いよいよこの冬に開催されるバンクーバー五輪。その中でも女性スノーボーダーとして注目されるゆっちこと藤森由香は、dmkと馴染み深いブランドNomisのライダーでもある。そこで激励もかねて、ゆっちの故郷である白樺湖まで足を運んだ。
ちょうどこの日はシルバーウィークの真っ只中ということもあり、ゆっちは実家の手打ちそばやさんでお手伝いをしていた。五輪選手と言えば、仕事などせずトレーニングに打ち込んでいるイメージもあるかもしれないが、ゆっちはお店中走り回りながら、注文を受けたり、食事を出したりしていた。その背景には優しくも厳しい父の教育方針があるようだ。
華やかなスノーボードのプロ、五輪選手という世界に生きていながら、決して奢らずに謙虚で、常に人に気遣う大きな心を持つゆっちの姿勢は、こういうところで磨かれているのだろう。
ゆっちはお昼の忙しい時間が終わったところで、白樺湖をバックにNomisに撮影してくれて、インタビューに応じて五輪に向けて決意を語ってくれた。
Interview & Photo by Fusaki Iida
撮影協力: nomis
先日アルゼンチンで行われたワールドカップで5位に入り、オリンピック出場がほぼ決まったと思うけど、今、五輪に向かってトレーニングをしているところ?
まだオリンピック出場が決まっていなくて、最終的には1月に決まると思います。
しかし、オリンピックには出れるという前提で、トレーニングはしっかりと行っています。
最低、月に一回だけどメンタルトレーニングの先生のところに通っていて。そこでは世間話をしているだけな感じなんですけど(笑)、自分がどういう時には悲しかったり、嬉しかったりするのか、お話していて。その中から自分探しをしている作業をしています。こんなことでメンタルトレーニングになっているのかなあ??と思いながらも、実際には凄いメンタルトレーニングになっていて、それでこの前のアルゼンチンの遠征で発揮されたんですよね。
そうだったんだ!
何に対しても凄く緊張しやすいんですよ。そういうのがわかって、自分と向き合って、どうすると緊張しなくなるのかとか、やっています。
その結果、スタートした時も、これまでになかったぐらい良いスタートをすることができたんです。本当、トレーニングのお陰です。
前回の五輪でも7位に入って良い結果だったけど、その時にも結構、緊張していたの?
凄く緊張していました。オリンピックでは普段のメンバーよりも少なくなって、逆に勝ちやすくなるんですけど。4年に一度という変なプレッシャーが襲って来ました。
人ぞれぞれ緊張をなくす方法があると思うのだけど、ゆっちの場合にはどんなことするといいの?
深呼吸なんですよ。で、空を見上げるんです。
それから、唱えるんです。落ち着けよ、と(笑
4年前と今回の違いってどう?
もう、全然違います。4年前には、今のようなトレーニングをしていなかったし。メンタル・トレーニングなんて、自分には必要ないって思っていたんですよね。ワールドカップにも出始めたばっかりで、実際、わからなかったんですよ。自分のどこが弱いってこともわからなかったし。インタビューされても、自分のことうまく答えられないくらい、わからなかった。そんな人だったから。
だから、前回よりも準備が全然できています。自分の乗る板もウェアーも決めているし、メンタル面などもすべて、オリンピックに備えています。
(忙しい中、明るくインタビューに応じてくれたゆっち。笑顔が素敵です!)
ボーダークロス競技で大切なことは?
気持ちで負けないこと。相手のラインをつぶしちゃいそう、とか考えちゃうんだけど、まず一番に考えるべきことは、自分が行くラインを決めることです。
後ろから滑っている人の音とか聞こえて来ても、自分のライディングをしていかないと。
ボーダークロスというと、スノーボードの総合滑走能力が問われるところ。練習というとフリーライディングってことになるのかな?
そうですね、全部が必要過ぎて特に必要だなあ、というのは難しいところだけど、ゆっちが一番必要だなあ、と思ったのはハーフパイプのテクニック。今までやって来た中で一番難しいのはハーフパイプ。パイプのRを使って、加速とか練習できます。
だから、フリーライディングの技術も必要だけど、ハーフパイプの技術も大事になってきます。
なるほど。
ところで、クロスと言うと、なかなか女の子では、怖いと思うのだけど、ゆっちがクロスをやろうと思った理由は?
いやあ、なんか、ちょっとゆっちが変わっているってこともあると思うんですけど(笑)
パイプはパイプで楽しいし、キッカーもジブ凄く楽しいと思います。
クロスの魅力は毎回違うコースを滑れるというのと、4人同時にレースするってところがおもしろいと思うんですよね。
特におもしろいなあ、と思ったのはワールドカップに出始めた時で、あの時、全然、自分の力が及ばなかったんです。だから、学ばなければいけないことが凄く多くて。うーん、なんだろう、自分を向上させてくれるというか、チャンレンジさせ続けているってところが魅力かな。
(ゆっちスポンサーのNOMISのご協力により、この日、様々な着こなしを見せてくれた。NOMISがよく似合うね。)
クロスでは何センチのボードを使っているの?
スクーターの157.5センチ。前は155.5センチのボードだったけど、形変えて、今はこうなっています。あまり長ければいいってもんじゃないですね。
スタンス角度は?
前足21度、後ろ足マイナス3度です。
クロスというともっと前に角度を振ってあるイメージがあったけど、ダックなんだね。
もちろんアルペンから来た人とかは振っていたりするけど、いろいろで。
パイプをやっていた人とかは、後ろ足、0度とかマイナス3度って多いですよ。
きっとジャコベル(注:クロス競技のトップ選手の一人)もそれぐらいです。
ワールドカップで、マークする人とか、コイツは強いなって選手は誰?
ビデオなど撮って参考にするのは、アメリカのジャコベル(Lindsey Jacobellis)と、カナダの2人、ドミニック(Dominique Maltais)とマオリ(Maëlle Ricker)。
ワールドカップでは、もちろん真剣勝負だけど、選手同士では結構、仲いいの?
ゆっち英語が苦手だから、ハーイ!とか、挨拶程度だけど。最近、仲がいいのは、ギリシャの選手。彼らは日本語の発音がおもしろいらしくて、声をかけて来ます。あとブルガリアのアレキサンドラ・ジャコバという子と仲いいです。
オリンピックまでは凄いプレッシャーとの戦いだろうけど、その後はどんなことしたいですか?
リュック1つだけ背負って旅できる南の島に行きたいですね。
あと、その後にはウィスラーに行ってもっと自由にスノーボーディングをしたいです。
こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、ゆっちはずっとクロスの選手だと思っていて、だから実際滑りを見て、ジャンプやジブがうまくてビックリしたんだよね。ゆっちにとってジブというのは、どういうもの?
壁にぶつかった時に、ほっとできるものだったんです。何だってそうじゃないですか。きっとジブをやっている人が、壁にぶつかった時にフリーランしたいというのと同じようなものです。あとジブはカッコいいじゃないですか。開放感があって、自由に表現できるってところが楽しかったんだと思います。
きっとそういう気持ちがゆっちの映像とかに表れてくるんだろうね。
仲間がおもしろいんですよね。いっしょに滑っていて、楽しくて。そういう人たちといっしょにいて、ちょっとバカになれる自分がいるというか。
その仲間は、誰?
その時に会った仲間とか、いろいろです。
同じNomisチームになったレイカはおもしろいです。アホなところがいい(笑)。
どんな服が好き?
軽い感じ。ラフな感じです。色で言うと黒とか、灰色とか、あとはベイビーカラーのようなものも好き。
最後に読者の方へメッセージを。
どっかで会ったら、いっしょに滑りましょ!
ゆっち(藤森由香)のプロフィール
生年月日:1986年6月11日 |