文:飯田房貴 [email protected]
新時代の装着革命を巻き起こしているBurtonのStep On®が、今季はさらにその勢いが増しているようだ。
11月5日(木)に一斉販売の封が切られてから、その売り上げは破竹の勢いである。
思えば、先シーズンのウィスラーも、あっという間に売れ切れだった。
そんな大人気で大注目のStep On®だが、これまでの長いインストラクターの経験と、メディア経験から3つの提言を伝えたい。
おそらく、この3つの点がクリアされた時、もう怖い者知らずで市場の波は一気にStep On®シフトとなることだろう。
スキー場で一度も外すことがないスキーとスノーボード・ビンディングの差
確かに脱着が圧倒的に楽になったのは、間違いない。
しかし、それでもスキーヤーと違って、スノーボーダーはリフトに乗るたびに、ビンディングを外して、また上がったところで装着しなくてはいけない。だから、こそStep On®が活躍するのだが、それでもおそらく初心者のスノーボーダーは、装着に戸惑うことが予想される。
Burtonのサイトの説明ページには、以下のように紹介されている。
「初心者にも簡単
Step On®︎バインディングは、通常のストラップバインディングよりも素早く、簡単に装着することができ、これまでのストレスが解消されます。リフト降り場付近で平らな場所やベンチを探す必要がないので、初心者にもオススメです。」
つまり平らなところでなくても、楽に装着できるということなのだが、果たして初心者にはどうだろうか?
僕は、1990年のはじめの頃からDMK SNOWBOARD CLUBや、当時スポンサードしてくれていた量販店Minamiスポーツのキャンプで初心者の方のレッスンをして来た。また2007-2008シーズンからウィスラーのイントラ・ワークで定期的にレッスンもしている。だから、これまでに数千人というレベル、おそらく3,000人以上もの初心者を見て来たけど、はじめてスノーボードをする人にとって立ちながら履くというのは、なかなか難しいことだ。
「平らな場所やベンチを探す必要がない」ということは、斜面にエッジを引っかけてボードを動かないようにしてから履くということか?あるいは、ボードがちょっと動き始めたような状態でも履くことが可能ということだろうか?
もし、そうなら初心者の人にとっては相当に難しいだろう。
初心者への具体的な履かせ方としては、リフト上がったところで、平なところで装着してもらう。
しかし、ゲレンデというのは、意外に完璧にフラットなところというのはないものだ。完璧にフラットが保っていないと、ボードは動いてしまうので、結局のところ初心者の人は座って履こうとしてしまうケースが多い。
立って履いてもらうためには、ヒールエッジを山側か谷側に噛まして、ボードを動かないようにする方法がある。
多くの人は下る斜面を見ながら履こうとするので、山側のエッジを噛ましてボードを固定しようするのだが、実際には山を見ながら谷側のエッジを噛ます方が、重力に引っかかってボードは固定される。
雪質が良い時には、山側エッジを噛まして、谷側を見て履く方法もいい。
初心者にとって、座ったところから立つということは難しいケースがしばしばある。特に太った方や腹筋が弱い方などは、立つことができない。座った状態で履いたら、ロールオーバー(方向転換)し、腹ばいのよう状態からつま先側で立つのだ。
そんな人には、座らないで履いてもらうことを推奨している。
しかし、それでも慣れない人にとって立ったまま履くというのは簡単なことでないのだ。もう、現場で散々そういうシーンを見て来た。
一方スキーヤーの場合には、リフトに乗る前にスキーを履いてしまったら、もうランチの時間までずっと板が履いたままだ。転倒して板を外してしまい、スロープ上でなかなか装着できずに苦労している初心者スキーヤーもよく見かけるが、スノーボーダーの場合と違って毎回リフトに乗るたびに外すことはない。
おそらく初心者が、Step On®を使用した場合、前足に装着はほぼ問題なくできる。
肝心の後ろ足の装着時、踏み込んで付ける際にうまくいかないように思う。あの踏ん張りの段階でバランスを崩して転んでしまったり、なかなか装着できないというジレンマになるのではないだろうか。
だから、今後の改善案として伝えたいのは、座ったままでも履きやすいStep On®︎。
もし、それが実現したら、格段に初心者の人は使いやすくなる。
もちろん慣れてくれば立ったままで履けるので、初中級者にとっては、天国だ。
先月書いたコラム『簡単着脱ビンディング方式は10年後のあたり前の景色か』でも伝えたが、このシステムのお陰でこれまでスノーボードを敬遠してお年が召した方、体系的に太っている方や体力・筋力がない方。そんな人たちにとっても、スノーボードができるようになるのだ。それだけに画期的な新システムに期待するところは大きい。
コンペティター、ビデオスターのStep On®︎使用シーン
昨年、ダニー・デービスがStep On®︎でハーフパイプに入っていく映像を見て、「遂に来たか!」と思った。
また、今季リリースされた映像には、オーストリアのナショナルチームで活躍するクレメンツ・ミューラーがキッカーにジブ・アイテムに入るシーンも紹介されている。
これまで、「良いな」と思いつつも、一方でそれでもあまりコンペティターが使用したところは見たことがなかったり、テリエ以外にはビデオスターでもStep On®︎使用シーンというのは見たことがない。
だから、「そこに何かあるのか?」と勘ぐってしまう。
座って脱着できないことで、バックカントリー撮影で支障を来す場面があるのだろうか?
まさか使用中にバインが外れることなんてないだろう。だけど、コンペティターはそれでもこの用具を信用できない「何か」があり、使用してくれないのだろうか?
もし、本当に良いものなら、ワールドカップやXゲーム、誰もが見る代表的なスノーボード・ムービーにStep On®︎使用のライダーを見たいのだ。
Burtonの説明には、チーム・ライダーのアンナ・ガッサーの素敵なコメントが掲載されている。
「何より素早く着脱できるのが最高だわ。その様子を見たスキーヤーの表情と言ったら、それこそプライスレスね」
だが、まだアンナが実際に使用している映像とか見たことがない。
もし、彼女がXゲームの表彰台で、Step On®︎バイン付きの板を掲げているシーンを見たら、人々はより一層、Step On®︎に関心を抱くだろう。
すでにStep On®︎を使用しているスノーボーダーからは、「もう、戻れない」というポジティブなフィードバックも聞かれることが多い。
しかし、実際にまだ使っていない側の立場から見ると、それでもまだまだ有名プロが、Step On®︎を使用して活躍している姿が少な過ぎるのだ。
多くの有名なプロ・スノーボーダーがメジャー大会やメジャームービーで使用していることを見る機会が増えれば、僕たちはもっとStep On®へ傾倒していくだろう。
他メーカーのStep On®︎ブーツ
BurtonのStep On®︎は、当然のことながらBurtonが編み出したものだけど、だけど他メーカーがこのシステムを使用できないことではない。どんな条件、使用マージン料金などを払うのかは定かではないが、あのブーツ有名メーカーのDCも参加している。
しかし、現状、他のメーカーとの組み合わせはほぼできない。
他のメーカーからしたら「バートンさんが考えたことにウチは乗っからないよ」という気持ちなのかもしれないが、ユーザー立場で考えれば、もし、このシステムが、未来のあたり前になるなら、言葉は悪いが「もうバートンに白旗を掲げて、いっしょにやって行こう!」という流れが必要だと思う。
もちろん、他メーカー側にとっては、「これまで通りのバインが一番!」という考えもあるだろう。一番と思うシステムを崩してまで、バートンさんと共にやって行く気はないですよ、と。
だが、先日の大統領選挙のバイデンのコメントではないが、勝者を決めるのはメーカーではない。投票するユーザーだ。
世界中のスノーボーダーの多くが、このシステムが素晴らしいと思い、その方向で乗っかっていく気配なら、そういう方向に動いていくことも望ましいのではないだろうか。
ある意味、明治維新の薩長同盟の仲人となった坂本竜馬さんのような存在があるといいのかもしれない。
Burtonと、他の有名ブーツメーカーをつなぐ橋渡し役だ。
今後、Burton以外の他ブーツ・メーカー、あるいはビンディング・メーカーも加わって、Step On®︎に参入するなら、大きなウェーブを巻き起こすことは間違いないところ。
買い換え需要も高まり、Step On®︎バブルが起きたりして!
もしかしたら、すでに僕たちの知らない水面下で、そんな交渉が行われているのかも!?
とかく人は、「新しいもの」を「重要なもの」と混合しがちであるが、今回のStep On®︎ばかりは、長いスノーボード界の歴史において、凄く重要なアイテム転換期になる可能性が高い。それだけに、さらなる改良がなされて、ここに示された懸念が払拭されることを期待したい。
コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。最新執筆書『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は35年。