
文:飯田房貴 @fusakidmk
スノーボードやスキーの楽しみ方は、この10年で大きく変わった。その中心にあるのが、いわゆる「シーズンパス文化」だ。
現在、北米の雪山は大きく2つの巨大な流れに集約されつつある。
Vail Resortsが展開するEpic Pass、そしてAlterra Mountain CompanyによるIkon Pass。この2つのネットワークは、数十規模のリゾートを横断的に滑れる仕組みを提供し、従来の“単一リゾート中心”のスタイルを大きく塗り替えてきた。
この仕組みは非常に合理的だ。シーズン前にパスを購入すれば、複数のリゾートをお得に滑ることができる。遠征のハードルは下がり、スノーボードの行動範囲は一気に広がった。
しかし、その裏で起きている変化も見逃せない。
象徴的なのが、1日券の価格上昇だ。多くのリゾートでデイチケットは年々値上がりし、「ちょっと1日滑る」という選択は以前よりもハードルが高くなっている。
この背景にあるのは、明確なビジネス構造だ。
あえて1日券を高く設定することで、ユーザーはシーズンパスへと誘導される。そして一度パスを購入すれば、そのシーズンは同じネットワーク内のリゾートを優先的に利用するようになる。
つまり、「お得さ」と引き換えに、行動が囲い込まれていく構造」が生まれている。
この“囲い込み”は、ユーザーの選択にも影響を与える。
Epic Passを持っていればEpicの山へ、Ikon PassならIkonの山へ。結果として、異なるネットワーク間の行き来は減り、個々の選択は徐々に固定化されていく。
そして今、この構造そのものに対して疑問の声も上がり始めている。
アメリカでは、Vail ResortsとAlterra Mountain Companyという2大企業に対し、独占禁止法(反トラスト法)に関連する訴訟が提起された。
主張されているのは、高額な1日券によって消費者をシーズンパスへと誘導し、その結果として市場競争が制限されているのではないか、という点だ。
もちろん、現時点でこれらの主張が認められたわけではない。企業側も、自社のパスはむしろアクセスのハードルを下げ、多くの人に雪山の機会を提供していると説明している。
ただ、この議論が起きていること自体が、今の業界の構造を象徴しているとも言える。
巨大スキーリゾートネットワークによる囲い込みの影響は、実際に私自身も感じている。私が普段利用しているWhistler Blackcombの料金も、急激な一日券の価格上昇を体感している。調べてみると、2007年は1日券が77ドルだったのに対し、2017年には130ドル、2026年には306ドルまで跳ね上がっている。特に、ウィスラーブラッコムがVail Resortsの傘下に入ってから、その値上がりは顕著だ。
かつては「今日はどこに滑りに行くか」を自由に選べた時代。
今は「どのパスを持っているか」が、その選択を大きく左右する。
それは間違いなく便利で、効率的だ。
だが同時に、自由の形が変わったとも言える。
北米の雪山は今、大きな転換点にある。
囲い込みはさらに進むのか、それとも新たなバランスが生まれるのか。
その行方は、これからのスノーボードカルチャーそのものを左右していくはずだ。
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は41年(2026年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

