ヨネックス侍の親分の熱い語りを聞け!/武本豊彦

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フサキ(以下F):武本さんがスノーボード業界に関わったきっかけって何だったの
ですか?

武本(以下T):ヨネックスの場合は、オールシーズンのテニス、ゴルフなどベースになっているよね。工場の方も新潟にあるので、「ウインターの方も違ったテイスト
で出したい」となったところで、たまたま僕がマーケティングのところにいたので、「じゃあ、リサーチしてみよう」というのが始まり。今から7年前になります。

F:リサーチした結果、スノーボードというのが浮かび上がったなんですね。
T:ウインターのビジネスを大きく分けるとスキーとスノーボードがあって、やはりスキーの場合、どんどんメーカーとか絞られる状況でビジネスとしてはダウンしている状況だったので。また違ったテイストという意味においてもスノーボードというのは魅的だったし。競技人口というのも、ひじょうに若い。それならスノーボードをターゲットにしていこう、ということになった。

F:最初はGATTA(ガッタ)として、出して行ったじゃないですか。最初から人気があったわけじゃなくて、ヨネックスに変わってからもクオリティが高いことで評判になり、今ではトップ・ブランドに一角に入ったワケですが、その過程で武本さんが苦労したという点は、どのへんでしょうか?
T:いやあ、僕はそんなに。売れていない時から可愛がってもらったお店とかに
守っていただいたし、またライダーが一番頑張ってくれているから。新しいモノを作った時というのは、いろいろな摩擦があるのだけど、違和感をなくしてくれたの
がショップであり、ライダー。今年のモデルにしてもほとんどライダーの意見で作ら
れているから。そうすれば、いいモノができるもんだよ。

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F:だけど、売れなかった時代から今のように売れている時代の流れの中で、か要因とかあると思うのですが、そのへんで何か武本さんの仕掛けとかはなかったのでしょうか?
T:うーん、仕掛けはないよ。それよりもユーザーの意識が変わったというところかな。「ノリ」から「クオリティ」になったんだよね。

F:なうほどお。
T:そう、今までカッコ良さの部分で来たところがあるけど、それよりもクオリティを重視してくれてきたというのが大きい。

F:まっ、当時ではラマーとかハード・コア的なものがあって、そういうのはもうなくなって来ている部分はありますね。
T:そう、そのへんでお客さんの意識が変わって来ていると思うんです。後は他にない個性でカーボンを全面的に押し出しているし。作り方も他のメーカーさんにないようなものを出しているし、そのへんで特徴が出ているというところかなあ。

F:カーボンを使うことに関しては、怖さなかったですか。というのも、今までのスノーボードの常識ではなかったワケだから。
T:逆に僕たちはウッドで作れなかったから。

F:(笑)ああ、逆に!
T:もちろんウッドでもできたけど、ウッドでやったんじゃ同じになっちゃうから。ウッドじゃなくて、僕らの得意なフィールドでやろうってことになったんだ。

F:もともとヨネックスのラケットなどは、カーボンでやって来たから、そのへんで「行けるぞ」という手応えはあったワケですね。
T:ラケットだって最初はウッドだったのを、そのウッドの特性をカーボンでどう表現できればだったから。

F:ああ、考えてみればいっしょですね。
T:そう、だから基本のベースはいっしょ。50何年という歴史のノウハウが、たまたまスノーボードにうまく乗っかれた、という気がするね。

F:web読者の方たちもカーボンの特性をなんとなく把握していると思うのですが、ここで具体的にカーボンの特性を教えていただけないでしょうか。
T:やっぱり、バラつきがないということ。ウッドのボードというのは、当然、天然ものだから2台として同じものはない。それと、加工の仕方が無限大にあるということ。だから、角度を変えることでフレックスやトーションを変えることができるから、厚みに頼らないでいろいろな部分の固くしたりとか軟らかく変えられるところが魅力。だけど、魅力ではあるけど、ある意味、迷いにもなる。

F:ああ、選択肢が多いワケですね。そのへんライダーの意見が大切になってくるワケですね。
T:スノーボードって特別に難しいことをやるわけじゃないけどね。基本的にはセンターをしっかりさせてあげて、ノーズとテールは軟らかくする。あとは、ライダーの味付けをどうやって入れかってことだから。

F:例えば、最近はどんな味付けのボードがあるのですか?
T:今はいろいろな要素が出ているからね。例えば、今年、安藤が作ったボードは、パークやパイプでは凄く調子いいけど、フリーランに関しては、ちょっとやりズラいという味が出ているね。まあ、とりあえず基本的にはどんなことしてもいいのだけど、より何かアイテムに対応できるように個性を出しているというところ。

F:ところで、武本さんを見ているとライダーとの距離がひじょうに近いという印象を受けるのですが、やはりライダーとのコミュニケーションって大切にされて来たのじゃないですか。
T:というか、それがないとモノが作れないから。僕がテイストわかるわけじゃないでしょ。やはり、ウチのライダーたちがどういうこと考えているか、何をしたい、そういうのがわからないとボードが作れないんで。そういう意味では、やっぱり大事にしているところ。

F:ハハハ(笑)! 武本さんらしいですね。
T:やっぱり顔を見て、お互い遠慮なく言えるのが大事。

F:それで、いいものが出来上がるんですね。
T:そうかなあ、と思っているだけどね。

F:武本さんもよく聞くと思うのですが、最近メーカーに就職したいという人、多いですよね。そんな人たちにアドバイスあったら教えてほしいのですが。
T:よくスノーボードが好きだからメーカーに就職するというけど、メーカーに入ったところで滑れるわけじゃないからね。だから、自分はどういうことしたいというポリシーを持っていないと。メーカーって1つの企業の存続という視点で考えれば、「ノリ」だけで行けるわけじゃないんで。だから、ここは甘く考えないでじっくりと考えてほしい。もちろんスノーボードが好きということも大切だと思うけど、それがベストのことじゃない。

F:武本さんから見て、こういう人なら来てほしいというのはないですか?
T:やっぱりモノを作れる子。スノーボードをよく滑っているからスノーボードのことを知っているとか、この業界のことをよく知っているという、だけでは失格。売ることはできるけど、やはりメーカーとしてはモノを作れないと。モノを作るには、どうするか?ってそこをわかってもらわないと。

F:だけど、最初からわかる人なんてなかなかいないですよね。
T:うん、もちろん。だから、興味を持ってくれているというのが大事。だけど、その興味だけというノリだけではいけない。でもね、若い子のエネルギーというのは、僕らか見れば凄い魅力的だから、そういった意味ではどんどん挑戦する意識を持って、頑張ってもらいたい。

F:今、就職って大変なんですよね。前このようなインタビューを通じて、スノーイングに就職した方もいるのですが。
T:そうだね。今は狭き門だから。あまり期待されても困っちゃうよね。特にスノーボードが好きというだけではダメ。まあ、ヨネックスのスノーボードという前に、ヨネックスの社員としてOKか、というのがあるから、そこのところよく肝に銘じてかかってこないと。

F:ああ、なるほど。ヨネックスの社員としてOKになるには、どうしたらいいのでしょう。
T:それは、わからないなあ(笑)。まあ、スポーツ・メーカーは今、就職大変だからね。

F:最後に武本さんのドリームを!
T:そうだなあ、アクセク働かないで、みんなといっしょに暖かいところでのんびりすることかなあ。いつのことやら(笑)。

インタビュー後記
一見親分肌の武本さんだが、実のところ僕は繊細な方だと思っている。細かいところによく気付き、人の気持ちを察することができる人。そして、その苦労を外には見せないが、他の誰よりも一生懸命に仕事している。最後のドリームの質問で「みんなといっしょにのんびりしたい」と聞いた時に、フタッフ思い、ライダー思いの親分の武元さんを感じた。そして、その言葉を発した時に、家族思いのやさしいお父さんの目が印象的だった。

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