私のスノーボード上達論

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スノーボード歴24年、その間、私はスノーボードの専門誌やビデオなどメディアを通して、ずっとハウツーの仕事ばかりをして来た。
私自身は、3流ボーダーだと思うし、肩書きのあるコーチもでない。しかし、事実、私のハウツーやコーチングで、多くのスノーボーダーたちが上達していき、今でも私が伝えるハウツーが好評なことから、自分にはやはりこれが天職なのだろう、と思う。
幸運にも、世界的にトップ・レベルなライダーたちの成長を見届けることができて来たし、また、その彼らの成長を見て来た経験から、だんだんと私の上達論というものが形成されつつある。だから、ここらで『私のスノーボード上達論』というテーマで一度まとめて発表しようと思ったのだ。
普段は、「僕」、またはブログなどでは、「オレ」という書き方をするが、改めて真面目に伝えたいということで、この特集では、「私」という書き方にしよう。

私のスタンス論-基本姿勢はダックにあり

私の時代のスノーボーダーたち。特に90年はじめにおいては、ダックスタンスでスノーボードを始める者は、無に近かった。あの時代、前足は30度、後ろ足は12度というふうなスタンスで始めたものである。

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しかし、最近ではすべてのスノーボーダーが、ダックスタンスでスノーボードをすべきだと考えている。

理由は、大きく分けて3つある。

一つは骨格の問題。

人間というのは、踏ん張る姿勢を取る時、ほとんどの人は両つま先が外側に向く。スノーボードの踏み込み動作において、ガニ股のような格好になるのは、自然なことなのだ。

その一つの証明方法として、高いイスに座ってみてほしい。
そのまま足をダランと垂らすのだ。きっと、ほぼすべての人が、両ヒザが外側を向き、だいたい両ヒザ、両つま先が5度から15度ほど開くと思うのだ。

ここ最近、トップ・ライダーの間で、前足10度ほど、後ろ足がマイナス10度ほど、というスタンスが流行しているのは、このような人間骨格な自然な流れから来ていると思われる。

例えば、日本人最高峰ライダーとして名高い布施忠、またパイプで世界チャンピオンになった青野令なども、このようなスタンスである。

ちょっと極端に表現したけど、ダッグにした方が、よく踏める。
結果、基本姿勢はこうなる。

次にダックスタンスを推奨する理由は、スイッチ(逆向きスタンス)への対応。

私がスノーボードを始めた時には、スイッチ・ライディングというのは特別な技術だった。
まずはノーマルのスタンスで滑れるようになること。そして、普通に滑れるようになったら、フェイキー(※)もできるようになろう、というテーマになっていた。
(※当時、逆向きスタンスで滑る姿をよくスイッチでなく、フェイキーと言っていた。かなりマニアックな話になるので、フェイキーとスイッチの言い方の違いは、後日ご紹介したい。)

しかし、今ではスイッチ・ライディングというのはスノーボード技術の中でも重要なパートで、初心者からでもスイッチをやるべきだと思う。むしろ、なるべく早い段階からスイッチをやった方が、後々困らない、と思うのだ。

ウチの息子が3歳でスノーボードを始めた時、自分がどっち向きなのかよくわからなくて、ノーマルでもスイッチでも滑っていた。私は、あえてそのことには指摘せずに、ともかくどちらのスタンスであろうが、山から降りてくれば成功!というコーチングを行って来た。そのかいあって、息子の上達は早かった。息子にとっては、初心者時代からスイッチも滑るためのテクニックの1つになっていたのだ。

実際、今、世界中のほぼ全プロ・スノーボーダーがダックスタンスなのである。なぜ、初心者だけが、両足バイン角度を前に振るスタンスで始めるべきなのだろう?

自分の知る限り、ダックにしなくて出世できたライダーは、クレイグ・ケリーとテリエ・ハーコンセンである。どちらも私が敬愛するライダーたちだが、彼らは飛びぬけた身体能力があったから、おもいっきり腰がクローズド(注:進行方向に向かない)するスタンスでも、フェイキーに対応できたのだと思う。実際、彼らのフェイキーの滑りは、あきらかに逆向きとわかるし、そのアンバランスな感覚で走る様子が美しかった。
このようなスタンスの場合には、飛びぬけた身体能力が必要で、実際、彼らは神とも形容されるライダーたちである。多くのスノーボーダーにとって、基本はダックにあると思うのだ。

この話に付随されることだが、基本姿勢では上半身を進行方向に向けるべきではないと思う。

ダックスタンスで自然な格好で立った場合には、腰は両足つま先の中央に向いている。この姿勢こそ、最も踏ん張りやすいし、パワーも生まれるのだ。

しかし、スノーボードのレッスンにおいて、あえて腰から上の上半身を前に開かせる人が多い。

自分の聞いたところでは、日本ではインストラクターやプロのコーチの方でも腰を前に開かせることを推奨している方が少なくないようだ。

なぜ、腰に前を向かすのか?その理由は、そうすると両手のバランスをうまく使えるからである。

例えば、初めて横乗りのスポーツをする時、スキーなどの左右対称の動きができるスポーツとは違いひじょうにアンバランスな感覚を持つものだ。そんな時、進行方向に両手が左右に開く格好にすると、ひじょうにバランスが取りやすくなる。

実際、初心者から中級者の段階では、このようなスタンスにした方が上達が早くなるものだ。

具体的には、前足24度、後ろ足9度のようなスタンス。
腰が前にやや開くスタンスだと、ひじょうに進行方向へのターンがしやすい。もちろんスイッチには難しいスタンスだが、ともかくターンを完成させたい、という段階ではこのようなスタンスが大変役に立つのだ。

しかし、このスタンスでは、何度も言うがしっかりと踏め込めない。スイッチにも対応し難い。
腰が前に開くような状態では、パワーが出ないのだ。

どんな横向きに構えるスポーツでも同じことが言える。ゴルフしかり、野球しかり。一流スポーツ選手で、例外的に腰を開いて大成した人もいるが、それは一部例外で、そこには人並みはずれた技術やパワーがあり、成り立ったことだと思う。

ジャンプ台がデカくなると、どんなライダーでも腰が前に開き、前屈み姿勢が目立つけど、トースタインだけはまるで小さなアイテムを飛ぶように、上半身をかなり起こしてドスンと構えてる。

実際、今、多くの活躍しているビデオ・スターたちは、腰を前に開かない姿勢を維持した形を基本として滑っている。
(注:ジャンプ台が大きくなるなど、そのライダーにとって限界値が高い状況になるほど、姿勢が前向きになり前屈みになりがちになるが、あくまでも基本姿勢は骨格に逆らわないで構える横向きの姿勢。)
このように基本姿勢を守り続けて滑るライダーの代表例を挙げると、自分がよく知るところでは、トースタイン・ホグモ、マーク・ソラーズなど。アプローチでは、しっかりとヒザを曲げて下半身をドスンと構え、上半身はまるで乗っているだけというように、指先まで力を抜いてリラックスして構えている。この基本姿勢が前提にあり、リップで仕掛け、トリックを決めているのだ。

多くの日本の女性ライダーで、スタイルが形成され難いのは、初心者時代からの腰を開くクセが抜けきれていないだろうか、とも思う。
例えば、ノーズプレスする時に、腰が回り過ぎ必要以上に腰(お尻)が突き出て、その軸ズレを手を上げて補ったような格好をしているが、これは何よりも踏めていない証拠だと思うのだ。踏めていれば、不必要な動きはなくなり、動きは美しく、つまり世間で言う「スタイルある!」という格好になるハズである。

すべての基本は、フリーランにある。基本姿勢に忠実に、踏めている格好ができれば、ジブでもジャンプでも格段にカッコ良く見せることができるようになる。

だから、最初のターンで腰を開くのはアリだとしても、なるべく早い段階で腰を開かせないどっしりとした構えの基本姿勢を身に付けることが肝心なのだ。
腰を前に開かせるというのは、自分の限界値を下げることいなりかねないし、何度も言うけどしっかりと踏めないことになるのだ。

 


(左、ダックスタンスで骨格に合わせて自然に構えた姿勢。右、上半身を前に開き、進行方向に対して左右バランスを高めた姿勢。こうすると確かにターン中のバランスは上がるが、腰を前に振った分、後ろ足ばかりに負担が掛かり、しっかりと踏み込みにくい。現在、日本でのインストラクターなどでは、このような滑り方をする人も多いようだが、厳密に言うとしっかりと踏めみ難い。)

まとめ

基本姿勢はダックにあり
1)ダックにする理由は、人間の骨格にとってそれが自然だから
2)スイッチに早い段階で対応できるように
3)腰は前に開かない、基本姿勢作りを

私のスタンス論-基本はジブトレ

数年前から雑誌などでも伝えて来たことだけど、スノーボードにおいて最もベースとなるのは体力だと考えている。
これはスノーボードに限らず、どんなスポーツでも共通していることだと思うのだ。

まずは体力、次に技術力、最後に精神力だ。

体力のことは、これまで何度となく伝えて来たと思うので、ここではスノーボードの技術の基本、さらには体力強化にもつながるジブトレのことを伝えたい。

このジブトレとは、平地なところでボードを履き、そこでノーズプレスやテールプレス、さらにはノーリーやオーリーをやってみること。また、さらにそこから発展して、スピン・トリックなどもやっていい。

こうしたスノーボードの基本的なフリースタイルの動きは、恐怖感などまったくないこのジブトレで強化ができるのだ。

これは、野球で言う素振りのようなものだと思う。

プロ野球選手は、トップ選手になっても常に素振りを欠かせない。様々なボールをイメージしながら、素振りで何度もフォームを作って行く。また、素振りを何度もやることで、足腰をも強くしていくのだ。実際にこのジブトレで上達したのが、シモン・チェンバレンだ。

彼は、10代中盤、まだ無名時代にプロになることを決意し、よく家の中でママに叱られながらも、このジブトレをやっていた。4年前にいっしょにハウツーを作り、すでに有名になりかけた時代でも、このジブトレをシーズンイン前の秋頃、よくやっていると言っていた。また私のよく知るライダーの平野創は、スタイルが良い!と形容されるが、彼もこのジブトレ練習を最もたくさんやったライダーの一人である。ハジメは単に海外で修行し、スタイルを学んだだけでなく、自分で何度もジブトレをやることにより、スタイルを磨いて来たライダーなのだ。とかく、日本人スノーボーダーたちは情報過多になりがちで、つまりインプットは盛んだが、アウトプット(=練習)が疎かになりがちなので、このジブトレをたくさんやることをオススメしたい。雪上に出たら、友達を待っている間など、どんな時でもやってみるといい。このジブトレをやると、とても疲れるし、筋力も使うものだけど、それはその人が体力がない証拠だ。海外のライダーたちは、このジブトレでバリバリ遊んでいるのでうまくなる。みんなもぜひやってほしいのだ。そうすれば、自然に海外ライダーのように体力がついていく。


(プレスしたりジャンプしたり、ジブトレは雪上に限らず、どこでも、夏でも、いつでもできる優れた練習方法だ。)

次に。
低速な状態で、ノーリーしたりオーリーしたり、あるいはその発展系のグラトリをする人が多いと思うが、こういう練習もジブトレのように大事なものだ。

先ほど、ジブトレは素振りだと形容したが、この低速でのグラトリは野球で言うトスバッティングのようなものだとも思う。つまり、次レベルの練習である。

グラトリというのは、日本では1つのカテゴリーと見られているが、海外では遊びの一部とみなしている。このグラトリをやるためにスノーボードをしているのではなく、グラトリはこれからキッカーやレールで行う本番のための遊びなのだ。

遊びというと、誤解を受けるが、西洋人なりのポップな解釈で、実を言うとその遊びとは練習である。遊びのような感覚でグラトリをして、練習しているということだ。

このグラトリをやることで、ボードさばきも上手になるので、ぜひいろいろ試してほしい。
しかし、その前提になるのは、止まった状態でやるプレスなので、このグラトリがうまく行かない人は、その前段階のジブトレをしっかりとやってほしいのだ。

ちなみに海外では、グラトリ(=グランド・トリック)と言い方は、通じない。彼れは、バター・トリックと呼んでいる。まるで、ボードのノーズやテールをバター・ナイフのようにしならせて、使うことからこのような言い方をしているのだ。
グラトリというのは、日本のように決められらコースしか行けない(注:あまり自然物を使って遊べないということ)環境で生まれた、1つの遊び方法であり、練習方法なのだ。このグラトリ事態を1つの目標に置くのは、練習好きの日本人スノーボーダーならではのスノーボード文化なのかもしれない。

話は反れて恐縮だが、今回のまとめに入ろう。

まずはスノーボードの基本練習となるのは、ジブトレだ。
だから、ジブトレを徹底的にやること。
野球選手が素振りをたくさんやらないといけないと同じように、スノーボーダーは徹底的にジブトレをやるべき。

次にグラトリもやろう。
もし、グラトリがうまくいかなかったら、ジブトレに戻り基本強化。

最後にボックスやキッカーなどで、練習。

アイテムの練習は、その前の段階にグラトリがあり、そして最も基本にはジブトレがあるということを肝に銘じておくこと。
そのへんを誤ると、スタイルが確立されていないライダーになる。日本ではある程度、結果を残せるライダーになれるかもしれないが、世界のプロを見る目はシビアで、スタイルのないライダーは決して受け入れられない。
そのためにも、まずは基本であるジブトレから徹底的にやり直すべきだ。

まとめ

基本はジブトレ
1)スノーボードの最も基本練習はジブトレにあり
2)次段階の練習としてグラトリを行うこと
3)ジブトレ→グラトリ→アイテムというふうに段階的に練習していくこと

今回の前半では、基本の基本とも言えるスノーボード上達学の自分なりの基礎ウンチクを講釈してみた。
あなたのスノーボードのヒントになれば幸いだ。

筆者プロフィール

飯田房貴(いいだ・ふさき)
東京都墨田区生まれ、3歳まで葛飾区、4歳からは江戸川区で育ち、三代東京育ちの江戸っ子。
20歳からニュージーランド、カナダと渡り、その間、ずっとスノーボード関連の仕事に携わる。
中でもハウツーの仕事はダントツに多く、ハウツー・ビデオでは、出演はもちろん、ディレクティングも行っている。
約束されたギャラの返済に苦しんだ出版社に乗り込み、裏方プロデューサー業(?)もこなしたオールラウンダー!?
その伝説のビデオ作品やハウツー本は、今でも図書館などで見ることができる。
日本でも最も歴史ある専門誌、現在は廃刊になってしまったスノーイング誌のハウツー・コラム「ハウツー天使」では、なんと219回もの連載を行い、その金字塔は今でも破られることはない。
さらに現在もハウツービデオ作品のプロデュースやコラムを書き続け、日本全国のスノーボーダーたちは知らずの内にフサキのハウツーにお世話になっていたりする。
ちなみにこれまでフサキが行ったハウツーのパートナーとしては、ベン・ウェインライト、シモン・チェンバレンが有名だ。
今、この瞬間にもカナダのウィスラーで世界のスノーボーダーたちにレッスンをしているという、まさにスノーボード・ハウツー界の伝道師。
1985年17歳の時からスノーボードを始めて、昨年末に40歳となり、今季で24シーズン目のキャリアになる。
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