
文:飯田房貴 @fusakidmk
ここ数年、日本のスキー場でもこんな声を耳にする機会が増えてきた。
「リフト券、こんなに高かったっけ?」
「気軽に行ける遊びじゃなくなってきた気がする」
特にニセコや白馬といったエリアでは、1日券の価格に驚いた人も多いはずだ。インバウンドの回復とともに、スキー場の景色だけでなく“価格”も大きく変わり始めている。
では実際のところ、スキー場は本当に「高すぎる」のだろうか。
目次
上がっているのは事実。ただし、それだけではない
まず前提として、リフト券の価格が上昇しているのは間違いない。
インバウンド需要の回復や運営コストの増加もあり、人気エリアでは以前と比べて明らかに高くなっている。
ただ、この話を「高くなった」で終わらせてしまうと、本質を見誤る。
なぜなら今、スキー場のビジネス自体が変わり始めているからだ。
すでに北米で起きている“別の構造”
この流れを理解するうえで参考になるのが、北米のスキーシーンだ。
アメリカやカナダでは、すでに数年前からリフト券価格の高騰が問題視されてきた。1日券が300ドル近くになるケースもあり、「高すぎる」という声は日本以上に強い。
しかしその一方で、現地のライダーたちは必ずしも全員が高いお金を払っているわけではない。
そこで主流になっているのが、シーズンパスという仕組みだ。
あらかじめパスを購入することで、1日あたりの滑走コストは大きく下がる。滑れば滑るほど割安になり、ローカルにとってはむしろ以前より通いやすくなっているとも言える。
つまり現在の北米では、
「その日に来る人ほど高い」
「シーズンを通して滑る人ほど安い」
という、はっきりとした構造が出来上がっている。
日本でも始まりつつある“二極化”
この構造は、決して北米だけの話ではない。
日本でもすでに、似たような変化が起き始めている。
たとえば、ニセコや白馬では観光客向けの価格が上昇し、気軽に1日滑るにはハードルが高くなってきた。一方で、地元のライダーや頻繁に通う人は、早割やシーズン券を活用することでコストを抑えている。
つまり、
「たまに行く人」と「通う人」で感じる“高さ”が違う
という状況が生まれている。
このギャップこそが、「高すぎる」という感覚の正体なのかもしれない。
問題は“価格”よりも入口の高さ
では、スキーやスノーボードは本当に「高すぎるスポーツ」になってしまったのか。
答えはシンプルではない。
確かに、1日だけ滑ろうとすればコストは高い。リフト券に加え、レンタルやウェア、交通費を含めれば、決して気軽とは言えない金額になる。
しかし、シーズンを通して滑る人にとっては、工夫次第で負担を抑える余地もある。
問題はむしろ、「最初の一歩が踏み出しにくくなっていること」だ。
かつてはもう少しラフに始められたこのスポーツが、今は少し準備と覚悟を必要とするものに変わりつつある。
この先、日本の雪山はどうなるのか
北米の流れを見る限り、この変化は一時的なものではない可能性が高い。
- 価格は上がる
- パスや事前購入が主流になる
- ローカルと観光客の差が広がる
こうした流れは、今後日本でもさらに進んでいくかもしれない。
だからこそ今、重要なのは「高いか安いか」だけで判断することではなく、その背景にある構造を理解することだ。
そしてもう一つ。
このスポーツをどう広げていくのか、という視点も同時に必要になっている。
もし新しく始めたい人が入りにくくなっているとしたら、それは単なる価格の問題ではなく、カルチャーそのものの問題でもある。
ウィスラーに見る「入口を広げる」ためのヒント
こうした課題に対して、実際に動いているスキー場もある。
たとえば、私が拠点とするウィスラーでは、新規のスキーヤーやスノーボーダーを呼び込むための取り組みがいくつも行われている。
その代表的なものが「Never Ever Days」というイベントだ。毎シーズン12月頃に開催されるこの企画は、これまで一度もスキーやスノーボードを体験したことがない人を対象に、リフト券やレンタル一式をほぼ無料で提供するもの。参加費はわずか25ドルと、まさに“最初の一歩”のハードルを限界まで下げた取り組みと言える。
さらに、シーズン中には若者向けの音楽イベントも開催されている。先週末には、ビレッジや会場となった駐車場に多くの人が集まり、有名DJを招いた大規模なイベントが行われていた。こうした機会をきっかけにウィスラーを訪れ、その流れでスキーやスノーボードに触れる人も少なくないはずだ。
また、ウィスラーブラッコムを運営する企業ベイルリゾートは、30歳以下のヤングアダルト層に向けた割安なシーズンパスも用意している。将来的にこのスポーツを支える世代に対して、早い段階でアクセスしやすい環境を提供しようという意図が見える。
日本に必要なのは「価格」だけではない
日本でも、19歳〜22歳のリフト券が無料になる「雪マジ」といった取り組みはすでに存在している。これは新規層の獲得という意味で非常に重要な施策だ。
ただ、その先——たとえば20代後半や30代前半といった層に対して、継続的に通いやすい価格設計があるかというと、まだ発展の余地はあるかもしれない。
北米のように、ヤングアダルト世代まで含めた“未来のコア層”に対して、戦略的にアプローチしていくことも一つのヒントになるだろう。
「高い」で終わらせないために
スキー場の価格は確かに上がっている。
それはもう疑いようのない事実だ。
しかし同時に、各地で見られるように、「どうすれば人が来るのか」という工夫もまた進んでいる。
価格を下げることだけが答えではない。
入口を広げること、きっかけを作ること、そして継続しやすい環境を整えること。
そうした積み重ねがあってこそ、このスポーツは次の世代へとつながっていく。
「高すぎる」という言葉の裏側にあるものを見つめながら、
これからの雪山との関わり方を考えていくこと。
それが今、スノーボーダーに求められている視点なのかもしれない。
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は41年(2026年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

