
1998年の長野オリンピックから、2002年のソルトレイクシティーオリンピックまで、日本ハーフパイプチームを率いた元ナショナルチームコーチ・阿部幹博氏。
初代日本ナショナルチームコーチとして黎明期を支えた阿部氏に、歴代最高峰のバトルとなったミラノ・コルティナオリンピック男子ハーフパイプ決勝を振り返ってもらった。
目次
「1、2、3位を見た瞬間、札幌がよぎった」
――いやあ、阿部さん、激戦でした!
そして戸塚優斗が金、山田琉聖が銅。日本のハーフパイプ陣が新たな歴史を刻みました。振り返ってください。
阿部:1本目が終わって日本勢が1、2、3位になった瞬間、「もしこのままいけば……」と頭をよぎったのが1972年の札幌でした。
札幌オリンピックの70メートル級ジャンプで笠谷、青野、今野選手が金銀銅を独占したあの場面です。私は小学3年生でしたが、今でも鮮明に覚えています。
打倒スコッティ――若き3人の強さ
――スコッティの2本目前まで、日本の国旗がテレビ画面に4つ並んだ光景は圧巻でした。
阿部:動画配信ではどうしても歩夢中心に見られがちですが、後輩3人の力、とりわけメンタルの強さに驚きました。あの舞台では「打倒スコッティ」しかなかったはずです。
戸塚選手、山田選手はさらなる高得点を狙って攻め続けました。特に戸塚の上をいこうとする山田の熱い滑りは印象的でした。
ただ、3本目のルカ(平野)に対してはジャッジが辛口ではないかとも感じました。しかし映像を見返すと、ランディングに課題があったのも事実でした。
ジャッジは細部まで見ていた
――平野流佳選手のスコアが伸びなかった点についてはどう思われましたか。
阿部:今回の上位陣に対するジャッジは、かなり細かく見ていた印象です。
トッド・リチャーズがInstagramで語っていた総評も的確でした。
次の五輪では日本は“追われる立場”になります。今15歳でも次は19歳。新たな若手が必要です。
1620は当たり前になり、1800のコンボ、さらなる軸の完成度、グラブの位置まで、ここから一段階進化していくでしょう。
ただし、これ以上は危険ではないかという懸念もあります。
ローテーションだけでなく、スタンダードエアやインバートトリックをどう評価するか。選手を守る意味でも、ジャッジの救済的な視点は必要かもしれません。このままでは大怪我のリスクも否定できません。
ジャッジシステムは進化できる
――オーストラリアではスコッティのジャッジングに疑問を抱ている報道もあります。
阿部:ジャッジはスコッティに“さらなる期待”をしたのではないでしょうか。ハーフパイプは競技であり、コンテストでもある。もう一度やれば結果は変わるかもしれない。それがサイドウェイスタンススポーツの面白さです。
現在は3本のうち最高得点が採用されますが、上位2本の合計点という方式も考えられる。
安全策だけでは勝てない、しかし攻めすぎればリスクもある――そのバランスをどう評価するか。
エアの高さや合計対空時間など、まだ見直せる余地はあると思います。
教え子たちの現在
――村上大輔がコーチ、中井孝治や青野令が解説として活躍しています。
阿部:
大輔が「引退したら自分も阿部さんのようなコーチになりたい」と言ってくれたことを思い出します。そして、彼がメダルを獲得したことは、私を超えた証。心からリスペクトしています。
令(青野)の解説は、自分が届かなかったメダル、その道のりを知っているからこその言葉でした。涙ながらに選手を称える姿に胸を打たれました。国籍を問わず称える姿勢は、彼がスノーボードを心から愛している証だと思います。
スノーボードの未来へ
――今回、スノーボードの魅力がさらに広がりました。
阿部:今回のメダルラッシュは、日本の冬季スポーツの中でも大きなインパクトがありました。
私の願いは、スノーボードが国体競技になること。中体連や高体連が整備されれば、業界も活性化していくはずです。
テレビ中継も以前に比べれば格段に良くなりました。選手のハイレベルなパフォーマンスも伝わった。ただ、画角やカメラワークに改善の余地はあるかもしれません。スノーボードの魅力が、ぜひ多くの人に知ってほしいので、今後の課題だと思います。
日本が世界の頂点に立ったミラノ・コルティナ。
その裏には、黎明期から競技を支えてきた世代の想いと、次代への危機感がある。
ハーフパイプは、まだ進化の途中だ。
男子決勝 注目選手のランルーティーン(各ヒット内容)
| 選手名 | ラン | 1ヒット目 | 2ヒット目 | 3ヒット目 | 4ヒット目 | 5ヒット目 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| TOTSUKA Yuto | Run 2 | Cab-TC-1440-Ddr | f-TC-1440-Tdr | x-b-D-AO-Rd-900-St | x-b-DC-1080-Ng | b-DC-1260-Mu |
| JAMES Scotty | Run 2 | Cab-TC-1440-Mu | f-DC-1260-St | b-DC-1080-St | x-b-DC-1440-Jp | b-DC-1440-Jp |
| YAMADA Ryusei | Run 1 | Cab-DC-1440-Ng | f-DC-1260-Mu | b-DC-1080-Jp | x-Mc-Jp | x-b-D-AO-Rd-900-St |
| HIRANO Ruka | Run 3 | x-b-DC-1440-Ng | b-DC-1260-Mu | f-TC-1440-Tdr | Cab-TC-1440-Ddr | f-DC-1260-I |
| HIRANO Ayumu | Run 2 | x-b-DC-1080-Ng | Cab-DC-1440-Mu | f-DC-1620-Tg | b-DC-1260-Mu | f-TC-1440-Tdr |
男子決勝 注目選手のラン5ヒットの合計回転数
| 選手名 | 1ヒット目 | 2ヒット目 | 3ヒット目 | 4ヒット目 | 5ヒット目 | 合計回転数(°) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| TOTSUKA Yuto | 1440 | 1440 | 900 | 1080 | 1260 | 6120 |
| JAMES Scotty | 1440 | 1260 | 1080 | 1440 | 1440 | 6660 |
| YAMADA Ryusei | 1440 | 1260 | 1080 | 360(スイッチマック) | 900 | 5040 |
| HIRANO Ruka | 1440 | 1260 | 1440 | 1440 | 1260 | 6840 |
| HIRANO Ayumu | 1080 | 1440 | 1620 | 1260 | 1440 | 6840 |
POINT!!
以上の選手の放ったトリックや回転数を見ると、単純に回転数だけで順位が決まったわけではないことがわかる。
- エアの高さ
- 独創性
- グラブの難易度(※両手つかみのトラックドライバーは難易度が上がる)
- 着地のピタ着度
なども考慮され、ジャッジによって総合的に評価されている。
つまり、回転数はあくまで一つの指標であり、ラン全体の完成度が勝敗を左右していることがこの表から読み取れる。


