文:飯田房貴
止まらぬ物価高騰、企業も家計も「もう限界…」という声が聞こえて来るが、実を言うと今、密かに(?)スキー場の価格もアップされると言われている。
すでにルスツは、一日券の価格を8,800円の発表をしており、これまでの3割増しだ。
https://rusutsu.com/winter-lift-tickets/
同じく海外からのスキー、スノボ客を迎えるニセコも料金を値上げしてくるに違いない。
本州では、国際的に人気が高い白馬エリアのリフト券は、6,600円だったが、果たして22-23シーズンはいくらになるのか?
今や国際的に人気が高い海外のスキー場のチケットは、1日券が200ドルで、この円安により円換算すれば2万4千円という価格になる。
外国人なら、日本の良質なパウダーのスキー場のチケットが1万円でも安いと思うのは間違いない。
外国から観光客が来てインバウンド需要が高まることはウエルカムだが、国内スノーボーダーにとっては死活問題となって来る。そもそも自分のお財布の中身は変わらない状況なのに、リフト券代だけ上がるなんて!
なぜ海外のスキー場のリフト券の値段は高い?
そもそもなぜ海外のスキー場のリフト券の値段は高いのだろうか?
僕が住んでいるウィスラーもかつては、日本のようなリフト券だった値段だった記憶がある。初めてウィスラーに来たのは、90-91シーズンだったが、その時には、50ドルとかのような値段だった記憶が…。それが年々上がり、気づいてみたら200ドルになっていた。
単純な話、日本の物価だけ長い間変わらずに、世界的にはどこでも上がっただけのような気がする。
僕が住むカナダBC州の最低時給は、現在、15.65ドル。日本円では1500円から1600円というところ。
昨日、ガソリンを入れたけど、リッターで2ドル20セント代だった。1リットル220円くらいだ。
最近の玉子の値段は、どんなに安いウォールマートのものでも1ダースで4ドルはする。
世の中のものがすべて値上がり、それと共に人々の給料も上がっている。ゴルフ、遊園地など、遊びに使うような施設の値段はどんどん上がって行ったのだ。
日本のスキー場に来るオーストラリア人の最低時給は20ドルだと言うし、アジアの国でも香港、台湾、中国本土の方もウィスラーに来て、よくお金を使われるという印象だ。おそらく彼らの年収もかなり高く、だから1日券200ドルもする北米のスキー場でスノーボードを楽しむ人が減らないのだろう。
逆に海外の人が日本に行くと、驚くような価格の安さで驚くに違いない。コロナでしばらく閉まっていたので、さらに円安が進んだ現在ではバック・トゥ・ザ・フューチャーのような世界だろう。
つまり、1985年にいた主人公マーティンが、タイムマシンに乗って1955年に戻ってしまったような感覚に近いものがあると思うのだ。外国から来たスキー客は、すべてのテクノロジーは最新なのに、未だにリフト券や食事が安い日本に驚くに違いない。また欧米のようにどこでもカードが使えない世の中、現金での支払いが多い日本に対して奇妙な感覚を得るのではないだろうか。
巨大スキー場グループがシーズンパスの名の元に顧客の囲い込み
2016年にコロラドのベイルが13.9億ドルでウィスラーを買収した後、リフト券の値段はさらに上がっていった。
一方で、シーズンパスに関しては、逆現象が起きている。ウィスラーのリフト券は一番高い時期で1600ドルから1700ドル掛かったと記憶しているが、今やベイル・グループのEPICパスは、859ドルという破格的な安さだ。よくみんな「海外のスキー場のリフト券は高い」と言うけど、実を言うと「海外のシーズンパスの値段はメチャクチャに安い」のである。
この意味は?
ここからは自分の推測だけど、巨大スキー場グループがシーズンパスの名の元に顧客の囲い込みに入っているように思う。
最近のSNS時代を見ると、そのグループへの囲い込みというのが重要になって来ている。
今は誰もがフェイスブックを利用するようになり、若者はインスタ、TikTokという流れだ。あるは、かつてはテレビを見ていた人が、アマゾンプライム、ネットフレックスを視聴するようになって来ている。
つまり僕が伝えたいのは、みんな何かしらの低価格のサービスに入会しており、気づけばそこを軸に様々なコミュニケーションやエンターテーメントを楽しんでいる状況だ。
リフト券が高ければ、多くの人がシーズンパスを買うだろう。今、北米ではEPICパスを買うのか、あるいはライバルグループであるIKONパスを買うのかに分かれている。
IKONパスは、日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、実を言うと北米では滑るところが多いパスだ。アスペンやマンモスマウンテンをはじめ、日本ではニセコも滑ることができるのだ。
以下は、IKONパスの滑れるスキー場の紹介ページだ。想像以上に滑れるところが多くて驚くのでは?
https://www.ikonpass.com/en/destinations
現在、主だった巨大スキー経営グループ会社は、ベイルのEPICとアスペンなどのIKONだ。彼らが熾烈な争いで、スキー客の抱え込みを行っている。
日本でも最近、西武グループのスキー場や福島のグランデコが買収されたニュースがあったが、今、巨大資本がスキー場というビジネスに商機を見出しいるようなのだ。もしかしたら、こうした買収されたスキー場も、将来はEPICやIKONのグループに入るのかもしれない。
フェイスブックが様々な方向で新しいビジネス展開を考えているように、巨大スキー場グループもスキー客を抱え込んだ後には、彼らからお金を奪う計画を立てているように思うのだ。
一日券が2万円もする高いスキー場は、スキー客にとって特別な体験を与える。
だけど、シーズンパスは安いので、多くの人がシーズンパスを買う方に流れる。
気づけば、僕たちはまるで普段、SNSを楽しむように、EPICグループに入っている可能性がある。
将来、白馬の1日券が2万円になった場合、一方で白馬を含めた世界のスキー場を滑れるパスの値段が10万円なら、きっとそのシーズンパスを購入すると思うのだ。なんと言っても5日滑っただけで元が取れちゃうし、国内だけではなく世界で滑れる魔法のようなチケットなのだから!
なぜ世界は日本のスキー場を目指すのか?
そもそも、日本のスキー場というのは世界的に見てもひじょうにスペシャルでプレシャスなスポットである。
1)降雪量がハンパなく多い!ジャパウを楽しめる
2)温泉に入れる
3)サービスが行き届いている
4)日本人は外国人に対して親切な人が多い
など。
その上で、「安い!」と来たら、もう世界は日本のスキー場を目指すに決まっている。
21-22シーズン、僕は100日以上も世界中のお客さんにレッスンをして来たが、何人かの方が言っていたのは、「本当は日本に行きたかった」ということだ。
なぜなら、日本の雪質は良いし、何より食べ物がおいしいからだと言う。
だから、22-23シーズンに遂に日本がオープンしたら、こぞって世界の人が訪れるだろう。
アジアからは中国方面、シンガポールなど。
そして、オセアニア、特にオーストラリアは多そうだ。
となると、北海道や白馬方面など国際的なスキー場は値上がり必至!?
今季はこうしたスキー場を避けて、まだ料金を上げていないリーズブルなローカルなスキー場へのトリップを検討するのが良さそうだ。
コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は37年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。