを囲み説明されていた。

この中国選手たちがウィスラーに来る前、様々な憶測が飛んだ。中国チームはどれくらいうまいのだろうか? いやいや、まだ大したことないんじゃないか?とか。
その噂の背景には、いくらバックグランドに素晴らしい体操選手などであっても、スノーボードはそれほど甘くない。そして、彼らに対する何か否定的な風が流れていたのも事実である。
しかし、実際に中国選手を見た者たちは、そのような揶揄、否定的な気運が 180%変わり応援したい、という気持ちになったようだ。
というのも、中国選手は元々スポーツを真剣にやっていた若者たちだから、そのスポーツに対する姿勢がひじょうに真摯に感じる。今、スノーボード界でなかなか見当たらない謙虚な態度で、純粋のスノーボードをうまくなりたい、というエネルギーが充満している。
ひるがえって日本やカナダのナショナル・チーム選手を見たら、どうだろうか? 彼らは世界の中でも一流のトップ・ライダーたちであるが、中国人選手のようなエネルギーはあまり感じられられない。例えば、天気が悪ければ、素直に「かったるい」という態度を見せてしまうし、中国選手のようにガムシャラに練習している、という印象はない。
今、日本にいるトップ選手も以前は、今の中国人選手のようにガムシャラに練習しているからこそ世界の頂点に立った、ということも考えられるが・・・。やはり選手というのは、こういう直向な姿勢で打ち込むと、その姿が美しい。また素直に応援したいという気持ちが沸いてしまう。だから、この中国人選手を見守るグレーシア・キャンプのコーチ陣やスタッフたちは、最初彼らの存在をおもしろがっていたところもあったが、今では彼らを純粋に上達したいという気持ちを受け止め、「応援したい!」という強い気持ちにになっていると思うのだ。彼らが中国チームを迎え入れている姿を見ていると、そう考えずにはいられない。


左)カメラを構えていた自分にピース・サイン! 意外に陽気な選手にビックリ
右)ピース・サインの少年の2日目の練習日。この時点ではまだエアー・ターンがやっと。


日増しに上達して行く中国チームに
アスリートとしてのポテンシャルの高さを感じる

先に田有年(Tian Younian)さんにインタビューした日は、まだ中国選手がエアー・ターンと決めているという状態だった。しかし、しばらく自分が山に上がっていない2週間で彼らはどこまで変わっただろうか?
「今、この特集を読んでいるみなさんはどう思いますか?」

なんと彼らはまるでサナギが蝶になったように、見違えるように上達してしまった!スノーボードを20年間やった自分がなんとなく認識していたことではあった。つまり、レベルの高い体操選手がパイプをやれば、もの凄く上達してしまうんじゃない、と。実際、自分は半分冗談で、「北朝鮮選手の監督やったら、メダルを取れるところまで成長させることができるような気がする。こういったスーツ交流っておもしろいんじゃない」なんて語っていたこともあったからだ。
しかし、実際に目の前でそのような成長記録をガツンと見せられて、まさに自分はクラクラ状態である。ある意味、スノーボードをほとんどやっていなかった若者たちが、2週間でマック720やクリプラー、そしてフロントサイド900まで決めてしまったら、「そんなのアリかよー!」ってな感じである。例えば、今、日本ではパイプうまくなりてぇー、プロになりてぇー、ナショナルチームに入れたーい!と夢抱く若者たちは多いだろう。しかし、この中国チームが与えたメガトン級の上達インパクトは「体操を真剣にやったものは、パイプの難易度ある技なんてカンタンさ!」と言っているようなものなのだ。

今年のワールドカップの女子では720はもちろん900まで決める選手まで現れて、「いやあ、凄い時代になったねえ」なんて言っていたけど、中国選手という存在が現れた今、もはや「そんなの1シーズンでできるのあたり前でしょ!」と衝撃のコメントを聞かせれたようなものである。言葉はないけど、彼らには凄いメッセージをもらったような気がした。


左)高さもずいぶんと出せるようになって縦回転もOK!その成長にビックリ
右)談笑しながらハイクする中国人選手。きっと初めてのカナダは良い経験となっているのだろう。

中国人選手たちにビックリしたグレーシア・キャンプのヘッド・コーチ、ベン・ウエインライト。

今回の中国選手たちは、カナダ・ブラッコムのグレーシア・キャンプのパイプを使用していたのだけど、そのキャンプ・ディレクターのベン・ウエインライトは、こんなことを語っている。
「彼らは今度の冬にはまだ脚光を浴びるのは早いけど、その翌年には間違いなく強烈なインパクトを残し、世界にその名を広めるだろう。そして、2010年のバンクーバーでオリンピックでは彼らに勝てる選手は出ないと思う。というのも彼らひじょうに練習熱心だし、持って生まれた運動センスが並大抵のレベルではないからだ。」

こんな話を聞くと、これからのスノーボードの世界は、現在の世界経済のように中国が台頭して行くのか?と思われる方もいるかもしれない。自分が今回取材した限り、まずハーフパイプの五輪種目では、「Yes!」彼らはきっとメダルを独占するような存在に成長するだろう。しかし、スノーボードの世界と聞かれれば、 「Probably(たぶん) No」スノーボードの魅力はパイプだけでなく、もっと広い。世界に様々なスノーボードの楽しみ方があるので、これからもやはりスノーボーダーとしての努力を積んだライダーが、そのスタイルをビデオなどで披露し、この世界を牽引するだろう。

しかし、ここ2、3年の間でスノーボードを知った中国選手の若者たちがここまで上達した事実は、まさに衝撃であることには変わりはない。これから先に中国選手がどこまで成長し、実際に世界のスノーボード・シーンでどのようなインパクトを与えるのか、興味は尽きない。


キミたちの笑顔は決して忘れないぞ!
あれっ、なんでオレこの子ばかり撮影しているのだろ?
運命の糸で結ばれているのだろうか・・・

 

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