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細く長く鍛える!ウィスラー攻略も安心!
長年DMK CLUBで親交のあるミックンから、この時期のトレーニングについて質問のメッセージが届きました。
「10月に入り急に秋めいてきて、シーズンインも近いとソワソワしています。
この1年以上ジムに通い続けて、身体もいい感じに仕上がってきて、動かすことが楽しい毎日です。
そこで質問なのですが、シーズンインに備えて今からできる、フサキさんが考える一般のスノーボーダーにおすすめのフィジカルトレーニングを教えていただけますか?
さらに追い込みたい人向けのトレーニングもあればぜひ知りたいです。
自分は特定のスポーツにフォーカスせず、満遍なく鍛えていますが、シーズンまで2か月を切った今、せっかくなのでフサキさんにご教授いただければと思います。
可能であればDMKのコンテンツで取り上げていただけると幸いです。」
特定のスポーツに偏らずトレーニングしているという点を聞き、まず「とても良いことだな」と感じました。
スノーボードに特化したトレーニングを考えると、どうしても下半身ばかりに集中しがちで、上半身のトレーニングが不足する傾向があります。その結果、バランスの悪い鍛え方になってしまいます。
私自身も普段から、上半身・下半身をバランスよく鍛えることを意識しています。これは怪我の予防になるだけでなく、健康的な身体づくりのためにも非常に重要です。
さて、ミックンへのアドバイスを考えたとき、改めて彼の普段のトレーニングを思い出しました。SNSの投稿でもジムに通っている様子を拝見していたし、身体をしっかりシェイプさせていることも知っていました。
スノーボードはどんな体型の人でも楽しめるスポーツですが、競技レベルで見ると「軽量で引き締まった体型」が有利だと考えています。実際、トッププロの多くは大柄ではなく、細マッチョタイプの選手が目立ちます。アルパインやスノーボードクロスといったスピード競技では体格の大きい選手が多いのに対し、フリースタイル系では細マッチョが多いのが特徴です。
こうした身体づくりによって思い通りの滑りやトリックを実現しやすくなり、新しい技に挑戦したときの転倒でも衝撃をうまく逃がせるのです。
正直、ここまで見事なまでに身体を鍛えているミックンに対して、自分がどんなアドバイスをできるのかと少し悩みました。
私も普段から身体を動かすようにしてはいますが、ジムに通って追い込んだトレーニングをしているわけではありません。
しかし、ミックンが求めているのは「一般のスノーボーダーにおすすめのトレーニング」。そこでまずは、多くの人に参考になる基本的な内容を提示し、そこからさらに追い込みたい人へのヒントにつなげられればと考えています。

「太く短く」ではなく「細く長く」
まず、私のスノーボードに対する姿勢は「太く短く」ではなく「細く長く」です。
これは、私のモットーと言ってもいいでしょう。
これまで多くのプロスノーボーダーや、スノーボードを生業にしているインストラクターと出会ってきましたが、この業界に深くのめり込む人ほど「太く短く」という生き方を選んでいるように感じます。だからこそ、彼らは巨大なキッカーに挑み、怪我を抱えながらも無理してパウダーを追い求めるのでしょう。スノーボードに限らず、横乗りカルチャー全般に見られる傾向かもしれません。
もちろん若い頃はそれでも構いません。けれど、その結果、40代に入ると急に身体にガタがきて、最悪の場合にはドクターから「もうスノーボードは無理です」と宣告されてしまう人もいます。これはとても悲しいことです。
日本のジュニア育成やキャンプで活躍している、キララキャンプ代表の橋本通代さん(通称ミッチャン)も、かつてこんなことを話していました。
「ここまで巨大なアイテムで飛んでいる選手たちを見ていると、彼らが将来歳をとった時に心配になる」
ミッチャン自身も現役時代、オリンピックのハーフパイプで注目を浴び、女性ライダーとしては群を抜く高さのエアを見せていました。しかし現在は腰痛の問題を抱えており、だからこそ命がけの滑りを続ける若い選手たちに強い不安を感じるのでしょう。
一般のスノーボーダーでも、選手ほどではないにせよ、身体の痛みを我慢したり、自分の実力を超えたトリックに挑んで怪我をしてしまうことがあります。そうした無理の先に待っているのは、普段の生活に支障をきたすような苦労かもしれません。
しかし私は、スノーボードは正しく付き合えば健康にとても良く、一生楽しめるスポーツだと考えています。
だからこそ、私が提唱したいのは「太く短く」ではなく「細く長く」。
そして、この「細く長く」を支えるのが、日頃のトレーニングと身体のメンテナンスです。
前置きが長くなりましたが、そういう考えを前提に、これから私なりのアドバイスをお伝えしていきます。

私が続けているオフトレの習慣
私が普段から行っている筋トレは、スクワット、腕立て伏せ、腹筋、背筋運動、そしてゴムチューブを使った肩周りのトレーニングです。若い頃は肩を脱臼する癖があり悩まされていましたが、ゴムチューブを使ったトレーニングでインナーマッスルを鍛えることで、その悩みが解消されました。
今からでも遅くない!スノーボーダーがシーズン前にやるべき3つの筋トレ
また、軽いジョギングや競歩(早歩き)も取り入れています。ウィスラーに住んでいるので、近くの森を散歩しながら、週に何度かジョギングや競歩を行うのが習慣になっています。
さらに、週に1回ほどは近くのジムに行って水泳をします。泳ぐ距離はおよそ1キロ。同時にジャクジーやサウナも楽しんでいます。サウナは自律神経を整える効果があり、水泳と組み合わせると心身ともにスッキリします。
これらが年間を通じて行っている運動ですが、初夏から秋にかけてはハイキングも取り入れます。以前のハウツーコラムでも書きましたが、ハイキングはスノーボードに必要な筋力を鍛えるのにとても効果的です。
スノーボードのオフトレにハイキングをおすすめする理由
ミックンの場合はトレーニングリテラシーが高いので、ライダーのリョウくん(@yaku89ryo)のようにトレイルランニングに挑戦するのも良いかもしれません。私は森の中で軽くジョギングする程度ですが、山を歩いたり走ったりすることで、自然に足首周辺の筋力やバランス力が鍛えられます。
また、私は森の中で倒れたログ(丸太)の上に立って、バランス感覚を鍛えることもあります。グラグラと不安定なログの上で落ちそうになるのを耐えることで、スノーボードに通じる良いバランストレーニングになると感じています。

トレーニングを続けるコツ
この記事を読んでトレーニングをやる気になった方もいると思いますが、大事なのは続けることです。
トレーニングを始める前に「かったるい気分」や「面倒だな」と思うこともありますが、そんな時でもまず始めることが大切です。
みなさんは「作業興奮」という言葉を聞いたことがありますか?
作業興奮(activation of task)とは、作業に取りかかると脳の側坐核が刺激され、やる気が後から出てくる現象のことです。トレーニングにも、仕事や勉強にも当てはまり、始めることでやる気が出てくるのです。
私自身は、普段の筋トレは朝に行うと調子が良いです。以前は時間帯がまちまちでしたが、朝の方がスムーズに体が動きます。私は外に行く仕事の時、8時半に家を出るので、その前の8時10分くらいから20分ほど、筋トレやストレッチを行っています。
仕事終わりに筋トレすることもできますが、どうしても「よっこいしょ」と腰が重くなりがち。朝に行う方が習慣化しやすく、気持ちよく体を動かせます。
もちろん、生活リズムや仕事の内容によって個人差がありますので、自分に合う時間帯で行うことが大切です。
トレーニングを続けるためのコツとして、私はノートにメモすることをおすすめします。自分が行ったトレーニング内容を簡単に書き留めておくだけです。例えば、スクワットを何回やったか、ジョギングでどれくらい走ったか、といったことです。ノートを見返すと、「ああ、これくらいやったんだな」と確認でき、1年後には「昨年はスクワットこれくらいしかできなかったけど、今はこんなにできる」と成長を実感できます。
さらに、毎月の目標値を決めて記録しておくことで、日々のトレーニングの指標にもなります。私はスノーボードをした時のことや、体調の変化、怪我や風邪のことも同じノートに書くようにしています。そうすると、「あの時はこんな気持ちで滑っていたんだな」と振り返れたり、今はあまり上達していないと感じても、以前の自分と比べると成長していることに気づけます。
また、怪我や病気の記録を残すことで、「ちょうどこの時期は風邪を引いたから気を付けよう」といった対策も立てやすくなります。面白いことに、昨年の傾向と同じような時期に同じような体調変化が起きることもあり、気温や天候のパターンを意識しながら体調管理ができるようになります。こうして日々のトレーニングや体調を記録することは、モチベーション維持だけでなく、健康や怪我防止にもつながるのです。

オフトレで大事なことは怪我をしないこと
スノーボードのオフトレ企画の特集記事で、何人かのプロ・スノーボーダーに話を聞いたことがあります。私のように登山をする人もいれば、夏はサーフィンを楽しむ人もいました。サーフィンに限らず、スケートボードやマウンテンバイクもオフトレには適しています。しかし、最も大切なのは、オフに怪我をしないことです。
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一見当たり前のことに思えますが、私の知る限り、オフに怪我をする人は少なくありません。つい先日、シーズン中によくレッスンに参加している方が、マウンテンバイクであばらを骨折したと聞きました。また、ウィスラーのイントラの中には、夏はマウンテンバイクのイントラをする人もいますが、彼らも怪我をしたり、危険な目にあったことがあると聞きます。スノーボードとマウンテンバイクの両方を経験している人によると、マウンテンバイクの方が何倍も危険だと言います。
以前、妻に「仲間のように夏はマウンテンバイクで仕事してみたいな」とつぶやいたことがあります。妻は「やめた方がいい、危険よ」と言っていましたが、本当にその通りだと思います。仲間のようにマウンテンバイクで仕事経験はしていませんが、近くの湖周辺で気軽にマウンテンバイクを楽しんでいます。
スノーボードも十分に危険なスポーツですが、夏のオフトレでも怪我のリスクは潜んでいます。私個人としては、冬に行うスノーボードが120日間にも及ぶため、それだけでも十分デンジャラスだと感じています。スノーボードでは、自分の転倒だけでなく、暴走するスキーヤーやボーダーとの衝突の危険もあります。
だからこそ、オフではできるだけ安全に過ごすことを心がけています。それでも楽しめるアクティビティを選び、オフトレとして役立てています。

ウィスラー攻略のための身体作りとシーズンイン対策
さて、ここまで書いてきて、一般的なスノーボーダー向けのアドバイスにはなったかな、と思います。
改めて、ミックンの質問「さらに追い込みたい人向けのトレーニングもあればぜひ知りたいです。」について考えてみたいのですが、正直、自分自身はやっていないので…、思いつかないです(笑)。
ミックンは今年、ウィスラートリップを計画しているので、その思いがあるのかなと思います。これまでにもウィスラーに来たことはありますが、いずれもゴールデンウィークの期間で、一部の山しか滑っていません。しかし、今年はウィスラーとブラッコムの両山がオープンしている時期に来るため、北米で一番大きな山を経験します。だからこそ、より一層トレーニングへの思いが強いのでしょう。
普段、日本のスキー場で滑っている人が、このウィスラーに来ると、特に雪質が良くパウダーを味わえる状況では、数段階上のハードな滑りを求められることがあります。超上級斜面、ダブルブラックダイヤモンドのコースは斜度が50度あり、ツリーランにしても永遠に続きます。正直、ローカルでもシーズンインの時はバテバテです。
以前、世界的に活躍していたプロ・スノーボーダー布施忠と滑っていた時、忠の仲間であるカナディアンプロライダーたちの滑りをリフトの上から眺める機会がありました。リフト下のハードな急斜面凸凹パウダーコースで、有名なプロが滑っていたのですが、その姿を見た忠は大笑いしながら「あついらシーズンインだからドタバタだなあ」と言っていました。
そう、どんなに有名なカナディアンプロでも、シーズンインは疲れてしまうものです。だから、日本から旅行で来るスノーボーダーがウィスラーに来ると、疲れてしまうのも理解できます。
では、そんなプロたちはどうやって身体を慣らすのかというと、もう滑って慣らすしかありません。シーズン最初は撮影をせず、できるだけガンガン滑ります。当時の忠はウィスラーよりもブラッコムを好んで滑っていました。ブラッコムの方が平均斜度があり、太ももなど脚の筋肉をより使うからです。硬いコブでも恐れず突っ込んでいました。私は圧雪コースから滑らないと追いつけなかったです(笑)。
だから、ミックンもこれまで通りしっかり筋トレや走り込みを行いシーズンに備え、シーズンが始まって身体が慣れてきたら、徐々にウィスラーで滑ることをイメージしながらハードな斜面を狙っていけばいいと思います。
そして何より大事なのは、体調管理に気を付け、怪我をしないことです。くれぐれもウィスラーに来る前に怪我などしないよう注意してくださいね。

些細な習慣で差がつく!スノーボーダーのための身体ケア法
最最後に、一般スノーボーダーの方に向けて、私が行っている些細なトレーニングや身体メンテナンス方法をご紹介します。
まず、デスクワークをする方は腰痛に悩まされていませんか?
私自身も軽いものですが、年間に3~4回ほどギックリ腰を経験していました。
そうならないようヒップ周りのストレッチやマッサージを行ってきましたが、最近特に効果を感じるのは背筋のストレッチです。
朝の散歩から帰った後、座った状態でハムストリングスを伸ばす姿勢のまま、背中だけに意識を向けてゆっくり伸ばします。さらに、お風呂上がりや就寝前にも軽く行っています。その結果、ギックリ腰はほとんど起きなくなりました。
もちろん、腰痛の改善方法は個人差がありますが、プロ・スノーボーダーでも腰痛に悩む人は少なくありません。しっかり向き合って対応することが大切です。

次に、ふくらはぎのマッサージも積極的に取り入れましょう。
私は朝・夕・夜と小まめに行っています。
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれ、血流を押し上げるポンプの役割があります。マッサージを行うことで、以下の効果が期待できます。
- 血流改善・むくみ解消:長時間の立ち仕事やトレーニング後のだるさを軽減。
- 疲労回復:筋肉に溜まった疲労物質を流し、筋肉痛や疲れを和らげる。
- 柔軟性向上・怪我予防:ふくらはぎやアキレス腱をほぐすことで、足首や膝の可動域が広がり、脚に負荷がかかるスポーツでの怪我予防に。
- 冷え対策・リフレッシュ:血流が促進され、足先の冷えが和らぐ。滑走後の脚のリフレッシュにも最適。
毎日少しずつ行うことが効果的で、冬のスノーボード前後にもおすすめです。マッサージとストレッチを組み合わせると、さらに効果が高まります。
膝に違和感を感じる方もいると思います。
私の場合、シーズン中に右膝の上部分にやや違和感が出ることがあります。右足は後足になるため、負担がかかるオーリーは控えています。
今年のオフトレでは、この右膝上部の筋力を高める方法を考えました。最も効果を感じたのは、下り坂での片足立ちからの軽いスクワットです。平らな場所でも同様に行うと、膝周辺の筋肉が効率よく鍛えられます。
冬の間、膝の痛みや違和感に悩む方は、オフの時期にこうした周辺の筋トレも取り入れることをおすすめします。

LAST MASSGE
スノーボードは、正しく身体と向き合えば一生楽しめるスポーツです。シーズン前のオフトレでは、下半身だけでなく上半身もバランスよく鍛えること、日々の些細な習慣やケアを大切にすることが、怪我の予防やパフォーマンスアップにつながります。
たとえトレーニングの時間が短くても、毎日少しずつ続けることが大切です。ノートに記録したり、作業興奮を意識して始めてみることで、やる気も自然に湧いてきます。ストレッチやマッサージを取り入れながら、自分の身体の状態を意識する習慣も、冬の滑りに大きな差を生みます。
シーズンインに向けて準備を整え、怪我なく、自分の理想の滑りを楽しめる身体をつくっていきましょう。小さな積み重ねが、滑りの自信と安全につながります。
思います。しかも筋トレは無料でできて、効果も抜群です。あなたが、スノーボードギアを買うことを楽しむ以上に、大切であることなのです。ぜひ、今日からでも筋トレを始めてみてください。

飯田房貴(いいだ・ふさき) プロフィール
@fusakidmk
東京都出身、現在カナダ・ウィスラー在住。
スノーボード歴は40シーズンを超え、約20年にわたり雑誌、ビデオ、ウェブなどを通じてハウツー記事の発信に取り組んできた。
1990年代を代表するスノーボード専門誌『SNOWing』では、「ハウツー天使」というコラムを執筆。季刊誌という発行ペースの中で100回以上の連載を達成し、金字塔を打ち立てた。『SnowBoarder』誌でも初期からハウツーコーナーを担当し、中でも読者へのアドバイスコーナー「ドクタービーバー」は大人気となった。
自身が監修・出演したハウツービデオやハウツー本も大ヒットし、1990年代のスノーボードブームを支える存在となった。
現在はカナダ・ウィスラーを拠点に、インストラクターとして世界中の人にスノーボードの魅力を伝え続けている。
著書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書』、『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。