【コラム】オリンピックがスノーボーダーのスタイルを退化させる!?

文:飯田房貴 fusaki@dmksnowboard.com

Westbeachが今季で40周年を迎えて、本社から来た過去の写真を整理していたのだけど、昔のライダーってスタイルが抜群に良かったんだなあ、と改めて思いました。

1992年に撮影されたケビン・ヤングのインディ!
前足をしっかりと伸ばして、後ろ足をしっかりとタックニー。
後ろの手がちょっと見えるけど、グラブもトゥ側でなくヒール側しようとしているのかな?

今でもカッコいいインディを決めるライダーはいるけど、なかなかここまで決めている姿ってないですよね。

昔のライダーがスタイルにこだわった理由

昔のライダーたちは、今以上にシンプルなストレートジャンプの中で、スタイルにこだわっていたように思います。
というのも、この時代の最高スピンと言えば、540まで。
この後にケビンとかピーター・ラインのお陰で斜め回転のロデオとか誕生するわけですが、3Dスピンとかって「マジか!」って超驚きのレベルでした。

スピン数が少ない原因は、そもそもそんなレベルだったということもあるけど、 それ以上に、環境もあったと思います。
今のような超整備されたキッカーなどなかったので、自然な地形を利用して飛んでいたことが多かったし、そもそも巨大キッカーなどなかった。
あったのは、手彫りで作ったハーフパイプと、ブラッコムのグレーシアのウインドリップ!?

あのブラッコムグレーシアにあった伝説のウインドリップは、ファーストチルドレンのライダーたちがビデオに収録したお陰で有名になったけど、その前にはゴローくん(小松吾郎)が、50メートルぶっ飛んだという伝説も持っています。

1991年、僕はブラッコムにあったナチュラルヒッツでジャパンエアーの練習を始めました。教えてくれたのは、現在Snowboard Dojo Wizをやっている周くんです。
バインのラチェットを緩める周くんを見て、「何やってるの?」と聞いたら、「タックニーを決めるために、あえて前足を緩めているのですよ。」とのこと。その時、「マジか!ズルい(笑)」と思ったけど、僕も真似しました。お陰で、今年で51歳ですが、今でもポコジャンや小さなキッカーでジャパンを決めています。

ともかく、通常僕たちが行っていたジャンプというのは、今のような対空時間もなかったから、スタイルにこだわったヒストリーがありました。

長野オリンピックがスタイルの分岐点

スノーボードのトリックは年々進化していったし、エアーもどんどん高くなっていきました。
1990年のワールドカップでは、縦回転する時には、手を付かないといけないなんてルールがありました。1991年ルスツで行われた世界初のISFワールドカップでは、クレイグ・ケリーが、ジェフ・ブラッシーを下したわけだけど、その時、ブラッシーがJTエアー(※当時の後方縦回転技)で手を付いてなかったので、ノーカウントで2位に終わったのです。

だけど、その後にそんなルールはナンセンス!ってことで、縦回転でも手を付かなくても良くなり、その高さもどんどん上がっていきました。

こちらの写真は、ウィスラーで行われたWestbeachクラッシック大会、1998年のトレバー・アンドリューです。
高いマックツイストですね。
あの時、縦でここまで高く飛んでいたという印象があるのは、その後に台頭して来たキアー・ディロン。
あとは、ソルトレイク五輪で曰く付きのジャッジで泣いた中井くん(孝弘)など。

ともかく、オリンピックをきっかけにどんどん技の回転数が増えていったのです。今では、あとでスローで見て確認しないとわからないほど、縦横斜めに選手は回転しています。

スノーボード選手の年収を上げ、知名度も高めて来たオリンピック。
そのモンスター・ステージは、スノーボーダーのトリックをどんどん複雑なスピンにしていったのです。


進化、退化!?オリンピック・スノーボード種目が気を付ける点

1998年の長野オリンピックというと、カナダ代表のマイク・マイケルチャックが脚光を浴びました。
夏の間、同じパイプにいたので、マイケルチャックのことは、無名時代から知っていましたが、当時の彼というのは、スノーボード界でノーマークでした。
だけど、あの独特な側転のようなチャックフリップを誕生させて、一躍の選手に!

でも、脚光を浴びた後でも、スノーボード界は結構冷たかったようにも思います。というのも、彼の動きはスノーボーダーというよりも、体操選手っぽい感じがあったので。

で、気づいてみたら、選手を引退して、ウィスラーよりも北にいった田舎町のペンバートンで、大きな土地を買ってブルドーザーで自分の庭で基地のようなものを作っていました(笑

そもそもスノーボードのスタイルを得点に反映させるということはなかなか難しいことです。
それは、横乗り、特にスケーターなら伝わる匂いというか、主観と言ってもいいかもしれません。

だから、以前のFISワールドカップやオリンピックでは、ストレート・トリックを必ず入れなければいけないというルールもあったのですが、気づいてみれば、それもなくなりましたね。

どうしたって、エアーが高かったり、回転数が多かったり、また横回転だけでなく縦も入ってというふうに、どんどんクルクルした方が得点が上がって得というわけです。

そう言えば、いつだったかカズ(国母)が、Xゲームで「ファックな大会だ。」みたいなこと言って問題(話題!?)になったことがあったけど、そういうことを言っていたのかもしれません。

先日、スキーのモーグルでオリンピックを目指す子と話す機会があったのですが、最近のモーグルのジャッジ方法に驚きました。
これも1つの例ですが、空中のどこにいても身体がピーンとしてTのような形になっていないと得点が伸びないというのです。

これって、まさに体操とかフィギュアスケートとかの世界です。
かつて、というか今でもあるのかもしれないけど、スキーのエアリアルのような印象ですね。

確かにこれはこれで美しいけど、横ノリスト的には受け入れられない雰囲気が漂います。例え身体が伸びていなくても、軸がボードに対して垂直でなくても、クールなものはクールなのです。

かつて、忠(布施)は、東京ドーム大会で、みんながクルクル回している中、バックワンを決めて脚光を浴びたけど、スノーボーダーにはあのエアーがカッコいいという風潮があるのです。

カナダのバックカントリー・レジェンド、デヴァン・ウォルッシュも、あえてノーグラブで回すところがクールだとも言われました。
実際、スノーボードのエアーをしていて、ノーグラブでスタイルを出すほど難しいことはありません。グラブするから安定するし、軸が保ちやすくなるのですが、あえてノーグラブにするには、相当板に乗れていなければならない。

しかし、今のオリンピックでのジャッジでは、ノーグラブだったから減点というふうになります。これは、スノーボードのカルチャーを侵しているとも言えます。

スノーボーダーのための新しい大会とは?

オリンピックを通して、これまでスノーボードに興味を持っていなかった方が興味を持ってもらえることは嬉しいことです。この業界に生きる者として、ありがたいとも思います。

しかし、オリンピックで誰もがわかりやすい結果を求めた結果、スノーボードのスタイル文化を侵しているとも言えるでしょう。そこで、僕のアイデアを披露しましょう!

それは、回してはいけない大会です。
例えばハーフパイプなら540まで。
それ以上、回しても現在のオリンピック・ジャッジのように点数を上げない。
そして、ジャッジはスノーボード界のスタイルを担って来たレジェンドたち。
テリエ・ハーコンセン、ジェイミー・リン、ブライアン・イグチ、トッド・リチャードなど。
出場する選手は、彼らをうならすランを披露しないといけないので、スタイルを研究するハズです。
ノーグラブの超どデカいエアー・トゥ・フェイキー、またはハンドプラントや、最近流行のリバースターンをパイプ内で噛ますかもしれません。単に回転数、エアーの高さというよりも、本当にスノーボードを好きな人たちを満足させるスタイルを追求していくように思います。

だけど、ビールを飲みながらジャッジしているレジェンドおじさんたちは、最新トリックの難易度を見逃してしまうかもしれないので、一応、最近でも活躍しているダニー・デービスあたりをジャッジに加えておくといいかもしれません。
マイク・ランケットあたりが、「あれ、何やった凄いの?」と聞くと、ダニーが「あの回転軸で着地するのは大変なんだよ。」とフォローしてくれたり。

もし、そんな大会があったら、平野歩夢やベン・ファーガソンあたりが新しい戦い方を見せてくれるかもしれません。彼らならオリンピックでも活躍しながら、こういうスタイリッシュな大会でも活躍できる実力があるので。
こんなおもしろい大会ならオレも出るぞ!とばかり、カズも復帰してくれたりするかも。
そうなったら、僕たちスノーボーダーにとってはオリンピックよりもおもしろい大会が見れそうです。