読むだけでスノーボードが上達しそうな/田島 寛之(1)

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今年の浪人ムービーで密かに活躍しているライダー、それがカンジだ!
カンジはまだプロ登録していないし、名前が売れているライダーではない。
しかしカンジの魅力は、今現在最も先鋭的なライデインングでスノーボード・シーンを牽引する力、
そして何よりここdmkハウツーの掲示板で丁寧に回答しているように、
スノーボード業界全体の層を考え、行動し活動しているところである。
今回もハウツー主体のこのインタビューを快く引き受けてくれた。
浪人ムービーの隠れMVP男カンジの魅力に迫ろう。

フサキ(以下F):最近、スポンサー取りに積極的に行動しているようだけど、昨年から今年にかけてどんな心境の変化があったの?
カンジ(以下K):一番のきっかけは、自分の中で最低限必要と考えていた技術が自分に身についたことです。自分の技術に納得できたので、スポンサーを探しメーカーの力を借りて、自分を公の場でもっと表現したいと思いました。以前より、自分をみんなに見てもらいたい、見せたいという気持ちが大きくなったと思います。

F:カンジにとって最低限の技術ってどんなものだったの?
K:まず僕はフラット・スピンを売りにして行こうと考えていたので、4方向、レギュラーからとスイッチからでバックサイドとフロントサイドのスピンを180から540までスタイルを出してできるようになることを最低ラインとしました。さらにフロントサイド・スピンに関しては、トゥエッジ、ヒールエッジ両方できることを次のラインに考えました。今は6種類のスピンで540までできるようになっています。ただ、これだけでは自分をアピールするには足りません。僕の中での必殺技はフロントサイド・スピンをトゥエッジで回すことなので、これを一つの武器にしていこうと思います。来期はたぶん難易度的に言えば最も高いと思う技、ヒールエッジで抜けるバックサイド・スピンを練習しようと思っています。理想は4方向に両方のエッジで8種類のスピンを900まできることです。それまでは回転技を練習して行くことを飽きないと思います。

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F:フロントサイドをトゥで抜けるのは普通に聞こえるけど、何でそれが必殺技なの?
K:一番数をこなしている技だから自然と自信がついているし、技が体にも染みこんでいます。高回転720や900のメイク率も自信が出て来たので、大会で勝てる可能性のある技、という意味でも必殺技と思っています。これだけは誰にも負けない自信があるし、負けたくないですね。何よりもこの技には時間をかけて練習して来ましたから。

F:トゥ抜けに関して気をつけていること。また今、このインタビューを読んでいただいている方にもわかりやすいコツを教えてほしいのだけど。
K:まずはアプローチで気をつけていること。リップを上り始めるあたりまでは、飛び出すポイントよりも胸側を滑っています。リップを上り始めるところからトゥエッジを踏んで薄い弧を描いてリップまで向かいます。

F:トゥサイドでのアプローチは左側を滑って右へ向かって弧を描くのでは?
K:ちょうどターン前半部分の弧を描くように右側から入るんです。上り始めてからトゥエッジで弧を描く時に、左斜め上に向かって行くので、ここで横に移動する幅が生まれます。これを逆算して、抜ける時に真ん中になるように、最後の横移動の分を、スタートの時に右に寄って確保するんです。(右イラスト参考)

F:なるほどターン前半のような弧か。抜ける時に気をつけることは?
K:抜ける瞬間は真っすぐにボードが向くことが基本です。トゥエッジをどう踏むか、というところにポイントがあります。前足は面に近く保つために前肩をやや内側に持って来ます。後ろ足はトゥエッジを立てるために、ももに体重を乗せて右肩は後ろに引きます。前と後ろの加重の比は4対6といった感じです。決して前足側のトゥエッジを立てないことを心掛けます。

F:意識としては左肩をかぶせる、という感じ?
K:そうですね、この時に左手は左ヒザの内側を触れるか触れないかのところにあると良いです。それと、両手のひらは外側を向けて、ヒジはやや曲げ、親指を外側にねじります。細かいんですけど、こうすることで自然と脇のあたりの筋肉を使いやすくなります。僕はフリーランでも力強く滑る時はこれを特に意識します。

F:他に気をつけることは?
K:薄く縦長の弧を描く際に、真っすぐ目のラインでなくカーブすると、先行動作がとても窮屈になってしまういます。
それと 踏み切るタイミングの始動はリップが両足の中心に来てから。終点は有効エッジがリップを離れる瞬間。これが理想で、最も高さが出ます。少しくらい早くても大きな問題はないですが、リップからなるべく視線を離さないように心掛けてタイミングを体で覚えます。

F:なるべく待つってことだね。ところでカーブすると先行動作が窮屈になるということだけど、一見カーブしたきっかけを利用する方が回りやすいようにも思えるのだけど。
K:真っすぐラインよりオーバーカーブする時は必ず、前側のエッジが立ち過ぎています。つまり、後ろ足よりも、前足に体重が乗っています。これではオーリーはできません。後ろ足が伸びた状態が致命的な欠点になります。これに対して、リップで真っすぐ進入する時は、しっかり後ろ足に体重が乗っている時です。オーリーの準備ができているので踏み切る準備は完璧です。あとは踏み切る動作がどれだけ体にしみ込んでいるかです。薄い弧というのはフロントサイドのカーブを斜面で行う時に、ヒールからトゥに切り換えた瞬間から、ボードがフォールラインに真っすぐに向くまでの弧を想像して下さい。ストレートジャンプでは、このターンをできるだけ縦長にして利用します。

F:なるほど。踏み切りの動作に関しての注意点は?
K:踏み切る動作は、まず平地から下りへの斜度の変化を利用したり、フリーランの中で地形を上手く使ったり小さいテーブルで練習します。パイプの一番下の開いているところも練習しやすいですよ。
基本はストレートのオーリーです。ノーズを引き上げながらテールを蹴って弾く。これに180は横に回転する動作が加わります。上半身を先行動作で回転する方向と逆にねじる。そこから伸び上がりながら、回転方向にねじります。最後にテールを蹴ることを一番意識します。体が180を覚えたら、スピードを上げて行ったり、グラブを何種類もやってみたりして、同じように360まで練習して体に覚えこませます。ミスをしない自信がついたら、少しづつテーブルの距離をのばして行きます。540、720はある程度の滞空時間があった方がいいので10メートル弱は距離がいると思います。いきなり540やるよりも、180、360、540、と順番にやっていった方が、覚えが早いです。もちろん、メイクしたら回転数を上げて行くのが条件です。これは長い目で見ても、一日の中で見てもです。体が覚えるまでは一歩一歩積み重ねていきます。

F:着地で気をつけることは?
K:着地に関してはレギュラーのフロント180かスイッチのバックサイド180の2つのパターンしかないので、この2つをしっかり練習しておくと着地の感覚が自然と覚えられます。特に高回転になった時にこの着地の感覚が大事になります。スイッチバックサイド180はスイッチのオーリーを完璧にしてから。フロント180と同じように、フリーランの中で練習します。

F:スイッチのオーリーって慣れないと難しいけど、何かコツある?
K:一言で言ったら、レギュラーと同じことをすればいいわけですけど、じゃあオーリーってどうやるの?ってことになりますよね。両ヒザを曲げながら姿勢を低くして行き、後ろ足のももにぐっと体重を乗せます。前足は自然にももに力が入るくらい。ここから、後ろ足で伸び上がり始めます。その直後に前足を伸ばしながらノーズを引き上げます。前足が伸びきった直後に後ろ足を伸ばしきってテールを蹴ります。
スイッチで難しいのはこの後ろ足にしっかり体重を乗せることです。なかなかヒザを曲げにくい人が多いと思います。後ろ足を曲げる練習として、グランドトリックをすること。これは止まってても良いです。それでスイッチのテールプレスまたはレギュラーのノーズプレスがオススメです。とにかくスイッチの後ろ足(レギュラーの後ろ足)をしっかり曲げて、体重をぐっと乗せることを覚えます。プレスすると同時に、反対側の足を引き上げて、ウィリーみたくすると、前足の引き上げもわかるはず。ウィリーから後ろ足でテールを蹴れば跳ね上がってオーリーできると思います。

F:ところで、カンジってみんながパーティで騒いでいる時にもストレッチングとかやっているけど、何か自分に対してのルールとかあるの?
K:ルールは特に作ってないんですけど、撮影が連日続く時は、毎日できるだけ疲れを取り除いて、次の日の撮影に望みたいと考えています。いい映像残したいですから。たまたま夜がパーティだとしても優先順位で一番に来るのは撮影です。撮影に対しては一切妥協したくないし、ベストを尽くしたいので、そのためにできることは前日、当日問わずに行動あるのみって感じです。

F:何か他に体調管理、疲れを取るためにしていることってある?
K:やっぱり栄養面を一番気にかけています。運動してる人はカルシウムとタンパク質、ビタミンCなどが特に不足しやすいのでサプリメントで補ったりします。あと疲れを取るにはビタミンB群をとると効果的なので、疲れたら豚肉を食べます。

F:へえ、考えているなあ。ジムなんかにも良く行くの?
K:行きます。高校生の頃からマシンを使ってトレー二ングをしていましたが、2年前から本格的に始めました。ケガの予防と、左右の筋肉、特に背筋群のバランスを取ることが一番の目的です。それと、筋力をつけることで、転倒したときのダメージを軽減できるので、ベストの体調に戻るまでの時間も短縮されました。疲労もたまりにくくなりました。

F:いっしょにハウツーを作っていてもひじょうに組み立てるのがうまいと思うのだけど、そういうアイデアはどこから来るの?
K:自分ではいつも、これでいいのかな?って自分に問いただしながらやっています。直接教える機会はまわりの友達や、DMKのハウツーの返答だけですが、その経験で、ある程度自分の考え方に迷いがなくなって来たと思うんです。みんなの反応がいいと自信が少しずつついてきます。ハウツーの時は見てもらうまで反応が分からないので、自分が最も重視してることを伝えようと考えます。また、みんなが普段見落としがちな部分や、失敗の重大な原因の解決方法を伝えようとも考えます。これも経験と、試行錯誤しながら代表的な例を一つにしぼります。こう考えると、自分の経験はむろん役立っていますが、自分以外のみんなとの関わりで学ぶことの方がハウツーの方に重要なヒントみたいな物をもたらしてくれていると思います。

F:ズバリ、上達で大切なことって何だと思う?
K:スノーボードを始めてから最初の滑走日数200~300日位までは、どれだけ短い期間でこの日数を滑走できるか。その時に毎日自分に目標を決めることと、集中して滑ること滑っている最中は量より質が大事です。滑走日数が500日を超えたらケガをせずに、少しずつ自分の限界を超えて行くことです。精神面では、滑っている時以外にどれだけ、滑る準備のために時間を費やせるかだと思います。それと自分の技術を相対的にではなく絶対的に見て、何が安全で何が危険かを常に知っておくことでケガを予防できると思言ます。

F:具体例として相対的なこと、絶対的なことを説明してほしいのだけど。
K:例えばAくんはフロントサイドスピンが苦手で、それ以外は全部540まできて、Bくんはフロントサイドだけは、誰にも負けない位練習していて540までできるとします。周りから見るとAの方がいろいろできて上手いと思われがちです。大きめのストレートのキッカーがあるとします。ここでAくんはフロントスピンをやるとケガする可能性が高くなります。Bくんはいつも通りフロントスピンをしてもケガの可能性はかなり低いです。これだけ見るとはBの方がうまいと思われるかもしれません。うまいへたではなく、この技は失敗しないとか、この技はまだ失敗することが多いとか、自分のできることできないことを考えて、その状況に合った技を選択すればケガの可能性は低くなります。できないことは安全な場所で回数を重ねて、できるようにする。できることは、少しずつキッカーのサイズを上げてトライする、というのがいいと思います。

F:ところでカンジの好きなライダーって誰? またその理由は?
K:ピーター・ライン。新しいことに挑戦し続けてるから。特にヒールエッジで抜けるバックサイドスピンの軸が好きです。他にも、ケビン・ジョーンズ、ヨニ・マルミ、DCP、トラビス・パーカーが好きです。みんな何でもできるけど、特にトゥ・エッジで抜くフロント900が好きです。ビデオで見るとすごく良いイメージが湧いて来ます。

F:雑誌とかの見方というか、ハウツー的にトップ・ライダーのこのへんチェックすれば、というようなアドバイスある?
やはり一番大事なのはアプローチと抜けですね。リップを抜ける瞬間からしか載っていないことが多いんですけど、それでもそのリップから飛び出す最後のコマに注目します。視線はどこを向いているか、前足、後ろ足の伸び具合はどうか、肩の回している量、胸の向いている向き、ヒールエッジかトゥエッジか、ヒジの曲がり具合、手のひらの向き、など観察することで、そのライダーがどういう意識でその技をしているかが伝わって来ます。同じ技をやるなら、その人の気持ちになって、動作、視線をできるだけ真似しようとして、それをきっかけに、そこからイメージを膨らませて行くと良いと思います。
キッカーの距離がわかれば、抜きの時点の1コマである程度、着地までの映像は想像できるもんですよ。特に回転軸とか回転の量は想像しやすいです。例え間違っていても、こうやって、抜きとそこから着地までをイメージすることは凄くいいイメージ・トレーにングになります。さらに、当たってたら嬉しいから、みんなもやってみて下さい。

F:カンジはリスペクトのビデオでその姿を見ることができるけど、ビデオの方向性としての目標ある?
K:みんながよく口にするのは、スノーボードの楽しさを伝えたい、ということですね。そこからつながって、スノーボードを通じての生活や友達などを通じて経験する事の楽しさも伝えたいというコンセプトが基本になっています。実際山での生活は都会とはかけ離れていてなかなか経験できないことが多くあるので楽しいですし。

F:カンジ自身の今期の活動予定と目標は?
K:今季は昨期に引き続き、TEAM RESPECTの3作目のビデオの撮影。フサキさんプロデュースの浪人シリーズの撮影もぜひ参加させてもらいたいです。また、シーズン初めの12月にはアメリカのマンモスに行く予定です。冬は日本で滑る予定です。今期はビデオだけでなく、写真、特にシークエンスの撮影をしたいです。一方キャンプのコーチや、雑誌のハウツーの企画など一般ボーダーと触れあう機会も大事にしたいです。欲を言えば、日産XーTRAILなどの大きなコンペにも参加したいですね。

F:夢は?
K:まずスノ-ボード雑誌のカバー(表紙)を飾る写真を残すこと。10年後今よりうまくなってること。あともう一つ、スノーボードでテレビに出たら親孝行になるかなと思うので、大きなコンペで活躍したいです。将来は田舎で自然に囲まれて、のんびりと暮らしたいですね。

●インタビュー後記
インタビューを見てもらってもわかる通り、本当に研究家だ。リフトの上でスノーボードに関する話をしていてもおもしろいし、実のところ普段の会話でまったくスノーボード以外の話をしていてもおもしろいのである。物事に対して探究心が強いのだろう、モノ知り屋なのだ。今回のインタビューを通しても改めて深いところまで考えているなあ、と関心した。本人にとってみては、何でもないことなのかもしれないが、他人から聞いたら本当に「よく考えているなあ」と納得してしまうのである。その反面凄いドジでひょうきんなところもあるのだけど、そんなところがカンジの魅力となり、いつもスノーボード仲間と楽しそうに滑っている要因のようだ。これからもdmkの掲示板やキャンプなどでも、ぜひカンジ・ワールドを炸裂させてほしい。

KANJI’S PROFILE
DATE OF BIRTH: 1975年8月6日
AGE : 27
SNOBOARDING SINCE 1996
HOME MOUNTAIN: WHISTLER BLACKCOMB
SPONSORS: HAMMER Snowboard、D-LIFE、RESPECT
Angles: Front 24, Back -9
Stance: 52cm
FAVORITE TRIX: Frontside 540

HISTORY
RESULT(CANADA)
1999年4月15日 WESTBACH CLASSIC HALF PIPE アマチュア男子 5位
1999年5月1日 NIKE SNOWBOARD SERIES SLOPE STYLE アマチュア男子 1位
1999年5月15日 NIKE SNOWBOARD SERIES HALF PIPE アマチュア男子 1位
1999年5月22日 SHOW CASE SHOW DOWN HALF PIPE アマチュア男子 3位

 

 

2002年11月 VIDEO “MINORITY” にラストパートとして出演

 

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