文:飯田房貴(DMK GLOBA)
遂に火蓋が切られたスノーボードのスロープスタイル。この注目された競技は、どの五輪種目よりも早く行われた。
運命の時刻は、日本時間で午後3時、現地時間の10時。
最初に登場したのは、イギリスのビリー・モーガン。スタート前の選手には笑顔がこぼれる。他の五輪種目にはないこのリラックスした雰囲気は、スノーボード種目ならでは。ビリーは、スムーズに決めていった。
そして、4番目には角野友基が登場!日本全国のスノーボード・ファンが仕事中にインターネットに熱視線を送っている中、スタートした。
角野は最初のジブ・セクションこそスムーズに抜けて行ったが、オリンッピックの魔物はキッカー2発目に潜んでいた。あわや転倒するところを尻もちでこらえたが失速。
角野の2本目。あいかわらずの笑顔。よく話している姿がテレビ・モニターから映った。こんなにしゃべって集中できるのかと懸念するほど。あのハイテンション過ぎで、結局、良いランを残せなかった成田童夢の悪夢を思い出してしまう。頼むからこの笑顔が、良いランになりますように。
そんな中、角野がドロップ。
最初のジブ・アイテムからあきらかにバランスに欠いた。リズムが崩れているのが、わかった。そして、キッカー一発目の着地でボードが真横になり失速。しかし、ここで角野は、若いながらに瞬間的に冷静に判断した。
「1個目のジャンプの着地に失敗して、ここで跳んでけがするよりか跳ばない方がいい。まだ次もある」。
この判断は、正しいと思う。まだこの先にもチャンスがあるのだから。
自分も幾度となく、スノーボード五輪を見て来たが、多くの選手はその緊張感に押しつぶされる。過去、そんな中でも伸び伸びと滑ったのは中井孝治ぐらいかもしれない。多くの選手は、持ち味を出し切れなくて終わる。それは、メンタルの弱さであり、日本人の気質と言えるかもしれない。褒められて育つ西洋人と違って、叱咤されて育つ日本人はメンタル的に楽観視しずらいところがあり、必要以上に重いものを背負ってしまう傾向がある。結果、過去の五輪スノーボードでは、大舞台で緊張感で押しつぶされた選手は多い。
しかし、今回のルールに救われた。これで角野は一発五輪を経験したことで、本来の持ち味が発揮できる環境となったと言えよう。
そう、今回のルール、初日の予選でトップ8に入らなかった選手は、準決勝に行くというものは、結局のところ「敗者復活戦」なのだ。負けた者たちが、再びチャレンジする舞台。
角野は、「バックサイドトリプルコーク1440」を解禁するというが、その勇敢チャレンジも正解だろう。角野同様に初日に緊張していた選手は、間違いなく準決勝(敗者復活戦)で、ギアを上げていくからだ。
ただ、一方で昨日の戦い。意外にコークなど斜め回転でなく、スピン数を上げていれば、決勝に残れたことを指摘したい。
以下は、決勝に残った選手8人の最後の3連ジャンプのルーティーンだが、マックス・パロット以外はフラット・スピンが多い。
ジャッジは、この回転数の足し算、空中での安定感を重視する傾向があったと思う。
ステール・サンドベック
キャブ1260→フロントサイド1080→バックサイド1440 合計3780回転
ピートゥ・ピロイネン
キャブ1260→フロントサイドダブルコーク1080→バックサイド1080 合計3420回転
セバスチャン・トゥータント
キャブ1260→ フロントサイドダブルコーク1080→バックサイド1260 合計3600回転
ジェイミー・ニコルズ
キャブ1440→スイッチバックサイド900→バックサイドダブルコーク1080 合計3420回転
マックス・パロット
キャブダブルコーク1260→フロントサイドダブルコーク1080→バックサイドトリプルコーク1440 合計3780回転
ループ・トンテーリ
フロントサイド1080→バックサイド1260→キャブ1260 合計3600回転
スベン・トールゲン
キャブ1260→フロントサイドダブルコーク1080→バックサイド1440 合計3780回転
グレムンド・バラッテン
キャブ1260→フロントイサイド1080→バックサイド1260 合計3600転
角野が決勝を掛けた4人枠に入るには、ジブ・アイテムを攻略した後、残りの3連合計回転数で3600回転を上げること。そして、バックサイドトリプルコーク1440を決めれば、間違いなく上がれるだろう。つまり、本来の角野のランができれば、決勝に残ることができる。
改めて伝えたい。失うものはない。まだ若い。ここまで来ただけで大したもの。すでに多くの日本全国のスノーボード・ファンはお前の滑りに夢中になっている。
どんな結果でもいいから、チャレンジする姿が見たい!
次に女子についても、ちょっとだけ触れていこう。
日本人選手が登場せずに、いつものようにジェイミー・アンダーソンが強く、もう1つ盛り上がらなかった感はあるが、ヒート1のニュージーランドからやって来たキウイ・ガールズ3人衆は、なかなか良かった。元々、彼女たちの練習している姿は、昨年の夏、ブラッコムでも見ていたが、ひじょうにスタイルがありカッコいい。今回、この中からダークホースが生まれてもおかしくない雰囲気が漂っていた。
ヒート1で良い成績を残したトーラ・ブライトは、スイッチのままレールに乗り、そのままインディ・グラブでアウトというシブいところを見せながら、キッカーでは回転は360以内で、だけどメチャクチャにきれいに決めているのが印象的だった。彼女が高得点を出したように、豪快に難しいトリックをやるよりも、スムーズにきれいに決める方が得点が出やすい傾向にあると感じた。
またイザベル・エレナコンツ(ヒート1で1位)、エニール・カジャラビ(ヒート1で4位)は、先のヨーロピアン・オープンで鬼塚雅とトップ3を争ったメンバー。彼女たちの活躍を見て、改めて鬼塚雅が五輪に出ていない違和感を感じた。
日本の女子スロープのために、彼女にも挑戦させたかった。