
文:岩田克己
ニセコでは外国人投資の増加に伴い、土地価格や物価の高騰、そして地元住民との間で様々な問題が顕在化しており、将来的な持続可能性について多くの議論が交わされています。
この問題は、経済的なメリットと社会的なデメリットの両側面を持つ複雑な状況です。
■ニセコで起きている問題の現状
- 土地価格と物価の高騰
検索結果にあるように、ニセコを含む周辺地域では地価が急騰し、「第2のニセコ」と呼ばれる富良野でも住宅地の地価が年31.3%上昇するなど、その影響は広範囲に及んでいます。海外の富裕層向けに価格設定された結果、天ぷらそばが3,500円になるなど、地元住民が生活しにくい状況が生まれています。 - 地元住民への影響
従業員向けの住宅不足が深刻化し、ゴミ出しのルールや騒音といった外国人との文化的な摩擦も課題となっています。また、リゾート地として発展する一方で、地元住民の所得向上に繋がっていないという指摘もあります。
■外国人による土地買収の規制について
現在、日本には外国人が自由に土地を購入できるという原則があり、ニセコのようなリゾート地での土地取引に特化した規制はありません。ただし、以下のような動きが見られます。
- 重要土地等調査法
2022年に施行された「重要土地等調査法」は、防衛施設や国境離島といった国の安全保障に関わる重要施設の周辺で、外国人による土地買収を規制するものです。ただし、これは国家安全保障の観点からの措置であり、経済的な側面を目的としたものではありません。 - 新たな法案の議論
一部の政党からは、安全保障や地域保全の観点から、より広範な外国人による土地取得を規制する法案が提出されるなど、政治的な議論は進められています。
■今後の方向性についての見方
この問題に対する解決策は一筋縄ではいきません。
- 規制を求める見方
土地の無秩序な買収が進むことで、将来的に地域社会の崩壊や、外国資本が撤退した場合の経済的なリスクが高まるという懸念があります。 - 規制に慎重な見方
一方で、外資の流入がニセコを国際的なリゾート地へと成長させ、地域経済の活性化に貢献したという事実もあります。安易な規制は、せっかく築き上げた国際的な競争力を失い、経済を停滞させるリスクもあるという見方です。
ニセコが直面しているのは、グローバルな経済発展と地域社会の持続可能性をどう両立させるかという、非常に難しい課題です。今後、行政や地元コミュニティ、事業者、そして投資家が連携し、双方のバランスを取るための新しいルールや枠組み作りが求められるでしょう。
■白馬、そして全国のスノーリゾートへ
ニセコで起きた状況は、かつて「ニセコの二の舞にはならない」と語られていた白馬でも進行しています。外資系高級ホテルの進出計画や、一部エリアでの地価が10年で約2倍に高騰するなど、外国人投資家や富裕層の流入により、ニセコと同様の現象が起きています。
そして、この傾向は白馬だけでなく、他の日本のスノーリゾートにも広がる可能性が非常に高いと考えられます。
■日本全体のスノーリゾートで起きている変化
現在、日本の多くのスノーリゾートは、ニセコや白馬と同じ道をたどり始めています。その背景には以下の要因があります。
- 「次のニセコ」を求める投資家と富裕層
ニセコや白馬の価格が高騰したことで、まだ割安で潜在力のある投資先を求める動きが広がり、富良野や妙高などが注目されています。 - 円安と日本のパウダースノー
記録的な円安が外国人投資家にとって日本の不動産を魅力的にし、世界的に評価の高い「Japow(Japan Powder Snow)」が彼らを惹きつけています。 - 国内スキー人口の減少
日本のスキー・スノーボード人口はピーク時から激減しており、多くのスキー場が経営難に直面。この打開策として、外国資本の誘致が進められています。 - 観光庁の支援事業
観光庁は、ニセコや白馬のような国際競争力の高いリゾートを全国で育成するため、北海道や東北、長野などのスキー場を支援対象にしています。これは国としてインバウンド需要の取り込みを重要視していることの表れです。
こうした現象は特定の地域に限られたものではなく、日本のスノーリゾート業界全体が直面している構造的な変化です。経済的な活力を取り戻す一方で、地元住民との共存や文化の保護という課題は、今後も多くの地域で議論されることになるでしょう。
●以下は、岩田氏が編集長を務める 『Snow Heaven Japan』デジタルブック です。
国内の魅力あふれるスキー場を、美しい写真とともにわかりやすく紹介しています。次の旅の参考にしたり、移動中に眺めながらゲレンデに思いを馳せたりするのもおすすめです。


岩田 克己(いわた・かつみ)
(一社)日本スノースポーツ&リゾーツ協議会参与
「Snow Heaven Japan」編集長
(株)トップエンド代表
長年に渡り日本のスノーリゾート地域を取材し、専門誌の発行に携わる。インバウンド向け冊子「Snow Heaven Japan」を創刊するなど、日本のスノーリゾート地域の魅力を国内外に発信し続けている。野沢温泉、蔵王、白馬八方、妙高赤倉、草津のクラシックリゾートの広域連携組織「マウントシックス(Mt.6)」の事務局も務める。近年では、日本のスノーリゾート地域の活性化とウィンタースポーツの振興を加速するため、「一般社団法人日本スノースポーツ&リゾーツ協議会」の設立に尽力。数多くの取材を通じて日本のスノーリゾート地域やウィンタースポーツの事情に精通し、様々な地域、ステークホルダーとネットワークを有する。