ギネスブックにも載っているウィスラーのピーク・トゥ・ピークゴンドラ、建設費480億円はどのようにかかったのか?
ウィスラー山とブラッコム山を結ぶピーク・トゥ・ピークゴンドラは、ギネスブックにも載る有名なゴンドラです。ピーク・トゥ・ピーク・ゴンドラは、4.4キロメートル(約2.7マイル)の長さを誇り、これにより世界最長のゴンドラとして認定されています。また、海抜約436メートルの高さで吊るされており、最も高い位置にあるゴンドラとしてもギネスブックに記録されています。
建設費用は、約5,500万カナダドル(当時レートで約480億円)。
最初にこのアイデアを聞いた時、「何ともナンセンスだ。こんな多額の費用をかけて、こんなゴンドラが本当に必要なのか?」と思った。なぜなら、私にとってウィスラーからブラッコムに行くことは、およそ10分かけてビレッジまで滑り降りて、ビレッジからブラッコム行きのゴンドラに乗ればいいだけだからだ。
そして、実際に2008-2009シーズンに、ちょうどオリンピックの1シーズン前にできた時には、やはり空中ブランコのようなデザインのゴンドラに戸惑いを感じた。
しかし、実際に利用してみると、ゴンドラは非常に安定しており、快適だった。しかも、ウィスラー、ブラッコムのアルパイン間を12分で結ぶのは、非常に便利に感じた。今では、ウィスラーの大事な観光資源となっており、夏でもこのゴンドラを目指した観光客が訪れる。そして、ピークトゥピークを利用したハイキングも楽しめ、今では一年を通して利用される人気ゴンドラとなった。
さて、この2つの山を結ぶゴンドラのタワーは、ウィスラー山に2本、ブラッコム山に2本しかない。あとは空中にぶら下がったケーブルにゴンドラが吊るされているのだ。
このようなとんでもない建築物はどのようにできたのだろうか?
その詳細をわかりやすく伝えてくれる動画『This 2-Mile Long Gondola Cost $52 Million』がアップされているので、ご紹介しよう。
動画の後には、ナレーション原稿の日本語訳も付けておくので、ぜひチェックして、このゴンドラの凄さを感じてみてください!
北米最大のスキーリゾートであることは間違いない。しかし、その巨大な規模が逆に問題になることもある。エンロンのように、最初は強さを誇っていたものの、最終的には崩れた企業のように。このリゾートは、2つの山を管理するだけでなく、訪れる人々が1つの山頂から別の山頂へ簡単に移動できるようにも工夫しなければならない。
何十年もの間、リゾート内を横断したい訪問者は、一度尾根を下り、ウィスラービレッジまで戻り、そこから再び別の山を登る必要があった。この明らかに不便な移動を解決するために、スキーリゾートの伝統的な手段であるゴンドラを導入するのが当然の流れだった。しかし、従来型のゴンドラでは時間の短縮にはほとんどならなかった。それは、一度山を下り、谷を横断し、再び別の山を登る必要があるためだ。エンジニアの試算では、この移動には1時間以上かかり、乗客が退屈で死にそうになるという結論に至った。
そこで、この明らかに単純な解決策をさらに改良したのが、これである。谷底まで降りることなく、山頂から山頂へ直接移動するゴンドラ。このゴンドラは、途中に支柱を一切設けずに、約2マイル(約3.2 km)の距離を移動しなければならない。また、ハリケーン並みの強風に耐え、谷底から数百フィートの高さを飛ぶように進む必要がある。このようなゴンドラは当時存在せず、過去に試みられたこともなかった。しかし、2007年、ウィスラー・ブラッコムは谷を横断することを決意した。
ピーク・トゥ・ピーク・ゴンドラがどのように建設されたのか
このプロジェクトで解決すべき主な問題は、概念的には単純だった。1本のゴンドラケーブル(たとえ高性能なものでも)は、数マイルにわたってゴンドラを支えるようには設計されていない。仮にそれが可能だとしても、唯一の接点がケーブルだけでは、ハリケーン並みの強風にさらされた場合、穏やかな谷越えの旅が「空中スープ」に変わってしまう。
では、1本のケーブルでは不十分な場合、どうすればいいのか?答えは単純だ——ケーブルを増やせばいい。
ピーク・トゥ・ピーク・ゴンドラは、標準的な「ホールロープ」(ループ状に張られた牽引用のワイヤー)に加えて、両方向に2本ずつ追加のケーブルを設置し、ゴンドラがそれらをレールのように利用できるように設計された。さらに、同じレールを走行できる救助用車両、接近する航空機を検知するレーダーも追加され、最終的には信頼性の高い「空中鉄道」が完成した。
こう聞くと簡単に思えるかもしれないが、実際の建設は極めて困難を極めた。
ウィスラー・ブラッコムには、ゴンドラを完成させるために2年間の工期が与えられた。しかし、スキーリゾートでの建設において「2年」は、実際には「2年よりはるかに短い期間」を意味する。このゴンドラの基礎となる4本の支柱(タワー)は、春から夏にかけてしか建設を進めることができなかった。なぜなら、雪が積もるとコンクリートミキサー車が山へ上れないからだ。さらに、カナダの春や夏には頻繁に悪天候が発生し、そうした日にはコンクリートをヘリコプターで山頂へ運ばなければならなかった。
こうして、2008年春までに4本のタワーが完成。だが、ここからが本当に困難な作業だった——ケーブルの設置だ。
空前の長さと重量を誇るケーブル
このプロジェクトのために使用されたケーブルは、1本あたり15,000フィート(約4,570 m)もの長さがあり、重さは97トンにも及ぶ。さらに、このケーブルは767,000ポンド(約348トン)もの荷重に耐えることができる。
世界には、これほどのスペックを持つケーブルを製造できる会社はほとんど存在しない。そのため、ケーブルは「良いものを作る国」であるスイスで製造された。しかし、これらの巨大なケーブルをカナダの山頂まで輸送するのは一大プロジェクトだった。
スイスからウィスラーへの長い道のり
5本の巨大なケーブルは、まず貨物船で大西洋を横断し、パナマ運河を通過し、カナダのバンクーバー港に到着。その後、重量がありすぎてトラックに積めなかったため、鉄道の貨車に直接溶接して固定され、バンクーバーからウィスラーへと輸送された。
しかし、この鉄道輸送でも思わぬ問題が発生した。カナディアン・ナショナル鉄道のトップが、ウィスラーで開催されるゴルフトーナメントに参加するため、ウィスラーのど真ん中に自分の豪華な専用列車を駐車してしまっていたのだ。このため、ゴンドラ用ケーブルを積んだ貨車が進めなくなった。
この問題を解決するため、開発チームの1人が鉄道会社の株を購入し、大口投資家の立場を利用して社長の連絡先を入手。直接電話をかけ、列車をどかしてもらうよう交渉した。この一件を経て、ようやくケーブルはウィスラーの貨物駅へ到着。
山頂へのケーブル搬送
だが、ここからさらに困難な道のりが続く。
トラックでは運べないため、「48輪のゴールドホファー・ヘビーホールトレーラー」をモントリオールから取り寄せ、ケーブルを積み、時速1マイル(約1.6 km/h)という極めて遅い速度で山を登った。しかし、48輪でも十分ではなく、山道がぬかるんでいたため、2台のトラックで前方から牽引し、後方からさらに1台のトラックで押すという方法を採用。19時間かけて1本のケーブルを山頂へ運び、この作業を5回繰り返した。
谷を横断するケーブル設置
次の課題は、ケーブルを谷に架けることだった。
ケーブルそのものが重すぎてヘリコプターでは運べないため、最初に細いガイドケーブルを設置し、それを使って本物のケーブルを引っ張った。こうして、ケーブルが谷を横断するのにかかった時間は——なんと12週間。
完成
こうした試練を乗り越え、2008年12月、ピーク・トゥ・ピーク・ゴンドラはついに運行を開始した。これは、世界最長の支柱なしスパンを持つゴンドラとしてギネス記録に認定された。
これが、ウィスラーの2つの山を結ぶ、空中の鉄道「ピーク・トゥ・ピーク・ゴンドラ」がどのように作られたのか、その全貌である。