日本のスキースクールがドル箱化できない理由―― ウィスラーとの比較から見える構造的課題

世界でも最も巨大なシステムで良質なスノースクールを持つと言われるウィスラーの朝の風景。)
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文:飯田房貴 @fusakidmk

スキー・スノーボード業界で「ウィスラーのスクールは世界最大級でドル箱」と聞くことは多いでしょう。一方で、日本のスキースクールは長年、儲からない部門として扱われてきました。立地やインバウンド客の差だけでこの違いを説明できるでしょうか。実は根本には、構造と経営思想の差があります。

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日本のスクールは「付属物」として扱われている

日本の多くのスキー場では、スクールは独立した団体や法人が運営し、スキー場は場所を貸すだけです。商業活動を行うための登録料も比較的安く、札幌テイネでは1社あたりシーズン5〜7万円、ルスツリゾートでは6〜9万円、ニセコユナイテッドでは個人向け商用シーズンパスが17〜38万円程度と言われています。これらはあくまで「営業許可料」であり、スクールの売上に応じたマージンではありません。スクールがどれだけ売上を上げても、スキー場側には直接の利益はほとんど生まれないのです。

こうした構造では、スクールを「育てて儲ける」という発想は生まれにくくなります。

ウィスラーではスクールが主力事業

一方で、カナダのウィスラー・ブラッコムでは、スクールはリゾート経営の中心に位置づけられています。スノースクール(スキー、スノーボード、ハンディキャップの方も含まれる)は完全直営で、インストラクターは全員リゾートの従業員です。料金、商品設計、販売戦略もすべてリゾートが管理しており、スクール自体がリゾート全体の売上を押し上げるエンジンとなっています。

ウィスラーのスクール料金の目安は、グループレッスンが1日300カナダドル、プライベートレッスンは1日1,200カナダドル以上、キッズ・ユースの長期プログラムはシーズン数千ドル規模です。日本のスキー場から見ると非常に高額に感じますが、価値が明確化され、教育内容やインストラクターの質が保証されているため、安定して需要があります。

その結果、スクールの従業員数は1,500人にも上ります。そのうちマネージャーは10人以上、マネージャーをサポートするスーパーバイザーは100人以上と言われています。グループレッスンやプライベートレッスンに加え、各エリアごとのポッド分けや、コーポレイトと呼ばれる企業誘致用のスクールプログラムも用意されています。大手企業が慰安旅行を兼ねてウィスラーを訪れる際には、こうしたコーポレイトプログラムを利用することが多く、スクール全体が幅広いニーズに応える体制になっています。

価格と価値の差

日本の多くのスクールでは、担当インストラクターが当日まで決まらなかったり、カリキュラムや上達のゴールが曖昧であったりします。その結果、価格を上げる根拠を示せず、安価な料金設定に留まります。ウィスラーでは特にプライベート部署では、誰が教えるか、どのように成長できるかが明確であるため、高単価でも選ばれます。グループレッスンでも、できる限り高評価を得たインストラクターが、引き続き同じ生徒さんを引き継ぐようなシステムもあります。(注:グループレッスンは、プライベートほど絶対に同じ生徒さんを受け持てることにはなっていない。)

赤字リスクが直営を阻む

日本のスキー場がスクールを直営しない最大の理由は、赤字リスクを背負いたくない点にあります。スクールを直営すれば、インストラクターの人件費、教育コスト、天候不良による来場減など、すべてをスキー場側が負担することになります。多くのスキー場はリフト運営や降雪コストだけで経営が厳しく、スクールを「将来投資」として赤字覚悟で育てる体力がありません。その結果、日本ではスクールを独立させ、登録料という形で最低限の関与に留めるモデルが定着しています。これは消極的な判断ではなく、赤字を回避するための現実的な経営判断です。

ウィスラーは宿泊・不動産・飲食なども含めた巨大資本を持ち、スクールを直営することで短期赤字を吸収できるため、長期的にリゾート全体の収益を押し上げる戦略をとることが可能です。

結論

日本のスキースクールがドル箱化できないのは、スクールを「稼ぐ事業」として設計してこなかったことにあります。登録料の安さはその象徴です。しかし、すべてをウィスラー型にする必要はありません。キッズ特化、高付加価値の外国人向けレッスン、滞在型キャンプ、育成アカデミー型スクールなど、工夫次第で日本でも収益性の高いスクール運営は可能だと思います。

スクールは単なる付属施設ではなく、スキー場の未来を作る事業であるという認識が、日本でも広まることが重要でしょう。

飯田房貴

1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。

インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/

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