文:齋藤 稔
NEWSコーナーでの橋本道代のニュースにはもの凄い衝撃を受けた。ただ、そのニュースを読みながら自分の中の一部分では、「またか・・・」と思っている部分もあったのが正直なところだ。数年前からプロ・スノーボーダー、特に一部のビデオ・スターと呼ばれているライダーのライディングははっきり言ってスタントマンのそれとたいして変わらなくなってきていた。より高く、よりスタイリッシュに、より複雑に、トリックとライダーは常に進化を続けているがこの進化は果たしてどこまでいくのだろうか?
FORUMチームのビデオ「TRUE LIFE」の冒頭で撮影中に怪我をしてしまい現在リハビリ中のライダーのためにというメッセージが流れる。見る側の「もっと過激に」という要求と見せる側の「もっと魅せなくては」という意識。この2つによってライダーは危険なトリック、前人未踏のラインに挑んでいく。その結果がスノーボード生命を絶たれるという最悪の結果を生むこともある。いや、本当に最悪なのは生命そのものを絶たれてしまうことだ。(不幸なことに毎年数名がひじょうに困難な状況を経験する)ただし成功すれば彼らが勝ち取るのは日常では味わえないスリルと興奮。そして何よりも達成感だ。もちろん世界の頂点というポジションも当然の報酬だ。まさにギャンブル。掛け金は異常に高いがギャンブラーはポーカーフェイスでチップを放り投げる。放り投げるチップはもちろん自分の命。FORUMチームはそんなギャンブラーの集まりといってもいいのかもしれない。(現在のところ賭に勝っているライダーが多いが大負けしたライダーもいる。負けたライダーは現在負けを回収中だ)
大きな成功を手に入れるビデオ・スター。それにあこがれるキッズたち。これは横乗り系と呼ばれる文化では当たり前のことだ。スケート、サーフィン、そしてもちろんスノーボード。スタントマンとライダーは違うのだが何も知らないでビデオを見る人にはその違いがわからない。まあ、素人から見れば無謀なチャレンジにしか見えないのだから致し方ないことだろう。だがやっている人間はもう少し冷静に見るべきだ。君はスノーボードの怖さを知っていなければならない。無謀なチャレンジには高い掛け金が必要なことも、それが意外に簡単にかけられてしまうことも覚えなければならない。橋本道代は世界でもトップ・レベルのプロ・ライダーとしてオリンピックでも活躍した本物だ。彼女のレベルにあっても突然それは訪れる。ある時、突然手札にまずいカードが回ってきてそれに気がついたときにはもう後戻りできないほどチップの山ができている。彼女が今回この高い掛け金を払うことになったのは残念で仕方がない。一日も早い回復を願うばかりだ。
話を元に戻そう。自分の中の一部分が「またか・・・」と思ったのはこの見えないギャンブルをちょっとでも知っている人間なら当然のことだ。どこのキッカーで誰がやられたなんて話は世界中でおなじみの会話だ。だが冷静になって考えてみてくれ。君たちはそこまでチップをかける必要があるのか? 橋本道代もそうだが高い代償を払うライダーは当然その覚悟ができているからやっている。もちろんその必要もあるからだ。もう1つ上の世界に上るためにテーブルにチップを放り投げカードを睨む。君はそこまでする必要が本当にあるのか? 今年の冬も君と同じような多くのスノーボーダーが平気でチップを放り投げるだろう。シーズンの終わりにはチップは増えているかもしれないし、そのままかもしれない。ただチップがなくなるっていう最悪の事態だけは避けた方がいいだろう。このアドバイスは間違いなくすべてのスノーボーダーが一度は耳にするが、すぐ忘れてしまう一番重要なアドバイスだ。頼むから君だけはこのアドバイスを忘れないでくれ。チップの回収は思いのほか難しいから。