
文:飯田房貴 @fusakidmk
近年、スノーボード関連ブランドのオーダー締切が早まっています。かつては展示会が2月中、オーダーは3月頃が一般的でした。しかし今では1月中に締切が来るケースもあり、ショップから「メーカーが勝手に締切を前倒ししている」と批判されることもあります。さらに特殊なレイトモデルでは、さらに特殊なスケジュールもあり、一般のお客さんからも「調子に乗っていると今に痛い目に遭うぞ」というお叱りの声が届くこともあります。
私自身、長年スノーボード関連の代理店の仕事をしており、2000年中頃にはアパレルブランドNomisを販売、2010年頃からWestbeachウエアの販売に携わりました。現在はSandboxヘルメットなども取り扱っています。
Nomisの頃は、ラスベガスで展示会が1月末、2月に日本での展示会、そして3月にオーダー締切という、かつてのパターンでした。しかしWestbeachを担当して2、3年経った頃、11月に行われた来季商品紹介のセールスミーティングで、突然オーダー締切が早まる事態に直面しました。メーカーからは「オーダーを早くもらえないと工場のラインを確保できず、冬前のデリバリーに間に合わない」という説明がありました。
それ以来、オーダー日はさらに前倒しされ、近年では1月から2月中のオーダーが当たり前となっています。我々代理店は、ともかくメーカーに2月中に一度目のオーダーを入れ、その後に本国在庫や他の出荷分から商品をかき集めて、3月・4月のショップ追加オーダーに対応する、という流れが定着しました。
目次
1. 板・ブーツ・ウエア全般で見えにくい事情
オーダー早期化の背景には、単なるメーカー都合ではなく中国工場の生産キャパシティや物流事情が深く関係しています。
- 板(ボード):ウッドコアやグラフィックフィルムなど、専門の部材や製造ラインが必要。生産ラインは限られており、締切を遅らせると納期確保が困難。
- ブーツ:複雑な成形や内部構造の加工が必要で、特定の工場に依存。
- ウエア:防水素材や特殊縫製、プリント加工が必要で、製造ラインの確保が遅れると納期に影響。
これらの共通点として、早期オーダーは希望数量やスペックを確保するための合理的手段となります。

2. 中国工場の実情と推測される背景
(1)製造業全体の景況感
中国の製造業は近年、PMI(製造業購買担当者指数)が50を下回る期間が続き、全体として活動が慎重になっていることが示されています。(wowkorea.jp)
景気低迷や部材コスト上昇の影響で、ラインの稼働や増強が容易ではなく、メーカーは早期オーダーを通じてライン確保を行う必要があります。
(2)工場数と再編の傾向
スノーボード・ブーツ・ウエアの OEM/ODM 工場は依然として多数存在していますが、競争激化やコスト上昇により、実際に自由に受注可能なラインは限られると考えられます。
また、米中貿易摩擦や賃金上昇により、ベトナムなどへの生産移管も進んでいますが、これは中国工場が減ったからではなく、コストとリスクの最適化が背景です。
(3)まとめ
- 工場数は多いが受注可能なラインは限られる
- 部材調達や物流のタイミングにより、締切を早める必要がある
- 競争や再編でライン確保が難しくなっており、早期オーダーは合理的な対応

3. ショップ側の理解ギャップ
ショップが早期オーダーを理解できない主な理由は以下の通りです。
- 事情が見えない:工場ラインや物流状況はショップからは見えない
- 過去の慣習に基づく違和感:以前の展示会・オーダー締切パターンが基準になっている
- 情報共有不足:メーカーが背景説明を十分にしていないことが多い
- リスク認識の違い:ショップは仕入れリスクを抑えたいが、メーカーは納期確保が最優先

4. 早期オーダーのメリット
- 希望数量・仕様の確保
- 欠品リスクの低減
- 秋のデリバリーで市場投入を確実にする
板・ブーツ・ウエア全般において、早期オーダーはショップにとってもメリットのある合理的な手段と言えます。

私の体験から学んだこと
スノーボードという商材は、みなさんが思っているよりも多いものではありません。他の業界の商品と比べれば、ニッチなのです。だからこそ、その「特別」な商品のために私たちは「特別な日程」でしかスケジュールを組めないのです。
どの仕事も同じかもしれませんが、いつも同じことが起きるとは限らず、一筋縄ではいきません。私自身も今年、Sandboxヘルメットのデリバリーで苦労した経験があります。当初は本社メーカーが予定していた時期より遅れ、さらに工場担当者からは「台風の影響で遅れる」「ホリデーシーズンに入ってしまったので遅れる」と告げられ、正直「マジかよ!」と叫びたくなる場面が何度もありました。
もちろん、遅れの言い訳を伝えていないわけではなく、担当者の方は常に素早く対応してくれていました。現場工場との調整や物流の制約があり、どうしようもないこともある――そう実感した経験です。こうした体験からも、オーダー締切の早期化は単なるメーカー都合ではなく、中国工場のライン制約、部材調達、物流、再編や競争の影響を背景にしていることがよくわかります。
メーカーとショップが情報を共有し、背景を理解することで、このギャップは少しずつ縮めることができるでしょう。現場の事情を知ることで、早期オーダーも「必要な仕組み」として受け止めやすくなるはずです。

参考リンク一覧
- 中国製造業 PMI の動向(景気感・工場活動の傾向)
- 中国におけるスポーツ用品製造業者数・市場規模
- 中国における靴製造業の企業数・雇用統計
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

