
文:飯田房貴 @dmkfusaki
〜なぜエピックパスやアイコンパスが普及するのか?〜
カナダ・ウィスラーには、アメリカから多くのスキー・スノーボード客が訪れます。
ある日、いつものようにスノーボードスクールでレッスンを担当していたところ、アメリカからやってきたカップルが参加してくれました。
彼らは、世界中のスキー場で使えるエピックパス(Epic Pass)を保有しており、今回はそのパスで滑れるということで、初めてウィスラーに来たとのこと。
私が「今シーズン、どれくらい滑ったの?」と聞くと、「まだ6日だけ」との答え。
それでも彼らいわく、「北米の1日券は300ドルくらいするから、4日も滑ればパスを買ったほうが安い」とのこと。
私が「じゃあ、今季は何日くらい滑る予定?」と尋ねると、「10日間くらいかな」と。
正直、「たった10日でパス買うのか…」と驚きました。
私は今でこそスクールスタッフとして無料パスが支給されていますが、かつては自費でシーズンパスを購入しており、「元を取るには20日以上は滑らないと…」という感覚でした。
しかし、今は1日券の価格が高騰しており、たった4〜5日でも元が取れてしまう時代。だからこそ、エピックパスやアイコンパス(Ikon Pass)を選ぶ人が増えているのです。
目次
ウィスラー・ブラッコムの1日券価格推移
シーズン | 価格(カナダドル) | 備考 |
---|---|---|
2022/2023 | 約$200 | |
2023/2024 | $299 | 前年比約1.5倍の値上げ |
2024/2025 | $330 | 前年比10%の値上げ |
ベイルの1日券価格推移
シーズン | 価格(米ドル) | 備考 |
---|---|---|
2011/2012 | $116 | |
2018/2019 | $209 | 初めて$200を超える |
2023/2024 | $299 |
エピックパスとアイコンパスの違い
エピックパスは、コロラドの高級リゾート・ベイルやカナダのウィスラー、さらにヨーロッパや日本(白馬・ルスツ)などにも提携リゾートを持つ、国際的なスノーパス。
一方でアイコンパスは、アスペンやマンモスマウンテンなどアメリカ西部に強いラインナップを持ち、バリエーションやローカル感が魅力。
どちらもアメリカ中心のパスですが、
- エピックパス:企業系列(ベイル・リゾーツ系)が中心 → 統一感・効率性重視
- アイコンパス:独立系リゾートが多い → 多様性・個性重視
それぞれ異なる魅力があり、ライダーの好みによって選ばれています。
🎿 エピックパス vs アイコンパス 比較
項目 | エピックパス | アイコンパス |
---|---|---|
🏢 運営会社 | Vail Resorts(ベイル・リゾーツ) | Alterra Mountain Company(アルテラ) |
🏔 滑走可能スキー場数 | 約70か所以上 | 約50か所以上 |
🌍 カバー地域 | 北米中心(米・加・欧州・日など) | 北米中心(米・加・日・欧・南半球など) |
🇺🇸 アメリカの拠点 | コロラド(ベイル、ブリッケンリッジなど)中心 | コロラド(ウィンターパーク、スティームボートなど)+西海岸や東部にも拡大 |
🇨🇦 カナダ | ウィスラー、フェルナイなど | レベルストーク、レッドマウンテンなど |
🇯🇵 日本 | 白馬バレー(Goryu, 47, 八方尾根など) | ニセコ |
⏱ 混雑時の制限 | 一部ブラックアウト日あり(制限付きパス) | Base Passは制限あり、Full Passはほぼ無制限 |
💰 価格帯 | ベースモデルはやや安め | ベースパス+アップグレードが必要な場合あり |
🎯 向いている人 | 同じグループのスキー場に毎年行く人 | 多拠点を滑りたい人、バリエーション派 |
北米の1日券が高い4つの理由
(シーズンパスを売るためのビジネス戦略)
北米では「1日券が高い」のは、単なる物価の問題ではありません。
そこには、シーズンパス(提携型パス)を売るための明確な戦略があります。
① パスの“お得感”を演出するための価格設定
1日券が200〜300ドルもする一方で、エピックパスやアイコンパスは数日滑るだけで元が取れる価格設計に。
比較することで「パスの方が断然お得!」と感じさせる狙いがあります。
② 先にお金を回収できる(雪が降る前でも収益確保)
パスは早期販売で利益を確保できるため、シーズンの天候リスク(雪不足など)を軽減する“保険”のような役割も果たしています。
③ パスによる顧客囲い込み
一度パスを買った人は、そのパスで滑れるスキー場に行くようになります。
宿泊・飲食・レンタルなどの周辺サービスも、自社グループ内で収益化できるのが大きなメリットです。
④ オペレーション計画が立てやすくなる
事前にパス販売数を把握できるため、来場者数を予測しやすく、リフト運行や人員配置の最適化が可能になります。
エピックパスの価格推移
エピックパスは2008年に導入されて以来、その価格は年々変動しています。以下に、主要なシーズンの価格推移をまとめます。
シーズン | 価格(USD) | 提供リゾート数 |
---|---|---|
2008/2009 | $579 | 6 |
2009/2010 | $599 | 6 |
2010/2011 | $599 | 6 |
2011/2012 | $649 | 7 |
2012/2013 | $659 | 8 |
2013/2014 | $729 | 12 |
2014/2015 | $729 | 11 |
2015/2016 | $769 | 12 |
2016/2017 | $809 | 13 |
2017/2018 | $859 | 14 |
2018/2019 | $899 | 18 |
2019/2020 | $939 | 20 |
2020/2021 | $999 | 37 |
2021/2022 | $819 | 37 |
2022/2023 | $841 | 37 |
2023/2024 | $909 | 37 |
2024/2025 | $982 | 42 |
2025/2026 | $1,051 | 42 |
パスがもたらす「自由」と「見えないコスト」
エピックパスやアイコンパスは、単なる割引パスではなく、企業の収益戦略の一環です。
そしてその要として、「1日券の高価格化」が意図的に設定されているのです。
日本でも「世界に比べてリフト券が安すぎる。もっと値上げすべき」という意見が出ていますが、
そもそも北米では、“高く設定することでパスを売る”という仕組みがあることを理解しておく必要があります。

スノーボーダーとして思うこと
我々スノー業界の人間にとっては、一人でも多くの人がゲレンデに来てくれることが何より嬉しいことです。
ただその裏では、企業がユーザーに“必要以上のお金”を使わせるように設計している面もあるのが現実です。
たとえば、冒頭のアメリカ人カップル。
エピックパスがなければ、もっと近くの安価なスキー場で満足できたかもしれませんし、
ネット予約による割引1日券などを使えば、300ドルも払わずに済んだかもしれません(おそらくあれはピーク時の最高価格)。
冷静に考えれば、不必要に高額な旅費や出費を抑える選択肢もあったはずです。
便利なパスの裏にある“価格の仕掛け”に、私たちスノーボーダー自身も賢く向き合いたいものです。
情報源:
Cost of Peak Lift Ticket at Whistler Blackcomb, BC, Rises 50% to $299 Canadian Dollars This Season ($218 USD)
https://snowbrains.com/cost-of-day-pass-at-whistler-blackcomb-bc-rises-50-to-299-canadian-dollars-this-season-218-usd1/
Whistler ski tickets are how much? 1.5x price jump raises eyebrows
https://dailyhive.com/vancouver/whistler-tickets-how-much-price-1-5-jump
How much? Whistler hikes lift tickets by 10% after 1.5x jump last year
https://dailyhive.com/vancouver/how-much-whistler-lift-tickets-10-hike
Vail’s single-day, walk-up lift ticket hits $116
https://www.vaildaily.com/news/vails-single-day-walk-up-lift-ticket-hits-116/
Vail Resorts Has an Epic Problem
https://www.wsj.com/business/vail-resorts-epic-pass-multiresort-ikon-40ae7205
Vail’s single-day, window lift ticket price hits $209
https://www.tahoedailytribune.com/news/vail-single-day-lift-ticket-cracks-200-mark/
Vail’s lift ticket price hits $260CDN
https://skitheworld.com/2019/01/vails-lift-ticket-price-hits-260cdn/
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをしており、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は39年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。
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ツイッター:https://twitter.com/dmksnowboard