スノーボードの新たな上達論!うまくなるために欠かせない3つの構え(姿勢)について説明します。
私は90年代のスノーボードバブル時代から専門誌やビデオ映像などを通して最もスノーボードに関するハウツーを配信して来たと自負していますが、今回のハウツーが最も固いかもしれません。しかし、噛めば噛むほど味が出るスルメのように、何度も読み返すことで上達を促す、スノーボードの基本をしっかりと学べる内容になっています。
スノーボーディングの根幹となる基本姿勢、さらにはエッジングした状態や、方向付け&先行動作に応じた構えを提唱し、そこから導き出される正しい動き方を伝えます。そして、これまで自分がティーチングして来た雪上でのレッスンで日々学んで来たこと元に、効果があったアドバイス、練習方法などを紹介していきましょう。
具体的な上達するためのドリル(反復練習レッスン)を紹介するまでの序章というか前置き説明が長いのですが…。またいくつか寄り道を作り予備知識を紹介するのは、これからスノーボードをしっかりと学ぼうと思っている方に、基本姿勢の考え方、カナダの教程、アンギュレーションの話、さらに急斜面での滑り方のコツなど、ぜひ知っておいてほしかったからです。
良い料理人が、様々な技を知ることで独自のアイデアの素晴らしい作品を作るのと同じように、正しい知識は、きっと将来あなたのスノーボーディングの糧となることでしょう。
目次
上達という「点」からスノーボーダーとして成長する「線」を伝えたい
私は、普段カナダのウィスラーでスクールに所属し、昨シーズンも112日間レッスンコーチをしました。ウィスラーでは15シーズンもの間、世界中のスノーボーダーに教えています。元々、多くの人にスノーボードを教えるのが好きだったことから、これまでスノーボード専門誌、ハウツー本、ハウツービデオなどを通して、多くの人に上達方法を教えて来ました。また世界を代表するようなトッププロと共にハウツーコンテンツを作り配信して来ました。今回伝えるハウツーは、そのような経験を活かして作っています。
実際に現場でレッスンをしていると、多くの生徒さんは、雪山で自由にコントロールすることを望みます。具体的には急斜面をうまく滑れるようになることや、パウダーコンディションでのツリーランを滑れるようになることです。これまでツリーランを経験できなかった人、あるいは挑戦したことはあったけどうまく滑れなかった人が、思うように滑れるようになると、とても喜んでくれます。今回のハウツーでは、そんな初中級者の方に刺さるハウツーにも仕上げています。またすでにスノーボードがうまい上級者の方でも、「気づき」があるような内容にも仕上げたいと思います。
私のコーチングツールには、カナダ公認インストラクター資格であるCASIがあります。CASIは、日本では馴染みが薄い資格かもしれませんが、世界のスノーボードスクールの中では、最も認められた資格の1つです。ヨーロッパ、オセアニア、あるいは中国などでもCASI資格は通用し、いくつかの国のメソッドは、CASIを元に作られています。
しかし、実際のティーチング現場ではCASIメソッドだけでは対応できない場面があり、そんな時はこれまで培った経験などを元にアドバイスして来ました。
これから私があなたに伝えたいことは、スノーボードの基本的な姿勢のことです。最近はSNSの普及もあり優れたハウツーコンテンツは世界中に溢れています。しかし、それらのハウツーコンテンツは、スノーボードのある要素のコツやポイントに関するアドバイスに留まっています。また、そのライダーの独特の感性によるハウツーもあり、そうしたハウツーでは必ずしも誰もが上達できるわけではありません。
私は、そうした上達するコツやポイントよりも、誰もがスノーボーダーとして成長できる「線」を伝えたいと思いました。部分的な上達させる「点」ではなく、スノーボーダーとして長い目で確実にできる成長する「線」を伝えたいと思ったのです。
そこで、これまで親しんで利用していたティーチングメソッド、CASIだけではなく、さらに自分なりに研究して来たスノーボーダーにとって必要な構えを改めて考えてみました。誰もがゲレンデで自由にコントロールするための基本姿勢を改めて提唱しようと思ったのです。
そもそもスノーボードの構えとは何?
スノーボードの基本姿勢を改めて考えるきっかけとなったのは、宮本武蔵の『五輪書』を読んだことでした。この本は地水火風空の5巻から構成されています。その「水之巻」のところで「構え」の説明を読んでいる時に「そもそもスノーボードの構えとは何だろうか?」と改めて考えるようになりました。
戦国時代末期から活躍した宮本武蔵は、生死が彷徨う狭間の世界で生涯無敗を誇り、その戦いを通して剣術を磨き上げました。そしてこれまでの自身の経験から学んだことを、後世に伝え続けました。その武蔵の考えをまとめたものが『五輪書』です。
「水之巻」ではひじょうに実践的に侍同士の戦いにおいて勝つ方法を紹介してくれています。
例えば、基本的な刀の構え方ということから始まり、槍、長刀などの武具の長所のこと。あるいは狭い場所での一騎打ちでどのような武器が有利かという話から、大人数同士で向かい合う戦場においての戦い方など、事細かくアドバイスしてくれているのです。
私はその部分を読んでいるときに、スノーボードのエッジングや先行動作において、どのような構えが有効的なのか。また固いアイスバーンや滑走が困難な急斜面を攻略するためには、どのようなトレーニングが必要かを考え直し、自分のスノーボード上達哲学を改めて整理しました。
これから3つの基本的な構えを伝えますが、どの構えもただその姿勢を取るだけではなく、板が走っていることを想像してほしいです。実際に雪山で滑っているようにイメージすることが大切です。なぜなら、その方がより上達効果が高くなるからです。
一度悪い姿勢の癖がついてしまった人、特に長年に渡り悪い姿勢のまま滑っていた人は、矯正するのに時間が掛かるでしょう。しかし、これから先、新しいスノーボード人生が始まるというくらい、気持ちを改めてコツコツと練習していけば、きっとうまくなります。これから伝えるアドバイスを聞いてすぐにうまくなるわけではありませんが、長年時間を掛けて育った木が、木材として優秀になるように、コツコツと練習した成果はきっとあなたのスノーボードの糧になることでしょう。
ナチュラルボディポジションの大切さを知ったきっかけ
私自身、スノーボードの基本姿勢について初めて考えるきっかけとなったのは、90年代初頭にハウツー記事で活躍していたマック遠藤さんの影響です。彼からナチュラルボディポジションの重要性を知り、その後、カナダでインストラクター資格を取得して学んだことにより、自分自身の基本姿勢についての考えを固めていきました。
マック遠藤氏が提唱した姿勢は、自然に構えることです。簡単に言うと、「あなたのスタンスに合わせた自然なポジション」ということになります。
あれから30年が経ち、その間に日本国内でのカービング技術が高まり、デモストレーターも登場しました。現在では、その影響力はアジアから世界に及んでいます。しかし、未だにフリースタイル派とカービング派(※この場合、日本のデモ派を指す場合もあります)の間には、ある隔たりがあるように感じられます。また、現在YouTubeで活躍するスノーボーダーたちにも、姿勢に関する考え方はいくつかの違いが見受けられます。その結果、一般スノーボーダーの中には、正しい上達方法を知りたくて戸惑っている方もいるようです。
伝え手は、自分の上達して来たストーリーを通して、受け手のためになるような情報を配信しています。しかし、そこには様々な情報があり、受け手が混乱しているような状況なのかな、と思います。何が正解か不正解ではありません。それぞれのライダーたちが正解であると信じて、私たちに上達してほしいという願いを込めてハウツーを配信してくれているのです。
だから、大切なことは、どのような姿勢がどのような長所、あるいは短所があり、またどのような滑りに役立つか知ることです。
私は、あなたが戸惑った時、常に基本に帰れるように、できる限りわかりやすく正しい情報を伝えたいと考えています。その「基本の基」となるのが、正しい構えなのです。
日本とカナダで基本姿勢が異なった背景
姿勢に関して、カナダでは横向きの姿勢が一般的ですが、日本では上半身が前に開き、前かがみした腰を折り曲げたような姿勢を提唱する方が多いようです。
日本やカナダでも指導者によって様々な考え方がありますが、大枠では、カナダの方がより自然に構えています。一方、日本の方はあえてより上半身を前方へ開き、より後ろ足に乗る傾向があります。よって、日本の方が懐も深く、よりアグレッシブな姿勢な印象です。
そもそも、なぜそうなったかと言えば、カナダと日本のゲレンデの違いにあるでしょう。カナダでは、日本でも考えられないようなオフピステの斜面が多く、スノーボーダーもそういったところを好む傾向があります。ボコボコな斜面を攻めたり、日本では考えられないような斜度45度以上のシュートを攻めることもあります。より楽なナチュラルな姿勢に構えることで、長い距離のコースを滑ることもできます。
一方日本では、圧雪されたきれいな斜面が多く、またコースも短いので遊び方がどうしても単一的になってしまいます。そのため、カービングターンやグラトリが流行する傾向があるのでしょう。同じような斜面で何度も繰り返し滑りや技を学ぶことを楽しむところも、日本人の気質かもしれません。
その結果、カナダではどんな凸凹な斜面でも対応できるスタンスに応じたより自然な姿勢を取ることが主流になりました。姿勢も中間姿勢から高めになる傾向があります。一方、日本ではよりカービングターンに対応できるようなアグレッシブな姿勢を推奨されているようです。しかし、この姿勢には弊害もあり、スタンス設定以上に身体を前に開くことから後足、特に太ももの筋力をより使うことになります。高齢者や筋力が弱い方にはキツい姿勢になります。
実際、私が長年レッスンしてきた日本人の生徒さんの中には「日本で推奨されるスタンスは、膝が悪い私にとってつらいです。だから、カナダスタイルでやりたいです」と言う方もいました。
以下の写真は、正面から見たカナダと日本での姿勢になります。試しにぜひこの姿勢を今、その場でやってみてください。カナダの姿勢の方がより楽で、日本の姿勢の方がキツく感じるはずです。
カナダの基本姿勢の方が、より骨格にやさしく自然な構え。日本でよく推奨される基本姿勢は懐を深くしており、その結果、より高速でアグレッシブな滑りに対応できると言えるでしょう。一方で、筋力への負担は大きく、特に後足太ももの筋肉がより疲れます。
以下に紹介する動画は昨シーズンの終わりに世界中のデモンストレーターやインストラクターのトップレベルのスノーボーダーが、デモ・ライディングやその国のライディング技術を伝えたインタースキー・テクニカルライディングの模様です。見ていただければわかるのですが、カナダの滑りはひじょうにスタンスに応じて忠実に構えているのですが、ライディングにやや迫力を感じられません。言葉は悪いですが、眠い滑りにも見えます。
しかし、このようなライディングは世界のイントラのトレンドでもあり、多くの国のインストラクターがこのような滑りを推奨している傾向があるように思います。
骨格に対して、またスタンスに対して忠実に立ち、より安全に正確にボードをコントロールしていると言えるでしょう。ちなみに赤いジャケットを着ているのが、カナダのデモチームです。(9:20~)
一方、以下の動画はSAJ(全日本スキー連盟)によるスノーボードバッジテストのプロモーション動画で、後半にはデモ選手権の様子も紹介しています。
ここでは、他国にはない特色である両手を左右に大きく激しく振る動作も見受けられます。
一見すると、日本のデモライダーの方が、躍動的で魅力的に見えるかもしれません(※デモ選の映像)。しかし、私の同僚のカナダ人インストラクターにこのような日本人デモの映像を見せると、ちょっと揶揄するように「ジャパニーズスタイル」と言われます。
彼らにとって、この手の激しい動きはトゥマッチに見えるのでしょう。
後ほど私の見解を述べますが、ともかく日本と世界のスノーボードの滑り方(=構え方)の考え方には隔たりがあるようです。
基本姿勢の意味は中間(ニュートラル)姿勢
スノーボードの遊び方やそれぞれのライダーのスタンス設定によって、その構え(基本姿勢)は変わりますが、どちらにしろ「基本姿勢」という言葉は、中間姿勢を説明しているケースが多いということです。
中間姿勢とは、大雑把に言ってしまえば、「スノーボードをしている時には、概ねこのような姿勢で滑りましょう」というものです。車のギアで言うところのニュートラルなポジションにあたります。この中間姿勢から、様々な身体の動きが発生し、次の動作を容易に導くことができます。完全に常にこの姿勢で滑っているわけではありません。あくでも中間(ニュートラル)の姿勢のことです。
例えばの話、ディズニーランドに行った時のことを思い出してください。入口から左右に並ぶショッピングエリアを真っ直ぐに進むと、ディズニーランドの中央にはお城がそびえます。お城からは、左右のアドベンチャーランド、トゥモローランドに行けるし、その奥にはウエスタンランド、トゥーンタウン、ファンタジーランドにも容易に行けます。しかし、一度、クリッターカントリーまで行ってしまうとトゥモローランドや帰りにお土産を買いたいワールドバザールまでは「よっこいしょ」になってしまいますよね。お城まで戻り、そこからアクセスしないと行けなくなる面倒が生じます。
何が言いたいかというと、基本姿勢(=中間姿勢)とは、ディズニーランドで言うお城のポジションであり、次の行動であるターンやジャンプなど、様々な方向に行きやすい構えのことです。さらにスキーと違って、常に1本のエッジでバランスを取るスノーボーダーにとって最も安心なポジションであると言えます。不安定なコブ斜面や固いアイスバーンでも中間姿勢を維持しようとすることで安定感が生まれるでしょう。
ウィスラーで滑っていると、山が大きく標高差もあるので、滑っている場所により雪のコンディションがよく変わることがあります。
例えば、アルパイン付近では雪質が良くて滑りやすくても、ミッドステーションに降りるところでは固いコンディション、あるいはアイスバーンになることもあります。そんな時、私はおとなしく中間姿勢を維持しようと努めながら滑っています。あまり、急激な加重動作、エッジング操作はせず、なるべくアイスバーンとは戦わずにその場をしのぐという気持ちです。こうした雪山の様々な変化に対応するためにも、これから私が説明する「基本姿勢の構え方」が役立つことでしょう。
基本姿勢の構え方
それでは、改めて伝えたい中間姿勢とは、どんなものでしょうか?
それは、あなたのスタンスに応じたナチュラルな姿勢です。ナチュラルというのは、あなたの骨格に対して、最も逆らわない姿勢のことでです。(※それぞれのスタンス幅、角度により変わります)
ここでは、あなたのスタンス設定に応じた基本姿勢の構え方をご紹介します。
まずは、あなたのボードの真上にリラックスして立ってみましょう。
以上の写真は前足角度が18度、後足角度がマイナス9度の私のナチュラルな姿勢です。(※前足の角度がもっと振ってある人は、当然、ナチュラルポジションはより上半身が前に開きます)
単純にスタンスに合わせて自然に突っ立っただけです。
この突っ立った姿勢だけのところから、顔をボードの進む方向に向けましょう。
そうすると、首がわずかに進行方向に捻れた感覚になります。厳密に言うと、そこだけがナチュラルポジションから離れますが、それでもOKです。なぜなら視界はスノーボーダーにとって滑走中の80パーセントもの情報を得ると言われているので、視界確保のためにもしっかりと顔を進行方向に向けてほしいのです。
そこからプラスアルファパートで、自分の体重を感じ始めるくらいのところまで、足首と膝を曲げていきましょう。 なぜなら、足首と膝を曲げた姿勢は、安定感が生まれるし、この後に説明する加重抜重においてアドバンテージとなるからです。
ただし、その姿勢にやや窮屈を覚えるほど、横向きセッティングの人は、ちょっとだけ前肩を進行方向に開いても良いです。 ただ、ちょっとだけにしてください。あまり開くと、上半身と下半身の捻れが強くなり、ライディング中に捻れ戻り現象という厄介な症状が起こる可能性が強くなるからです。あくまでも、できる限り自然体に構えてリラックスした姿勢がベストなのです!
そう、肩の力を抜いて、リラックスして構えましょう。
この中間姿勢こそ、スノーボードの上達に最も欠かせない基本中の基本姿勢です。
もの凄いパフォーマンスを発揮する力を秘め、しかも余計な力を使わないため、疲れにくい姿勢なのです。もちろん、スノーボードは運動なので、必要に応じた筋力は使わなければなりません。しかし、無駄な力を極力セーブすることが大切です。正しく疲れるための姿勢とも言えます。
実際にあなたのスタンス設定に応じて、今、部屋の中でいいので試してみてください。
スタンスを決めた後は、目を閉じることで、よりスタンスに必要な筋肉の囁き方というか、使い方をより深めることができると思います。
以上が1つ目の構えとなります。
緩斜面の直滑降で基本姿勢の構えができるか確認
部屋の中で基本姿勢の構えができたとしても、そもそもあなたは雪上で滑っている時にこの構えができるのでしょうか?
私はレッスン中、よく生徒さんにほぼ平らに近い緩やかな斜面で、直滑降ができるか試してもらいます。すると初中級者の方は、10人中、2名ほどできなかったりします。
さらに同じ緩斜面で、直滑降しながら軽いジャンプをしてもらうと、ボードを真っ直ぐに滑らせ、ボードを水平にジャンプできない方が、10人中4名ほどいたりします。
うまくジャンプできない人は、スタンス設定以上に上半身が前に開いてしまったり、あるいはジャンプのために身体をしゃがませた時、前方向に屈み倒れたような姿勢を取ってしまったりしています。スノーボード(板)に対して、素直な動きができなくて、不必要な誤った動きをしています。その生徒さんは、これまでのスノーボードで作ってしまった悪い姿勢の癖が出ていると言えるでしょう。
ひじょうにシンプルなエクササイズでもあるのですが、ぜひあなたも直滑降ができるか試してみてください。初中級者の方は、つま先側、あるいはカカト側のエッジングがなくボードをフラットにすることが意外なほど苦手だったします。その結果、迂回コースで安定感を得れなかったりもします。
また、さらに直滑降での軽いジャンプも試してみてください。このエクササイズをすることで、よりあなたの安定した基本姿勢、構えができて来ることでしょう。シンプルながらひじょうに有効なエクササイズなので、ぜひ多くの人に試してほしいです。
エッジングした状態での基本姿勢を作ってみよう
次に斜面状況、またスノーボーダーの動作に応じた姿勢を伝えていきます。
スノーボーダーの最も基本的な動作としては、エッジングが考えられます。ちなみにカナダの教程、CASIではエッジングより前に、もっと基本的な動きとしてピボット(旋回動作)が入るのですが、実際のレッスンでの生徒さんの受け止め方は、エッジングの方がより理解しやすく、これまでのレッスンでも効果的だったので、ここではエッジングした状態での中間姿勢についてお伝えします。
エッジングは斜面を滑る時に安定感を演出するのに欠かせない動きです。エッジングが弱いと板はズレて不安定になります。
またエッジングが弱い状態では、スノーボードで最も大事な動きトランジション(=エッジの切り替え)が困難になるでしょう。エンジングとは重力に板が流されそうになりそうな不安定な状況の時に対応する強力な防御方法でもあるのです。
例えば、あなたが超急斜面をヒールサイドで滑っていることを想像してみてください。急斜面なので、どんどん板は谷側に流されるような状況です。横滑りをしており、なかなかカカト側からつま先側へのトランジション(エッジの切り替え)の勇気が出て来ません。そんな状況でも、エッジングを一瞬強くしてボードを停止状態に近づければ、トランジションのチャンスを与えてくれます。
ボードは斜面の谷側へ落されるようなスライド(=横滑り)させるのではなく、よりエッジングを効かせた斜滑降(=板を斜面に対して横移動させる動き)にするのです。
スノーボーダーは、どんなレベルでもほぼ関係なく、トランジションする時のエッジングの音は消えているものです。
よくバーンが固い日にスノーボーダーは、大きな音を「ザーザー」と鳴らしながら滑っていますが、そんな日でもエッジングの切り替えし時には瞬間、音は消えています。つまり、エッジングが安定している時こそ、トランジションのチャンスなのです。
エッジングを強くすることでトランジションをしやすいことがなんとなくわかってもらえたと思いますが、さらに極端な例をお伝えしましょう。
それは、超急斜面でのジャンプターンです。ボードを180度旋回させながらターンするような動きですが、あの時、ジャンプする瞬間にあなたはしっかりとグリップ(=エッジング)しているのです。ズリズリ横滑りするような状況では、とてもジャンプターンなどすることができません。X Gamesに出場するような世界のトップ選手は、ズラしながらも力が掛かっている逆方向側にスピンもしたりしますが、あれは神技です。基本的には、エッジングが安定していないと次のアクション、すなわちトランジションはできないものです。
そこで必要になって来るのが、スノーボーダーとして効果的なエッジングをする時の構えになります。「効果的」というよりも「正しい」と言った方がいいかもしれません。なぜなら、誰もがこれから説明するエッジングした状態での姿勢を作るべきだからです。
正しいエッジングができることで、トラバース(※斜面を横切ること)能力にもつながります。ウィスラーの大きなアルパイン山、あるいは急斜面ではしばしばトラバース能力の高さが問われます。せっかく素晴らしいパウダーエリアに行きたくても、トラバース能力がなくどんどん谷側に落とされるようなスノーボーダーは、楽しいスポットに連れて行ってもらえません。
以前、ベテランのヘリスキーガイドの方も「スノーボーダーでトラバース能力がない方は、目的地に到着できなくて困る」と言っていました。そう、エッジングは、スノーボーダーがより楽しむためにも不可欠な技術。そのためにも、トゥサイド、ヒールサイドそれぞれのエッジングで必要な構えを知っておきましょう。以下、2つ目の構えを説明していきます。
ヒールサイドでの正しい基本姿勢
ヒールサイドは、ズラしやすい(ボードをスライドしやすい)のですが、一方でキレ難い(カービングし難い)という特徴があります。
なぜならヒールサイドは、身体の正面が谷側に向くため視界が広く気持ち的にも楽に感じやすいのですが、一方で人間は「つま先立ち」はできても「カカト立ち」を苦手とするのでエッジングが弱くなってしまうのです。なので、ヒールサイドはトゥサイド以上に「エッジングを強める」意識をもたないと、カービングターンができません。
まずヒールサイドの姿勢では、なるべく上体を折らずに真っ直ぐにするように意識してください。なぜなら、上体を前に倒してしまうことで、プレッシャーがカカトに伝わり難くなってしまうからです。頭を起こして背中をなるべく伸ばすように構えることで、より強いヒールサイドのエッジングを感じることができます。
実際にうまいスノーボーダーでも上半身を折る(=倒す)構えを見せますが、基本的には上体を起こした方が、自然その重力がカカトに掛かるためにエッジングも強くなります。
次につま先を意識的に、引き上げるようにしてみてください。脛(スネ)の筋肉を使って足の指を天に向かって引き上げるような感覚です。そして、足首をロックします。(=鍵をかける意識)
こうすることで、安定したカカト側のエッジングを得れるでしょう。
足首を引き上げながらも、ヒザはしっかりと曲げることも大切です。これでより安定したエッジングを得れます。
トゥサイドでの正しい基本姿勢
トゥサイドの注意点は、上体を起こして頭を下げないこと。背中をほぼ真っ直ぐな気持ちです。次にヒザと足首をしっかりと曲げること。足首を曲げることは安定感を保つためにも重要です。ヒザ、スネを雪面に近づけるような感覚を持つといいでしょう。
私のレッスンの経験では、ヒールサイド以上にトゥサイドの方が頭が下がる人がいます。それで安定感を損なう人が少なくありません。
上体を倒すことは決して悪いことではなく、むしろビッテリーターンのように身体を寝かすような滑りを楽しむこともできます。だけど、頭だけはぜひ起こしておくことをおすすめします。以下は、友人タカチャンマンのビッテリーターンですが、ここまで身体を倒しながらも頭を起こすことで安定感を演出しています。
以上、ヒールサイドとトゥサイドの姿勢について説明して来ました。このエッジング時の姿勢が私が伝える2つ目の構え。さらにそこからはより動きのある状態での構えを紹介したいのですが、その前にちょっとだけ寄り道させてください。以下にアンギュレーションとインクリネーションの説明を紹介していきます。
アンギュレーションとインクリネーション
上体を起こすようにアドバイスしながら、同時に「身体を倒してもいい」という話は、混乱させてしまったかもしれないので、ここで補足としてアンギュレーション(外傾姿勢)とインクリネーション(内傾姿勢)についても説明しておきましょう。
まずボード面に対して、垂直なところに身体があれば(=軸があれば)OKです。そこからさらに腰を起点に上体を起こすことで安定感が生まれます。このように、上体を起こす姿勢のことをアンギュレーション(外傾姿勢)と呼びます。アンギュレーションが強いほど滑走中の安定感が増します。
またそのOK軸のライン(※ボード面からの垂直ライン)よりも、腰を起点に上体が下がることをインクリネーション(内傾姿勢)と呼びます。この姿勢は不安定で、特に頭が下がった場合、バランスを崩し転倒につながります。
インストラクターは、よく生徒さんにアンギュレーションを求めることが多いのですが、決してそれが正解ではありません。スノーボードはある程度、スピードを出すことで安定感が生まれるし、朝イチのピステバーンなどコンディションが雪質が良くても安定感につながります。
逆にアイスバーンであったり、凸凹なコブ斜面では不安定になります。
だから状況に応じて、不安定なところを滑るところでは、より「安定」したアンギュレーションを強める姿勢を意識しましょう。逆に安定したところを滑る時には、アンギュレーションを弱めてもいいでしょう。例えば、パウダーのようなコンディションだったら、身体を倒して遊んでみたら気持ちいい感覚が得れると思います。だけど!頭は起こしておくようにしましょう。それで、最終的な安定感を確保できるからです。
よく左脳が働く頭でっかちさんは、より詳細にスピード、斜度、雪質などに応じたアンギュレーションの角度を求めるものですが、正直、スノーボードの滑りは、コンピューターのように0(ゼロ)か1(イチ)のような話にならないことがしばしばです。コンディションは常に変化しています。だから、ある程度の正しいことを理解したら、あとは現場で合わせていくしかないのです。もう、これは経験しかありません。練習を続けるしかないのです。転びながら限界値を知り、身体で覚えていくことも大事だと思います。特に身体能力が高く怪我の心配がそれほどない若い人は!逆にあまり体力に自信がない方は、くれぐれも怪我がないように慎重に、徐々に正しい構えを習得するようにしましょう。
まずは安定感を求めたアンギュレーションを意識した滑りを!次に雪質コンディションに合わせて、身体を倒すような滑りも徐々に行っていきましょう。だけど、アンギュレーションを弱めても、頭は下げることはしないようにしてください。頭を上げておけば、いつかタカチャンマンのような滑りができるでしょう。
エッジング技術を強化するエクササイズ
具体的にエッジング技術を強化するエクササイズをご紹介しましょう。
最も手っ取り早い方法は、斜面に立ち、ボードを停止させること。それだけでもバランスを取るのが難しいですが、そこからさらにジャンプすることです。
まずは簡単な方のトゥサイドをやってみましょう。
この時に、頭が下がってしまう人、あるいは腰が曲がってしまう人がいるので、気を付けてください。先にご紹介した正しい基本姿勢を意識しながら、上体を起こしながらジャンプを続けます。高く飛ぶという意識は持たなくてOKです。それ以上に正しい姿勢、ナチュラルなボディポジションを意識してやってみてください。ボードを斜面に対して水平にジャンプできることも大切です。なぜなら、水平にジャンプできるということは、きれいに両足均等に加重抜重ができている証拠だからです。
これを10回ほど飛べて、さらに数十センチほど斜面を登ることができれば優秀です。
次は問題の(?)ヒールサイドで行ってみましょう。
そこから正しい姿勢を意識しながら、軽くジャンプしてみます。斜面を上がれればかなり優秀ですが、それはひじょうに難しいのでその場で軽くジャンプできればOKです。10センチとかのレベルではなく5センチほどでもジャンプできればいいでしょう。
これはひじょうに効果あるドリルで、前シーズン私も生徒さんといっしょに繰り返しやっていました。
よくどんなスポーツでも初心者からプロのレベルまでやっているような基本的な練習というのがあります。例えば、野球ならキャッチボール、サッカーならパス練習というようなこと。このスノーボードにおける斜面で行うジャンプというのは、野球やサッカーの基礎練習のように誰もがぜひやってほしいエクササイズです。正しいエッジングをした基本姿勢を習得するには持って来いだし、姿勢が安定してくればスノーボードのコントロールがより行いやすくなります。
ただ、以上にご紹介した停止した状態でのジャンプは難しく、うまくできない方もいるでしょう。何度やってもできなければ、せっかくの効果あるドリルも台無しになるので、さらに簡単な方法をご紹介します。それは、斜滑降した状態でジャンプするドリルです。
ジャンプする時は、なるべくボードを斜面に対して水平に保つようにしましょう。そして何度も繰り返し伝えますが、姿勢が大事です。このエクササイズを始めた方は、ジャンプすることへ気持ちが行きがちになりますが、姿勢が悪ければ練習効果も半減してしまいます。
上体を起こすこと。安定していること。コントロールしている感覚をしっかりと持ち、練習を続けましょう。
ヒールサイドで行う斜滑降ジャンプでは、山側から来る滑走者が見え難いので、気を付けてください。後方から来るスキーヤー、スノーボーダーとの衝突事故に気を付けてほしいです。斜面を横切るこのドリルは、混んでいるところでは危ないので行わないようにしましょう。
次のターンに導く先行動作
スノーボードで最も難しいテクニックは、エッジの切り返しです。もちろんスノーボードには、難易度が高いフリースタイル・トリックもありますが、単純に山を滑ることにおいて、誰もが一度は苦しむのはエッジの切り返しなのです。上級者でも、壁のよう超な斜面を滑る時には、怖くてトランジション(=エッジの切り返し)ができないものです。特にヒールサイドからトゥサイドのトランジションは、難しいケースがあります。
私も斜度が50度を超えるようなシュートと呼ばれる斜面を滑る時には、できる限りより安定感があるトゥサイドからアプローチします。ターンのきっかけをつかみやすいトゥサイドからヒールサイドのターンから行うのです。逆に超急斜面でヒールから入ってしまうと…、最初のターンであるトゥからヒールが難しく感じます。心臓が高鳴るほど斜度があるところは、いわゆる先落しという動き、前足への加重がなかなかできないものです。だから、あえて先落しをしやすいトゥから入ってヒールサイドのターンを一発目に持って行くのです。
以上は、超急斜面でのちょっとしたヒントですが、話を戻しましょう。
そこで必要になって来る技術が、ボードの方向付け(=舵取り)、さらに抜重を利用することでターンのきっかけをつかみやすくすることもできます。
初心者時代にインストラクターや友達から、こんなことを教わったことありませんか?
「沈み込んでー、さあ、立ち上がってそこでターンしましょう!」
あれは、加重抜重を利用したターンなのですが、このような動きは急斜面でも有効です。
しかし、そもそもエッジを切り替える上で大事なことは、足首を使ったペダリング操作なのです。例えば、カカト側からつま先側に切り替えるには、つま先をパタっとペダルを踏むようにしないといけません。
以上のイラストは、カカト側からつま先へエッジングを切り替える時の動きを表したものですが、つま先側からカカト側に行く時には逆の操作になります。
私のレッスンの経験上、10人に8人~9日は、「つま先側からカカト側より」も「カカト側からつま先に」切り替える方が難しく感じます。だから、以上のイラストで示した、まるで車のペダルを踏むような操作は有効です。
さらに具体的に言うと、ターンの前半は前足から後足に踏んでいくことが基本なので、多くの場合、前足首の操作だけを考えるといいでしょう。
イメージとしては、車の操作のように前輪が方向を決めていくという感じです。ハンドルを使って、左に曲がろうとしたら前輪だけが左に切れるようになっていますよね。後輪は自然と付いていくだけですから。それと同じように、スノーボードの操作も基本的には、前足首で方向付けするという感覚が必要です。そのために必要なのが、ペダリング操作なのです。
先行動作が正しい足首の動きを導く
いくら正しい足首の操作を理解したとしても、実際に誰もが正しい動作をできるわけではありません。私が学んで来たカナダのスノーボード教程、あるいは試験管にあるような立場の方たちも「正しい足首の動かし方」をよく言うのですが、現場のレッスンに生徒さんに伝える時に、いくら正しい動作を説明しても行動に表せないことがしばしばあります。インストラクターをやったことがある方なら、このことがわかってくれるのではないでしょうか。
そこで、正しいペダリング操作をしていく上で、ひじょうに有効な手段が先行動作なのです。そう、これがラストとなる私が提唱する3つ目の構えになります。
「先行動作」という文字を考えると、なんとなく理解できる言葉でもあります。何かを先に動かして、その結果、良い滑りを導き出すことというのは想像できるでしょう。
だけど、具体的には身体のどの部分を先行して動かせばいいのでしょうか?
最もてっとり早い感覚としては、腕です。指先でこれからボードが進む方向を先んじて導けばいいのです。その時のスピード、求めるターン弧にもよりますが、大雑把に言って30度~45度ほど導くといいでしょう。
腕をこれからボードが進む方向に導くことで、自然に肩が回り、結果、上半身がターン方向に先行動作することができます。
上半身に導かれたヒップ(腰)、さらにヒザ、最終的には足首がターン方向へ導いてくれます。
つまり先行動作が、最終的には正しい足首の動きを導くということです。
以下がそのことを示した写真になります。
スノーボードでは、特に苦手な項目なほど先行動作をすることで有効になるケースが多くあります。
例えば、今はターン、特に中回りから大回りターンのことを話していたわけですが、このような先行動作はジャンプしてスピンする時にも有効です。
極端な話、オリンピックのビッグエアで高回転する選手のアプローチを見てください。彼らは、これからスピントリックするために、事前に上半身を逆方向に回していますよね。そして、リップから蹴ると同時に一気にスピン方向に上半身を回します。結果、高回転トリックができるわけです。
まだ上手にターンができない初心者でも、腕を次のターン方向に導くことで、飛躍的に上達する方も少なくありません。だから、私の考えでは苦手なものほど先行動作が有効になります。
逆にすでにできることに関しては、あえて先行動作を消すことで、より下半身の動きに集中することができます。結果、その滑りに磨きが掛かるものです。上半身の動きを殺して、より下半身である足首の動きだけを意識するのです。すると、より技術が向上するのです。
例えば、フロントサイド360がすでにできる方、今季はできる限り先行動作を減らしてみてください。きっとより下半身に意識がいき、結果、スタイルも上がったフロントスリーができると思います。
以前、ライダーのRYOに先行動作のことを聞いた時、彼は「普段のターンは気にしていないですね。ジャンプの時に意識するくらいです。ターンの時は目線の先行しか意識しません」という回答でした。そう、うまい人は、先行動作とか気にせず、なんでもできるものです。なぜなら上半身の先行に頼らず、下半身、特にヒザから下の足首だけで正しい操作を簡潔できるからです。
でも、うまい人でも両手を交互に上げながら滑る人も少なくありません。特にデモ系と呼ばれるライダーにそのような動きをする人が多いようです。また、大回りで腕を使っていなかったライダーでも、ショートターンなど瞬間的に高度な動きを要求される場面では、腕の先行動作を利用したりしています。
理想的な先行動作とは?
混乱しないためにも、話を先行動作に戻します。
ここではいよいよ!より具体的な先行動作を交えた構えの話をしていきましょう。
あなたにとってカッコいい滑りや理想な滑り、あるいは憧れの滑りがあるように、私にもカッコいいと思うような滑りがあります。ということで、以下の映像を、初っ端から12秒ほどのところまでチェックしてみてください。
私は、長年に渡り日々スノーボードの映像をチェックしていますが、この動画はなかなか貴重だと思います。というのも、高回転トリックの扉を開き歴史的なライダーとして知られるプロ・スノーボーダーのトースタイン・ホグモが、フリースタイルのライディングだけではなく、冒頭シーンのようにカービング技術を使ったクルージングショットを披露しているからです。これは、ひじょうに珍しいことです。なぜなら、普通このようなビデオスターは10秒もの間、カービングショットだけを見せるといことはないからです。
私は、この映像を見た時に、とてもカッコいいと思ったし、理想的な先行動作だなと感心しました。
というのもトースタインは、私たちの多くがそうしているようように横向きスタンスです。そんな彼の先行動作がどのようなものか、前方と後方からのカメラアングルからわかるようになっています。
よく、デモンストレーターのようなライダーが、カッコ良いカービング映像を見せてくれることがありますが、彼らの多くは私たちとは違ったスタンス設定になっていたりします。例えば、前足の角度が35度も振っていたり。そうすると、ちょっと乗り方も変わって来るし、エッジの切り換えの方法も変わって来たりします。私もかつては長野オリンピックを目指していたアルパインライダーだったのでわかりますが、角度が振ってあると、ヒールからトゥの切り換えは、後足のヒザをちょっとガニるように外に出すだけで済ますこともできます。一方、身体が横向きのスタンスの方は、なかなかそのような切り換えはできないものです。「ターン方向への腰の回し」というのが必要になって来るのです。
またデモスタイルのライダーの中には、不必要と思えるほど先行動作をしている例もあります。あれほどまでにあえて(?)腕を振っている姿は、彼らの職業上の見せ方なのかもしれません。しかし、私には冒頭で紹介したカナダの友人イントラの言葉のようにトゥマッチに見えるのです。
それでは、どれくらの先行がオシャレでカッコいいのか?というと、トースタインくらいだと思うのです。これは理想的な先行動作ではないでしょうか?
トゥサイドに入った瞬間、エッジを谷側に噛ますと同時に、後ろの手(右手)が雪面に付くくらい腕を先行させています。
そこからターン後半に行くにしたがい、その手を後方へ引いて行き、同時に肩ぐらいの高さまで上げます。決して、盆踊りのように頭上まで高くなるなことはなく、程よい感じです。その結果、腰をターン方向に回すことができ、前足首でしっかりと方向付けをしてくれます。
一方ヒールサイドの入口では、前の手(左手)が雪面に近づけるほどになっています。そしてターン後半になると、左手は後方へ行き右手が前に。結果、よく腰が回り、ターン後半では後足に乗るのですが、しっかりと舵取りができボードをコントロールしているのです。そしてトランジションのところで、板が走るのです。超カッコいいですね!
トースタインは、全身をうまく動かしながら躍動感ある滑りをしています。上半身、特に腕はまるで音楽会の指揮者のように優雅に振り、そこから導き出される下半身の動きによって、ボードを踊り走らせるのです。その姿は、まるで大海原のイルカが駆け回っているかのようで美しくもあります。
私は、この部分の映像を何度も何度も繰り返し見ました。そもそもこのビデオは、このターンを見せることがテーマではないので、世界でも私ほどその部分だけを繰り返し見た人はいないかもしれません(笑)。
トゥサイドの先行動作を加えた構え
まとめると、トゥサイドの先行動作を加えた構えは以下のようになります。
①前の手を下げていく
②後ろの手を引き上げていく
③結果、腰が回っていく(※ターン方向へ)
④足首を曲げて(=ペダル操作)してトゥサイドの角付け
前足角度を30度以上振ってある人は、先行動作、トゥサイド後半での肩を引く動作(=②の動き)はあまり必要ないでしょう。だけど、20度以内におさまっている人は、肩を引くことで腰が回るので、より自然な正しいポジションを取れると思います。前の手ばかり気にして、後ろの手の動きをおろさかにしていると、腰がうまく回らなかったりするので気を付けてください。
ヒールサイドの先行動作を加えた構え
以下はヒールサイドでの先行動作を加えた構えになります。トゥサイド同様に4ポイントあります。
①前の手を上げていく
②後ろの手を下げていく
③結果、腰が回っていく(※ターン方向へ)
④つま先を引き上げて角付け(エッジング)
トゥサイドでは先行動作が強いあまり、出っ尻になりやすいので気を付けてください。僕もよくやりますが(笑)。ボードの垂直上から大きくお尻がはみ出した位置に来てしまうと(=出っ尻現象)、加重がうまくできなくなるものです。気持ちよく滑っている人ほど、このようなカッコ悪い現象になりやすいので気を付けてください。体験者(談)。
出っ尻現象になっているかも、と思う人は先行動作を思っている以上に弱めるといいでしょう。特にヒールサイドでは身体を必要以上に回し過ぎた結果、前足に乗り過ぎて後足への加重が弱まり、急激に板を流すような現象になったりします。そこから転倒につながるケースもあります。
先行動作で気を付けるべきこと3点
先行動作は、滑りに合わせて適切な量だけを行うことで、その滑りに磨きが掛かり、結果カッコ良さにも繋がると思います。
そこで、私なりにさらに気を付けてほしい点も3つ挙げておきましょう。
①腕は肩までの高さに抑えておくこと
必要以上に腕を上げると、返って滑りを妨げる結果につながりかねません。
また、上げ過ぎた手は、もしかしたらある人にとっては大袈裟な滑りとか、カッコつけているようで返ってダサいと思われるかもしれません。
時に「上がってしまった」くらいならカッコいいですが、ターンの度に盆踊り状態では魅力的な滑りでないと思います。
②抜重の時には止めるように
エッジの切り換え抜重の時には、先行動作を止めるようにしましょう。完全に止めないのですが、ターン後半から抜重時にはより静かな動きになります。
逆にターン前半では、チャージを賭けるように先行動作は早まるものです。トゥサイドターン、ヒールサイドターン共に「速く入って遅く終わらす」みたいなリズム感覚です。
抜重の後に仕掛けた上半身のローテーション動きを止めずに継続させてしまうと(=次のターンの動きをしないといけない段階なのにまだ同じターンの先行動作を続けてしまっているということ)、失敗につながると思います。
③腕の動きと下半身のシンクロさせる
すべての身体の動きが利に適っているのなら、人はその動きに美しさや魅力的に感じるものです。
先に紹介したトースタインの滑りは、腕の動きから身体の上下運動、そしてそこに導き出される下半身の動き、ボードの走りがすべてシンクロしているように見えますよね。ターン後のフロントサイド180→キャブ180も、ひじょうにナチュラルに感じます。
「シンクロ!」ぜひ、意識してみてください。カッコ良さの大切な要素です。
以上、この3つのポイントは、私の主観ポイントとも言えますが、参考にしていただければ幸いです。
自分にとことん向き合い滑りを高めよう!
最後のアドバイスは、自分にとことん向き合い滑りを高めよう!ということです。
冒頭に紹介した五輪書の中でも宮本武蔵は、場数の大切さを伝えています。いくらスノーボードを上達する知識を得ても、それを活かす時間がなければ意味がありません。練習する時間が必要です。
スノーボードは仲間といっしょにセッションすることで刺激を受け、楽しめるスポーツです。しかし、一方で孤独に自分自身と向き合い、練習に練習を重ねないと上達することはできません。だから、たまには一人旅を恐れずに雪山へ出かけてほしいのです。例えば、シーズンで10回ほどスキー場に行く方なら、2、3回ほどは、自分一人で行ってみませんか?
一人旅をすると、一見寂しいと思うかもしれませんが、自分自身と向き合う時間が多くなるので成長させてくれるものです。普段、仲間と滑っていると、待ったり、あるいは追いつくのが精一杯だったりで、なかなか自分の滑りには集中できないものです。私もよく一人で滑る時間を大切にしています。別に速く滑る必要はなく、上達するために何が必要かを考え、集中して滑っています。
例えば、あなたがスイッチのライディングを練習したいことを考えてみてください。もし仲間がいれば、付いて行くために練習どころではなくなります。しかし、自分一人だけなら、自分のペースでゆっくり練習することができるでしょう。そして、スイッチがうまくなれば、また仲間とセッションする際に披露することができます。
仲間といっしょに行くトリップでも、休憩前に自分だけもう1本滑るとか、あるいは泊まりで行った時に自分だけ朝イチ早めに出て滑り始めるとか、いろいろ工夫することで、自分だけの時間を作れることでしょう。そうすることで、スノーボードがうまくなるし、うまくなればよりスノーボードの世界が広がり楽しめます。
私はシーズン中、多くの時間を使ってレッスンし、また毎週のように時間を作ってライダーと撮影しています。しかし、そんな中でも時間を作って自分だけの滑りに集中することがあります。例えば、インストラクターの休みの日は、朝イチに一人で上がって3本だけ集中してスノーボーディングします。身体を休めたい日でもあるので、一日中滑るのではなく早く切り上げて、その後はプールに行って泳ぎサウナに入ってリフレッシュします。
そうして自分と向き合いながら、スノーボードをしていると喜びを感じます。あの仲間とパウダーセッションした時のはしゃぐような熱い喜びとは違って、ジワっと心の中が温まるような喜びというのでしょうか。
ぜひ今回私が紹介したハウツーを参考に、あなたも挑戦してみてください。上達した階段をちょっとでも上がった時、スノーボードの神様はきっとあなたに微笑み、幸福な気分を与えてくれることでしょう。
●参考文献
スノースタイル誌特別編によるSNOWBOARDING MASTER 2
●参考サイト
CASI https://casi-acms.com/
飯田房貴(いいだ・ふさき) プロフィール
@fusakidmk
東京都出身、現在カナダ・ウィスラー在住。
スノーボード歴39シーズン。そのほとんどの期間、雑誌、ビデオ、ウェブ等スノーボード・メディアでのハウツーのリリースに捧げている。
90年代を代表するスノーボード専門誌SNOWingでは、「ハウツー天使」というハウツー・コラム執筆。季刊誌という状況で100回以上連載という金字塔を立てる。またSnowBoarder誌初期の頃から様々なハウツー・コーナーを担当し、その中でも一般読者にアドバイスを贈る「ドクタービーバー」は大人気に!その他、自身でディレクションし出演もしたハウツービデオ&ハウツー本は大ヒット。90年代のスノーボード・ブームを支えた。
現在も日本最大規模のスノーボード・クラブ、DMK Snowboard Clubの責任者として活動し、レッスンも行っている。
普段は、カナダのウィスラーのインストラクターとして、世界中の多くの人にスノーボードの楽しさを伝え続けている。2016-17シーズン、ウィスラーのインストラクターMVPを獲得!!
著書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書』、『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。