文:飯田房貴
Photo source: ESPN.com
思っていた通り。ワールドカップ初戦Vの後、平野歩夢の周りが賑やかになっています。
新聞やテレビで大きく取り上げられ、五輪での活躍を期待される報道祭り。
こうした報道は、多くの人々にスノーボードを伝える意味で、嬉しいことです。
しかし、いつも気になるのは、本当の大会結果の意味が伝わらないこと。
それは、1988年、長野五輪の時から変わっていません。
あの時も、オリンピック前にゆりっぺ(吉川由里)が、イタリアのワールドカップで日本人初優勝を遂げ、大きな話題になりました。
それで、五輪でもメダルを期待されました。
しかし、その背景にはどれほどの強豪選手が出ているか、そうした報道はありませんでした。
2000年代には、よくワールドカップがブラッコムで開催していたこともあり、僕も取材に足を運んでいました。
あの時代も本当に、日本人選手は活躍していて、表彰台をほぼ独占していましたね。
その頃も、読売新聞だとか朝日新聞だの、俄かスノーボード記者がやって来て、選手たちを取材してました。
その言動は、多くのメディアに出ていただけど、僕はちょっと冷めた目でそのシーンを見ていたものです。
このメンバーで勝って、これほどまでに喜んで大丈夫なのかな。なんでもっと真の現状を伝えてくれないのだろう。
選手たちは、もちろん自分の置かされた現状が、オリンピックのメダル獲得には難しいと感じていたのだと思うけど。
新聞やテレビで取り上げられて、報道に踊らされているようにも見えました。
最も象徴的な出来事と言えば、成田兄妹ではないでしょうか?
一般メディア受けが良い童夢は、一般雑誌やテレビに出回っていたし、メロは六本木でラップも歌っていたし。あの時、かなり担がれた存在でした。
メダル獲得が期待されたけど、一方、事実、彼らが活躍していたワールドカップにどれほどまでの強豪選手が出ていたのか。
五輪で金銀を取った、ショーン・ホワイト、ダニー・キャス、女子ではハンナ・テイターやグレッチェン・ブレイラー、そういった選手に勝っていた印象はなかったと思います。
特にあの時代、アメリカの強豪選手は、ワールドカップに出ていなかったのだから。
日本のテレビ番組も、しっかりと伝えていなかったと思います。
W杯で優勝すれば、スノーボードの大会現状を知らない張本さんは「あっぱれ!」を出しちゃうし。
だから、今回の平野歩夢の活躍も、切に報道に踊らされるな!と言いたい。
これまで通り、たんたんとトレーニングを積み、自分が信じた道を突き進んでほしいです。
加熱報道にはクールに対応し、しっかりと現状を理解し、努力を続けること。
周りの大人たちがそのへんしっかりとガードをして、彼の活躍をサポートしてほしいです。
本題。
それでは、平野歩夢はオリンピックでメダルを取れるのか?
結論から言えば、これまでの五輪の中でも極めて、高いチャンスと言えると思います。
つまり、これまで五輪に挑戦したスノーボード選手の中でも、一番メダルを取る可能性が高い!と。
その理由は、
1)近年のワールドカップは世界トップレベルの選手が出るようになったこと。
2)X-GamesやUS Openなどの世界の本気度がより伝わる大会での好結果。
3)近年の大会で安定した上位結果を残していること。
4)國母和宏を継承したようなリラックスしたスタイルは、観客だけでなくジャッジにも好印象を与えているように見えること。
今回のニュージーランド大会では、TTRランキングのトップ選手がズラリと出ていました。
ランキング2位のI-POD。ランキング3位のスコッティ・ラーゴ、5位のルーク・ミトラーニと言った具合です。
この中でも最も不気味なのはI-POD。平野を上回ると思われるトリックを持っていながら、今回は実力を出せずに予選落ち。こういった選手と決勝という土俵でがっぷりと戦っていないので、I-PODの最高峰ランが出た時、平野の結果にどう左右されるか。
I-PODには、バンクーバー五輪時のピート・ピロイネンのような「やはり実力者は強かった」という雰囲気を感じるのです。
(注:ピート・ピロイネンは、バンクーバー五輪で銀メダリスト)
TTRランキング4位のルイ・ビトーは出ていなかったけど、高回転トリックがあるとは言え、あの無難な高さでまとめるスタイルでは難しいように思えるし、X-Gamesなどですでに平野は決着を付けています。
あとは、ショーン・ホワイトだけです。
この世界のトップ選手を考える上で大きな指標となるTTRランキングは、世界主要大会のポイントを合算して決められます。
そして、平野自身がランキング1位なのですが、10位に入っているショーン・ホワイトはそもそもTTR大会を3戦しかしていないために、ポイントが低いのです。
しかも、その3戦全部優勝し、その大会レベルも凄い。
スノーボードのハーフパイプ競技で最も権威ある歴史大会、US Open。
アメリカの代表選考を決める上で、最も重要な大会と言われているUSグランプリ。
世界で最も多くの人がスノーボード大会を視聴すると言われているX-Games。
いずれの大会でも優勝しているのです。
ショーン・ホワイトは、五輪ハーフパイプ競技では男子で最高年齢になりそうな26歳。
平野歩夢は、最年少14歳。
この年齢差から来る、「今後の成長」 vs 「これまでのキャリア」の戦いにも注目です。
しかし、平野歩夢はショーン・ホワイト以外の選手には勝てる実力を大会で見せてくれているので、このまま行けば銀メダルを取れる可能性がとても高い。
あとは、周りに踊らせずに、しっかりと自分の実力を出し切れるか。
そして、何かしらスノーボードの神様がいたずらしてくれれば、ショーンが実力を出し切れずに、金メダルという可能性もあるでしょう。
もちろん、その神様のいたずらは平野にも及ぼす可能性があり、そういった意味で僕は本当にショーンと平野の真向実力勝負が見たい、と思っていますが。
きっと五輪に向けてトップ選手は隠し技を持って、五輪で一気に披露し、上位を狙って来るハズです。
そのへんのトリック上昇展開が読み難いので、なんとも言えませんが、僕は平野歩夢ほどチャンスがある選手はないと思っているので、本当に五輪を楽しみにしています。
この最高の原石を日本のスノーボード業界は磨き続け、守っていかないといけないと思います。