【コラム】スノーボーダー五輪選出の年齢制限はナンセンス!?

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文:飯田房貴 [email protected]

2020東京オリンピックで初となったスケートボード。

美しいパーク。
ノーサイドで互いの健闘を称え合う姿。
そして、何より驚いたのは、出場選手の若さ。

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女子ストリートの決勝は、日本の西矢椛とブラジルのライッサ・レアウとの間でメダルが争われました。
結果は、みなさんご承知の通り「真夏の大冒険!」を決めた西矢選手が見事に金メダル獲得!日本史上最年少Vとなりました。
そして、あの熱いゲームが終わった今でも、世界中からSNS等を通して彼女たちのパフォーマンスに賞賛の声が上がっています。

西矢椛とライッサ・レアウは共に13歳。学年で言うなら中二ということなので、オリンピックに出場する覚悟は、もう小学生の時から抱いていたように思います。そんな超若い彼女たちが、東京五輪の舞台で花を咲かせてくれました。まだ身体も小さいし、あどけないので、見ているオジサンは、そんな姿を見ているだけで「こんな大舞台で活躍して偉いなあ」と思ってしまいます。

すでに彼らの活躍は経済にも波状効果をもたらし、巷ではスケートボード・ブームだとか。昨年、コロナ禍でも気軽に遊べるスケートが大人気となり、メーカーさんは「製造が間に合わない」と嬉しい悲鳴を上げていましたが、ここへ来て五輪でさらに火が点いてしまったようです。
また、男子で金メダルを獲得した堀米雄斗のTシャツに注目が集まり大人気!こちらの富士山をモチーフにしたようなシャツは、すでに完売してしまったというから驚きです。

スケートボードは、他の五輪競技と違って、ビックリするような若い選手が多いです。雰囲気もリラックスしているというか、「相手を倒してやろう」というより、「お互い切磋琢磨し合いながら良いパフォーマンスをしようぜ」という温かい印象がありますね。そんな空気感も、若者に支持されているのででしょう。

だけど、ここでスノーボーダーのみなさんは、1つ疑問が浮かびませんか?
なぜ、スノーボード五輪には13歳という選手が現れないのか?

同じ横乗りであり、スケート同様にちょっとでも失敗したらすぐに怪我に繋がりそうな過酷なアクションスポーツであります。しかし、スノーボードのオリンピックで13歳という選手が現れたことは一度もありません。

北京オリンピック時に15歳でないと出場できない

理由は明白。スノーボードのオリンピック種目を管轄するFISが、年齢制限を決めています。
北京オリンピックの場合、2007年1月1日前までに生まれていることが決まっています。(以下、参考FISによるQUALIFICATION SYSTEM FOR XXIV OLYMPIC WINTER GAMES, BEIJING 2022)
https://assets.fis-ski.com/image/upload/v1621925295/fis-prod/assets/Beijing_2022_-Qualification_System-_Snowboard_V2.0.pdf

そもそもオリンピックに出場するための年齢制限は、オリンピック委員でなく各競技団体に委ねられているので、FISが13歳もしくは14歳から出場できると決めれば、各代表選考の考え方も一気に変わる可能性があります。

例えば、日本の場合、荻原大翔(2005年7月19日生まれ)が今年の3月に世界最年少記録となるBSクワッドコーク1800をメイクして話題となりました。こんな若い選手が、北京オリンピックに出場できていたら、さぞ大きな話題となり、ますますスノーボードに注目が集まったことでしょう。

すでに世界のトップレベルを走り続ける日本のホープ、村瀬心椛(2004年11月7日生まれ)には、妹の由徠さん(2007年2月1日生まれ)がいて、ジュニア世界選手権で優勝するなど大活躍をしているのですが、彼女もオリンピックに出場していたら、姉妹出場で大きな話題となったことでしょう。

ただここで賢明な読者の方は、もう気づいたことでしょう。

荻原大翔、村瀬由徠は、共に北京オリンピックの時には、15歳になっている。FISが決めている2007年1月1日前までに生まれているのでクリアしている!と。

では、なぜ彼らはオリンピック出場のために必要なFISポイントを獲得できるワールドカップに出場していないのでしょうか。

ワールドカップに出場するための各国チームの思惑

この調査を始めて最初に思い立ったことは、「ワールドカップに出場するための年齢制限があるのではにだろうか?」ということです。
そこで、もの凄く長い文章のFIS規約ルールなど、様々な資料を探して読んでみましたが、今のところW杯出場するための年齢制限、つまり何歳から出場できるというようなルールは見つかることができまでんでした。(※もし、知っている方がいたら教えてください!)

ただ、そのヒントとなる資料を見つけることができました。それは、ワールドカップに出場できる各国の出場人数制限です。

日本のスロープスタイルの場合、出場できる人数は男子3名、女子3名だけとなっています。これはおそらく、これまで(昨シーズンまで)の実績(成績)で、各国の出場枠が決められているのでしょう。例えば、スロープ強国と言われるカナダでは、男子は6名も出場できます!一方で、いくつかの国は、ワールドカップに出場することすらできないのです。こうした弱小国が出場するためには、おそらくW杯よりも下のランクの大会、オープン選手権やコンチネンタルカップのような大会で、好成績を収めて枠を勝ち取る必要があるのだと思います。

さらにワールドカップでは、自国開催枠があるのでそういったところから出場できるチャンスも生まれます。

また、さらに細かいことを言うと、特別個人枠というのがあり、おそらく前シーズンで王者だったような立場の選手は、その国の出場枠に関係なく出場できることができるようです。スロープスタイルでは、マーカス・クリーブランド、アンナ・ガッサーだけが選ばれています。
ビッグエアの方では、岩渕麗楽が名誉あるたった1名枠に入っています。

(以下、参考資料)
FIS Snowboard World Cup 2021/2022
Quota Calculation – Basic plus Elite plus Additional Quota Spots
Valid until the end of the season 2021/2022
https://assets.fis-ski.com/image/upload/v1627370551/fis-prod/assets/Calculation_SB_HP_SS_BA_Qutoas_2122.pdf


話を戻して、日本人の男女それぞれの3名スポットについて、深掘りしていきましょう。日本チームの立場、思惑を考察します。

出場できる日本人選手が3名しかいないということであれば、例えば女子の場合、すでに特別枠で出場できる岩渕麗楽がクリアしているとして、残り3名出場できるので…、あとは鬼塚雅、村瀬心椛の出場となるでしょう。となると、さらにあと1名だけ出場できるので、残りは日本代表の評価レベルに委ねられるということになります。


日本の場合、上のランクからS、A、Uとなっており、岩渕、鬼塚、村瀬のトップ3はSランク。次のAには、芳家里菜がいるので、芳家選手がワールドカップ4人目の出場枠に入るということになると思います。村瀬由徠選手は、その下のUランクに控えているので、自国開催のW杯などあれば、その特別枠で出場できるチャンスはあるのでしょう。

(以下、SAJリンクページ参考)
http://www.ski-japan.or.jp/teamsnowjapan/SBSSBA/2021/

次に男子を見てみましょう。
男子の方は、さらにストーリーが複雑になりそうなので、ナショナルチームの選手をすべてピックアップしてみます。

Aランク
飛田 流輝
濵田 海人
大塚 健
國武 大晃
木俣 椋真

Uランク
川上 蒼斗
長谷川 帝勝
渡部 陸斗

以上のようにAランクに5名、Uランクに3名となっており、最上級のSランクの選手はナシ。
だから。ワールドカップ出場には、Aランクの中から3名の選手が選ばれると思われます。

あとワールドカップの場合、種目にもよりますが、女子は30名しか出場できなくても男子は60名も枠があるので、その人数枠まで出場が達成できない時に、日本チームが希望すれば、出場枠が増えるのかな?(推測)とも思われます。

ちなみにオリンピックに出場できる人数、スロープスタイルの場合には男女共に30名なので、どちらにしても世界トップ30レベルにいなければ、出場できる意味は薄まります。なぜなら、日本チームはメダル、もしくは入賞チャンスある選手を派遣するためにチーム編成をしているからです。

このように日本チームの事情を考えていけば、現在、Aランク、Uランク選手よりも若くて実績がなかった荻原大翔がナショナルチームに入れなかったのかな、と思います。しかし、荻原選手の立場になれば、そのチャンスすら与えてもらえなかったのかもしれません。何しろ日本男子のスロープ陣は層が厚く、W杯には優先的に実績がある選手が出場し続けていたからです。(注:荻原選手は、Uより下の国内強化選手には選ばれています)

理想を言えば、国内で国際級レベル・サイズの大会を開いてほしかったと思います。そうした下剋上となるような活躍する場があれば、若い選手たちがトップランク選手の上を行くような活躍を見せることになったかもしれません。そうすれば、国内でのランク争いで上に行ける可能性があったことでしょう。より明確な国内ランク争いにも繋がると思います。

思えば、2014年のソチ五輪で、当時、ヨーロピアン・オープン(※FISのW杯とは違った国際的なレベル高いプロ大会)で銀メダルを獲得していた鬼塚選手が、ナショナルチームに選ばれないということがありました。あの時も、鬼塚選手は国際的な大会、しかも大人の大会で活躍したのに、国内でのランクを決める大一番がなかったせいで、外されてしまったのです。その悔しさをバネに今の彼女の活躍があったのかもしれませんが、個人的にはソチ五輪を経験して、平昌五輪に出場していれば、また違った結果があったのかも、なんてちょっと想像してしまいます。

荻原大翔、村瀬由徠の場合、大人の大会ではないですが、今年のジュニア世界選手権で優勝しています。そうした大人の大会でも活躍しそうな若い選手をピックアップしてくれるような国内大会、システムなどあったら、もっとスノーボード界は盛り上がると思うのですが、どうでしょうか?

FISという団体はスキーおじさんたちの世界!?

そもそもFISが決めるオリンピック出場するための規定年齢も、どちらかというとアルペンスキーおじさんたちの思惑で決まっているように思います。そもそもFISという団体は、ノルディックとかアルペンとか、そういう系統の元ヨーロッパ選手のおじさんたちが上にいる団体なので。横ノリのスポーツでどんどん若い選手が活躍する流れとか、あまり考慮していないような気がするのです。一方で、X GamesではまだW杯に出場していなかった若い選手をバンバン出場させて、ニューヒーローを生み出しています。
実際、僕はFISの会合とかにお邪魔したことがないので、その想像は間違っているかもしれませんが…。過去の歴史を振り返ってもFISには、そんなおじさんたちだらけのように思います。

若いフリースタイルのスノーボーダーのマインド、意向などは蔑ろになっている懸念があります。
そんな土壌が、15歳以下のヒーローをスノーボード五輪に生み出せない要因になっているのではないでしょうか??


コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。最新執筆書『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は36年。


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