【コラム】撮影プロと競技プロ

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多くの一般の方に勘違いされやすいスノーボードのプロ。
撮影プロと競技プロというテーマをきっかけに改めてスノーボードのプロフェッショナルなことを考えてみました。
と同時にこんなことをしてみたらいいんじゃないか?ということを提案してみました。
みなさんのご意見もいただければ、幸いです。

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文:飯田房貴
e-mail: [email protected]

スノーボードのプロは、大きく分けると2つ。
1つは、撮影し編集された映像作品を見せるプロ。
もう1つは、競技プロ。

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両方できることに越したことはないが、現代のスノーボードの世界ではなかなか難しい。
競技で活躍できても、なかなか優れた映像作品を残すことができないのが現状だ。

例えば、ここに1つの実例を示したい。

以下の動画は、今年デンバーで開催されたRiders’ Poll 17の模様だ。
さながら、スノーボード界のグラミー賞(音楽)、アカデミー賞(映画)と言っていいだろう。世界のスノーボード・メディアを牽引するTransWorld SNOWboardingが主催する賞でもある。

その中でノミネートされた映像プロダクションが以下。

そして、さらに映像パートでノミネートされたライダーが以下になる。

いずれのライダーたちも、メインストリームの大会には出ていない。当然、オリンピックには出場しないようなプロだ。でも、スノーボード界でとてもリスペクトされているプロで、きっとスポンサーなどから良い報酬も得ているプロフェッショナル・ライダーだ。

このように、撮影プロと競技プロが分かれて来たのは、いつ頃だろうか?

80年後半から90年代にかけて、クレイグ・ケリーからテリエ・ハーコンセンに橋渡しされた時代は、まだ撮影プロと競技プロは平行していたように思う。
90年代に台頭して来たジェイミー・リンは、最初に競技(パイプ)で後は撮影という感じだった。
その後に出て来たピーター・ラインも同様に、最初は競技(ビッグエアー)で後は撮影。

さらに後、JPウォーカーあたりになると、もう完全に競技プロと撮影プロが分かれている感じがする。
あれが、確か2000年前後のこと。

昔から今でも1つ大きな流れだと思うのは、かつて競技プロで活躍し、その後は撮影プロとして活躍するパターン
一概には言えないが、どんな一流撮影プロでも一度は競技プロとして活躍して来ているもの。
例えば、世界最高峰のエクストリーマーのザビエ・デラルーはかつてボーダークロスの選手だったし、ジブ界で一世を風靡したシモン・チェンバレンも最初は競技から台頭した。
日本では、國母和弘が世界のパイプ界の頂点に達し、さらに現在、撮影プロとしても世界トップに立ったという実績を持つ。

だから、よく言われることは、「競技で活躍できなかったライダーは、撮影プロになっても活躍できない。」というもの。
オレが言ったことではないんだけど、よく聞く言葉だ。
もちろん例外はあるんだけど。

だから、若いライダーで現在、選手として頑張っているライダーは、今、どんどん競技の方を頑張ってほしい、と思う。

また、オリンピックのお蔭で、競技プロはひじょうにもてはやされる時代だ。
実際、DMKのニュースでも日本人選手が世界の大会で活躍すると、ヒット数がたちまちアップする。世間の関心は、それほど高いのが、一流の競技プロ。

特に平野歩夢、角野友基に関心がある人が多い。彼らの名前がニュースで踊れば、ヒット数もたちまちアップ。
だから、スノーボード・メディアは彼らに依存しがちなる。特にネットの場合、もろにヒット数という形で跳ね返って来るので、どこでもこの情報は見逃せないという形になっている。

だけど、彼らもきっといつかは、競技プロだけでなく、撮影プロとして活躍してくれるのだろう。
そんな彼らが大人なライダーになった時、より日本のスノーボードの世界が成熟すれば良いけど、果たしてどうだろうか。

スノーボード・プロという不思議性

そもそもスノーボードのプロというのは、他のプロ・スポーツ選手と比べてもまったく異色だ。
例えば、サッカーの場合、サッカーという試合で活躍することが前提でプロになれるかどうか決まって来る。子供がやっているサッカーも、プロがやっているサッカーもゴールに向かって点を取り合う。

野球だって同じだ。
子供でも大人でも、守って攻撃して点を取り合う。
どんなスポーツでも同じだろう。しっかりとした方向が導かれている。

採点競技、体操やフィギュアスケートだって、どんなことをすればメダルが取れるのか、わかるようになっている。

だけど、スノーボードはどうだろう?
自由過ぎる!(笑

こと競技に掛けては、他のスポーツ同様に活躍方向はわかる。
アルペンレースならタイム、ボーダークロスなら速く滑走し、ゴールを切った選手。
フリースタイル種目なら、どれだけ高く難しいトリックをしたか。どれだけ回ったかなど。

でも、それだけではない。競技に出なくてもプロと呼ばれる。撮影プロだ。
撮影スポットは、バックカントリー、ストリート(街中)が主。
ここでカッコ良い映像を残すトップライダーは、競技プロにも負けないような高額な所得を得ることも可能だ。

ここで改めてまとめてみよう。
スノーボードのプロがどんなことをやっているか。
誰よりも速く滑る(レース系)、決められたアイテム、パイプやスロープコース、ビッグコースで誰よりも難易度が高い演技をする(フリースタイル・ジャッジング系)、バックカントリーやストリートで撮影する(撮影系)。

これら、すべてスノーボーディングだけど、やっていることが違い過ぎる。
これほど自由でプロという形が分業化されているスポーツも珍しい。

だから、一般メディアは勘違いするのだろう。
今でも覚えているが、毎週日曜日楽しみに見ているニュース番組、サンデーモーニングで「こんな子供が遊んでいるものが、五輪種目なんて」みたいな言われ方をした時には、ショックだった。そして、張本さんはお決まりのセリフ「こんな怖いことして、何が楽しいのかねえ。」

そうスノーボードは、世間一般的に勘違いしやすいスポーツなのである。

だけど、根本的には、すべてのスノーボードのプロが表現することは、それはスノーボーディングの一部でしかない。
パウダーで滑る気持ち良さはやった者しかわからないし、仲間とセッションする楽しさ、さらには自然との触れ合いなど、体験したものしかわからない。

だけど、僕たちは、というか、僕が決めたことでないけど、スノーボードでプロ化を進めた人たちは、勝手にスノーボードの競技を作って、また勝手に撮影でプロという形を作って、スノーボーディングで優れたライダーがプロとして喰えることを作って来たのだ。まあ、ほぼクレイグ・ケリーが犯人なんだけど(笑)。
最初のビデオやフォトインセンティブ、つまり映像の長さや写真の掲載の大きさなどで報酬をジェイク(バートン)からふんだくったのは、クレイグと言われているから。当然、クレイグは、元々プロの競技者でもあったし。

そんな過程で、今では消えてしまったダウンヒルもあったし、モーグルだってあった。実際、オレ30年ほど前にそんな競技に出ていたし。

日本では、デモンストレーターという独特な文化も作り上げた。また、競技プロ団体も作った。

ちなみにずっと以前には、JSBAだけでなく、他にも団体があった時代もあったんだよ。
だから、日本に2大スノーボード競技団体が継続されていた可能性もあった!

ともかく、様々なことをして、プロという形を築いて来たのは確かだろう。

最近のプロがやることの危惧

ただ、ここで1つ気になるのは、プロがやっている表現方法は、あまりにも一般とかけ離れていないか、ということ。だからこそ、プロ!と言われれば、それまでだけど(笑)。

例えば、現在の撮影シーンは、ほぼゲレンデは使われない。ステージは一部の人しかやらないようなバックカントリーやストリートだ。ある意味、現代のスノーボード・シーンの弱点なのかもしれない。なぜなら、かつて90年代、炎が滾るように盛り上がった時代は、ゲレンデ内での撮影シーンが主だった。

例えば、以下のロードキルのように。

ここ最近、YAWGOONSというビデオシリーズが人気が出ているのだけど、彼らのやっていることというのは、結構、僕らに近かったりする。

手軽なアイテムでジブで遊んだり、リバースターンと言って逆向きのカービング・トリックを流行らせたのも彼らの功績だろう。
最近、自分もよくやるけど、リバースターンっておもしろいし、誰でもチャレンジできる。

以下、最新のYAWGOONS動画。

こうした動画シリーズが人気が出る背景は、僕たちが求めていたミッシングがあることではないだろうか。
具体的に言えば、自分たちのやっているスノーボードとプロがやっていることの距離感を感じれること。離れていても、同じ種類のことをやって良い気持ちになりたいというか。

例えば、サッカーで言えばメッシのようなドリブル、ロナウドのようなフリーキックがあるけど、子供に「お前のドリブル、メッシのように抜きまくったな。」なんて言うことができる。もちそん、そこにはプロと子供の技術の距離感はグーンと離れているだろいうけど、関係性を感じれるのは事実だ。

だけど、25メートルプールを飛び越すほどの巨大ジャンプでのトリプルコークとかって、かなり遠い。まして、ストリートでやることは、一般スノーボーダーとやることとかけ離れている。

じゃあ、どうすればいいのか?というと、1つアイデアとして、LIVEである。
そう、ミュージシャンのようなコンサートというか。

先日、自分のよく知っている子が、布施忠の凄さに感激していた。
なんでも何かチケットが当たって、野沢でセッションすることができたんだって。こうして忠とセッションした後に、忠の映像作品を見ると、一入だと思う。また、撮影プロの奥深さをより追及することになるだろう。スノーボーダーとしての目が深まるのだ。

撮影プロというのは意外に気さくな面があり、以前シモン(チェンバレン)にも聞いたけど、勝手に一人で滑りに行った時は、そこで知り合った一般の人と滑ったりすると言っていた。忠にしても、以前、自分が行ったウィスラーキャンプで、たまたま会って、いっしょに滑ったことがあった。あれは、参加した人たちは感激だったし、忠というライダーのすばらしさを見た一面だった。

だったら、そういういっしょに滑るLIVEとか、チケットとかあっていいのでは?とも思うのだ。

まあ、誰々と滑ろうツアーとか、誰々に教わるツアーとかあるので、ないことはないだろうけど、もっと世界レベルで活躍するプロとそうした時間が、1シーズンで1度でもあれば、おもしろいかなあ、と。みんな忙しいだろうから、メーカーをバックに1度でも。

あと、競技で活躍している姿や、撮影で活躍している姿というのは、その凄さがうまく伝わっていないので、そのへんはメディアの仕事、自分たちの反省になるのかな、と思う。
ここ最近スノーボーディング・プラスの野上さんのコラムとか、競技選手の凄さや深さをわかりやすく表現してくれるので、そういうのがもっともっと広がるといいのかな、と。

ここまで書いて思ったけど、この世界は発信者が意外に多い反面、その理解者とか説明者がかなり少ないのかもしれないなあ。
だから、伝わっていかない。
まあ、そういうことをコツコツやっていくことが、自分の仕事になっていくのかもしれない。

そのためには取材費がほしい!(笑
まっ、見てろ。今に自分で作るさってか!?

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