文:齋藤 稔
このオフシーズンの大きな話題と言えば大物ライダーの移籍話だったのではないだろうか?ちょっと上げるだけでも西田崇・平岡暁史のライド、原祐司のSESSIONS、CAPiTA、山崎勇亀のFOURSQUARE。もちろんプロである以上自分の求める条件に近いメーカーに移籍することは当然のことだからそれほど騒ぐことじゃないと思うかもしれないが、これらの移籍したライダーの契約ブランドは日本での取り扱いが変わったブランドが多い。
例えばSESSIONSを例に取ると、取り扱い代理店がFUSIONという会社に変わったことにより、Japanチームが大きく変わることになった。同じように日本での代理店の変更により契約内容の変更を余儀なくされたライダーは数多い。昨年で言えばAPXとDRAKEの日本代理店変更による移籍が目立っていたのだが、今年は例年になく代理店変更が目立つ。これも日本の不況による影響なのだろうか?それとも海外の親会社による戦略なのだろうか?どちらにしろこれほど多くのブランドが代理店を変更しているというのは喜ばしい状況ではない。代理店の変更によりライダーは契約内容の変更を迫られ、ユーザーは今まで行きつけのショップで買えた商品が違うショップに行かないと買えなくなってしまう。
今期もっとも大きなニュースの1つはSIMSの代理店変更だろう。これにより一部大型量販店での販売が強化され、今までの取扱店の一部からSIMSが姿を消すことになる。その代わりに登場するのがPHANTOMというニューブランド。SIMSのJapanチームの一部はこの新ブランドと契約し、その他のライダーは新天地を探すことを余儀なくされてしまった。これにより才能のあるアマチュアがスポンサーを失うという状況も少なからず生まれてきているのは非常に残念なことだ。もう一つの大きなニュースがライドの日本本格参入だ。アメリカではひじょうにメジャーなブランドであるライドだが、日本での知名度は今ひとつというところだった。しかし、ここに来て西田・平岡・伯(バイディング)という強力なライダーと契約することで日本でのシェアを確実に伸ばすことになるだろう。これはアメリカのK2本社の戦略で日本の戦略ではない。(K2はアメリカでは非常に大きな企業で様々な分野でメーカーを買収し、巨大企業として力を持っている。スノーボードではK2・ライド・モローブランドを持つ)
そうここまで読んできてあることに気がつかないだろうか?そう、日本のスノーボード業界は変革の時期の真っただ中にあり、しかもその変革を進めているの大きな力の一部は海外の大企業によるものなのだ。つまり黒船襲来なのである。これまで日本独自の展開を進めてきたスノーボードだが、ここ数年は海外のスノーボードシーンの影響が異常なまでに大きくなり、まるで江戸末期の日本の様に海外からの変革を迫られている状態なのだ。日本の代理店はこれまで日本のマーケットを独自にリサーチしがんばってきてのだが、これからは世界の動きとリンクしてその中で生きていかなければ淘汰されてしまうと言う状況にある。実はこれはスノーボードだけではなく、ほとんど全ての業種がそういう時代の流れに直面している。
これにはプラス・マイナスの両面があると言えるだろう。プラスの面はより海外での活躍の場が近づくこと、世界の動きがすぐに反映されることなどもっと大きなステージへの参加が可能になる。ではマイナスの面はというと、ショップとユーザー側の混乱(商品がめまぐるしく変化する)、商品として評価されるプロライダーの淘汰であろう。これにより現在でもプロ・スノーボーダーとして生活できるのはごく一部のライダーなのだが、ここからさらに絞り込まれてくるだろう。反対に生き残ったライダーはこれまで以上に良い契約内容を交わせるようになり、同時に世界での活躍の場も現在よりも身近になっていくだろう。インターナショナルと同列に扱われるということはより厳しい評価を受けるということ。しかし、この厳しい状況をモノにできる実力のあるライダーにとっては世界へのチャンスが増えることも意味する。つまりは本当の実力が試されるということ。
現在日本は北米に続き世界で2番目のマーケットと言われている。となれば当然海外の力のある企業もこれまで以上に参入してくるだろう。日本は昔から外の力が無ければ変われない国と言われている。今まさに外の力が加わってきているこの状況の先には新しい世界が待っているのは間違いない。ただ願わくば外の力に振り回されるのでは無く、内なる力によって安定してもらいたいと思う。海外の注目が集まっているのなら逆に海外に日本を発信してもらいたい。日本にも凄いライダーはいるのだし、良い山もたくさんあるのだと世界に胸を張って言ってほしい。長引く不況が辛い日本であるが、こんな辛い時だからこそ世界を相手に頑張って戦ってもらいたい。一日も早くこういう混乱の時期を終わりにして欲しい。ユーザーが期待しているのは楽しいスノーボードだけなのだから。