
文:飯田房貴 @fusakidmk
冬の人気レジャーとして、多くの人を魅了するスキーやスノーボード。しかし、アメリカのスキー場ビジネスは「成長の限界」に直面している。過去45年間、新しいスキーリゾートの建設はほとんど行われておらず、既存のリゾートの拡張も土地や規制の制約で容易ではない。多くの山岳地は政府所有で、民間が自由に開発できる土地は限られているためだ。
では、なぜスキー場にこれほど人が集まるのだろうか?
単なる冬の娯楽ではなく、豪雪地帯で味わえる新鮮なパウダー、家族や友人とのレジャー体験、温泉や観光資源との組み合わせなど、総合的な「非日常体験」が魅力となっている。また、EPIC PASS(エピックパス)やシーズンパスの登場により、1日券より割安で複数の山を巡ることができる利便性も人気を押し上げている。さらに、SNSでの美しい雪景色や滑走動画の発信が話題となり、口コミや情報拡散の影響で訪問者が増加する傾向もある。
ベイルやブレッケンリッジ、パークシティなどのアメリカの人気リゾートは、既存の施設や山の容量を最大限活用し、年間サブスクリプションで利用者を囲い込む戦略を取って成功した。しかしその一方で、ピーク時の混雑や駐車場不足、リフト待ちの長蛇の列といった問題は解決できず、無限に利用者を増やすことはできない。これは「ネガティブネットワーク効果」と呼ばれ、利用者が増えるほど体験の質が低下してしまう現象だ。
私の住むウィスラーでも、エピックパス導入後、アメリカ本土からの観光客が増加し、パウダーの日にはリフト待ちが長くなるなど、混雑の懸念が現実化している。せっかくの極上の雪質も、人の多さによって楽しさが半減することもしばしば。

こうした成長の天井を前に、投資家や資本は新たなチャンスを求めて他国に目を向けるようになった。そのターゲットのひとつが「日本」だ。
特に北海道のニセコや長野県の白馬村は、外国人投資家の関心を集めており、ニセコでは地価が過去5年間で約3.8倍に上昇。倶知安町ひらふエリアの不動産の約9割が外国資本に所有されるとも言われる。白馬村も外国人観光客の増加が顕著で、スキー場来場者の4割以上を占めることもある。
この背景にはいくつかの要因がある。日本の土地は私有地が多く、リゾート開発やホテル建設の自由度が高いこと。円安で外国資本が有利に投資できること。雪質やアクセスの良さ、温泉など観光資源の充実に加え、SNSでの情報拡散が集客を後押ししていることだ。結果として、アメリカで成長が頭打ちとなった資本が、日本のスキー場やホテル、不動産市場に流入している。
しかし、課題もある。外国資本の流入で地価や宿泊料金が上昇し、地域住民の生活に影響を与える可能性があること。また、転売目的の購入が増えると地域コミュニティやリゾートの持続可能な発展に支障をきたす恐れもある。白馬村では村長が規制の必要性を指摘し、地域とのバランスを取る取り組みが求められている。
結局のところ、スキー場ビジネスの成長には「土地と規制」「利用者体験」「地域社会との共存」が不可欠だ。アメリカのリゾートは容量や規制の制約によって成長の限界に近づき、ウィスラーでも混雑が課題となっている。
一方、日本はどうなるのだろう?
人気リゾート地であるニセコや白馬は、地域社会とのバランスを取りながら、今後どのように持続的に発展していくかが注目される。

飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/