普通に生きることだって幸福!/橋本通代(6)

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dmkでまったくの無名時代からずっと追い続けているライダー橋本通代(通称:ミッチャン)。
そのミッチャンが、まさに僕たちの期待に応えて見事にシンデレラ街道をまっしぐらに突き進み、数々のヒロイン伝説を残して遂にオリンピックでは誰よりも高いエアーを披露してくれた。
しかし、その後のミッチャンはまるで上昇の炎が消えたかのようにバーン・アウト。再起不能かと思われた最悪の事態である大ケガにも見舞われた。
多くの人が心配する中、ミッチャンはゆっくりと再び階段を上り始めた。そして以前から大好きだったという子供対象のキャンプKIRARA KAMPに着手。今年で2年目を終えた。まずは今、ミッチャンが一番力を入れていると言うKIRARA KAMPのことから伺った。


(只今、最新ミッチャン写真更新作業中)

フサキ(以下F):KIRARA KAMPの様子、NHK(注:サタデースポーツの特集でオンエアーされる)でも見たけど、とてもいいキャンプだったね。今季、終わったの感想は?
ミッチャン(以下M):今シーズンも良くやったなあ(笑)。やれることはすべてやった。ただ、反省点も多かったので、その点を来年に活かさないと。

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F:ミッチャンはこのキャンプで現場を仕切ることやコーチ、また運営の前段階のプロデュースなどあって大変だと思うけど、そのへんはどう?
M:最近、プロデュースするということがとても楽しいです。昨年は準備不足のままいきなりKIRARA KAMPを開催して保護者のみなさんからアンケートをいただきました。2年目の今シーズンは、その声を反映して日程を長くしたり、またインディ・パーク(キッズ専用パーク)を充実させたり、親の方に子供の成長をわかってもらうために冒険記を作ったりとかしました。そして、また今年もたくさんのアンケートを頂いたので、その声を反映しながらいろいろアイデアを考えるのがすごく楽しいです。

F:じゃあ、今はずっとKIRARA KAMPのことを考えている?
M:そうですね。寝ても覚めても考えている。ただこのキャンプをどんどん成長させて行きたいという気持ちもあるけど、その一方で人数を集めることだけを考えたくない。きちんと充実したキャンプ、一人ひとりの子供たちが輝けるキャンプを地道にやっている中から、徐々に大きくして行けばいいと思う。そして、子供たちの自発性をどんどん引き出したい。お母さんがニンジンを細かく刻んで料理に入れるように、キャンプにキラキラ輝くヒントを散りばめたい。

F:なるほど。ニンジンという栄養、つまりそれは人間の成長とかになるのかな?ニンジンってどういう言葉に替えられるだろ??
M:例えて言えば、テレビゲームなんかがファーストフードのような感じで、ニンジンというのは、体を動かすことや、友達と遊ぶこととか・・・、子供たちしか創造できないようなことがニンジンになるという感じかな。

F:スノーボードは体を使って今までできなかったことができた感動などがあり、そういったところが子供たちにとって成長する栄養、つまりニンジンということにもなるね。
M:はい。あと、コーチ陣とか私が尊敬する人たちばっかり。それはただスノーボードがうまいとかでなく、輝いている人たち。そういった人たちと接することで、子供たちもいい影響を受けると思う。

F:子供の頃、学校にそういう先生いたなあ。エネルギーがあって、いい影響を与える先生。そういうオーラというかエネルギーを子供たちって感じるんだろうなあ。ミッチャンが考えるコーチとはどんな基準で選ぶ?
M:一人ひとり違うし、うまく言葉で言えないけど、輝いていること。あとは思いやりがあること。「人を思いやりなさい」と言うんじゃなくて、その人を見てそれを子供たちが感じてほしい。キャンプの中で子供たちが様々な形で成長できるようヒントを与えたい。どんな勉強でも、自分から自発的にやる気にならないと身に入らないと思うから、あーしないさい、こーしなさい、という言うのではなく、その勉強することの楽しさを発見できるようにしたい。

F:KIRARA KAMPで夢中なミッチャンだけど、dmkをずっと見てミッチャンを応援して来た人の中には、今後のミッチャンのプロとしての活動に注目している人も多いと思う。ミッチャンはそのへんどう考えているの?
M:私はあいかわらずスノーボードを楽しんでいるけど。プロというのはお金をいただく以上、仕事という部分が出る。だから、しなくちゃいけないスノーボードと、したいスノーボードが自分の中でいつも戦うんです。つい油断すると、いつの間にかしなくちゃいけないスノーボードが増えてしまうんだけど、最近また吹っ切れて自分のしたいスノーボードをやって楽しくなった!

F:ミッチャンの中でしたいスノーボードとしたくないスノーボードって何?

M:結局、気持ちの問題で同じことなんです。今、一番凝っているのはキッカーでトゥ抜けのオープン360をやりたくて、小さいところからコツコツ練習している。今までのスピンが気に入らなかったので、徹底的に変えたくて。

F:プロとして、しなくちゃいけないと思うのは?
M:これからもう一度スノーボードの大きい目標をたてるとしたら、でっかいナチュラルキッカーでスピンの映像を残すこと。プロとして活躍するためには、これぐらいの目標を持ってスノーボードしないとダメだって思う。でも、そんな風に考えると自分はもうダメだ・・・って落ち込む。前のように全快マックスでやる気があるわけではないのに、また気持ちは中途半端に頑張ろうとして。前より言いワケとか増えて嫌になる。そしたら、大好きなスノーボードするのにため息が出てしまうから「もういいや!自分の好きなスノーボードをしよう!」って思うことにしました。

F:ミッチャンは特にパイプの方で凄い上達して、女性ライダーとしては世界的にも有名な高さを出すほどになったけど、その時には恐怖感とか上昇階段を突っ走ることへのストレスとかなかったの?
M:パイプに関してはマジで怖くなかった。パイプは私の最高の遊び場所で、本当にただ楽しかった。最近はあんまりパイプに行かなくなったけど、今でも大好きです。だって1本滑るのに7回ぐらい飛べて、いっぱいエアーを楽しめるから。上達して行くこともとても楽しかったので、走ることへのストレスもなかったです。

F:パイプでは遂にオリンピックまで行ってしまってカッコいい姿を見せたもらって感激したよ。だけど、その後に燃えるような気持ちがなくなってしまった、ようだけど。
M:せっかく大好きなことに一生懸命になるだけなのに、まっしぐら過ぎて。結局、目的地まで行くのに周りの景色を楽しめなかったから、バーンアウトしてしまった。当時は気づかなかったけど、今考えればそれはとてももったいないことだと思う。これからは燃え尽きないように、目的地までの景色もじっくり楽 しみながら一歩一歩進んでいこうと思う。

F:一昨年、大きなケガをしたことで、考えることも多かったのでは?
M:そう、ケガをして本当に目が覚めた。オリンピックの直後は視野が針の穴みたいになってて、スノーボードの以外何も見えてなかった。だからオリンピックに出ても満足はなくて、いつも焦っていました。パイプの後はキッカーだ、レールだ、パウダーだって、常に高いハードルを預けようとしてしまって。そんな風に焦ってイヤイヤ滑っていたからケガをしたんです。手術をしなければ、普通の生活さえ麻痺との隣合わせだと言われた時にやっと目が覚めました。普通に生きていることだって幸福なんだよ!って。楽しいことがいっぱいある!だから、ケガをしてからの私は、いつもハッピー。たまに悪い癖で焦った時には、ケガした時のことを思い出すようにしています。そんなワケで、オリンピック後の心の風邪と、大きなケガのおかげで、私は自分の人生がより幸せになるヒントを教わりました。

F:ところで大きなケガをして、その後に飛ぶ時とか怖くないの?
M:今は怖いこともたくさんある。毎日感じる手のシビレがこわさを思い出させてくれる。でも、だから今は前とは違う方法で練習しています。怖くないことから一つずつやるんです。前だったら、どんどん自分の体を痛めつけるように練習したけど、今は怖い分しっかりと適切な休みも取れるようになった。今まで何か1つのことをモノにする時、例えば5つのステップあるところを一気にステップしようとしていたんですね。だけど、今は怖いからきちんと1つずつステップアップするからケガも防ぎ、確実に自分の実力になる。

F:最後に今後のミッチャンのやりたいことを教えて?

M:来シーズンは、FISワールド杯だけでなく、今まで出たことなかった大会にも出てみたい。今シーズンは練習なしで、今の実力試しで出たんだけど、来シーズンはちゃんと勝つつもりで出ようと思う。でも、もちろん今度こそ楽しみながら出る!
あと、将来的には、これから活躍する若いライダーのサポートもして行きたいです。スノーボードって技の大きさとか、高さとか、クレイジーなことで評価される部分があるから、そういうことができる勢いがある短い時期をうまくリードできれば、と思う。その伸びる時期に、しっかりと心のサポートもして、素晴らしいライダーに育てて行きたいです。

●インタビュー後記
全速力で走るミッチャン。目標を高く持ち、それに突っ走るミッチャン。そして遂にその目標を達成させてしまうミッチャンのエネルギーにはいつも脱帽される。
だけど、ミッチャンの言葉を聞けば、その目標に向かって走った背景には、常に大きな悩みや葛藤があり、それを克服したことがわかる。そんな時、僕たちはミッチャンに共感を覚えるのではないだろうか? ミッチャンのファンは男勝りのライディングの他に、その人間性の魅力に惹かれた人も多いことだろう。今回のインタビューでもケガの後に思った普通に生きていることだって幸福なんだよ!というメッセージは、今日という日を迎える僕たちの気持ちをハッピーにさせてくれる。そう、目の前には同じ事柄が待ち受けているのだから、その今という時をしっかと楽しむことが大切だ。

このインタビュー後にミッチャンからこんなメッセージをいただいたので、紹介しよう。

ウィスラーでスノーボードを始めた年からずっと、フサキさんには本当にお世話になってます!いつも応援してくれて、見守ってくれて、必要な時にはそっと助けてくれて、突っ走ってる時も、立ち止まった時も、ゆっくり歩き始めた時も、道を迷ってる時も。
フサキさんを始め、dmkのみなさん、いつも本当にありがとうございます^^
これからも頑張りますので、よろしくお願いします!!

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