文:齋藤 稔
最近、家に一枚のハガキが送られてきた。それは以前行ったことのある室内ゲレンデからのハガキで内容は閉鎖の通知だった。そこはスノーヴァ系列の室内ゲレンデで僕自身はショップでお客さんといっしょにスノーデッキを試乗しにたった一回だけ行ったことがある場所だった。僕が行ったその日は金曜の夜なのだが、その日でさえお客さんは2、3人しかいなくて、僕たちショップのスタッフとそのお客さんでほとんど貸し切りだった。送られてきたハガキを見て「あぁ潰れるんだ」僕は漠然とそう思っただけだったが、よく考えればあのザウスも閉鎖が決まっていて室内ゲレンデは今ひじょうに苦しい状況に立っているようだ。
そもそもこれほど国内に室内のゲレンデがある国は他にはないのではないだろうか。しかもそのほとんどはスノーボードのために設計されたものというひうじょうに特殊な施設だ。スノーボード・バブルとまで呼ばれた一時期のスノーボード・ブームの時には室内ゲレンデは大盛況。室内ゲレンデ事業はひじょうに大きく躍進し、ここにもあそこにもと新規展開が進んでいった。しかし、日本人は熱しやすく冷めやすい。ブームが去れば一部の選手や中毒者を除いて高いお金を出してまで夏に滑ろうという人は減っていき、室内ゲレンデは巨大な冷蔵庫でしかなくなっていった。そこに最大のザウス閉鎖のニュースである。こうして室内ゲレンデはもうビジネスとして成り立たなくなってきていると一気にみんなが知ることになった。
ビジネスとしては成り立たない室内ゲレンデだが、実験施設としては超一級品だと話に聞いたことがある。年間通して同じ条件が維持されているために商品の開発やテストなどにひじょうに便利だというのがその話の内容だった。実際にライダーもチューンナップの仕上がりをテストしていた事実もある。その他にも夏場海外に行かなくては滑れないと言う環境が日本の選手強化の弱点だとするなら、その弱点を克服できるのが室内ゲレンデだった。世界レベルの強化選手からこれから上を目指す若き新人まで年間を通してトレーニングができるという、素晴らしい環境を提供してくれる。(実際近年ハーフパイプでプロに昇格したライダーの何人かは年間を通して室内ゲレンデに通っていたという。)夏場に巨大な冷蔵庫に籠もっていたと言う話は一般人には奇妙に聞こえるかもしれない、しかし上との差を縮めるために努力できる環境は選手とってはひじょうに魅力的だったのだ。
そんな日本の現状を知ってか知らないでか中国に境最大級の室内ゲレンデができるというニュースが入ってきた。中国は今のところウィンタースポーツでは今一つパッとしないが、これを機にスノーボードやスキーの競技人口が増え将来世界で頂点を争う選手が誕生するかもしれない。「たった一つの室内ゲレンデで何を大げさな」そういう人はもう一度日本の現状を見てみるといい。夏のホームは巨大冷蔵庫のハーフパイプと答える将来有望な若者が少なくないという現実を。
中国が世界レベルの選手を出す。そうなった時に日本はもう一度巨大冷蔵庫を作るのだろうか。