かつてはコンペティションシーンでスノーボードに打ち込み、最近では雪山を中心にスノーボードの魅力を配信し続ける加藤彩也香。数年前にウィスラーを訪れその魅力を感じ、今回は長期滞在を決心しカナダにやって来た。今シーズンの活動をほぼ終えるという5月に、彼女と2回ブラッコムにいっしょに上がる機会を得て撮影。
身体は華奢ながら躍動感溢れるダイナミックな滑り。ほぼ確実に決めてくれる実力とスタイリッシュさ。そして笑顔が素敵で、彼女と撮影しているとスノーボードの楽しさが放出するオーラを備えているようだった。
「ウィスラーで山を滑ってスノーボードが100倍楽しくなった!」という加藤彩也香に帰国直前にインタビュー。
インタビューアー:飯田房貴
--カナダには3月9日に来たということですが、今回、この春(インタビューが行われたのは5月中旬)まで滞在した理由は?
どんなテーマを掲げてこの春、ウィスラーをベースに活動しようと思ったのですか?
彩也香: ここ数年間、白馬の山々でたくさんの良い経験を積ませてもらっていて…。きっと以前来た4年前と自分自身も変わっているだろうから、ウィスラーの山の見え方も感じ方もぜったいにもっと楽しくなってると思ったんです。バックカントリーも含め、今の自分でどこまでいけるか。そこに挑戦してみたかった、という思いがありました。
コロナ禍もあって中々海外へ行くことが遠くなってしまっていて、海を渡ることはカンタンにできなくなって。それだったらカナダでもっともシーズンも長い、雪のあるウィスラーでシーズン最後まで滑り込んで、自分自身ここでさらに成長したいと思って春まで滞在することに決めました。
また、カナダの環境への配慮や取り組み、ライフスタイルからも学ばせてもらうことも一つのテーマだったのですが、その部分でも各地でたくさんの気付きがありました。特にウェルネス(※健康と幸福の総合的な追求)の部分でカナダやここに集まる人達から教えてもらうことも多かったです。
--ウィスラーではパウダーにも恵まれて、良いシーズンを送ったようですが、彩也香ちゃんにとってどんな体験になりましたか?
彩也香: 凄く心動かされたり、日々の学びも喜びもあり、今まででも最高のカナダ遠征になりました。
雪に恵まれて、初めてウィスラーの冬を味わえたのがとても感慨深かったです。
雪があるお陰で行ける場所も広がり、やっとウィスラー・ブラッコムっていう山の「TOP TO BOTTOM」の本領発揮を味わえたのが本当に嬉しかった!
ウィスラーはアルパインから樹林帯まで広大。全力でスノーボードをするってこんなにも楽しんだっていうのも日々改めて感じました。毎日熱く滑れたので、スピード感覚やライディングもネクストレベルを感じれたように思います。
山を滑るようになってスノーボードが100倍楽しくなったなって。ウィスラー来て改めて感じました。
--ウィスラーでは自然のままの山を滑ることができますが、バックカントリーを滑る時の心構えは?
また、「山を滑るようになって」ということですが、どんなことを学んで来たのか。よかったら教えてください。
彩也香: 雪山についてよく学んで、よく見て、自分が自然の雪山に合わせていくんだって思ってます。
パウダーは本当に最高だけど、バックカントリーは難しい時もよくある。だからどんな状況でもゆとりを持って対応できるよう、普段のゲレンデでもいっぱい滑ってスキルを磨いておくのも自分のなかの心構えかな。
そして仲間と見守り合う。 日本は積雪構造も複雑で、一気に雪が降りすぎて危ない時もあったりします。 怪しいなって思ったら奥まで行くのはやめておいてゲレンデパウダーを楽しむ日もあります。積雪の推移や風、気温の変化…、そういう自然のリズム、自分の心の声を聞いて判断をしていこうと思ってます。
--最近、日本でよく流れる外国人がバックカントリーに行って雪崩に巻き込まれたというニュース、気になります。
彩也香: 雪崩についてはいつも勉強させてもらってます。
何年も前に雪崩講習を受けて、その後も毎シーズン何度もトレーニングをしてバックカントリーに入るようになりました。雪崩を起こさないための行動。雪崩の引き金になってしまわないよう斜面では安易にトラバースしないとか、雪崩の道筋になるような危険地帯にいないこと。雪や地形、周りをよーく見た上での冷静な判断など、先輩たちと滑る中で教えてもらいました。
雪を知ることは普段から意識していて、雪の上で歩く一歩、ハイクしてる時のポールを差しながらの感じる雪の感触、日々のちょっとした雪山の変化、日常生活やオフシーズンのSUPやサーフィンも風を読む上で学びになってます。
--この春には豪雪地帯と言われているネルソンにも行きましたが、どうでしたか?
ネルソンで改めて勉強になったのは自分も含め、仲間みんなの心の状態が万全かどうかを必ず確認しあってからドロップインすること。雄大な自然の中に身を置いたとき心の状態ってすごく大事な要素になってくるから、リラックスしながらそこを共有しあっているのがすごく素敵で大切なことだなって思いました。
あと、ネルソンではスノーボードコミュニティの素晴らしさや、ローカルのスノーボーダー達の山と向き合うライフスタイルに凄く良いもの見せてもらいました。自然と共生しながら豊かに暮らすライフスタイルや澄んだ空気感、その土地そのもの、人がとても素晴らしい場所でした。
スキー場は閉まっていたけどローカルのスノーボーダーの方と一緒に、毎日ハイクして登ってネルソン周辺のバックカントリーでスノーボードすることができました。
日本では見ることのできない雪との出逢いに湧き上がる喜びは言葉にならないくらい。原点に返った瞬間でした。
クートニーの山々や自然、ここの人々の優しさと雄大さにはもの凄くパワーをもらって。思っていた以上にエキサイティングな地形ばっかりで、滑りもストークできたしめちゃくちゃ楽しかった!
心の在り方みたいなものかな? 関わる人たちのおかげでこの旅では心の部分でも成長させてもらったように思います。
--さらに精力的に動いて、アルバータ州のサンシャインビレッジで行われたHOLY BOWLYにも参加しましたね。
彩也香: HOLY BOWLYは世界から招待されたライダーが集まってセッションが行われていて。世界のみんなとセッションしようと思い、バンフへは一人で行きました。運転免許証を忘れてレンタカーを借りれないという結構大きなハプニングが最初からあったのですが、ここはもう人の世話になって旅を続けようと思ったら、それがすごく良かったです。
人の優しさも本当に染みて。自分自身もそうなろうって思えました。
クリエイティブな遊び方や、年齢を重ねても真っ直ぐに本気でプッシュしているスノーボーダーたちはめちゃくちゃカッコ良くてすごく刺激を受けました。
いっしょにハイクしたり、滑ったりしてると友達もたくさんできました。
世界中から集まったストリートやパークの最前線、様々なフィールドで表現している年齢も様々なライダーのみんなと繋がれるのも嬉しかったかな。 そこはそこにしかない雪だったり、地形だったり、概念だったり、リズムだったり…。
いろんな場面でいつも柔軟に自分がその雪や状況を受け止めて、合わせていこうと思ってます。
その感覚により一層近付けたことがきっとよりスノーボードを楽しくさせてくれた気がします。
--旅が彩也香ちゃんと一段と逞しく成長させたようですね。
彩也香: どんなフィールドで滑っていても、みんながスノーボードを愛してる。それぞれが自分自身をプッシュしながら、みんなで讃えあって高め合う。
最高に良いセッションでした。
最終日はライダーのみんなが同じ気持ちでこのセッションを駆け抜けたこと、この瞬間のスペシャルなセッションに感謝が溢れて。それを全員で分かち合えたのは言葉にならないくらい感動しました。
スノーボードってこれだな!って。
今回HOLY BOWLYは10周年だったのですが、セッションのあとの整備タイムでは相変わらず自らボルケーノ(※HOLYBOWLYパークを象徴するアイテム)の上に立って、整備をする主宰者のクラッシュの姿にすごくジーンと来て。
こういう場を創るってすっごくカッコイイなって。カナダのスノーボード誌の若手のカメラマンや編集者たちとも出会えてクリエイティブの部分でもすごく良い刺激を受けました。
--ウィスラーでは、春のパークでも良い経験をされたようですが、どうでしたか?
彩也香: 春パークでは、子どものときに憧れて見ていたようなムービースターたちと一緒にセッションする機会もありました。
歳を重ねても攻め攻めで、全力で楽しんでる姿が本当にカッコよかったです。そんなライダーたちとハイファイブしてるなんて、過去の自分は想像もつかなかったなぁ…。
今こうして、そんなスノーボーダー達と滑りで繋がれたことはすごく胸が熱くなった瞬間でした。
本当に人と雪に恵まれた遠征になった。感謝しかありません。
--以前は、ハーフパイプ、スロープスタイルなどコンペティションシーンで活動していたと思うのですが、現在のようにバックカントリーでの撮影に力を入れるようになった理由は?
彩也香: もともとフリーランが一番好きだったんです。子どもの時から遊びもゲームとかじゃなく自然の中で遊んでたから自然の雪山、バックカントリーを滑ることに幼心ながらすごく惹かれていました。
10年前くらいにウィスラーで大きなケガをして手術もしてそれも一つの転機になって。
これだ!っていう、自分が本当に心からワクワクするものを突き詰めて行こうと。ケガを乗り越えるも楽じゃなかったツライときもあったけど、今ではそれが現在の自分を作ってくれたなって思います。おかげで何があっても大丈夫だって信じれるようになりました。
山もパークも滑るなら白馬だ!って思い立って、白馬に行ったら北アルプスの美しさに感動して。その春に白馬のプロスノーボーダーの大先輩たちと出逢って一緒に山に上がらせてもらったり撮影をするようになりました。
フリースタイルに遊びながら自然の雪山を滑る。それをずっとやってきた人達は、滑りも中身もめちゃくちゃカッコよくって大きな衝撃を受けました。そうしている間に日本でもフリーライドっていう競技や大会ができてきたり。
今、スノーボードで自然の雪山を滑ることにものすごく幸せを感じています。
冬は毎日のように山に上がるけど、あの稜線に立てるってきっとスペシャルなことだと思うから。
その感謝の気持ちも糧になっています。自分の滑りや表現で、スノーボードの楽しさや喜び、ストークする瞬間。自然の美しさや言葉にならないくらいの感動を少しでも届けれたらいいなって。
ちょっと外に出て見ようかなってその一歩になれたらなと思ってます。
熱い滑りは心動かす。見てくれている人達に明るくなるような何かを感じてもらえたらこんなに嬉しいことはないです。
--彩也香ちゃんを見ていると、身体は華奢ながらひじょうに力強くスタイリッシュにライディングをしている印象があります。
自分の滑りに影響を受けたライダーはいますか?
彩也香: 増田塁輝くん、滝久美子さんです。
ルイキくんのリラックスの姿勢でいながらも、大自然を相手に全開で攻めるライディングにはめちゃくちゃシビレさせてもらってます。視野が広くていつも想像を超えてくるようなラインやジャンプは完全にオリジナルで、いつもそんなふうにくるのかっていう。めちゃくちゃ上手い滑りのスキルに加え、シンプルに超カッコイイ。そんな姿に良いものを見せてもらってます。
そしてRIDEチームの先輩でもある滝さん。
滝さんのとっても楽しそうに、そして気持ち良く滑る姿が、本当に綺麗でかっこよくて。
いつも男性のライダーの中に混じって山に上がることが多くてなかなか上手くいかなくて悩んでた時に、自分は自分らしく輝けばそれが最高なんだ!って教えてもらいました。
女性スノーボーダーであることを心から誇りに思えたきっかけにもなりました。
--インスタを拝見すると、オフでもひじょうに活動的で山や海、自然を愛しているんだなあ、と思います。
彩也香ちゃんにとって、自然とは?
彩也香: うーん…、自分そのもの?
自分にとって一体のような、自分も自然の一部というか。そんな感じになってきてます。
いろんなことを教えてくれて、見せてくれる先生でもあり。
過酷なときも多々あるんだけど、それと同じくらい美しい景色で包んでくれたり、背中を押してくれたり。癒されたりパワーをもらったりもする。
スノーボーダーってその山の生き物のような。
自然の中に身を置くのがすごくしっくりくる。いつもそばにいてくれてるんですね。うん、すごく愛してる。そしてリスペクトを持って接してる。
だからいつもどこ行っても雪が良いのかも。
--ところで、プライベートではどんなことをして過ごしていますか?
スノーボードや登山、それ以外に意外な趣味とかあれば教えてください。
彩也香: 波があればサーフィン、なければサップをしています。
海の時間もすごく自分にとって良いものになっていて。少しづつ海についても学んでいて知れば知るほど楽しみが広がってっています。
あとは畑とガーデニング。
植物を育てるのが好きで、特に花が好きです。
最近では海に行ったときに拾った漁具のごみを再利用してプランターも作ったりしています。
子どものとき母からの教えで花が好きになったのですが、植物を育てるのってすごく良い。心にも大地にも育つものがあるんだと思います。
--最後に、23-24シーズンに向けて豊富を聞かせてください。
彩也香: ひとつはフリーライドの世界大会に挑戦すること。もうひとつは映像や作品を通じて自分自身のスノーボードを表現して、たくさんの人へ“MANA“を届けることです。(“MANA“とは自身のプロジェクトで映像や作品、スノーボードや自然からのギフトをシェアする輪。自然のもつエネルギー・愛を意味する言葉)
他にもずっと挑戦したい斜面と山もある。 より一層、のびのびと山と一体になれるような滑りをするのも目標です。
そのために心身ともにチャージしてまた冬に向けて自分自身を磨いていけたらと思っています。
またカナダでセッションする素晴らしさを再確認したので、いろんなスノーボーダーの方とセッションする機会も作りたいなとそれも楽しみにしています。
加藤 彩也香
@sayaka_419 https://www.instagram.com/sayaka_419
ホームタウン:佐賀県佐賀市
生年月日:1992年10月11日
スポンサー:RIDE、patagonia、Oakley、BCA、HOME.MOUNTAIN、airblaster(ninjasuit)、装具屋ミツナガ、Fit tune、三根眼科医院、UP FIELD、田島株式会社、西村商店、嬉乃すし、HAKUBA VALLEY、Acharm