文:飯田房貴 [email protected]
今、世界的なスケートブームだ。
ヨーロッパやアメリカの業界誌でも盛んにそのことが伝えられている。
例えば、以下はスノーボーダーにも馴染みが深いソックス・ブランドのStanceがイギリスで仕掛けたキッズ向けのイベントの模様を紹介する動画だ。これまでスケートをやったことがない子供たちにスケートの楽しさを伝えている。
記者の周りでも、今までスケートをまったくやっていなかった子供が、この夏に急に始めたケースを見て来た。
ちなみに私の娘も、この夏スケートを始めて、「お父さん、いっしょにスケートに行こう!」と誘ってくれるので、個人的にも超嬉しい。ティーン世代の娘がどんどん大人の階段に上がる過程で、こうして久しぶりにいっしょに楽しめるものができたのだ。
スノーボードのメーカー、代理店の多くはスノーだけの商材でなく、スケート関連を扱うカンパニーが多いので、スノーボード市場にも好影響を与えている。ある代理店関係者は、「スケートが売れているので忙しい」という声も聞かれた。
暖冬により、マーケットが冷え込んだ中、シーズン終了前にはコロナの影響により、スノー市場は急激な閉塞感が蔓延してしまった。
2月に行われた横浜パシフィコでの展示会でも、冬場に残った在庫の影響により、ショップ側は興味を持った新ブランドがあっても、なかなかオーダーまでに至らないというケースも見受けられた。
しかし、この夏のスケート・マーケットの活性化により、業界はなんとか一服つけたようだ。
おそらく、このスケートブームの影響は、しばらく続くだろう。
スケートブームの要因
そもそもスケートがブームになった要因は、何だろう?
いくつか言われているが、その一つが東京オリンピックでの正式種目化と言われている。
これまでなんとなくアンダーグランド的だったモノが、人々によりメジャーで明るいスポーツに映ったようだ。
もう1つは、コロナの影響により、集団スポーツがやり難くなったこと。
比較的に安価で手軽なスケートが、今の若い人たちにとって始めやすかったということが大きいだろう。
あと記者が個人的に思うのは、こうした横乗りのスポーツというのは、これまでそうした遊びをしてこなった者にとっては、ちょっとした壁があったと思う。
うまい人が多く、なんとなく「自分なんかは入っていけない」という空気感だ。
しかし、現在は世界中でよちよちした初心者スケーターが増えたものだから、「自分にもできそう!」という気持ちが沸いたのではないだろうか?
振り返ってみれば、90年代初期にスノーボードが大きなブームとなった時も同じような空気感があった。
ゲレンデに行くと、みんなが初心者で、コースには至るところで初心者のスノーボーダーたちがうまく滑れなくて座ったりしていて、スキーヤーの人に迷惑をかけた。
言葉が悪い人からは、「畑の大根」と揶揄されたものだった。
80年代のサーフィンの世界でもかつてあったが、横乗りの人というのは、なんとなく強面。どことなく、その世界に入ることは勇気が必要だった。新参者をあまり温かく受け入れないという雰囲気だ。
しかし、今の横乗り、スケーターたちはひじょうに明るいスポーツマン・タイプが多い。
以下は、夏と冬のオリンピック出場を目指す二刀流でお馴染み平野歩夢が出演している、初心者向けに作られた動画である。
こうした新しい人を受け入れるウエルカム感が、より多くのスケーターが増えている要因だろう。
あと、スケートって、なんとなく部屋にあると、それだけで気分が高まるという面もあると思う。
ファッション的にもオシャレなグラフィックが多いところも若者に受けている原因だろう。
しかも、思い立ったら、気軽にできる!
それこそ、毎日、一日何度でも短い時間を使ってできるカジュアルな遊びなのだ。
スケーターがスノーボーダーになる?
業界としては、こうしたスケーターたちが増えた状況で、今後はいかにこうした層を、新たにスノーボーダーにウエルカムできるか!
そこが大きな鍵となるだろう。
スケートと違って、値段が高いスノーボードは、やはりそこに大きなハードルがある。
そこで業界のアイデアが必要になって来るのではないだろうか?
考えられることは、ネット・サービスによる中古市場の活性化だ。
いわゆる、「売ります。買います」的な、サイトが目立って来るような動きである。
幸いにもメーカーやショップには、昨年の余った在庫がダブついた状況である。
こうした新古品は、市場に出回るので、スノーボードを始めた人は、比較的に安く、良い商品を買えるだろう。
あとはなんと言っても、実際にユーザーと接するショップの立場が大きいと思う。
夏場に来た新規のスケートのお客さん。
そのお客さんに、冬場のアクティビティとして、上手にスノーボードを勧められるか?
また、こうした初心者に、実際にツアーなどで同行して、うまく教えてあげることができるか?
つまり、今までスノーボードをやったことがなかった層をうまく導くこと。
そのへんがポイントだと思うのだ。
思えば、90年代のスノーボード・ブームの時には、こうした新規のユーザーの受け入れがうまくいっていなかった面が多かった。
ショップに来たお客さんの接客が悪く、良いギアを勧められなかったケースや、店員さんの態度も一部で酷いところが見受けられた。
またスキー場のスノーボード・スクールでは、怒鳴り散らすようなイントラもいたし、受け入れる人数が多く、粗悪なクオリティーのレッスンもあった。
今回は、こうしたことはないと思うが、新たにスノーボーダーになってくれた人に、「とても楽しい!」と思ってもらえるようにしてほしいもの。横乗りの先輩、つまり今これを読んでくれている一人一人の気持ちが大切なのではないだろうか、と思う。
コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作してきた。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は35年。