日本ナショナル・アルペンチームのコーチ/クリスチャン・ハーブ

広告 five  

 

実を言うと今回登場のクリスチャンは2年前にも登場してもらっている。その彼が今期から日本のナショナル・チームのコーチとなり、オリンピックを目指すライダーたちを指導している。初めての日本選手のコーチ体験はどのようなものだったのか。

フサキ(以下F):今期クリスチャンは名誉ある日本ナショナル・チームのコーチという仕事を受けたわけだけど、正直言ってどうだった?
クリスチャン(以下C):僕のコーチは10月からスイスで始まって、選手たちとは初めてスイスの空港で会ったわけだけど、とってもグレートだと思っているよ。スタンス&・バランス、エッジング、プレッシャー・コントロール、タイミング・コーディネーションなどカナダで培ったコーチ技術を日本選手に注入したんだから。

F:それは、本当にカナダ・スタイルだね。僕もCASI(カナダ公認イントラ)の免許を取ったから知っているよ。

C:うん、それは確かにまったくカナダ・スタイル。僕はカナダのメソッドをよく知っているし、それがうまく働くということもよく知っている。その結果、いくつかいい成績を収めることに成功。いくつか悪い成績もあったけど、新しいコーチ・システムにもなりいろいろそれに慣れる時間が必要だ。新しいコーチには僕を始め、内山ヤスエが入ったんだ。

F:おお、彼女なら知っているよ。選手として活躍していたよね。

C:今は彼女はコーチとして僕といっしょに活動して、僕は彼女にいろいろなことを教えているよ。その他、新チーム・マネージャーとして、古川モトユキが入った。そう、新しいコーチのシステムが誕生したんだ。

F:コーチしていて言葉の問題で難しいと思ったことはある?

C:難しいけど、問題はない!僕はコミュニケートが大好きだし、日本語も「ちょっとちょっと」(注釈:このカッコ部分は日本語で言う)話せるし、何か伝える時には、なるべくシンプルな英語で話す。もし、彼らが理解していない時は、違う方法を取る。だいたい普通は4種類の説明の仕方を用意しているんだ。彼らの英語理解力は、僕の日本語よりも数段上だし、2月ぐらにはもうコミュニケーションはとてもうまくいっていたよ。ところで、コーチングというものは、例え僕がカナダ人にコーチする時だって、説明するのに大変なものさ。コーチングの哲学、テクニックの哲学を伝えるのには、言葉なんて関係ない。スノーボーディング・イズ・スノーボーディングなんだから。

F:まあ、今期初めてコーチングしたわけだけど何が変わった?

C:僕が大人になったってこと。

F:ハハハ(笑)。まあ、それもいい答えだけど、そうじゃなくて選手たちのことだよ。
C:テクニックを変えた! 日本選手たちは、たくさん上下運動を使い過ぎていた。それは、とても古いスタイルのテクニック。僕がトライしたのは、もっと上半身を静かにさすこと。「静」を意識させたポジションだから、腕を振るのはもってのほかだし、重心は常に真っ直ぐダウンヒルに行かすようにした。ローテーションもなし。それと、女性ライダーたちは、スライディングのテクニックを多様し過ぎていた。ドリフト、ビポッド、スラディング・ターンをやっていたんだ。僕がコーチングしていて重要なチェンジ部分は、全部カービングで滑らすということ。言い訳は無用。いつもいつもカービングだよ。そのへんの要因が、スーパー・グッドな成績を収められなかった原因になっている。なぜなら、古いテクニックから新しいテクニックに目覚めようとしていたから。そのためには、時間と経験が必要だ。

F:彼女たちが完全に目覚めるには、どれくらい時間が必要なんだろう。

C:僕はこの夏から秋にトレーニングを積んだところで、できてくると思っている。そして、クリスマスの時期には、とても強いライダーになっていると信じているんだ。

広告

F:誰もがカービングしたいとは思っているよ。だけど、みんな恐いだけだと思うんだ。特に女性はそういう感情が入りやすいと思うんだけど。
C:それは、僕も十分承知しているよ。だけど、その答えはカービングでフォールラインに入っていくということで説明がつくよ。フォールラインを横切る時に、カービングすることは凄いエネルギーを使うし難しい。だけど、レースのテクニックでは、フォールラインの手前で早めのエッジングによりボードに方向性を決めてあげて、フォールラインではプレッシャーを作ってボトムでグラインディングさしてターンする。こういうテクニックを使えれば、早くそして無駄なく効率よく滑ることができる。

F:ところで、なぜ日本のライダーたちって上下運動を多様するか知っている?

C:うーん、よくわからないけど、普通日本の人たちってとてもメカニックだよね。だいたい凄くパーフェクトになんでもやろうとする。たぶん、選手たちはちょっとリラックスして上半身を運動させるということを習い過ぎたのかな。悪いテクニックでないし、必要であることも認めるけど、今はもっと上半身よりも正しく下半身を動かすテクニックを覚えさす時期だと思っている。

F:うーん、僕もよくはわからないけど、たぶん日本のアルペン・ヒストリーから来ているんじゃないかな。ピーター・バウアーやジャン・ネルバに憧れた僕たちが、そのまま腕を使って滑るというテクニックを覚えていったことにあるように思う。手と滑りはそのまま滑りに合っていないといけないけど、手に頼るから下半身が思うように動かないという部分はあるように思えるんだ。悪い例では、手を動かした後、抜重している。そうでなく、手を動かしたら、ボードは同時に抜けていなくちゃいけないのにね。やっぱりカナダと日本の環境に違いがあって、日本人はよけいな上下動やらスライディングをしてしまうんじゃないかな。カナダでは山でっかいから突っ込んでいける環境が揃っているでしょ。

C:僕は、日本人とカナダ人の違いは、アグレッションだと思う。カナダ人はとってもアグレッシブ。とってもアタックする人間だと思うんだ。僕の選手たちは、とってもデリケートなんだ。カナダ人よりも数倍デリケートだと思う。仕事もよくこなすし、人の話もきちんと聞いてくれるし、コーチをする立場としてみたら、とってもありがたいことだけどね。他には、日本人はコントロールし過ぎだと思う。計画とか完全を求め過ぎる傾向もあると思う。レーサーがコースに行くと、計画通りに行っている時は、いいけど、何かのハプニングがあるとうまく対応ができなくなる。だから、僕がトライしていることは、レーサーたちがもっとアグレッシブになること。インデペンデント(独立性)を持つこと。もっと自由な考え方をそれぞれの選手が持つように指導しているんだ。

F:うーん、それってとっても重要だなあ。日本人っていつもいっしょに行動しちゃうよね。だけど、そういったところから自己の責任とかなかなか生まれないし、しいては強さも生まれない。もっと、シングルで行動することによって、精神的にも強くなり、レーサーとして強いマインドが生まれてくると思う。

C:そうそうインデペンデント! 僕はとても素晴らしい才能をもった選手を抱えているんだ。内山さん、古川さんたち、他にもいろいろな方たちが僕たちを支えてくれるので、僕たちはオリピックに向けて頑張らないと。

F:最後にクリスチャンの夢を語ってほしい。

C:2年後のオリンピックでコーチとして日本人選手を活躍させること。それと、5年後にはウィスラーに家を建てたいなあ。

F:スノーボードでずっと食べていくの?

C:将来のことなんて誰にもわからないよ。

F:だけど、世の中には運命とか縁とかあるでしょ。例えば、クリスチャンがガールフレンドに出会った縁って一生のものとか思わない?

C:うん、それはあるね。まあ、これから先、10年はスノーボードで飯を食べていく自分は見えるよ。


インタビュー後記:
インタビューを終えて、今、日本人レーサーたちが新しいエキスを受けていることを感じた。どんな成績であれ、出た結果は自分の責任である。だから、こそ強いチームを作りあげるために日夜努力するというクリスチャンを見たような気がした。最後に帰る時の雑談で、「仕事は大好き!」と言ったクリスチャン。この熱意がいつか良い結果を出すと信じている。

広告