コラム:飯田フサキ
スノーボードの世界に生きる者なら、泣く子も黙る全米トランズ誌。webサイトを含め影響力が高く、文字通りの世界ナンバー1のスノーボード・メディアであろう。
そんなトランズ誌が、初のDVD『These Days』を今季リリースする。(以下ティーザー)
http://snowboarding.transworld.net/2008/07/28/these-days-teaser/
出演するライダーは、Chad Otterstrom、Dustin Craven、Jonas Michilot、Louif Paradis、Lucas Debari、Nick Dirks、Robbie Walkerなど。
決して、世界的に第一線級の有名人ではないとも思われるが(注:チャドとかダスティンとかかなり有名部類かもしれないけど)、さすがに現在のスノーボード・シーンをシビアに分析できる専門誌だけに、実力あるライダーが登場する。名より身と言った印象もある。
またティーザーを観る限り、クオリティも一級品だ。
リーディング専門誌だけに、その宣伝能力もひじょうに高いだろう。高い売り上げ数字も期待できるようにも思える。
しかし、その一方で専門誌のパワーがそのままキープできるのが心配だ。
日本では最近、スノーボード専門誌が、DVDを出すのはあたり前になって来た。また、ハウツーというテーマなどで、DVDをリリースするようにもなっている。しかし、その本来、持っていた専門誌のパワーというものが軽減されているようでならない。
本来持っている力を保持しつつ、さらに専門誌の力を付けていった上で、新しいことをやればいいのだろう。だけど、実際には同じようなスタッフ数と能力で、新しいメディアに参入しているようなので、その力が分散しがちなのだ。
専門誌が他のメディアを頼るのは、自分たちの本来持っていたものが弱いと考えた時なのではないだろうか。そこにじっと我慢して向上するのではなく、怖いから広く動き他の分野まで手を出してしまう。だけど、本来ならさらに専門誌の持つ強さをより一層上げることを心がければ良いと思うのだが。
僕が、スノーボードのwebサイトを始めた10年前、僕自身が最も作りたいスノーボードのメディアを作りたいと考えて始めた。言わば、海外に住んでいる自分が、日本で編集というような仕事ができない分、理想のスノーボード・メディアを求めた結果とも言える。スノーボード・メディアが大好きな自分が、一つの夢にしたもの、それがdmkのwebサイトだ。まだ志し半ばで、やることが山済みで課題もたくさんあるのだが・・・。しかし、以前、感じていた専門誌の強さや、その下に甘んじるという劣等感のようなものは最近あまり感じれなくなった。
以前ならスノーボード専門誌の方が、圧倒的に自分のwebサイトよりも影響力があった。
自分は、雑誌に執筆していなかったハウツーのコラム、またインタビューや特集、そして当時、協力してもらったギア博士のミノルのコラム、また数百名ほどのクラブ員とツアーで交わりリアルなスノーボード・コミュニティ活動をすることで、一矢報いていたに過ぎなかった。
しかし、最近はほぼ8年間休みなしでアップしていたニュースが力を付け、ある程度の影響力を出すことに成功。その他のコンテンツの活躍、またかなり狭いけど、深いコンテンツ内容などの反響も高い。そんな実績が出てきたこともあり、あまり専門誌の力を感じなくなった。これは単に自分のwebサイトに力を付けただけでなく、専門誌が自ら禁断の(?)DVDに力を注ぎ、本来専門誌が持っていたコンテンツ力というものを失って来ているという要因もあるように思える。
スノーボード専門誌で、DVD付録を付けたり、DVDを作ったりすることは、売り上げ確保やアップには欠かせないこともかもしれない。しかし、一方で本来持っているコンテンツ力を分散しかけないように思えるのだ。
雑誌にとってDVDとは、もはや辞めることができない麻薬というような存在かもしれない。
失礼承知で言わしてもらえば、ズバリ日本の専門誌は弱くなっている傾向にあるように思えてならない。これを一意見として考慮してもらえば、幸いだが。
そして、今回のアメリカ本家のトランズ誌のDVD『These Days』。確かにかなりのクオリティで、その存在価値など出ているようなのだが、本来持っている雑誌の力を損なわないか心配だ。やはり、雑誌屋は雑誌専門でやった方がカッコいいし、またDVD専門でやって来たところに任せておけばいい、と思うのは、自分だけの杞憂だろうか。
何度も言うが、弱くなったと感じたら、広さよりも深さ、言い方を変えれば高さに走ることで、より一層、専門誌として輝くように思うのだ。たった1つの特集が、その人のスノーボード人生を左右する。それほど、インパクトあり、深いものをリリースできるのは専門誌の持つ本来の力である。
以前、スノーイング誌の編集長をされていた新田裕之氏が執筆、編集されたクレイグ・ケリーの特集記事(1997年1月号)は、今でも僕の宝だし、そのコンテンツの持つ力に脱帽せずにはいられない。そして、そんな新田さんと少しの間でも、いっしょに仕事ができて、僕は幸せだったとも思う。
これからリリースされるトランズ初のDVD『These Days』の人気や評価、またその後の雑誌の力がどうなるのか、気になるところだ。