
文:飯田房貴 @fusakidmk
私が住むウィスラーでは、山の上で初雪が観測されたものの、今年は例年よりやや遅い。一方、日本では記録的な残暑が続くなか、軽井沢プリンスホテルスキー場では、11月1日のオープンに向けてすでに造雪が始まっている。スノー業界に関わる者として、また一人のスノーボーダーとして、このニュースを聞くとやはり一安心する。
しかし、ブラッコムの氷河は年々縮小しており、世界的にも氷河エリアの減少に懸念が広がっている。雪不足の心配は尽きない。
そこで今回は、「地球温暖化でも滑れる!」をテーマに、スキー場の最先端雪保存テクノロジーを、世界の事例も交えて紹介していこう。
目次
人工雪だけでは足りない?雪不足対策の現実
多くのスキー場は冬季の降雪量に左右されないよう、人工雪を活用している。
例えば、アメリカのオレゴン州やアルバマ州のスキー場では、夏季でも人工雪でゲレンデを維持する取り組みがある。
人工雪は「スノーマシン(雪砲)」で水を霧状にして凍らせて作る。
世界の雪砲の約60%はスイスTechnoAlpin社が供給しており、1台5万ドル前後、消費電力も家庭1か月分に匹敵するほど膨大だ。
しかし、人工雪だけでは温暖化の影響で秋〜冬のシーズン開始が不安定になる場所もある。
そこで登場するのが、夏の間に雪を保存する技術だ。

世界のスキー場での雪保存の実例
世界のスキー場では、雪を夏の間に保存する取り組みが進んでいる。フィンランドのレヴィ(Levi)では、ワールドカップ開催に向けて年間約26万立方メートルもの雪を夏季に保管しており、そのうち30〜40%が自然雪、残りは人工雪である。雪は特殊な断熱ブランケットで覆われ、外気温が40℃に達する日でも溶けることなく保存され、11月の大会開催を確実にしている。
スイスのダボス(Davos)では、クロスカントリー用の雪を12月から1月にかけて作り、夏の間保存する。保存率はおよそ80%に達し、秋のトレーニングや早期オープン時に活用されている。
イタリアのプレセーナ氷河(Presena Glacier)では、1万枚ものジオテキスタイルシートで雪を覆い、断熱性を確保している。設置には11人の作業員と2台の雪上車を用い、ロープやハーネスを使って慎重に作業を行う。作業期間は天候が良ければ6週間、悪天候の場合は3か月にも及ぶ。ブランケットの表面は太陽光を反射し、水をはじく素材で作られており、雪を長期間溶けずに保つことができる。

フィンランド・レヴィ(Levi)
- ワールドカップ開催に向け、年間260,000立方メートルの雪を夏季に保管。
- 約30〜40%が自然雪、残りは人工雪。
- 特殊な断熱ブランケットで覆い、外気温40℃でも雪を保存。
- この方法で、11月の大会開催も確実。
スイス・ダボス(Davos)
- クロスカントリー用の雪を12月〜1月に作り、夏まで保存。
- 保存率は約80%。秋のトレーニングや早期オープンに活用。
イタリア・プレセーナ氷河(Presena Glacier)
- 10,000枚のジオテキスタイルシートで雪を覆う。
- 人員11人、雪上車2台、ロープやハーネスを使って設置。
- 作業期間:好天で6週間、悪天候では3か月。
- ブランケットの表面は太陽光を反射し、水をはじく素材で断熱性を確保。
日本の事例
- 長野・軽井沢プリンスホテルスキー場:11月オープンに向け、人工雪を積極的に作り、ゲレンデ初期を確保。
- 志賀高原の一部スキー場:クロスカントリーや早期オープン用に雪を小規模ストック。
- ヨーロッパほど大規模ではないが、地球温暖化対応として検討が進む。

雪を保存する技術の仕組み
- 断熱ブランケットで覆う
- 太陽光を反射して熱を遮断
- 表面は水をはじく特殊素材
- 厚さは1cm未満で軽量ながら断熱効果抜群
- 雪の下の絶縁層
- 雪を直接地面と接触させず、温度上昇を防ぐ
- これにより、外気温が40℃でも雪は摂氏2℃前後で保存可能
- 作業の規模とコスト
- ブランケットは数万〜数十万ユーロ
- 設置には数週間〜数か月、複数人の作業チームが必要
雪保存技術を動画でチェック
実際に雪を夏季保存する様子は、動画で見るとわかりやすいのでチェックしてみよう!
Levi(フィンランド)の雪ストック動画
Presena Glacier(イタリア)の断熱ブランケット設置作業動画
世界のスキー場における雪保存・人工雪の歴史
年代 | 地域/スキー場 | 保存・技術の内容 | 目的・背景 |
---|---|---|---|
1960年代 | スイス・アルプス | 初期の人工雪(スノーマシン)導入 | 雪不足時のゲレンデ確保 |
1970年代 | 北米(アメリカ、カナダ) | 大規模な人工降雪設備導入 | 安定したスキーシーズン運営 |
1980年代 | フィンランド・レヴィ | 小規模な雪の夏季保存開始 | ワールドカップ大会に向けて |
1990年代 | 日本・軽井沢プリンスなど | 人工雪による早期オープン | 観光・施設運営の安定化 |
2000年代 | スイス・ダボス | 冬に作った雪を夏まで保存、クロスカントリー用 | 秋のトレーニング・早期オープン |
2010年代 | フィンランド・レヴィ | 年間26万立方メートルの雪を特殊断熱ブランケットで保存 | ワールドカップ確実開催 |
2010年代 | イタリア・プレセーナ氷河 | 10,000枚のジオテキスタイルで雪を覆う | 夏季の雪維持・観光用 |
まとめ
地球温暖化が進む中、スキー場は人工雪や雪の夏季保存によってシーズンを確実に維持している。世界の先進事例では、断熱ブランケットや人工雪の組み合わせで、夏の間でも雪を残す取り組みが行われている。日本でも軽井沢や志賀高原などで部分的に導入されており、今後の拡大が期待される。技術と労力、コストは膨大であるが、雪不足や大会運営のリスク回避には欠かせない取り組みである。
以前、Protect Our Winters Japan(POW)代表理事の小松吾郎氏に地球温暖化について伺ったところ、「まずは自分にできることから始め、気づいたことを行動に移すことが大切」と話していた。つまり、どんな些細なことでも、自分が気づいたことから動き出せばいいということだ。難しく考える必要はなく、身近なことから一歩ずつ取り組めばいい。こうした最先端の雪保管技術の発展とともに、スノーボードやスキーを愛する人々が雪を守る行動を起こすことも、同じくらい重要である。
雪を守ることは、ウィンタースポーツを楽しむ私たちの未来を守ることでもある。最新技術の進歩に頼るだけでなく、一人ひとりが小さなアクションを積み重ねることで、大きな変化につながる。環境に配慮した選択を日常に取り入れ、次の世代にも美しい雪山を残していこう!

参考・出典(主要)
Levi — Snow recycling, technology and environmental impact
https://www.levi.fi/en/news-and-stories/snow-recycling-technology-and-environmental-impact/
Levi — Levi’s 7-Month Snow Guarantee
https://www.levi.fi/en/info/levi-ski-resort/responsibility-program/levis-7-month-snow-guarantee/
Levi — €15 Million Investment & Seven-Month Snow Guarantee
https://www.levi.fi/en/news-and-stories/levi-ski-resorts-eur15-million-investment-in-the-future-seven-month-snow/
Mt Buller — How does the SnowFactory work (TechnoAlpin)
https://www.mtbuller.com.au/winter/news/details/how-does-the-snowfactory-work
TechnoAlpin — SnowFactory 製品説明
https://www.technoalpin.com/fr/enneigeurs/snowfactory/domaines-skiables/
飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
ウィスラーではスノーボード・インストラクターとして活動する傍ら、通年で『DMKsnowboard.com』を運営。SandboxやEndeavor Snowboardsなど海外ブランドの日本代理店業務にも携わる。
また、日本最大規模のスノーボードクラブ『DMK CLUB』の創設者でもあり、株式会社フィールドゲート(東京・千代田区)に所属。
1990年代の専門誌全盛期には、年間100ページペースで記事執筆・写真撮影を行い、数多くのコンテンツを制作。現在もその豊富な経験と知識を活かし、コラム執筆や情報発信を続けている。
主な著書に、
『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』
『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』などがある。
現在もシーズン中は100日以上山に上がり続け、スノーボード歴は40年(2025年時点)。
2022年には、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』や、講談社FRIDAYデジタルの特集「スノーボードの強豪になった意外な理由」にも登場するなど、専門家としての見識が評価されている。
インスタ:https://www.instagram.com/fusakidmk/